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25ポンドから始めるジョージア朝成り上がり 男爵家の跡取りは金と情報で大英帝国を駆け上がる  作者: ひまえび
第二章「敵船には値段がある」

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第1話(前編)「20歳の元日」 1777年1月1日~2月10日

 1777年1月1日、エドワード・ヘイルは20歳の誕生日を、テムズに停泊するグレイミア号の甲板で迎えた。


 空は朝から曇り、川面を渡る風は冷たかった。岸の倉庫から流れてくる石炭の煙に潮と泥、船体へ塗ったタールの匂いが混じっている。夜露の残る甲板では水夫たちが帆と索具を点検し、砲手たちは舷側に並ぶ9ポンド砲の手入れを進めていた。


 グレイミア号は約650トン、3本マストで、9ポンド砲を28門備えている。船底には銅板を張り、長い航海にも耐えられるよう、予備の帆や索具、修理用の資材を十分に積める造りにしてあった。敵船を追い、戦って捕らえた後も海上で行動を続けるため、エドワードが約3万8,000ポンドを投じて造らせた船である。


 前年秋に完成してから商船護衛には何度か出ているが、肝心の敵船拿捕にはまだ使っていない。正式な私掠免許が出ていない以上、敵側の船だと分かっていても、利益を目的に勝手に捕らえることはできなかった。


 船尾からカートライトが歩いてきた。


「20歳ですな。おめでとうございます」


「ありがとう。今年も船の上だ」


「去年の誕生日はボストンでした。18歳の時はロンドンでしたかな」


「まだヴェンチャー号に乗っていたころだ。この3年で船も随分大きくなった」


「人も増えました」


「その分、食費も給金も増えた。これだけの人数を抱えれば、船を眺めているだけで金のことを考えるようになる」


「ようやく船主らしくなりましたな」


「今までは違ったのか?」


「半分くらいは船乗りのつもりだったでしょう」


「今でもそのつもりだぞ」


 2人の前では、砲手が砲身に油を塗り、火薬や砲弾を運ぶ通路に邪魔な物がないか確かめていた。


 グレイミア号には最大180人ほどを乗せられる。前年11月から集めてきた乗組員についても、エドワードは人数だけを求めなかった。帆や索具を扱える水夫、砲撃経験者、船体を修理できる船大工、負傷者の手当に慣れた者など、航海や戦闘で実際に役立つ経験を持つ者を優先している。


 大勢を乗せれば、それだけ船が強くなるわけではない。戦闘になれば、砲を扱う者、火薬を運ぶ者、帆を操作する者、損傷を直す者が狭い船内で一斉に動く。持ち場を理解していなければ、敵から受ける被害より先に自分たちで事故を起こしかねなかった。


「今日はどこまでやる?」


 エドワードが砲列を見ながら尋ねると、カートライトは予定を説明した。


「午前は砲撃訓練です。火薬は使わず、砲を引き出して装填し、発射したものとして戻してから次の装填へ入るところまで繰り返します。午後は拿捕船へ人を移す訓練をします」


「敵船を捕まえても、英国まで持って帰る人間がいなければ金にはならないからな」


「1隻捕らえるたびに、こちらの乗組員を何人か移すことになります。2隻、3隻と増えれば、それだけ本船に残る人数が減ります」


「何隻くらいまでなら持って帰れる?」


 カートライトは眉を上げた。


「まだ1隻も捕らえておりませんよ」


「だから先に聞いている。捕らえてから人が足りないと分かっても遅い」


「敵船の大きさ、損傷、乗っている人数によって違います。今のうちから3隻まで、5隻までと決めてしまう方が危険です」


「分かった。捕まえるたびに判断する」


「それがよろしいでしょう」


 砲術を担当する者から準備が整ったとの声が上がり、カートライトは砲列へ向かった。


 訓練が始まると、砲手たちは重い砲を引き出して装填の動作を繰り返した。9ポンド砲は、ハンター号で使っていた6ポンド砲より砲身も砲架も重い。実戦では発射のたびに強い反動を受けるうえ、船体は波で絶えず傾く。その状態で次弾を装填しなければならない。


