↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25ポンドから始めるジョージア朝成り上がり 男爵家の跡取りは金と情報で大英帝国を駆け上がる  作者: ひまえび
第三章――「土地には値段がある」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/108

第2話(後編)「100万なら、また取ればいい」 1779年6月21日~6月30日

 6月21日。


 ウェッブの事務所では、ハロウデン所領の購入に関する最後の書類が確認されていた。


 売主側が整理するべき抵当や権利関係の処理を終え、所有権を移すための証書も整った。エドワードが署名し、72万ポンドの支払い手続きも進められた。


 すべてを確認したウェッブが書類を閉じた。


「これで約52,000エーカーのハロウデン所領は正式にあなたの所有です。11の村を含む土地と、そこから得られる権利も引き継ぐことになります。もちろん、村人そのものを所有するという意味ではありません」


「それくらいは分かっている。問題は、これからきちんと管理して年2万5,000ポンド前後の収入を維持できるかどうかだ」


「道路や農場の修繕へ金を入れれば、むしろ改善できる可能性があります。もっとも、72万ポンドを支払った直後から収益の話を始めるあたりは、いかにもあなたらしいですが」


「土地を買ったのだから、収入を考えるのは当然だろう」


 ウェッブは別の帳簿を開いた。


「では、もう1つ確認しておきます。ハロウデンの購入に72万ポンド、新本邸へ今のところ28万ポンドを予定しています。合計100万ポンドです。2か月ほど前には、それを上回る現金を持っていましたが、自由に動かせる資金は大きく減ります」


「その点は分かっている。ただ、借金をしたわけではないし、商会も炭坑も船も、これまで持っていた土地も残っている。100万ポンドが消えたわけでもない。72万ポンドはハロウデン所領に変わり、28万ポンドはこれから本邸になる」


「資産として見れば、その考え方で間違いありません。ただし、現金が必要な大きな商売を始める場合は、以前ほど自由には動けなくなります」


「だから現金を増やす」


 ウェッブはエドワードの顔を見た。


「土地からの収入を積み上げるだけでは、あなたは満足しそうにありませんな」


「年2万5,000ポンドの地代収入を待って、100万ポンドになるまで何十年もかけるつもりはない。商会や炭坑の利益も入るが、それでも時間がかかる」


「すると、また海へ出るおつもりですか?」


「ああ。前回は4隻で1度出ただけで、僕の取り分が51万2,000ポンドになった。同じ成果が毎回出るとは思っていないが、海にはまだ大きな金が動いている」


「そこだけは忘れないでください。前回が大成功だったからといって、次も同じ条件になるとは限りません」


「だから無闇に出るつもりはない。今度は先に獲物を調べる」


 ウェッブは帳簿から顔を上げた。


「狙う相手について、もう考えているのですね」


「フランスだ。英国とはすでに戦争状態にあり、フランス商船や軍用輸送船は合法的な攻撃対象になる。西インド諸島から砂糖やコーヒーを運ぶ船も多いから、高価な積荷を持つ船を選べる可能性がある」


「商船を狙うだけでは終わらないのでしょう」


 ウェッブは5年の付き合いで、そこまで読んでいた。


「軍艦へ手当たり次第に喧嘩を売る気はない。戦列艦や大艦隊には近づかないし、大型艦とも無理に戦わない。ただし、小型軍艦が輸送船を護衛していて、こちらの4隻で確実に優位を取れるなら、戦う価値はある」


「商船だけでも十分な利益になると思いますが」


「それは金の話だ。フランス海軍の艦を破り、軍需輸送まで止めれば、国王陛下へ示せる戦功にもなる。金だけを稼いでいると思われるより、英国のために働いた実績も積んでおきたい」


「危険を増やす以上、その判断だけは慎重にしてください」


「そのためにも情報が要る」


 エドワードは机の上の紙を指で示した。


「フランスの港からどんな船が出るのか、積荷は何か、どこへ向かうのか、護衛が付くのか、途中でどこへ寄るのかを調べてほしい。海軍の機密を盗めと言っているわけではない。商人、保険業者、港の船員など、普通に情報を持っている人間から集めればいい。捕らえた船からは書類も取れるし、船長や航海士から聞けることもある」


「港で聞いた話には、噂や間違いも混じります」


「1人の話だけを信じるつもりはない。同じ情報が別々の場所から重なれば、使える可能性が高くなる。海へ出て偶然獲物を探すより、通る場所が分かっている相手を待つ方がいい」


