第5話(中編2)「護衛艦ごと奪え」 1779年9月16日~9月20日
最初の砲撃を受けたグレイミア号が進路を変えると、ファルコン号と24門の旧フランス艦が前へ出た。
3隻はスペイン軍艦へ砲火を集中した。
エドワードの狙いは、これまでと同じである。船腹を撃ち抜いて沈めるのではなく、帆と索具を壊して速力を奪う。沈めてしまえば、英国へ持ち帰って使うことも売ることもできない。
グレイミア号の最初の斉射がスペイン艦の上部へ飛び、帆へ穴を開け、索具を切った。続いてファルコン号と24門艦も砲撃へ加わる。
スペイン艦も激しく撃ち返したが、3方向から狙われれば、すべてへ同時に有効な砲撃を返すことは難しい。
一方、中央にいたフランス24門艦は仲間を助けようと動いた。しかし、その前にはレゾリュート号と旧フランス20門艦2隻が入り、進路を塞いだ。後方の18門艦にもスウィフト号ともう1隻が回り込み、3隻の護衛艦は互いを十分に助けられない状態になっていた。
カートライトが周囲を確認した。
「8隻あると、やはり戦い方が変わりますな。以前なら3隻全部へ同時に船を付けることはできませんでした」
「今はできる」
「だからといって、次は16隻欲しいなどと言わないでください」
「戦っている最中に先の心配をするな」
「今のうちに言っておかないと、本当に増やしそうですからな」
砲撃を受け続けたスペイン艦では、前部マストを支える索具が切れ、船足が目に見えて落ちていた。それでも砲撃は止まらない。
「粘るな」
「正規海軍ですからな」
「降伏を求めろ」
信号が送られたが、返答はなかった。
エドワードは砲列へ目を向けた。
「もう一度上へ撃て。その後も抵抗するなら、次は船腹を狙うと伝える」
再び3隻から砲撃が集中し、スペイン艦の帆と索具をさらに傷めた。進路を保つことすら難しくなったところで、2度目の降伏要求が送られる。
今度はスペイン国旗が下りた。
「まず1隻だ」
カートライトが確認した。
「拿捕要員を移しますか?」
「最小限でいい。すぐ次へ行く」
グレイミア号とファルコン号は中央のフランス艦へ向かった。
それまで3隻から牽制されていたフランス艦の前へ、さらに2隻が加わる。5隻を相手にして勝てる可能性はほとんどない。
それでもフランス艦は1度砲撃し、旧フランス20門艦の舷側へ砲弾を命中させた。砕けた木片が甲板へ飛んだ。
「もとは自分たちの船だったのに、ずいぶん遠慮なく撃つな」
「向こうからすれば、敵に奪われた軍艦ですからな」
「船そのものに国はない。使える側が使えばいい」
「あなたが言うと妙に説得力があります」
「次はあの船もこちら側へ回す」
「もう残すつもりなのですな」
「使える状態ならな」
今度は5隻から無理に砲撃を浴びせなかった。左右と前方へ船を回し、逃げられる方向を減らしたうえで砲門を向け、降伏を求めた。
フランス艦長にも状況は見えていた。スペイン艦はすでに旗を下ろし、後方の18門艦もスウィフト号など2隻に追われて輸送船団へ戻れない。
しばらくして、フランス艦も降伏した。
「これで2隻目です」
「残る1隻も止めたいところだが、輸送船を逃がすわけにはいかない」
3隻目の護衛艦は、すでに輸送船を捨てて南へ逃走を始めていた。
「追撃はスウィフト号へ任せる。もう1隻付けてくれ」
「グレイミア号は追撃へ回さないのですか?」
「輸送船が10隻いる。金も食糧も火薬も、あちらに積んである」
カートライトはすぐに信号を出させた。
護衛を失った輸送船団はすでに形を崩し、何隻かは別々の方向へ逃れようとしている。
「散らさせるな。残る6隻で外側から押さえる」
快速のヘイル船団が輸送船を追い始めた。
最初の2隻はほとんど抵抗しなかった。その後も、船尾近くへ砲弾を撃ち込まれただけで帆を落とす船が続いた。中には小型砲で抵抗する輸送船もあったが、正規軍艦を相手にした時のような撃ち合いにはならない。
日暮れまでに7隻を停船させ、残る3隻も逃走方向を確認しながら追跡を続けた。夜間に無理な接近をせず、翌朝になってから距離を詰める。
9月17日の朝には、最後まで逃げていた3隻も順に降伏した。
さらに昼過ぎ、南へ18門艦を追っていたスウィフト号が戻ってきた。その後ろには、英国側の監視下に置かれた軍艦が1隻続いている。
「最後の護衛艦も取ったようだな」
「ええ。そのようです」
夕方になって詳しい報告が届いた。
逃げた18門艦は速かったが、スウィフト号も速い。2隻で追い続けて距離を詰め、前後から逃げ道を塞いだ後、数発を撃ち合ったところで敵艦は降伏したという。
結果として、護衛艦3隻と輸送船10隻のすべてを拿捕した。
エドワードは輸送船の船倉を順に調べさせた。積まれていたのは、小麦粉や乾燥豆、塩漬け肉、硬いパン、ワインなどの食糧に加え、火薬、砲弾、帆布、索具、予備の木材、医薬品、修理用の金具などだった。さらに数隻からは、軍への支払いに使う銀貨も見つかった。
見栄えのする宝石や高級品ではない。しかし、何万人もの兵員を乗せた大艦隊を海上で動かし続けるには、どれも欠かせない物だった。
エドワードは積荷一覧を読みながら言った。
「アメリアの言った晩餐会の話と同じだな」
「奥様は何とおっしゃっていたのですか?」
「どれだけ立派な屋敷でも、食べ物が届かなければ晩餐会はできないと言っていた。艦隊も同じだ。食糧や水が届かなければ、66隻あっても長くは動けない」
「確かにそのとおりですな」
「全部持って帰ろう。積荷も輸送船も、護衛艦3隻もだ」
「やはり軍艦も3隻とも残すおつもりですか?」
「ああ。使えるなら残す」
「これで11隻です。もう艦隊と呼んでもよさそうですな」
「呼び方が変わっても、僕の船であることに変わりはない」
◇ ◇ ◇
戦闘が終わると、21隻を英国まで動かすための作業が始まった。
今回は8隻で出航しているため、前回より拿捕船へ移せる人員に余裕がある。何度も同じ経験をしたことで、敵船員の武装解除、船内の確認、応急修理、拿捕要員の配置にも慣れた者が増えていた。
カートライトは各艦の人数と損傷を確認し、13隻の拿捕船へ必要な者を割り振った。エドワードは人員配置について細かな指示を出さず、21隻を安全に英国へ連れ帰る仕事をカートライトへ任せた。
9月20日。
応急修理と人員の配置を終えた大船団が英国へ向けて進み始めた。
エドワードが連れてきた8隻に、フランスとスペインから奪った護衛艦3隻と輸送船10隻が加わっている。その船倉には、本来なら連合艦隊の兵を食べさせ、砲を撃たせ、傷んだ船を直すために使われるはずだった物資が大量に積まれていた。
戦列艦66隻へ直接挑む必要はなかった。補給線から食糧と軍需品を奪えば、敵を困らせながら、その物資を自分たちの利益にも変えられる。




