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25ポンドから始めるジョージア朝成り上がり 男爵家の跡取りは金と情報で大英帝国を駆け上がる  作者: ひまえび
第一章「秘密には値段がある」

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第10話(前編)「撃たれたら撃ち返す」 1776年1月1日~3月31日

 1776年1月1日。


 エドワード・ヘイルは19歳の誕生日を、ボストン港に停泊するハンター号で迎えた。夜のうちに降った雪が甲板の隅に残り、港から吹く風は肌を刺すほど冷たい。岸では英国軍の兵士や荷役人夫が動き回り、前年11月にロンドンから運んできた毛布、衣類、靴、食糧などが6隻の輸送船から次々に降ろされていた。


 荷下ろしを確認していた軍の担当者が書類から顔を上げた。


「6隻全部か?」


「全部だ」


「途中で植民地側の武装船に捕まらなかったのか。去年から、こちらの補給船を狙う連中が増えている」


 エドワードは11月に船団へ近づいてきた2隻を思い出した。


「2隻に付きまとわれたが、ハンター号が砲門を開いたら離れた」


 担当者は港に浮かぶハンター号へ目を向けた。


「6ポンド砲16門か。商船の護衛には頼りになるな。最近は食糧を積んだ船まで奪われている」


 往路で見た2隻が何者だったのかは分からない。ただ、北アメリカ沿岸では英国船を狙う武装船が実際に増えているらしい。ボストン周辺では陸軍同士が向かい合い、海でも輸送船を巡る戦いが始まっていた。


 ◇ ◇ ◇


 その夕方、ハンター号ではエドワードの誕生日祝いとして、乗組員に普段より多めの肉と酒が出された。


 船長室では、エドワードとカートライトが塩漬け肉と豆の煮込みを食べていた。外では風が船体へ当たり、係留索が時折軋んでいる。


 カートライトが酒杯を持ち上げた。


「19歳ですな」


「そうだ」


「去年は新しい船を造ると言い出し、今は自分のハンター号でボストンです。次は何をするおつもりで?」


「まず、この船で無事に帰ることだ」


「ずいぶん堅実ですな」


「帰らなければ次の船にも乗れないだろう」


 カートライトは酒を飲んだ。


「その考えだけは忘れないでください」


「忘れたら止めてくれ」


「止めて聞く方なら苦労はしませんな」


 エドワードは笑った。海賊討伐の時とは違い、今回は船も給金も弾薬も自分の財布から出ている。それでも海へ来たのは、ロンドンで帳簿を眺めるだけでは手に入らないものがあると考えたからだった。


