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転校生の下野さん、ド田舎でちんちんをつくる。  作者: 雨夜かおる
きょぬー後輩が勝手にカノジョを名乗ってる
73/75

ラッコの家にお邪魔します

 約2時間後。

 俺たちはラッコの自宅前にようやくたどりついた。本当にようやく。


「めっちゃ疲れたぞ俺は」


「だってパイセン、アタシが全部持つって言ってるのに、逆に全部持っていくから」


「どこにこんな重い荷物持たせる男がいるんだ。女は黙って言うこと聞いていればいいんだよ」


「かっこいいタイプの亭主関白っす……」


 帰り道、ラッコが夕食の材料を買いたいというので俺も付き合った。「どうせなら1週間分くらいまとめて買っちゃいないよ、俺がいるんだし」とか調子乗ったのは後悔してる。大家族が食う量って半端なく多い。


 個人的な手土産も用意したから、なおさらに。


 ラッコの家は、一言でいえば古い造りの一軒家だった。

 俺やうらかの住所からは結構離れていて、結衣山にしては珍しく人口が集中しているといえる地域だ。ここから結衣山高校に通うのは、そこそこ不便だと思う。自転車とかがないと。


 罪悪感が押し寄せた。


「あの、その、見ての通り粗末な家なんですけど、透真せんぱい大丈夫っすか」


「大丈夫って?」


「入った瞬間崩れそうとか、幽霊が出てきそうとか、内心イヤになってないすか。でもでも、全然怖くないとこなんで安心してほしいんですけど」


「ああ、そういうこと」


 俺はラッコの態度に合点がいった。

 家にお邪魔したいと宣言してからというもの、ラッコはあからさまに落ち着きをなくしていた。まあ、男の先輩にそんなこと言われたら当たり前の反応なんだけど……ラッコが気にしていたのは別の点だったみたいだ。


「グランシャリオ結衣山に比べたら上等だよ」


「どこっすかそのオシャそうな建物」


「親友2号の家」


 あれこそ吹けば飛びそうな物件だろう。

 で、驚いたことにそのグランシャリオ結衣山はここから割とご近所さんだった。こうしてみると、このあたりは人が多く住んでいるのに、ムラサキが住んでいる場所だけ台風の目だったんだなとわかる。


「それに、幽霊にしては楽しそうだよ」


「あのチビども……!」


 と、後輩が少しお姉ちゃん属性な口調になったのは、さきほどから家の中から聞こえてくる小さな子どもたちのはしゃぎ声のせいだ。


「透真せんぱい、申し訳ないんすけど、ちょいと待っててもらってもいいっすか。家の中も片づけたいですし」


「お構いなく」


 ラッコがぺこぺこ頭を下げながら家のなかに入っていった。

 直後「コラー! あんたたちー!」という、全然怒り慣れてない感じの叱り声とドタバタという騒がしい物音が続いた。俺は、中で繰り広げられている攻防を想像して笑ってしまった。


 待たされること5分。


 ようやく顔をのぞかせたラッコに、緊張の面持ちで招かれる。


「ど、どうぞっす」


「お邪魔しまっす」


 玄関に足を踏み入れた瞬間、俺は洗礼を受けることになった。


「なんだおまえー!」

「だれだおまえー!」

「ララ姉の彼氏なのかー?」

「くいもんおいてけー!」


 ラッコの兄弟姉妹たちが一斉に襲いかかってくる。

 足にまとわりつかれ、腕にぶら下がられ、脛を蹴られ、股間をパンチされた。おい、俺の自慢の息子に手を出したのはどのクソガキだ。はったおすぞ。


「こらこら! アンタたちやめなさい!」


 ララコが兄弟姉妹たちのあいだに割って入って引きはがしてくれる。

 とりあえず食材をしまうためリビングに案内にしてもらうが、そのあいだもずっとチビたちからの猛攻は続いた。どいつかはわからないが、1人だけ執拗にチ〇コを狙ってくるやつがいる。