 最初の一巡を見たカートライトが怒鳴った。


「遅いぞ! 敵は装填が終わるまで待ってくれん。最初からやり直せ!」


 砲手たちが持ち場へ戻る。エドワードは手を出さず、彼らの動きを見ていた。


 船の扱いと砲手の訓練については、カートライトをはじめ経験のある者たちに任せた方がよい。エドワードが船主として決めなければならないのは、グレイミア号をどこへ向かわせ、どの相手と戦い、どこで危険を避けるかだった。


 ◇ ◇ ◇


 午後には雲が薄くなり、冬の日差しが川面に落ちた。


 甲板の片側へ縄梯子を下ろし、小艇を横付けする。今度は拿捕した船へ人員を移す訓練だった。


 敵船を降伏させれば、まず武装解除を行い、船内に抵抗する者が残っていないか調べる。その後で船体や帆の損傷を確認し、自力航行が可能なら、グレイミア号から必要な人間を移して英国側の港まで運ぶことになる。


 カートライトは20人ほどを選び、小艇へ降ろした。停泊中のテムズでも、本船と小艇は川の流れを受けて別々に揺れる。外洋であれば、さらに高い波の中で武器や修理道具を持って移らなければならない。


「大きな商船なら20人では足りないな」


 作業を見ていたエドワードが言うと、カートライトはうなずいた。


「敵船員が多ければ見張りも増やします。砲撃で傷んでいれば船大工も要りますし、帆を扱える者も移さなければなりません」


「獲物が増えるほど、グレイミア号の人数が減るのか」


「そうなります。戦いには勝ったが、帰りに人手が足りなくなったでは困りますからな」


「では10隻捕まえたら?」


「そんなに捕らえないでください」


「迷わなかったな」


「10隻分の人間を余分に乗せて出るくらいなら、最初から船を何隻か連れていきます」


「それもそうか」


「海では、取った後のことまで考えてください。持ち帰れない船には値段が付きません」


「欲張るなとは言わないんだな」


「言っても無駄でしょう」


「よく分かっている」


 カートライトはそれ以上答えず、次の組を小艇へ降ろすため甲板を歩いていった。


 ◇ ◇ ◇


 1月中旬、グレイミア号は商船護衛の仕事でテムズを離れた。


 私掠免許が出るまで船を係留して費用だけを払い続ける気はない。西へ向かう商船を護衛して料金を受け取り、その航海を利用して新しく加わった乗組員を外洋へ慣らすことにした。


 冬の海は荒れていた。大西洋から吹く風が帆を強く張り、波が船首へ当たるたびに飛沫が甲板へ上がった。海水を吸った索具は重く、水夫たちの手も冷たい風にさらされていた。


 それでもグレイミア号の速力は十分だった。銅板を張った船底と、速度を重視した船体に金を掛けた効果は、実際の航海に出ればよく分かる。


 問題は、護衛する商船まで同じ速さでは走れないことだった。グレイミア号は先へ出て前方を確かめ、また船団へ戻る。左右や後方も警戒しながら、結局は最も遅い船に合わせて進まなければならない。


「この船だけなら、もっと速く走れるんだがな」


 船団を眺めながらエドワードが言うと、隣にいたカートライトは聞き流さなかった。


「去年も同じことをおっしゃいました。護衛船だけ先に港へ着いても何の役にも立ちません」


「覚えている。ただ、速い船を造ったのに速度を落としていると、金を無駄にしている気分になる」


「私掠を始めれば、嫌になるほど走らせることになります。それまでは商船に付き合ってください」


「問題は、その私掠をいつ始められるかだ」


「役所へ聞いてください。私に尋ねても帆の話しか答えられません」


「戻ったらウェッブを問い詰める」


「ほどほどになさってください」


 戦闘のないまま護衛航海を終え、グレイミア号は2月初めにロンドンへ戻った。途中で正体の分からない帆船を遠方に見たことはあったが、近づいてこない船を追う必要もなかった。


 テムズへ入ったエドワードは、港へ着けばウェッブのところへ行くつもりでいた。船も人も砲も揃った以上、次に知りたいことは1つしかなかった。

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― 新着の感想 ―
もうやる気(殺る気)満々過ぎるエドワードくん。痛い目に合わなければ良いけど…。
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