 ◇ ◇ ◇


 1月中旬、荷下ろしと帰国準備を終えたハンター号は、英国へ戻る4隻の商船を伴ってボストンを出た。往路より船団は小さく、積荷も軽いため、全体の速度は出しやすかった。


 出航から4日目の午後、見張りが右舷後方に2隻の船影を見つけた。カートライトが望遠鏡を向ける。


「小型船が2隻です。片方には砲門が見えます。もう1隻も武装していると考えた方がよいでしょう」


「こちらへ来ているか?」


「間違いありません」


 2隻は間隔を空けたまま、こちらとの距離を縮めていた。ハンター号より小さいが船足は速い。


「商船を狙っていると思うか」


「そう見るのが自然でしょう」


「船団を詰めろ。ハンター号を最後尾へ回す」


 カートライトの指示で信号旗が上がり、4隻の商船が互いの距離を縮めた。ハンター号は速度を落とし、追ってくる2隻との間へ入る。


 やがて先頭の武装船から白煙が上がり、砲弾が水面へ落ちた。まだ距離は遠い。続く砲弾もハンター号の近くへ落ち、水柱を上げた。


「撃ち返すぞ。ただし、まだ撃つな」


 砲手たちが配置に就き、火薬と砲弾が運ばれた。前年の海賊討伐に参加した者も多く、何をすべきかは分かっている。


 カートライトが距離を見ながら尋ねた。


「そろそろ撃てます」


「もう少し寄せる。向こうよりこちらの砲が大きい。確実に当てたい」


 相手の砲が再び火を噴き、今度は砲弾がハンター号の船腹を叩いた。外板が砕け、木片が甲板へ飛ぶ。大きな損傷ではなかったが、威嚇ではなくなった。


「右へ回せ」


 舵が切られ、帆が調整される。ハンター号が進路を変えると、左舷の8門が先頭の武装船へ向いた。


「撃て」


 6ポンド砲が続けて火を噴いた。轟音とともに甲板が震え、白い砲煙が左舷を包む。海へ落ちた砲弾もあったが、何発かは敵船へ命中し、船首付近を壊した。


 相手も撃ち返し、砲弾が索具の間を抜けて綱を切った。


「次を急げ」


 砲手たちは装填をやり直した。ここで弾薬を惜しんで船や商船を失えば、節約どころではない。


 2回目の斉射で、先頭の武装船の前方の帆が崩れ、船足が落ちた。もう1隻は進路を変えて離れ始める。


 カートライトが望遠鏡を下ろした。


「片方は逃げます」


「追うな。商船を守るのが先だ」


「残った方は?」


「止める」


 ハンター号は速度を失った武装船へ近づいた。相手はなお砲撃を続けたが、3回目の砲撃を受けると船体中央部にも損傷が出た。やがて旗が降ろされる。


「撃つのをやめろ」


 砲声が止むと、風と波の音が戻った。甲板には火薬の煙が残り、砲身から熱が立っている。


 ハンター号から水夫を送り、敵船の乗組員を武装解除させた。双方に負傷者が出ており、敵側には死者もいた。ハンター号でも木片や索具で負傷した者がいたが、死者はいなかった。


 捕らえたのは小型のスクーナーで、船内には銃器と火薬のほか、英国商船から奪ったとみられる物資も積まれていた。


 カートライトが尋ねた。


「この船はどうします?」


「近い英国軍の港へ持っていく」


「売らない?」


「私掠免許もないのに、何の権利で売るんだ」


「そうなりますな」


 エドワードは損傷したスクーナーを見た。


「戦って捕まえても、僕のものにはならないのか」


「だから免許が必要なのです」


「よく分かった。船腹を撃たれて覚えるには高い授業だったな」


 ◇ ◇ ◇


 捕獲したスクーナーを英国側の当局へ引き渡した後、ハンター号は4隻の商船と合流して帰路を続けた。


 船長たちが重く見たのは、捕獲船から利益が出なかったことではない。武装船に襲われた時、ハンター号が商船を置いて逃げず、自ら最後尾へ下がって敵との間へ入ったことである。帰港すれば、その話は船主や商人へ伝わる。


 3月上旬、ハンター号がロンドンへ戻ると、その評判はエドワードより先に届いていた。


 ウェッブの事務所へ入るなり、エドワードは机に積まれた契約書を見た。


「無事でしたか」


「見れば分かるだろう」


 ウェッブは窓からハンター号の方角を見た。


「船の穴は増えたようですが」


「塞げる穴だ。2隻に襲われて、1隻を捕まえた」


「戦利品は?」


「ない。免許がないから当局へ渡した」


「納得しましたか」


「するわけがない。ただ、法律は分かった」


 ウェッブは計算書を取り出した。


「留守中も政府との取引は続いています。新造船への支払いを除いても、自由に使える現金は約23万ポンドまで戻りました」


「増えたな」


「こちらでは大砲を撃たずに商売をしておりましたので」


「そのために任せている」


 ウェッブはさらに別の書類を出した。


「それと、民間の船主から護衛の相談が来ています。北アメリカから4隻を守って戻った話が広がったようです」


 エドワードは書類を読み、行き先の違う船が混じっていることを確かめた。


「同じ方向へ行く船をまとめよう。ハンター号1隻で何隻も守れる」


「護衛料を取りますか」


「今度は無料ではやらない。船主が保険料まで含めて得をする値段を考えてくれ」


 ウェッブが笑った。


「安心しました」


 危険な海を無事に通すこと自体が、金を払って買うサービスになり始めていた。

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― 新着の感想 ―
歴史ランキング日間、週間一位おめでとうございます! 面白いからもっとたくさんの人に読んで欲しい。 さーて私掠免許船になるのかな?でも護衛船団の方が安定して儲かりそうな気もするしな?
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