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25ポンドから始めるジョージア朝成り上がり 男爵家の跡取りは金と情報で大英帝国を駆け上がる  作者: ひまえび
第二章「敵船には値段がある」

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第6話(中編)「戦争になる前に買え」 1777年10月1日~11月30日

 1777年10月初旬、グレイミア号はロンドン近郊の造船所で点検を受けていた。


 春から大西洋へ何度も出て、砲撃戦も経験している。大きな損傷はなかったものの、冬を迎える前に船底の銅板、帆柱、索具、舵などを一通り確認することにした。


 カートライトが船大工と話しているところへ、エドワードがやってきた。


「カートライト。大砲を増やす余裕はあるか?」


「ありません、と先に申し上げておきます」


「まだ何門とは言っていないぞ」


「今の28門で十分です。9ポンド砲を増やせば重量が増えますし、もっと大きな砲ならなおさらです。グレイミア号の速力を落としてまで、戦列艦と撃ち合う準備をする必要はありません」


「軍艦を見たら逃げろ、という話だな」


「そのための速い船です。大型軍艦から離れられて、普通の商船には追いつける。武装商船なら今の砲で十分戦えます」


 エドワードも異論はなかった。


「では28門のままでいい。その代わり、船を長く動かすために必要な物を先に揃えよう」


「予備の帆と索具は増やしたいです。傷んだ銅板も交換しますし、帆柱材や砲手の訓練に使う火薬も補充したい」


「全部やってくれ」


 カートライトはそこでエドワードの意図に気付いた。


「フランスとの戦争を見越しておりますな」


「戦争になって海軍も商船も一斉に動き始めれば、帆布も縄も木材も人手も高くなる。グレイミア号で使う分くらいは、今の値段で押さえておきたい」


「それなら整備のついでに進められます。ただし、商会で売るほど買う話ならウェッブ殿と相談してください」


「もちろんだ。そちらの方が金額は大きくなる」


「やはり船だけでは済みませんか」


「戦争になるなら、砲を撃つ前から商売になる」


 カートライトは船大工のところへ戻り、エドワードは積み上げられた帆布や木材を見ながら造船所を歩いた。


 ◇ ◇ ◇


 数日後、ウェッブの事務所には調査結果が揃っていた。


 帆布、麻縄、木材、樽材、鉄製品、石炭、塩漬け肉や乾燥豆など、船舶や軍需輸送に使われる品について仕入れ先と現在の価格がまとめられている。


「火薬はグレイミア号で必要な分だけにしましょう」


 ウェッブは最初にそう言った。


「大量に抱えるには危険ですし、保管にも手間がかかります。食料も同じで、長く置ける物と置けない物があります。商会で多めに持つなら、帆布、麻縄、鉄製品、木材の方が扱いやすいでしょう」


「戦争にならなかった場合にも売れるか?」


「もちろん需要はあります。ただし、すぐ値上がりする保証はありません」


「それなら十分だ。戦争がなければ通常の商売で売り、始まれば値上がりしたところへ出す」


 ウェッブは帳簿を開いた。


「どの程度買います?」


「最初は5,000ポンドだ。1種類に集中させず、仕入れ先も分ける。納入時期もずらしてくれ」


「倉庫も1か所へ集めない方がよいでしょうな」


「ああ。グレイミア号で使う分は別にして、先に船へ回しておこう」


 5,000ポンドという金額を聞いても、ウェッブはすぐ注文へ進まなかった。


「確認しておきますが、フランスが参戦すると決まったわけではありません。在庫を抱えたままになる可能性もありますぞ」


「分かっている。だから平時でも売れる物に絞ったんだ。全部を賭けるつもりはない」


「それなら進めましょう」


 エドワードは調査表を机へ戻した。


「戦争が始まってから不足品を探す商人が出てくる。その時、僕は買い手ではなく売り手でいたい」


「まだ戦争前なのに、売る相手の心配までしておりますか」


「値上がりしてから仕入れるよりはいいだろう」


 ウェッブは返事の代わりに帳簿へ仕入れ枠を書き込み、取引先ごとの確認を始めた。


 ◇ ◇ ◇


 10月から11月にかけて、グレイミア号の整備は予定どおり進んだ。


 船底では傷んだ銅板が張り替えられ、索具も必要な部分を交換した。予備の帆や帆柱材を増やし、砲架も点検する。砲手たちは28門の9ポンド砲を確実に扱えるよう訓練を続けた。


 同じころ、商会が買い付けた帆布や麻縄、鉄製品なども順次倉庫へ入った。


 11月下旬、カートライトは整備を終えたグレイミア号を一通り確認し、エドワードへ報告した。


「船はいつでも出せます。護衛航海ならすぐにでも」


「それは続けよう。フランスは?」


「まだ敵国ではありません」


「なら手を出さないさ」


 エドワードは造船所の向こうに並ぶ倉庫を見た。自分の船は出航でき、商会には先に買った船用品がある。


「戦争になるかどうかは僕には決められない。準備するところまではできる」


「それなら、こちらの仕事は済みました」


「ありがとう。あとは普通に働きながら待つよ」


 カートライトは次の護衛航海に必要な人員を確かめるため、船長室へ戻っていった。

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