ダンジョン攻略記4
またまたまたレオナルド記す。
この記録も長くなってしまったな…
何故かトントン拍子に話が進んだ。
謎の人物と、アルバート様。
全然タイプは違うのに、どういうことか妙に馬が合うらしい。
我々は応接室に通されて、本当にお茶とか出されて歓迎された。
応接室は一般家庭と同程度の広さしかないので、あまり大人数では入れなかったが。
他の騎士団は廊下に待機させ、私と副団長。そしてアルバート様とエドワード様で、彼から話を聞いた。
「僕はしがない天才魔導士、サイモン!」
下げてるのか上げてるのか判断に困る自己紹介をされる。
「ダンジョン及びダンジョンモンスターの有効活用が我が生涯の研究テーマ!未だ完成はしていないが、なかなかの手応えを感じている今日この頃なのだっ!」
まあ、既にある程度予想はできていたのだが…
このダンジョンが急に問題となった原因は、こいつだった。
自然発生したダンジョンに魔法で干渉して、自在にコントロールする。
それがサイモンの研究だという。
無からダンジョンを生み出す技術はまだないらしい。
しかし、サイモンが発見した時点では小さな洞穴程度の規模でしかなかったというこのダンジョンを、短期間でここまで広大なフィールドダンジョンに発展させたのだから、十分に凄まじい技術といえる。
なんでも、ダンジョンにはダンジョンコアというものがあり、それをうまく操作するのだそうな。
…技術や研究については畑違いだ。
私にはよく分からん。
ただ、結果としてサイモンがここのダンジョンマスターになった、ということは理解できた。
「本来はな、ダンジョンマスターというのはダンジョンモンスターが偶然コアと融合することによって誕生するのだ。ダンジョンマスターの生まれたダンジョンは、元となったモンスターの性質に沿って発展していく」
なるほど。
言われると、心当たりはあった。
ダンジョンマスターについては冒険者ギルドからの報告や、文献等で読んだ知識くらいしかなかったが…
確かに、フィールドダンジョンでは獣型モンスターが、迷宮ダンジョンではデュラハンや吸血鬼といった人型モンスターが、ダンジョンマスターだったという報告が上がっている。
自らの過ごしやすい環境に変えていく、ということなのだろうな。
サイモンの場合は意図して好きなように操作できる。
広大なフィールドダンジョン内に、こんな館をポツンと建造できたのも、そのおかげだと。
ゾッとする話だ。
ダンジョンを自在にし、モンスターの発生すら意のままに操れるとしたら、一体どれほどの戦力を有していることになるのか。
サイモンには研究欲しかないようではあるが、良からぬことを企もうとすれば、いくらでも、何だってできるだろう。先程のサーベルタイガーどころか、アースドラゴンさえもサイモンが発生させたというのだから、その脅威たるや推して知るべし。
「やー、そこがまだうまくいってないところでなー」
サイモンはへらへらと気楽に笑い、
「どんなモンスターでも魔素とデータさえあれば生み出すことはできるのだが、コントロールはできないのだ」
おい!?
「人為的にダンジョンマスターとなった弊害なのだろーなー。僕は、僕より弱いモンスターにしか命令できん。あとの連中は好き勝手にどこかにいってしまうのだー」
「ダンジョンの外にまでモンスターが溢れてたのはそのせいか?」
「まあなー。生み出したモンスターは研究対象だから、本当はあんまり遠くに行って欲しくないんだけどなー」
「ままならないもんだなぁ」
アルバート様は呑気して言うが。
冗談じゃないぞ!?
そんなことで近隣の村を危険に晒されてたまるか!?
命令はできなくても、ダンジョンマスターであるサイモンはダンジョンモンスターからは攻撃されない。だからこそ研究のためと称して、ポコポコ強モンスターを発生させるのにも無頓着だったのだろう。
頭は良くても視野が狭くて自分のことしか考えてなさそうだもんな、こいつ!?
「あのね、この国の王族として言うけど………困るから止めてくれない?」
エドワード様がストレートに文句をつけた。
まあ当たり前か。
統治する立場の者からすれば迷惑千万。頭の痛い事案でしかない。
そういう意味では、エドワード様の対応はかなり温厚とすらいえる。
副団長なんてさっきから「私がふん縛ってしょっぴきましょうか?」って顔で鼻息荒くこっちを見てるぞ。
…こいつはこいつで、相手が弱そうと見たとたんこれなんだから…!