「こいつよえー!」

「やっつけちゃえー!」

「ララ姉とチュウしたのかー!」

「ちんこちっちぇー!」


「ちっちゃくねえけど!?」

「いいかげんにしないとご飯抜きにするよ!」


 俺とラッコがほぼ同時に怒鳴る。

 チビたちは「わー!」「きゃー!」いいながら別の部屋に引っ込んでいった。

 俺は食材の入った袋を床に置いて、内股になりながら叫んだ。


「おいラッコ!」


「はいっす! パイセン!」


「俺、別にちっちゃくねえから! ホントだから!」


「はいっす! パイセンはアタシよりデケぇっす!」


「身長じゃなくてチ〇コの話だ!」


「ち……?」


 ラッコの視線が一瞬だけ下のほうへ向いた。

 そして、なぜか優しく肩を叩かれた。


「パイセンの見たことないからアレっすけど、でもおちんちん小さくても気にすることないっすよ!」


「慰めるな!」


「おおきくなあれ~、おおきくなあれ~」


「なにが!? マジでなにが!?」


 俺とラッコがふざけている間にチビの一人が戻ってきた。5、6歳くらいのハナタレ小僧だった。


「ララ姉、きょうのご飯なに~?」


「ナポリタン」


「えー!? やだー!!」


「は? なんでよ」


 ハナタレ小僧が駄々をこね始めた。


「飽きたー、いつもそればっかりじゃーん」


「これは『ほんわか』に代々受け継がれたすごい美味しいナポリタンなの。文句があるなら食べなくてよろしい」


「ぶー! ぶー!」


 弟くんの言葉を聞き流して、ララコは淡々と食材を並べていく。麺、ソーセージ、トマトケチャップ、ピーマン、たまねぎ……予告通りナポリタンらしい。弟くんは不満そうだった。


 だが俺はそれを眺めながら、胸の内にひっかかりを覚えていた。


 洋食屋ほんわかが提供しているナポリタンは全部ザクロさんが作っている。他の従業員は―――店長でさえ手出ししていない。もちろん俺も。ザクロさんのナポリタンはもちろん美味かったが……あれが受け継いできた味なのか?


「おい、おまえ!」


「ん?」


 考え事をしている間に、ハナタレ弟が目の前にいた。

 ビシッ、と人差し指を突きつけて舌足らずなしゃべり方でまくしたてる。


「おまえ、りょーりしろ!」


「へ?」


「できないのか!? ちんこちっせえくせにりょーりもできないのか!?」


「……ほう。犯人はお前か」


 すすっ、と現れたラッコが弟君の頭をはたいた。


「いでー!」


「透真せんぱい。こいつのいうことは無視してくださいっす」


「いや。それはできない相談だ」


 俺の股間を殴りつけた怨敵が目の前にいる。

 実力をもって屈服させなければ気が済まない。


「えっ。まさかパイセン」


「キッチンを借りるぞ」


 俺の料理スキル、とくと味わえ。



「うめー! うめー!」

「おかわり! おかわり!」

「とうますげー!」

「ちんちん! ちんちん!」


 1時間後、完全勝利な俺がいた。とても気持ちがよかった。


 作ったのは横綱食堂自慢の特製チャーハンだ。俺の親友1号の店に綿々と受け継がれてきたザ・伝統の味である。何年もバイトしているうちに特別に教えてもらえた。

 もちろん本家本元の足元にも届かないクオリティだから、気に入ったのならぜひ横綱食堂をたずねてくれよな。お待ちしてるぜ! って営業してみたけど誰もきいちゃいなかった。まあ、美味しくチャーハンを食うのにごちゃごちゃ言われたらうっとうしかろう。


