第45話 帰還の夜に、招待状が届く
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第45話 帰還の夜に、招待状が届く
グロズ討伐の報せは、メルジェのときよりもさらに大きな反響を呼んだ。要塞都市に戻ると、三カ国の紋章を纏った兵士たちから、次々と労いの声がかけられた。
「よくやった、ガルド殿!」
「見事な一撃だった!」
ガルドは戸惑いながらも、その称賛を受け止めていた。以前のように、ただ嬉しそうに胸を張るのではなく、どこか静かな表情で頷いている。
「変わったな、ガルド」
「お前のせいだよ、たぶん」
そんな軽口を交わしながら、俺たちは久しぶりの休息を取ることになった。
街への帰路、馬車の中でヒカリが不意に俺の隣に座り直した。
「ガルドさん、イチさんのこと、気づいたんですね」
「ああ。全部じゃないけどな」
「どんな気分ですか、それ」
その問いに、俺は少し考えてから答えた。
「悪くない。むしろ、ほっとした部分もある」
「そうですか」
ヒカリは嬉しそうに微笑んだ。
「秘密を分かち合える人が少しずつ増えていくの、私は好きです」
「いつか全員に知られる日が来るかもな」
「そのときは、私も一緒にいます」
その言葉に、俺は小さく頷いた。
街に戻った翌日、宿の受付に一通の封書が届いていた。差出人の名はなく、封蝋には見覚えのない紋章が押されている。
「イチさん宛て、って書いてありますけど」
受付の女性が不思議そうに手渡してくる。俺は封を切り、中の便箋に目を通した。
「グロズ討伐、お見事でした。あなたの働きについて、そろそろきちんとお話しする頃合いかと思います。今晩、街外れの旧塔にて、お待ちしております」
差出人の名は書かれていなかった。だが、誰からの手紙かは、考えるまでもなかった。
「あの男か」
背後からフィーネの声がした。
「読んだのか」
「肩越しに、少しだけ」
フィーネは手紙を覗き込んで、表情を険しくした。
「一人で行くつもりですか」
「分からない。でも、逃げ続けても、あいつは消えないと思う」
「危険です」
「危険なのは分かってる。だから」
俺は少し考えてから続けた。
「今度は、ちゃんと話を聞いてみようと思う」
その言葉に、フィーネはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「分かりました。ですが、私たちも近くで待機します。何かあれば、すぐに動けるように」
「大袈裟だ」
「大袈裟なくらいがちょうどいい、とガルドさんも言っていました」
夕食の席で、俺は手紙のことを皆に話した。
「一人で行くのは反対だ」
ガルドが即座に言う。
「でも、近くで待機してもらうのは、ありがたい」
「当たり前だろ。何かあったら、すぐ駆けつける」
ヒカリは黙って俺を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「イチさん、行く前に一つだけ、聞いてもいいですか」
「なんだ」
「もし、その人が魅力的な話をしてきたら、どうしますか」
核心を突く問いだった。
「分からない。まだ、何を言われるかも知らない」
「そうですよね」
ヒカリはそう言って、少し寂しそうに笑った。
「ただ、私はイチさんを信じてます。どんな話をされても、イチさんはイチさんのままだと思うので」
その言葉が思いのほか胸に重く残った。信じられているということは、期待されているということでもある。その重みを俺はまだうまく受け止めきれずにいた。
夜が更け、街外れの旧塔へ向かう時間が近づいてくる。窓の外、月明かりに照らされた塔の輪郭が、静かにこちらを見下ろしているように見えた。手紙の一文が、頭の中で何度も繰り返されていた。
あなたの働きについて、そろそろきちんとお話しする頃合いかと思います。
その言葉の裏に、何が待っているのか。俺はまだ、その答えを持っていなかった。
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