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25ポンドから始めるジョージア朝成り上がり 男爵家の跡取りは金と情報で大英帝国を駆け上がる  作者: ひまえび
第一章「秘密には値段がある」

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第10話(中編)「ヘイルの護衛」 1776年4月1日~8月31日

 4月、北アメリカから入る船が、3月17日に英国軍がボストンを撤退したことをロンドンへ伝えた。植民地側の武装船が英国船を捕らえる動きも続いており、ウェッブの机には護衛を求める船主の書類が積み上がっていた。


「今のところ11隻です。このうち8隻は同じ時期に出せます」


 ウェッブが一覧を差し出した。エドワードは行き先と予定速度を確かめ、遅い2隻の欄を指した。


「この2隻は急がない船と別に組ませよう。足の速い船まで長く海に置けば、それだけ危険が増える」


「残る6隻を先に出しますか」


「そうしよう。護衛料は積荷の価値と航路で変えてくれ。高すぎれば船主は自分で武装する。その境目は任せる」


「承知しました」


 エドワードは一覧を返した。


 ◇ ◇ ◇


 5月、最初の有料護衛船団がロンドンを出た。ハンター号が6隻の商船を守り、エドワードも乗り込んだ。


 航海中に不審な帆を2度見たものの、ハンター号が船団の外側へ出ると近づいてこなかった。結局、大きな戦闘は起きず、6隻は予定どおり目的地へ着いた。


 船主は約束した護衛料を支払った。何も奪われず、誰も捕虜にならず、荷が予定した港へ着く。その当たり前だった結果に金を払うほど、海は危険になっていた。


 6月にロンドンへ戻ると、ウェッブが次の一覧を用意していた。


「今度は12隻です。ニューヨーク方面で、政府物資が7隻、民間が5隻。出航時期も合います」


「一緒に出そう」


「今回も乗るのですか」


「乗る」


「商会の主人が毎回海へ出なくても、ハンター号とカートライト船長がいれば護衛はできます」


「それは分かっている。ただ、船主が僕まで乗ることに価値を感じるなら、その価値は使う」


 ウェッブは少し考えた。


「本当に名前を商売にするおつもりですな」


「安売りはしない」


 ◇ ◇ ◇


 6月下旬、ハンター号と12隻の輸送船が大西洋へ出た。前回より大きな船団であるため、カートライトは出航前に各船長へ信号を確認させ、速度もできるだけ揃えていた。


 甲板で船団を見たカートライトが尋ねた。


「途中で故障した船が出たら?」


「助ける。最初から速度を揃えた以上、単に遅いという理由では置いていかない」


「敵が来れば?」


「輸送船を先へ出し、ハンター号が間へ入る」


「戦列艦なら?」


「12隻とも逃がして、僕たちも逃げる」


「そこまで分かっていれば安心です」


「勝てない相手に向かうほど金持ちじゃない」


 カートライトは笑い、船団の確認へ戻った。


 ◇ ◇ ◇


 7月下旬、船団は北アメリカ東岸へ近づいていた。朝から風が弱く、帆は張ったり緩んだりを繰り返している。


 正午を過ぎたころ、左舷後方に3隻の船影が現れた。小型船ばかりだが、カートライトが望遠鏡で見るとすべて武装している。


「先頭が10門ほど、残る2隻は6門か8門でしょう。輸送船より速い」


 3隻は距離を詰め、先頭の1隻がハンター号へ向かい、残る2隻が左右へ分かれ始めた。


「こっちを1隻で押さえて、2隻を輸送船へ回すつもりでしょう」


「なら先頭を早く止める。輸送船には隊列を詰めたまま先へ進ませろ」


 信号旗が上がり、12隻の輸送船が互いの距離を縮めた。ハンター号は後方へ下がる。


 敵の先頭船が先に発砲した。砲弾が海面へ落ち、続く1発がハンター号の船首をかすめて木片を飛ばした。


 ハンター号は左舷を相手へ向けたが、エドワードはまだ撃たせなかった。


「もう少し寄せる」


「向こうも撃ってきますぞ」


「遠くから外すよりいい」


 敵船の甲板を動く人影まで見分けられるところで、エドワードが命じた。


「今だ。撃て」


 左舷8門の6ポンド砲が火を噴き、砲煙が甲板を流れた。何発かが船体や索具へ命中する。敵船も撃ち返し、ハンター号の手すりが砕けて水夫1人が木片を顔に受けた。


「負傷者を下へ。砲撃は続けろ」


 2回目の斉射が前檣付近へ当たり、敵船の帆が大きく崩れた。船足が落ちるのを見て、エドワードは次の1隻へ向かわせた。


「右へ回れ。最初の船は後だ」


 輸送船へ近づこうとしていた2隻目の前へハンター号が割り込み、進路を塞ぐ。


 カートライトが周囲を見た。


「まだ3隻います」


「こちらで戦えるのは1隻だけだ。だから一番邪魔な場所に置く」


 再び砲撃が始まった。ハンター号を無視して輸送船を追えば横から撃たれ、ハンター号と戦えば、その間に12隻が遠ざかる。2隻目は進路を変えながら撃ち返したが、船体側面に砲弾を受けて損傷した。


 3隻目は距離を取り始め、最初に帆を壊された船も速力を戻せない。カートライトが右手の船を見た。


「1隻が離れます」


「追うな。目の前の船を止める」


 ハンター号は2隻目へ近づき、さらに砲撃を加えた。相手も抵抗したが、やがて旗を降ろした。残る2隻は船団を追わず、そのまま離れていった。


 エドワードは遠ざかる12隻の帆を確認した。


「追いつけるか?」


「この程度の損傷なら大丈夫です」


「では捕獲船へ人を送れ。武装解除して、航行できるか調べてくれ」


「今回も当局へ渡しますか」


「ほかに合法な使い道がない」


「惜しいですな」


「僕が一番分かっている」


 ◇ ◇ ◇


 戦闘でハンター号側には7人の負傷者が出て、そのうち2人が重傷だった。死者はいない。捕獲船にはそれ以上の死傷者が出ていたため、武装解除の後、敵側の負傷者にも必要な手当を受けさせた。


 数時間後には12隻の船団へ追いつき、捕獲船を加えて航海を続けた。


 8月、船団はニューヨーク方面の英国側港湾へ入った。政府物資も民間貨物も失われず、12隻すべてが到着した。捕獲した武装船は当局へ引き渡された。


 荷下ろしを見ていた政府の担当者がハンター号の損傷を眺めた。


「12隻全部を、この船1隻で守ったのか」


「全部連れてきた」


「3隻と戦って、1隻を捕まえたとも聞いた」


「残る2隻は離れた。追えば船団から離れるから追わなかった」


「金持ちの若者が自分で護衛船に乗るとは聞いていたが、本当だったんだな」


「失えば金も評判も減る。どちらも困る」


 担当者は笑った。


 ハンター号が12隻を守って港へ入ったことは、船員や船長を通じて別の港へも伝わった。海賊討伐の時からエドワードを知る者にとっても、今回は意味が違う。王室の費用で与えられた任務ではなく、自分の船で民間船と政府船を守った実績だった。

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