「とうま、そっちのスープも!」


「あいよ」


 ついでに用意した中華スープも飛ぶように消費されていく。

 さっきからガキどもにずっと給仕をさせられてるけど、こんなに喜ばれたら全然苦じゃないわ。となりでラッコがあわあわしてるのも面白い。


「透真せんぱい、あたしが、あたしが代わりますから! お願いっすからくつろいでください!」


「いや、いい。それよりラッコもチャーハン食ってくれよ。冷めるぞ」


「パイセンをこき使ってるの耐えられないっす!」


 せめて、せめて後片づけだけは~! と念を押してきたララコだったが結局2人並んで皿洗いをしていた。家族全員分の洗い物って、すごい量だからね。


「悪いな。最近じゃ米も高いのにこんなに使っちまって」


「いいんすよ。いくら金がかかっても飯だけは腹いっぱい食えって、とーちゃんよく言ってますし」


「お父さん、まだ帰らないのか」


 時刻は夜8時ちかく。世の勤め人がどれくらいで帰宅するのか俺はよく知らない。自分の父親も特殊な働き方をしているし、友人たちも親は自営業だったりするせいだ。


「今日は遅い日みたいっすね」


「大変だな。お父さんも、もちろんラッコも」


「……そうなんすかね。これが普通なんすけどね」


 普通ではないと思うよ。

 境遇も、勤勉さも、人に優しいところも。


「ラッコ、俺さ――――」


 と、切り出そうとしたところで、またも腰やら足やらに何かがまとわりつく感触があった。もういいかげん、そっちに目を向ける必要すらない。


「どうしたジュニアたち」


「とうまー!」

「あそべー!」

「あそぼー!」

「ちんこー!」


 なんで子どもってのはこんなに元気なんだろ。

 高校生の自分のほうが絶対体力あるはずなのに全然かなう気がしない。

 あと一人だけ下ネタ言わないと死ぬ病にかかってるやついるな。


 俺は食器の水気をふき取りながら言った。


「いいよ。で、なにして遊びたい?」


「べーごま」

「けんだま」

「だるまおとし」

「竹〇んぽ」


「おまえら本当に現代っ子か?」

 

 もっとこう、スイッチとかを想像してたわ。

 後ろからラッコが「あたしのヨーヨーさばきも魅せるっす!」と言ってきた。お前もやんのかい。


 チビたちが言っていた遊び道具が本当に出てきた。

 ラッコの祖父母の、さらに上の代からあるものだろう。年季が入ってる。

 俺としても21世紀生まれ。こういったものを実際に触れるのは初めてで、なんならちょっと楽しかった。たまにはこういうのも悪くない。


「あんたたち、そろそろお風呂入りなさい」


 1時間ほど夢中で遊んだところで、ラッコがそう言った。

 えー! やだー! とチビたちの不満そうな声があがる。わかる、わかるぞ。せっかく楽しくなったところに水を差された気分になるんだよな。小学生のとき、親友たちと遊んでいたとき同じ気持ちだった。なんで5時で帰らないといけないんだよ。まだ足りねえよって。


「わがまま言わないの!」


「とうまも入るならいくー」

「え、とうまとおふろ!?」

「わーいわーい!」

「ちんこみせろー!」


 なんかおかしな流れが出来上がった。

 このままじゃ本当にチ〇コを見せることになる。


「コラコラ。パイセンを困らせないの」


「そうだぞ」


「ちゃんとお風呂の場所を教えてあげなさい」


「そうだぞ?」


「タオルとシャンプーも用意してあげなさい」


「そうかな」


「身体を洗ってもらうときは1人ずつお願いするように」


「そうかなあ!?」


 いいかげんツッコまざるをえなかった。


「止めてくれないのか!?」


「良かったら面倒みてやってほしいっす。まだ洗濯物たたんだり掃除したり色々やりたいことあって……」


「………」


 いや、いや。あのさ。


 動揺しすぎて声が出てこないけどさ。


 女児が2名ほどまじっているんですが、それはいいんですか。


 やばくないですか。まずくないですか。世間体的に。


「いや、ほら。俺、実は風呂キャンセル界隈だから」


「???」


「じゃなくって、あれだ、うん。着替えがない。これは困ったな」


「アタシのジャージ貸すっすよ。割とデカめなんで着れるはずっす」


「やー、でも、パンツとかもほしいし」 


「え。パンツとかいるんすか。結衣山男児なのに?」


「…………いらない、かも?」


 裸自体には抵抗はない。

 でもそうなるとフル〇ン+後輩女子ジャージの俺が爆誕するんだけど。

 なんか別の問題が発生しているんだけど、それはいいのか。


 色々な意味で踏ん切りがつかなくなった俺を見て、ラッコがとんでもない提案をしてくる。


「じゃあ、アタシもいっしょに入りましょうか」


「は?」


「6人ぐらい余裕で入れるんで。アタシも手伝えるっすよ」


「……。ああ、服を着たままってことね。驚かすなよ」


「え。アタシもいっしょにお風呂すませますけど。さすがに時間がもったいないので」


「………」


 そんな会話が後押しとなって。

 俺は覚悟が決まった。



「さっぱりー!」

「あたまゴシゴシしてー」

「髪かわかしてー」

「パンツはかせてー」


「ああ、ったく! お前ら少しじっとしてろ!」


 チビどもの相手は、かなり難儀だった。

 風呂に入ったあとも脱衣所に出たあともずっと暴れまわっている。ゆっくりできたのは『100かぞえるまでお湯につかりましょう』のルールを守ってくれたときだけだ。ララコお姉ちゃんとの約束らしい。


