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転校生の下野さん、ド田舎でちんちんをつくる。  作者: 雨夜かおる
きょぬー後輩が勝手にカノジョを名乗ってる
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今日は寝かさないからね!?

 夏休み1週目。

 ドキドキ☆クラスメイトと熱い補習編、開幕!


 ……なんて自分を鼓舞しないとやってられなかった。


 今週は1日に複数の用事が詰め込まれた最もハードな期間だ。

 俺は寝ぼけた頭で今日の予定を整理して――――気が滅入るのでやめた。まずはご飯を食べたい。


「おはよう。マッマ」


「……っ! ん、ん!」


 母はものすごく上機嫌だった。

 ヘッドフォンからは睡蓮花が流れている。

 ガチめなダンスを息子に目撃されても、今日の母は一切気にしないスタンスだ。いつもはちょっと見られたくらいで赤い顔でポコポコ叩いてくるのに。情熱的なステップを踏みながらテーブル前までやってくると、俺のために椅子を引いてくれた。


「ありがとう……」


 俺は目の前の朝食を凝視した。なにかの間違いかと思って。


 クロワッサン、ロールパン、フレンチトースト、スクランブルエッグにカリカリなベーコン、カプレーゼ風サラダにコーンポタージュ、100%オレンジジュースまでついている。朝食としてこれ以上ないくらいふさわしい。


「で、こっちは……」


 少し視線をずらすと、また別の料理が並んでいる。

 ごはんにみそ汁、鮭に卵焼き、漬物……こういうのでいいんだよって感じのザ・和食。俺の好きな納豆までついて隙がない完成度。


 なんなんですか朝から。


「どっちかを選べってこと?」


 問うと、母は両方食べてほしいと言い放った。食えるか。


「味見? オヤジ―――じゃなくて、父さんのためにね。はいはい」


 俺は朝食の写真を撮って、うらかに送りつけてから食事に手をつける。

 どれもこれもおいしいが、一口ごとに感想を求めてくる。やりづらい。どれもおいしいよと答えると満足そうにキッチンに戻っていった。


 母はクソ親父とラブラブなので(実の両親にこの表現はキツイ)今から帰ってくるのが楽しみで仕方ないらしい。まだ1か月も先なのに。ことあるごとにカレンダーの前をうろうろしたり、スマホで父とのメッセージを読み返したりしてニヤニヤしたり、行動が10代の乙女だ。


 俺はクソ親父のことが嫌いなので全然帰ってきてほしくないけど、母が世界一幸せそうな顔をするのでなにも言えない。こういう母の姿を見るのが、俺は嫌いではない。なんなら好きかもしれない。認めたくないけど……。


「ごちそうさま。じゃ、いってきます」


「……?」


「補習に行ってくる」


「……っ!?」


「あ、いや、俺の補習じゃないよ。クラスメイトに付き合うだけ」


「う、わ、き……?」


「ちゃいます」


 なんでそうやって女子って決めつけるんですか。あってるけど。


7:30

 僕らの結衣山高校に到着。早い。いつもの登校時間より断然。

 夏休みに朝っぱらからやってきた俺に顔見知りの用務員が驚いていた。


「花の水やりと軽い掃除もやれって言われてて。色々借りていくっす」


「……。どうぞ」


 おっちゃんが示した道具入れから箒とじょうろを拝借。30分ほどかけて校舎周辺をきれいにしていく。が、さっきの用務員おっちゃんが後ろから手伝ってくれていた。それとないサポートがありがたい。


「……終わったのかい」


「やー、あざっす! これから1週間くらい毎日くるんで! 明日からは1人でやるっす!」


「………」


 AM8:00

 お次はサッカー部の手伝いだ。

 朝練のために部員の何人かが既にちらほらといる。その中には当然部長のガンテツの姿もあった。


「よくも俺を巻き込んでくれたなコノヤロウ」


「合宿での働きも期待している」


「マネージャーにやってもらえ」


「なにを言っている。それは空想上の存在だ」


「実在はするだろ。ウチには何故かいないだけで」


「ヤロウからタオルやドリンクの差し入れをされて、ヤロウに練習着を洗ってもらって、ヤロウにマッサージをしてもらう――――どうやってモチベを保てばいい。俺の」


「帰っていいかー!?」


「できれば、下野うらかに来てもらいたかった」


「あいつにそんなん出来るわけねえだろ……」


 他クラスから見ると、うらかって未だにそういうイメージなのか。

 あいつはサポート要員じゃない。ゴリゴリの選手タイプだ。


 グラウンドの整備やらドリンクの補充やらその他諸々、本当にマネージャーみたいな雑用をやらされて、9時前にようやく解放された。ここからサッカー部は練習。俺はいよいよ補習の付き添いだ。