「ぐむぅッ!?またしても国家権力の横槍がッ!?僕のような早すぎた天才は迫害されてしまう定めだというのか…!?」
「また?」
「そうなのだ!実はこの研究、僕の出身であるトライアン王国で始めたのだがなー」
「ちょっと待って。それ聞いたことがあるんだけど…!」
顔を引き攣らせるエドワード様。
私も。
ポカーンとして何も分かってなさそうなのは、アルバート様くらいのものだった。
トライアンの悪夢。
首都近郊にある日突然巨大なダンジョンが出現し、溢れ出たモンスターによって多大な被害が生じたという。
首都だけあって、国軍である騎士団も、冒険者ギルドの精鋭も、腕利きが揃い踏みだったので、かろうじて壊滅は免れたが。
かの国の統治機構はその後もしばらくは麻痺状態。国力も著しく衰退し、治安は悪化。二次災害的に生じた諸問題に今でも頭を抱えているそうな…
たいして交流のない遠い他国の、他人事の話だった。
それが、まさか今度は我が国に!?
「うちの国の王様、本当に分からず屋でなー。完成すれば多大な国益を生む研究だって何度も説明してるのに、僕のこと重罪人扱いして果ては処刑しようとしたんだぞ?」
そりゃそーだろ!?
ってツッコんでやりたいが、サイモンのただならない様子に誰も口を挟めない。
「だからしょーがなく、ダンジョンモンスターをどばっと生み出して、奴らが暴れてる隙に逃げ出すしかなかったのだ。…この国でもそーするしかないかな…!?」
「ま、待てっ…!話せば分かる!」
エドワード様が慌ててソファから腰を浮かせて待ったを掛けた。
サイモンはそれを疑わしげにジロッと見遣り、
「…僕の研究、ここで続けさせてくれる?」
「それは……許可できない」
「じゃあ話すことなんて何もないな。僕は、僕の研究の邪魔だけはさせない……なんとしても………」
こ、こいつっ…!?
マッドだ!?
自分の研究のためなら、他にどんな被害が出てもいいと思っている!
というか、おそらく他のことなんて意識の外なのだ!
まともな理屈や、倫理観など通用しない…!
これはいよいよ力づくで取り押さえるしか道はないか…!?
副団長もいそいそと隠し持っていたロープの準備とかしてるし!
し、しかし、破れかぶれでダンジョンモンスターをどばっとやられたら、目も当てられない。
どうにか穏便に切り抜ける方法はないものか…!?
「なあ、俺、思ったんだけどさ」
アルバート様が!?
いまだに一人だけキョトン顔してて状況飲み込めてなさそうなアルバート様が、また呑気に口を開いた!
ちょ、困るんですけど!?
戦闘力としては本当に頼りになるけど、頭を使うことではまったくアテにできないって、私もう知ってるんですよ!
おかしなこと言ってサイモンを刺激しないで、黙って…!
「要するにモンスターが外に出なけりゃいいんだろ?」
「さっき説明したろ。僕は、僕より強いモンスターには命令できないのだ」
「その命令、サイモンさんじゃなくちゃダメなのか?」
「は?」
「コアってのを操作できれば、誰でもいーんだろ?俺は魔法のこと分からねーから無理っぽいけど、エドならできないかな?」
「な、に…!?」
その発想はなかった!
…と叫び、異様に興奮したサイモンによって促され。
アルバート様の案は、即座に試された。
できた。
ちょっと教わっただけでコアの操作方法をあっさり理解したエドワード様。
魔法陣のあるさっきの部屋でまだ昏倒していたサーベルタイガーに、命令を下す。
「起きろ」
昏倒しているモンスターにとんだ無茶振りなのだが、サーベルタイガーはなんとググッと身をもたげて起き上がったではないか!
