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25ポンドから始めるジョージア朝成り上がり 男爵家の跡取りは金と情報で大英帝国を駆け上がる  作者: ひまえび
第二部・第五章――「自由には値段がある」

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第4話(前編)「買い占められた道路」 1799年5月1日~5月10日

 1799年5月2日。アルバニーのカーター家で、イーサン・マーサーは4月末にフィラデルフィアの法律家から届いた手紙を読み返していた。


 土地投資家サイラス・ハーディングが、イーサンの開拓予定地からオハイオ川へ通じる運搬路の一部を買い取ろうとしているという知らせだった。


 その運搬路は、以前から周辺の農民や商人が利用してきた道だ。しかし、公道として正式に整備されたものではなく、一部は私有地を通っていた。土地の所有者が通行を拒めば、商品を川まで運ぶ際に問題が生じる可能性がある。


 イーサンは机に測量図を広げ、問題の場所を確認した。


 4月に取得した2万エーカーの土地にも、オハイオ川に面した部分はある。ただし、川岸の一部は増水時に水につかるおそれがあり、倉庫を建てるには適さない。以前から使われている運搬路を利用できれば、高台と川岸を結ぶのに便利だった。


 ハーディングが狙っているのは、その道だった。


 イーサンは法律家に返事を書き、土地の所有者と過去の通行契約について調べるよう依頼した。さらに、4月に仕事を依頼した測量士にも手紙を送った。


 当初は5月中に自分で西部へ行くつもりだったが、測量士を先に派遣し、必要な調査を進めてもらうことにした。土地の詳しい状況が分からないうちに現地へ行くより、経験のある者に調べてもらった方が効率的だと判断したのである。


 測量士には既存の運搬路だけでなく、川へ出る別の経路も調べるよう指示した。特に土地の高低差、増水時の浸水範囲、橋が必要になる場所を確認してほしいと伝えた。


 ハーディングが何を考えているのかは、おおよそ見当がつく。しかし、相手がまだ土地を取得していない段階で、こちらから交渉する必要はなかった。


 ◇ ◇ ◇


 5月5日、ハーディングから直接手紙が届いた。


 問題の運搬路を含む土地について売買契約を結んだことと、イーサンの開拓事業に協力する用意があることが記されていた。


 ただし、その条件は一方的なものだった。


 道路を使用する場合、荷車1台につき10シリングの通行料を支払うこと。さらに、今後建設する倉庫と船着き場について、利益の4分の1をハーディングに渡すというのである。


 イーサンは手紙を読み終えると、ダニエルに見せた。


「これはまた、ずいぶん強気な要求だな。荷車を通すたびに10シリングも取られたら、運送費が大きく増えるぞ」


「問題は、それだけじゃないよ。土地を通らせるだけで、僕の事業の利益を4分の1も取ろうとしているんだ。そんな条件を認めたら、これから先も同じような要求をされるだろうね」


「断れば、道路を使わせないということか。相手は経験豊富な商人だし、お前の事業が遅れることまで計算しているんじゃないか」


「そうだろうね。でも、通行を禁止できるかどうかも、まだ確認していないんだ。まず権利関係を調べるよ」


 ダニエルは手紙を机に置いた。


「法律家に任せても、争いになれば時間がかかるぞ。道路を使えなければ、開拓事業にも影響するだろう」


「だから別の経路も調べてもらっているんだ。仮に通行料を払うとしても、相手の言い値を受け入れるつもりはないよ。新しい道路を造った場合と比べて、どちらが有利か判断すればいい」


「お前は本当に、商売の主導権を他人へ渡すのが嫌いなんだな」


「自分の土地で始める事業だからね。道路を1本押さえられただけで何もできなくなるなら、計画そのものを見直す必要があると思う」


 イーサンは発明の権利を守った時と同様に、将来の利益を安易に手放すつもりはなかった。


 ハーディングへの返事には、提示された条件は受け入れられないこと、通行に関する権利を確認した後で改めて検討することだけを記した。


 別の道路を調査させていることは書かなかった。競争相手にこちらの対抗策を知らせる必要はないからだ。


 ◇ ◇ ◇


 5月7日、イーサンはアルバニーの銀行を訪れた。


 支配人は、先月2万エーカーの土地を取得した青年を覚えていた。


「マーサーさん。西部の土地はいかがですか。もう開発を始められたのでしょうか」


「今は調査を進めています。今日は、将来土地を担保に融資を受ける場合の条件を伺いたいんです」


 支配人は、開拓前の西部の土地は担保としての評価が低く、購入代金と同じ金額を借りられるとは限らないと説明した。土地の所在地や所有権、事業の見通しによっても条件が変わるという。


「現地の調査が終わり、担保となる土地を確認できれば、融資について具体的に検討できます。ただし、開拓事業は思いがけない費用がかかるものです。借入額には十分ご注意ください」


「分かりました。今すぐ借りる必要はありませんが、今後の資金調達について知っておきたかったんです」


 イーサンは礼を述べ、銀行を後にした。


 ハドソン川沿いの倉庫街には荷物を積んだ船が行き交い、岸では小麦粉の樽や木材が荷車に積み込まれていた。商人たちは船着き場に近い場所へ倉庫を建て、そこから内陸の町へ商品を運んでいる。


 西部でも同じような商売ができるはずだった。ただし、道路が使えず、運送費が高くなれば、農民や商人は別の場所を選ぶだろう。


 開拓事業を成功させるには、土地を持つだけでは足りない。そこへ人と商品を運ぶ手段が必要なのだ。


 イーサンは、最初に道路と船着き場を確保するという方針を改めて確認した。


 ◇ ◇ ◇


 5月9日、フィラデルフィアの法律家から追加の書類が届いた。


 ハーディングが問題の土地を取得するための手続きを進めていることが確認された。しかし、そこを通る道には長年の利用実績があり、以前の所有者が周辺の農民へ通行を認めていた記録も残っていた。


 ただし、その取り決めが新しい所有者にも及ぶかどうかは、さらに調査が必要だった。


 イーサンは法律家へ調査を続けるよう依頼した。道路の利用について争う余地はあるかもしれないが、それだけに頼るつもりはない。


 古い測量図には、川へ向かう複数の谷が描かれていた。森林を伐採する必要はあるだろうが、高台を通る道が造れれば、増水時にも利用しやすくなる可能性がある。


 ただし、実際の地形が分からない以上、工事を始める判断はできなかった。イーサンは図面に調査してほしい場所を書き込み、測量士へ追加の指示を送った。


 翌10日、ダニエルが書斎を訪ねてきた。


「ハーディングからは、その後何か言ってきたのか」


「まだ何もないよ。こちらも調べているところだから、急いで返事をする必要はないと思っているんだ」


「相手が焦れて、もっと厳しい条件を出してくるかもしれないぞ」


「それなら、なおさら別の道が必要だね。既存の道が利用できれば使うし、条件が悪ければ別の方法を探すよ」


 ダニエルは義弟が慌てていないことを確かめ、安心した様子で書斎を出ていった。


 イーサンは仕事の書類を片付け、翌日の予定を確認した。


 エレノアと散歩へ出かける約束がある。


 西部の問題はまだ解決していないが、今すぐ自分ができることは済ませていた。調査結果を待っている間まで、仕事のことばかり考えている必要はない。


 イーサンは明日の約束のために、午後の時間を空けておくことにした。

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