↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25ポンドから始めるジョージア朝成り上がり 男爵家の跡取りは金と情報で大英帝国を駆け上がる  作者: ひまえび
第三章――「土地には値段がある」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/105

第4話(後編)「売るのは商船だけ」 1779年8月21日~8月31日

 8月下旬。


 16隻の船列が英国の港へ近づくと、前回以上の騒ぎになった。


 グレイミア号を知る港の者たちは、先月10隻の船団が戻ってきた光景をまだ覚えている。今回はそれより6隻多く、拿捕船11隻のうち3隻はフランス海軍の軍艦だった。


 砲門を並べた軍艦まで英国側の監視下で入港してくるのを見て、岸には荷役人夫だけでなく、商人、船員、軍人、見物人まで集まった。


「3隻とも軍艦だ!」


「商船も8隻いるぞ!」


 岸から声が上がる。


 船尾から人だかりを眺めたカートライトが言った。


「前回以上の騒ぎになりましたな」


「5隻で出て16隻で帰れば、嫌でも目立つだろう」


「この調子で増えれば、そのうち1つの港には収まらなくなりますぞ」


「その時は別の港も使う」


「もう次の話をしておりますな」


「困ってから考えるよりはいい」


 グレイミア号が接岸すると、ウェッブが待っていた。


 渡し板を降りてきたエドワードより先に、その後ろの船列へ目を向ける。


「3隻の護衛艦と8隻の商船を、全部連れて帰ってきたのですね」


「ああ。1隻も沈めずに済んだ」


「勝てる相手にしか手を出さないという約束も守ったのでしょうな?」


「最初の24門艦には3隻、次の20門艦には2隻で当たった。最後の1隻は、囲んで降伏させた。無理な戦いはしていない」


 ウェッブは3隻のフランス軍艦を眺めた。


「それなら前回より安心できます。問題は、この3隻をどうするかですが」


「3隻とも残す」


 ウェッブは視線を戻した。


「やはり売らないおつもりですか?」


「ああ。24門艦も20門艦2隻も使える。修理して艦隊へ加える」


「船が8隻になれば、乗組員の給金、補給、火薬、砲弾、修理、停泊費まで、維持費はかなり増えます」


「分かっている。その分は商船8隻から得る利益で賄う」


「商船を守っていた軍艦を奪い、その商船を売った金で奪った軍艦を動かすわけですな」


「よく分かっているじゃないか」


「理解はできます。喜んでいるわけではありません」


 エドワードは笑った。


「商船8隻と積荷は売却へ回してくれ。軍艦3隻はカートライトと造船所に渡す。修理に必要な費用は、船ごとに見積もりを出させてから決めよう」


 ウェッブは少し意外そうに顔を上げた。


「最初から『必要なだけ使え』と言われるかと思いました」


「お前が嫌がるから、見積もりを取ることにした」


「それは大きな進歩です」


「僕は最初から無駄金を使うのが嫌いだ」


「その言葉と、軍艦を3隻まとめて残す行動が同じ人から出るので、私は困るのです」


 ◇ ◇ ◇


 数日後。


 ウェッブの事務所には、商船8隻と積荷についてまとめた計算書が置かれていた。


「現時点の評価では、船体と積荷を合わせ、必要な費用を差し引いた後の分配対象額は約92万ポンドです」


 エドワードは計算書へ目を落とした。


「予想していたより大きいな」


「砂糖とコーヒーの量が多く、藍も高値が見込めます。それに銀貨もありました。あなたの取り分を8割とすれば73万6,000ポンドです」


「前回の39万2,000ポンドと合わせれば112万8,000ポンドになる。これでハロウデンと本邸へ使った100万ポンドを上回ったな」


「ええ。12万8,000ポンド上回ります。乗組員側の2割は18万4,000ポンドですから、今回もかなり大きな分配になります」


「そこは契約どおり払ってくれ。戦って取った金だからな」


「もちろんです」


 ハロウデン所領の購入と新本邸の建設に投じる金は、合わせて100万ポンドだった。


 その現金を補うために7月から再び海へ出たエドワードは、2回の航海で112万8,000ポンドの取り分を得る見込みになった。商会や炭坑、既存の土地から得る利益は別にあり、さらにフランス海軍から奪った軍艦4隻が手元に残る。


 ウェッブは計算書を閉じた。


「これで当初の目的は達成しました。しばらく海へ出ず、ハロウデンや本邸の方へ時間を使うお考えはありませんか?」


「すぐに次の航海へ出るつもりはない。新しく取った3隻の修理も必要だし、乗組員の編成にも時間がかかる」


「それなら少し安心しました」


「ただし、修理が終われば8隻ある。今までより大きな相手を狙えるようになる」


 ウェッブは椅子の背へ体を預けた。


「安心するには早すぎたようですな」


「100万ポンドを取り戻すという目的は終わった。だからといって、使える艦隊まで遊ばせておく理由はないだろう」


「あなたに軍艦を持たせると、そういう結論になるのですね」


「僕が奪った船だ。使えるうちは使う」


 ◇ ◇ ◇


 その午後、エドワードは3隻のフランス軍艦を修理している造船所へ向かった。


 船大工たちは帆柱、索具、舷側、砲架を順番に調べている。


 24門艦は前部の索具を大きく傷めていたものの、船体そのものは健全だった。20門艦の1隻にも砲撃痕があるが、大修理が必要な状態ではない。最後に降伏した1隻は、ほとんど傷を受けずに残っていた。