8:50

 うらかからラインが届いた。


『朝からなんてもの見せるのよ。お腹減っちゃったじゃない』


『食えばいいのでは』


『食べたわよ。ごはん3杯』


『さすが』


『明日から透真くん家で朝ごはん食べていい?』


『だめだ』


『もうすぐ着く。私を褒めたたえる準備をしておいて』


 なんでだよ。お前の補習だぞ。

 俺は昇降口にやってきて、正門を見つめた。すぐにやってくると言っていたくせに、うらかの姿は見つけられない。何人か、運動部や俺らと同じ補習組の制服を見かけるだけだ。


「ちょっと透真くん」


「ん?」


 女子生徒が声をかけてきた。

 ショートヘアーの、そこそこ美人さんだった。ちょっとドキッとする。こんな可愛い子、うちにいたっけ。女子にしては身長が高い。うらかと同じくらいだ。


「いくら髪型が変わったからって、露骨にスルーしなくていいから。さっきからバッチリ目合ってたでしょ」


「んん?」


 目の前の女子が言葉を続ける。

 うらかみたいな声質で、うらかみたいな喋り方で、うらかみたいな表情を作って。


 血の気が引く感覚があった。誇張ではなく。


「うらか……?」


「うん」


「下野うらか、なのか?」


「なによ。本当に気付いてなかったの?」


 むっとした顔になって、うらかが睨んでくる。


「え。え? ええー???」


 俺がここまで動揺している理由を説明しよう。



 彼女のトレードマークだった長髪が、肩口にまで切り揃えられていた。

 


 うらかの動きに合わせて、夏の日を受けた黒髪は軽やかに揺れる。普段は隠されていた形の良い耳たぶを惜しげもなく晒していて、暑さのせいか首筋には汗がつたっていた。


「昨日、学校帰りに美容院でカットしてもらったの。わざわざ安芸葉町まで行ったんだよ?」


「………」


「さっぱりさせたつもりだったけど、やー、もう、暑い。結衣山ってあっついわね。東京よりはマシだけどさ。てかロングなんて元々性に合ってなかったのよ。こっちの方が動きやすいし、手入れも簡単だし。トライアスロンにも参加するから丁度良いよね」


「………」


「ちなみに、前に言ってた透真くんへのお礼、コレね。新しい私を一番に見れる権利。こんなに幸せな男子はきっと世界で1人よ。良かったわね。……ちょっと、いつまで黙ってるのよ。早く褒めなさい」