 ウェッブは納得したように頷いた。


「やり方そのものは、昔から変わっていませんな。先に情報を集め、勝てるところで金を動かす」


「それでここまで来たんだ。今度も同じようにやる」


「では、商人や保険関係から集められる情報を整理してみます。出航日は、それを見てから決めるのですね」


「ああ。僕はその間に4隻の状態を確かめてくる」


 ◇ ◇ ◇


 翌日、エドワードはテムズへ向かった。


 夏の日差しを受けた川面には茶色い水が流れ、大小の船が行き交っている。岸の倉庫では荷役人夫が樽や木箱を運び、船大工の槌の音が絶えず聞こえていた。石炭の煙、タール、潮、泥の匂いが混じり合っている。


 エドワードには懐かしい場所だった。


 グレイミア号へ乗り込むと、カートライトが甲板で待っていた。


「伯爵閣下が船へ来られるのは久しぶりですな。結婚の次は大所領を買ったと聞きました」


「港まで話が回っているのか」


「5万エーカーを超える土地を現金で買った伯爵がいるという話なら、もう聞きました。金額までは知りませんが」


「それならまだいい。今日は4隻の状態を確認しに来た。近いうちに、また海へ出るつもりだ」


 カートライトの表情が引き締まった。


「4隻とも航海できる状態にはしてあります。ただ、長期間出るなら帆や索具をもう一度調べ、火薬や砲弾、食料も十分に積む必要があります。目的地は決まっているのですか?」


「まだだ。ウェッブにフランス船の動きを調べさせている。獲物の見当が付いてから、航路と出航日を決める」


「今度はフランスですか」


「そうだ。土地に72万ポンドを払い、本邸へ28万ポンドを使う予定だから、手元の現金をもう一度増やしたい」


 カートライトはしばらくエドワードを見た。


「合わせて100万ポンドですか。あなたは海で危ないことをするより、陸にいる時の方が大胆に金を使いますな」


「だから海へ取りに行く」


「前回のような利益を簡単に期待しないでください。毎回50万ポンド以上の取り分が出るわけではありません」


「ウェッブにも同じことを言われた。だから今回は、見つけた船へ片端から向かうつもりはない。高価な積荷を持つ商船や軍用輸送船を優先する」


「護衛艦が付いていた場合、どこまで戦うおつもりですか?」


 エドワードは甲板の砲を見ながら答えた。


「戦列艦や大型艦とは戦わない。こちらの4隻で明らかに優位に立てる小型艦なら、輸送船ごと取ることを考える。その場合でも、砲数、乗員、風向き、周囲にほかの敵艦がいないかを確認してからだ。金を取りに行って4隻を失ったら意味がない」


「その判断を守っていただけるなら、私も準備できます。フランス正規軍の軍艦は商船と違って逃げるだけではありません。砲手も訓練されています」


「分かっている。勝てない相手には近づかない」


「それなら船の整備を始めます。前回の分配を知っていますから、乗組員も集めやすいでしょう。給金と戦利品の分配は以前と同じ条件でよろしいですか?」


「ああ。そこを変える理由はない。給金も同じ、戦利品もこれまでどおり僕が8割、乗組員側が2割だ」


「その条件なら腕のいい船員も集まります」


 カートライトは川の方へ目を向けた。


「情報を待ってから出るという方針には賛成です。航路も分からないまま大西洋を探し回るより、通る可能性の高い場所を押さえた方がいい。ただし、情報どおりに来ないからといって、フランス本土の沿岸まで追いかけるようなことだけはやめてください」


「そこまで無理をするつもりはない。狙った船が来なければ、次の情報を待つ」


「今の言葉は覚えておきます」


「好きにしろ」


 カートライトは4隻の点検と補給の手配を始めた。


 ◇ ◇ ◇


 6月30日。


 ハロウデンでは、新本邸を建てる高台へ人と資材が集まり始めていた。測量を続けながら進入路を造る準備が進み、石切り場では建築用の石材を切り出す計画も具体化している。必要となる木材の確保も始まった。


 一方、テムズではグレイミア号を含む4隻について、帆や索具、砲、火薬、砲弾の確認が進んでいた。


 ハロウデンの購入と本邸建設によって、エドワードが自由に動かせる現金は大きく減った。だからといって土地を売り戻したり、急いで借金をしたりする必要はない。ウェッブにはフランス船の情報を集めさせ、カートライトには4隻の準備を任せ、条件のよい相手が見つかった時にだけ海へ出るつもりだった。


 エドワードがテムズに浮かぶグレイミア号を眺めていると、隣に立ったカートライトが声をかけた。


「100万ポンドを使ったことが、今になって惜しくなりましたか?」


「いや。土地も家も欲しくて使った金だ。惜しいとは思っていない。ただ、使った分だけ現金が減った。それなら、また取ってくればいい」


 カートライトは何も言わず、主人の横顔を見た。


 ハロウデンでは本邸建設が動き始めている。陸の仕事をアメリアと建築家へ任せたエドワードは、手元の現金を増やすため、再び海へ出る準備を進めることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。