 ん? ラッコとお風呂に入ったのかって? そんなわけねえだろ。

 今頃ほかの家事を進めてくれてるよ。ムフフな展開なんぞあるか。


 じゃあ女児とのお風呂はどうだったかって?

 なめんな。何も感じなかったわ。身体を洗ってやったときも、こうして服を着せている今も無反応。心底安心した。俺はロリコンではない。


 どっちかっていうとラッコのジャージのほうが落ち着かない。


 彼シャツとか彼ジャージならわかるんだけど。

 彼女ジャージはどこの需要に刺さるんだろう。


 チビ全員の着衣をととのえさせて、そろそろ自分の髪をかわかそうとしたときだった。

 玄関の扉が開く音がした。真っ先に反応を示したチビたちだった。それぞれ好き勝手していたはずなのに、いっせいに玄関のほうへ走っていった。


「おとーちゃん!」

「おかえりー!」

「おしごとおつかれさまー!」

「おふろはいってきたー!」


「おう、お前ら! ちゃんとララコのいうこときいて良い子にしてたか!」


 離れた脱衣所にまでよく響く野太い声だった。

 俺はそっとそちらをのぞきこんだ。

 よごれたツナギ服の男が、チビたちに囲まれている。服の上からでも筋骨隆々なのがわかる。同学年にもタッパとガタイのよいやつはいるが、それとは比べ物にはならない。


 事前に教えてもらった通りだ。

 間違いなくララコの父親だ。


「もう風呂わいてるのか。父ちゃんも入ってくるぞ」


「まだだめー」

「とうまがいるー」


「ん? とうまって誰だ」


「ララ姉のかれしー」

「ちんこでかいー」


「あ???」


 あ。やばい。

 俺は慌てて脱衣所から出た。

 ラッコパパと目が合う。


「あの」


「なんだ貴様はァ!!」


 すごい剣幕で怒鳴られてしまった。


「大黒柱の許可もなく勝手にうちに上がりこむなあ!!」


 耳がキンキンする。鼓膜が破けそうだ。

 チビたちも全員耳を押さえていた。


「なに!? なにごと!?」


 バタバタとラッコがリビングから駆けてきた。んで、転びそうになったので咄嗟に受け止めた。こんなところでも運動オンチだった。


「俺の娘に触るなァ!!」


 火に油みたいだった。


「ララコはなあ、いずれ東京の大学に言って、立派な仕事をするんだ。お前みたいなどこ馬の骨ともしれんやつの嫁に行かせるか!」


「もうー、またその話。お父ちゃん、あのねえ――――」


 ラッコが割って入ろうとしたのを、俺は手で止めた。

 最初のインパクトに面食らったけど、やっと立ち直れた。

 そもそも、今日俺がここにきたのはこの人に会うためだったんだから。


「ララコさんのお父さん」


「なんだあ!」


 腕を組んで構えているラッコパパに向かって。

 俺は深々と頭を下げた。


「ララコさんの自転車。壊してしまったのは俺です」


 はっと。

 誰かが息をのむ気配があった。

 目の前のラッコパパかもしれないし、ラッコ本人かもしれない。

 顔をあげてないからよくわからないけど。


「必ず弁償します。来週にバイト代が入ってきたら、すぐに」


 言いたいことを言い終え、俺は手荷物をとった。

 振り返り、ラッコに早口で告げる。


「急に邪魔して悪かったな。楽しかったよ。あ、果物はあとで渡しておいて」


 仏頂面のラッコパパの横を通り過ぎ。

 チビたちの心配そうな目に見送られて。


 俺はラッコの家をあとにした。

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