さらに、お手、伏せ、チンチンといった犬に仕込む芸みたいな命令にも従順で。
「素晴らしいッ!!!」
サイモンは大絶賛していた。
エドワード様の成果を見届けると、部屋の片隅にあった机に向かってさっきからずっと一心不乱に筆を執っている。
大量の紙にすさまじいスピードでペンを走らせ、何事かを記録しているようだが…
専門外なのでやはり私には分からんな。
まあ奴の研究成果であることは間違いなかろう。
「……不思議なものだな、ダンジョンコアとは」
エドワード様がポツリと呟かれた。
手には、不可思議な虹色の球体。
一見してちょっと変わったオーブだが、その実態は物質ではない。魔素の固まったエネルギー体なのだ。あまりに高密度すぎて、本来は視認できないエネルギー体が肉眼で捉えられるようになっている。
エドワード様も普通に手に持っているわけではなく、自らの魔力で干渉してそこに留めて制御しているのだという。
「コアを通して、ダンジョン全体のことが手に取るように分かる。どんなモンスターがどこにどれだけいるのかも。…サイクロプスとかバジリスクとかヒュドラなんてのも生み出されてたんだね」
ブッ!?
またAランクオーバーの危険なモンスターばかりではないか!?
「絶対に表に出てこないようにしてくださいエドワード様!」
「分かってる。命令もこれひとつで簡単だ」
エドワード様はしっかりと頷き、それから少し苦笑した。
「私より強いモンスターはまだ生み出されていないようで、よかったよ。もしそんなのがいたらお手上げだったな」
なんて恐ろしい想像を!?
それってアースドラゴンよりも上位種ということだろう!?
そんなのいたっけ!?
「レジェンダリードラゴンとか伝説級のモンスターだったら、さすがに敵う気がしないよ」
「ああ〜いいねぇ〜レジェンダリードラゴンっ!いつか生み出してみたいものだ!」
研究記録に熱中していたはずのサイモンが、こんなところばっかり聞きつけて会話に割り込んできた。
やめろ!?
エドワード様にも制御できなかったら完全に詰むだろうが!?
不穏当な発言をするサイモンと揉める私たち。
一方で、
「おおっ……めっちゃ毛並みがいいな!」
「こうしてみると可愛いもんですねぇ」
あっちではアルバート様と若手騎士たちがサーベルタイガーをモフってた。
エドワード様に命じられたので、サーベルタイガーはずっと大人しくしてる。
人の気も知らず、呑気な…!?
とは思ったが、和む光景にちょっとだけ癒やされた。
結局。
サイモンは今後もこのダンジョンで研究を続けていくことになった。
エドワード様が許可された。
名目上は禁固刑、という扱いである。
他国に多大な被害を出し、我が国でも同様の罪を犯そうとした者を、ここに封じ込めておく、と。
実際には今まで通りダンジョン内で自由にできるわけだから、対外的に言い訳するための建前でしかないがな。
「罪人として牢に入れても何かしでかしそうだし、制御さえできれば有用な研究であることも確かだからね。下手に敵対するより、取り込んで手懐けるのが得策だよ」
なんという度量の広さ…!
まだ若年ながら、清濁併せ呑んだこのような判断を下せることも素晴らしい。
やはりエドワード様は王たるに相応しい器のお方だ!
それに、アルバート様。
なんだかんだで彼の思いつきのおかげで今回の事態は丸く収まった。
戦闘力の高さは言うに及ばず、真っ直ぐな気性の持ち主で、物事に囚われぬ自由な発想力もある。
彼もまた素晴らしい資質を持った若者だ。
このお二人が共に並び立って国を治める未来を思うと、心躍らずにはいられない!
さておき。
ダンジョン攻略の顛末についてだが。
エドワード様はコアを操作し、ダンジョンの出入り口にモンスターは通過できない結界を張った。
いちいち生み出されたモンスターに命じるのは面倒だからな。
これでエドワード様がその場におらず、サイモンがまた気ままにモンスターを生み出しても安心というわけだ。
対策は成った。
ここのダンジョンは国の管理下に置かれ、有効活用されていく予定である。
人々の脅威となるダンジョン。
が、攻略さえできるのならば、無限の富を生み出してくれる素敵な宝箱なのだ。
エドワード様やアルバート様にとっては、ちょうどいい鍛錬の場にもなるようであるし。
…騎士団の練兵も、たまにはダンジョンで行うかな。
などと計画する私である。
「やめてください!若手騎士とか死んじゃいますよ!?」
ん?
何か言ったか副団長?