 うらかが何か言っているが、全然頭に入ってこない。


 俺は――――膝から崩れ落ちた。予想以上にドデカい音が響いた。


「きゃあっ!? なにスカートのぞこうとしてんのよ!?」


 うらかが的外れな被害妄想を口にした。確かに俺の頭はスカート下にあるけど。ちょっと顔を動かせばパンツ見えそうだけど。でも俺の視線は床だけを捉えていた。


「うらか。お前にはがっかりだ」


「なっ!? なによ、そんなに似合ってないって言うの? これでもけっこう頑張って―――」


「そんなことは言ってない。正直似合う。普通に可愛い」


「きゅ、急に褒めないで。……ありがとう」


「でも、ちがう。ちがう。そうじゃない」


「な、なにが」


 俺は、声を大にして叫んだ。



「俺はっ!! 長い髪が好きなんだよっ!!」



 スン、とうらかから表情が消えた。


 侮蔑を孕んだ冷たい目で見下ろされる。


「キッモ」


「なんとでも言え」


 俺は膝をつくどころか、うずくまった体勢になった。このまま丸まりたい。


「もう無理だ。生きる希望がない」


「そんなに長い髪が好きなの?」


「はい」


 なぜ、なんて陳腐な質問は受け付けない。


 男の子がヒーローを好きになるように。

 女の子が魔法少女を好きになるように。


 極めて自然な摂理だと主張したい。

 男子高校生はみんな黒髪ロングヘア―が好きなのだ(極めて個人的な考えという説もある)。


「あのさ、透真くん」


 うらかがしゃがみこんで、俺と目線を合わせた。

 涙目の俺を見て「うわぁ、ガチ泣きだぁ……きめぇ」と呟いた気がする。


「さきなが髪長いのって、それが原因?」


「……しらん」


「それとも、さきなの髪が長いから、ロング好きになった?」


「覚えとらん」


「卵が先か、鶏が先か。っていうのよね」


 したり顔でうらかが言う。全然上手いこと言った感はないが、本人は満足そうだった。


「ほーら! いつまでそうしてんの。行くよ!」


「まて、まて。まだ立ち直れてない」


「はいはい。冬になったらまた伸ばしてあげるから」


 うらかが俺の腕をぐいぐい引っ張っていく。



13:00

 この時間帯までが一番しんどかった。

 補習に向かうと、どういうわけか1年生たちの姿があり、2年生と合同での開催という事実が判明した。いやいや勉強の範囲がちがうんじゃないの? ってツッコミは野暮だ。今年の1年生のカリキュラムは現2年生をはるかに追い抜く。


 さすがのうらかも後輩の手前、借りた猫のようにおとなしく補習を受けていた。というか恥ずかしがっていた。


 そして俺は俺で補習の合間合間にサッカー部へ何度も駆り出され続けた。やれパス練習だのやれミニゲームだのと、ほぼほぼ現役みたいな動きを求められた。最終ゲームで負けたのが悔しかった。


 俺は昼食もそこそこに、安芸葉町へ直行した。

 電車の中ではひたすら爆睡していた。


14:00


「あー、パイセン! やっときた。遅いっすよ~」


「これでもやれるだけ飛ばしてきたんだよ」


「心が身体を追い越してきたんだよ~♪」


「なっっっっっつ!?」


 ラッコがにんまりと笑っている。

 あぶない。店長が止めてくれなかったらそのまま歌い始めるところだった。


 店長のダンナさんが復帰してからというもの、洋食屋ほんわかの評判はうなぎ上りだ。今日も店の前に長蛇の列が出来上がっている。俺もラッコも、もちろん他の誰もがフル稼働で動き回るがそれでも一瞬たりとも空席なんて発生しない。


 夕方ごろには俺の疲労はピークに達していた。


「とうま先輩お疲れですね~?」


「そういうラッコはいつでも元気だな」


「それが取り柄なんで!」


 ララコの両手がのびてくる。ぐいっ、ぐいっと俺の頬を無理やり持ち上げてきた。


「ほらほらっ、そんな顔でお客さんの前に出ちゃダメっすよ。えがおっ、えがおっ! 一緒にせぇーの、にこーっ!」


「悪くない。仕事中ずっとこうしててくれ」


「むちゃくちゃ言うじゃんこの人……」


「ゴラァ! そこのバカップル!! イチャつくのは帰ってからにしろー!」


 バックヤードから店長の怒号が響いた。見られていたか。


「カップルじゃないけど……」


「いやいや。パイセン。あたし『彼女』っすよ?」


「設定で遊ぶな。学校じゃないんだから演技しなくていい」


「えー、でも、いつどこで誰に見られてるかわからないじゃないっすか。いざという時にちゃんとできます?」


「なにをだよ……。いや、いい。言わなくて」


21:00

 高校生の俺とララコはここで勤務が終わった。

 帰ろうとした俺たちに、ダンナさんがまかないを作ってくれた。オムライスだった。俺は夢中になって食べた。



22:30

 疲れた身体をベッドに預けた瞬間、電話が鳴り響いた。

 誰が何の用でかけてきたのかは分かり切っている。ずっとラインも届いていたし。


「まだ終わってなかったのかよ……」


「私ひとりでできるわけないじゃん!」


 と、情けない悲鳴を上げるのは下野うらかだ。

 今日の補習課題が終わらなくて泣きついてきている。


「無理無理。いまなんも頭動かん」


「ダメだよ! 今日は寝かさないからね!? っていうか今月はずっと!」


 女子にこんなこと言われたら普通は舞い上がっちゃうはずなのに、状況が少し違うだけでこんなにも苦痛になるんだなと思いました。


「おやすみ~」


「ええっ、ちょっと嘘でしょ!? まだ課題終わってないのに! 透真くんってば! 透真くん、透真くん――――起きろ透真ぁぁぁ!!!」


 夏休み初日終了。

 以上のスケジュールが10日ほど続きます。

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