 カートライトが報告書を見ながら説明した。


「3隻とも使えます。損傷の少ない1隻は比較的早く仕上がりますが、残る2隻にはもう少し時間が必要です」


「砲もそのまま使えるのか?」


「使えるものは残します。ただ、艦ごとに弾薬の種類がばらばらでは補給が面倒になります。今後のことを考えれば、ある程度は統一した方がよいでしょう」


「そこはお前に任せる。実際に使う側で決めてくれ」


「乗組員の方も時間が要ります。3隻分を一度に新兵だけで埋めるわけにはいきません」


「前回の航海で5隻目を動かした時と同じように、今いる船から経験者を分け、新しく雇う者と組ませればいい。急いで人数だけ揃える必要はない」


 カートライトは少し笑った。


「『急ぐ必要はない』という言葉を、あなたから聞く日が来るとは思いませんでした」


「急いで船を沈めるより、少し待って強くした方がいい。僕は前からそのくらい慎重だぞ」


「その評価については、ウェッブと相談して決めます」


「どうせ2人とも信じないんだろう」


「よくお分かりで」


 エドワードは修理を待つ3隻を見上げた。


 数週間前まで、すべてフランス海軍に所属していた船である。修理と改装を終えれば、今度はエドワードの艦隊としてフランス船を追うことになる。


 グレイミア号を含めれば、全部で8隻だった。


 ◇ ◇ ◇


 8月末。


 エドワードは国王ジョージ3世への報告のため王宮を訪れた。王妃も同席している。


 国王は報告書へ目を通した後、エドワードを見た。


「今回は軍艦3隻と商船8隻を拿捕したとある。5隻で出航して、11隻を取ったのか?」


「はい、陛下。帰港した時には16隻になっておりました」


 王妃が笑った。


「最近は、出ていく時より帰ってくる時の方が船が増えるのですね」


「ありがたいことです」


 ジョージ3世は報告書へ目を戻した。


「護衛艦3隻をすべて沈めずに降伏させたそうだな。売却するつもりなのか?」


「いいえ。3隻とも修理して、私の艦隊へ加えるつもりです」


「すでに先月の1隻があるはずだ。それも合わせれば、フランス海軍から奪った軍艦だけで4隻になるのだな」


「そのとおりです」


「維持費も相当なものになるだろう。8隻もの船を自費で動かせるのか?」


「今回捕らえた商船8隻から、私の取り分だけで73万6,000ポンドほど入る見込みです。それを使えば十分維持できます」


 王妃が国王へ顔を向けた。


「フランスの商船から得たお金で、フランスから奪った軍艦を動かすそうですよ」


 ジョージ3世は声を上げて笑った。


「よいではないか。自分の金で船を整え、人を雇い、それでフランスの軍艦と商船を減らしてくれるのだ。余が止める理由はない」


「では、このまま艦隊を維持してもよろしいのですね」


「ああ。ただし英国の法と余の命令には従え。自前の艦隊を持ったからといって、好き勝手に戦争を始められては困る」


「もちろんです」


 国王は少し考えてから続けた。


「それと、今度は戦列艦まで欲しいと言い出すのではあるまいな?」


「今のところ、その予定はありません」


 王妃が笑った。


「陛下、『今のところ』と言っていますよ」


「聞かなかったことにした方がよさそうだな」


 エドワードも笑い、頭を下げた。


 国王から軍備を減らせとは言われなかった。自費で維持し、英国のために使う限り、8隻の艦隊を持つことについても認められた。


 王宮を出たエドワードは、そのまま造船所へ向かった。


 ハロウデンでは新しい本邸の建設が進み、自宅ではアメリアが最初の子を身ごもっている。海では2回の航海によって112万8,000ポンドの取り分を得る見込みとなり、造船所ではフランス海軍から奪った3隻の修理が続いていた。


 7月初めに海へ戻った時の目的だった100万ポンドの補充は、2か月で達成した。さらに4隻の軍艦を新たな戦力として手に入れ、修理が終わればエドワードが動かせる船は全部で8隻になる。


 馬車の窓からテムズに並ぶ帆柱を眺めながら、エドワードはその8隻を次にどう使うか考え始めていた。これまでより大きな船団を相手にできるだけの戦力が、すでに手元に揃いつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
25ポンドが五百数十万円はえぐい! 今まで低く見積りすぎてました笑 なら言うてもエドワードはかなり恵まれた初期スタートだったのね(まぁ貴族だし)
1ポンドって1000円くらいで考えてるんだけど、ぶっちゃけどんくらいの価値?
ここまでトントン拍子で進んでいるので、そろそろフランス海軍も警戒を強めている頃でしょうか? これから先は足元を掬われないか心配ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。