第7話(中編)「双子だった」 1782年2月1日~2月28日
1782年2月。
ハロウデン・ハウスでは、アメリアの出産を控えて準備が進んでいた。
前回の出産を知る医師と産婆が早くから手配され、必要な布や湯を運ぶ者も決められている。
アメリア自身は、予定日までもう少しあると思っていた。
しかし2月22日の朝から腹に痛みを感じ、昼になるとその間隔が短くなった。
医師と産婆が呼ばれ、エドワードの母アンもハロウデンへ駆けつけた。
「少し早いですが、出産が始まったようです」
医師から説明を受けたアンは、すぐアメリアの部屋へ入った。
「エドワードにも知らせておきましょうか」
「今から手紙を出しても、届くころにはとっくに生まれています。それなら、無事に生まれたと知らせた方が、あの人も心配しなくて済みます」
「本当に、あなたたち夫婦は似たところがあるわね。心配させたくないと言って、大事な話ほど後から知らせるのだから」
アメリアは痛みの合間に笑った。
「それなら、エドワードから移ったのかもしれませんね」
夕方には痛みが強くなった。
使用人たちが湯を運び、産婆が寝室を出入りする。長男は別室で乳母に預けられた。
夜になっても出産は続いた。
◇ ◇ ◇
2月23日の夜明け前。
最初の赤ん坊が生まれた。
女の子だった。
廊下で待っていたアンは、泣き声を聞いてようやく肩の力を抜いた。
ところが産婆は、いつまでたっても部屋から出てこない。
しばらくして医師が扉から顔を出した。
「まだ出産は終わっておりません。もう1人おります」
アンは驚いて医師を見た。
「双子だったのですか」
「そのようです」
前もって分かっていなかった。
アメリア自身も驚いたが、休む暇はなかった。
そこからさらに時間がかかり、2人目が生まれたのは朝になってからだった。
こちらも女の子だった。
2人目の泣き声が聞こえると、寝室だけでなく廊下で待っていた者たちからも安堵の声が漏れた。
医師は赤ん坊を確認した後、アメリアの状態を診た。
「かなり疲れておられます。出血もありましたが、今のところ落ち着いています。今日は何もなさらず、休んでいただきます」
アンが寝室へ入ると、アメリアは寝台に横たわっていた。
顔色は悪かったが、意識ははっきりしている。
「女の子が2人ですって」
「ええ。エドワードには、1人分しか名前を任されていませんでした」
「男でも女でも、あなたが決めていいと言われたのでしょう。それなら2人とも決めればいいわ。帰ってきて文句を言ったら、私も一緒に叱ります」
「それなら安心です」
産婆が最初の女児を抱いてきた。
アメリアは疲れた腕を伸ばし、小さな頬へ指を触れた。
「お兄ちゃんも、こんなに小さかったのかしら」
「まだ2年前よ」
「今はずいぶん大きく見えますから」
隣室では、その兄が双子の妹ができたことも知らずに朝食を食べていた。
◇ ◇ ◇
翌日、アメリアはまだ寝台にいたが、前日より顔色は戻っていた。
双子は乳母の手を借りながら、交代で母親のそばへ運ばれてくる。
長男も初めて妹たちを見せてもらった。
乳母に手を引かれて寝室へ入ると、寝台の脇に置かれた2つの籠を順番に覗き込んだ。
「赤ちゃんよ。あなたの妹たち」
アメリアが教えた。
息子は片方を見て、もう片方を見た後、母親へ顔を向けた。
アンが笑った。
「1人だと思ったら2人いたから、驚いたのでしょうね。今日からあなたは2人のお兄ちゃんですよ」
言葉の意味までは分からないらしい。
それでも息子は、小さな妹の手へ指を近づけた。
赤ん坊の指が兄の指先へ触れた。
アメリアはその様子を寝台から見ていた。
「エドワードにも見せたかったですね」
「帰ってきたら嫌というほど見せてあげなさい」
「そのころには、2人ともずいぶん大きくなっているでしょうね」
「だから、あなたも元気でいなければいけませんよ」
「もちろんです」
◇ ◇ ◇
同じころ、マドラスではエドワードが別の港から来た商人と話していた。
話は難しくなかった。
英国側が米と織物を買い、相手は運ぶ船も用意する。代金は銀で払い、品質と納期を守れば次の注文も出す。
30分ほどで商談はまとまった。
現地会社員が契約書を整理した。
「以前なら、この規模の話でも何度か会議へ回していたものです」
「必要な物も値段も分かっているなら、その場で決めた方が早いでしょう」
「伯爵が来られてから、仕事の進み方が随分変わりました」
「会議を増やしても船は速くならないからね」
エドワードは次の書類へ目を通した。
その日に港へ入った英国船にも、アメリアからの新しい手紙はなかった。
最後に届いた手紙さえ、まだ前年9月の日付だった。
◇ ◇ ◇
2月26日の朝。
アメリアは強い寒気を訴えた。
暖炉には十分な火が入っていたが、体の震えが止まらない。
医師が呼ばれた。
高い熱があった。
出産の疲れもあるだろうと考えられ、寝台で休ませたが、夕方になるとさらに熱が上がった。
翌朝になっても下がらない。
アメリアは汗をかき、何度も水を求めた。
医師は薬を使い、寝具を取り替えながら状態を見守ったが、夕方にはさらに弱っていた。
アンは寝室から離れなくなった。
「双子は元気なの?」
「2人ともよく飲んでいます。乳母が見ていますから大丈夫」
「お兄ちゃんも?」
「あの子も元気よ。今は自分のことを考えなさい」
「3人とも元気なら、それだけでも安心です」
「あなたまで元気になって、初めて安心できるのよ」
アメリアは返事をせず、目を閉じた。
その夜になっても熱は下がらなかった。




