第43話 一瞬だけ見える、壊れる前の兆し
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第43話 一瞬だけ見える、壊れる前の兆し
崩落が五度、六度と続く中、部隊の消耗は明らかに色を濃くしていた。負傷者がクレアのもとへ次々と運ばれ、治癒の光が絶え間なく空洞を照らしている。
「このままじゃ、押し切られる」
ガルドが肩で息をしながら呟いた。
「イチ、何か見えないか」
俺はグロズの動きをこれまで以上に注意深く観察していた。腕も足もほとんど動かない。だが攻撃の直前、ほんの一瞬だけ赤い光の明滅が変わる瞬間がある。
「光だ。攻撃の直前、目の光が一段暗くなる」
「暗くなる」
「一瞬だけだ。たぶん権能を発動する直前の、何かの兆候だ」
「どれくらい前だ、それ」
「コンマ数秒。見逃せば終わりの、ほんの一瞬」
その報告に、部隊長が険しい顔をした。
「それだけの猶予で、避けきれるのか」
「分からない。だが今のところ、それしか手がかりがない」
俺は自分の見立てに確信を持てないまま、それでも声を張った。
「光が暗くなったら、全員伏せろ! 合図は俺が出す!」
賭けだった。だが、この状況で他に選択肢はなかった。
グロズが再び動きを見せる。俺はその赤い光の変化だけを、瞬きもせずに見つめ続けた。
わずかに、光が翳る。
「伏せろ!」
叫んだ瞬間、空洞全体が震えた。今度は事前に伏せていた分、被害は最小限に抑えられた。
「効いてる。これでいける!」
ガルドが声を上げる。だが俺はその手応えの裏で、別の違和感に気づいていた。
「待て。光の翳り方が、今少し変わった」
「変わった、とは」
「学習されてる。俺たちが避けるようになったのに合わせて、次の予兆を隠そうとしてる」
その言葉に、フィーネが息を呑んだ。
「相手も、こちらの対応を学んでいるということですか」
「たぶんな。長期戦になるほど、こっちが不利になる」
ガルドが大剣を握り直し、グロズの方をまっすぐに見据えた。
「なら、長引かせずに決めるしかないな」
「無茶を言うな。防御を無視する相手に、どうやって」
「防御を無視されるなら、防御しなけりゃいい」
ガルドの目に、これまでにない光が宿っていた。
「弟のときは、逃げることしかできなかった。今度は違う。逃げずにまっすぐぶつかる」
「ガルドさん、それは」
クレアが不安げに声を上げる。だがガルドは止まらなかった。
「イチ、次の兆しが見えたら教えてくれ。避けるためじゃない、合わせるために」
「合わせる、だと」
「あいつの権能が発動する瞬間、そこに俺の一撃をぶつける。防御じゃなく、相殺だ」
無謀な発想だった。だが、この状況を打開する糸口が他に見当たらないことも事実だった。
「ヒカリ、フィーネ、援護を頼む。俺の合図で、ガルドが動く」
俺の言葉に、二人が頷いた。
グロズが再び動きを見せる。俺は赤い光の一点だけを見つめ続けた。翳りは前よりわずかに小さい。だが消えてはいなかった。
「今だ、ガルド!」
叫んだ瞬間、ガルドが地を蹴った。大剣を振りかぶり、グロズの権能が発動する寸前の一点へ全体重を乗せて叩き込む。
衝撃波が空洞を揺らした。岩の破片が飛び散り、視界が一瞬白く染まる。
「……効いたのか」
誰かの声が、砂埃の向こうから聞こえた。
視界が晴れると、グロズが片膝をついていた。巨躯の亀裂模様がこれまでよりずっと深く広がっている。
「まさか、権能そのものにぶつけてくるとは」
グロズの声に、初めて驚きの色が混じっていた。
「お前、なんで一撃で怯んだ。防御無視の力なら、俺の一撃くらい余裕で潰せたはずだろ」
ガルドが荒い息のまま問う。グロズはしばらく沈黙したあと、静かに答えた。
「潰す価値を見出せなかっただけだ」
「どういう意味だ」
「お前の一撃には迷いがなかった。守るための一撃と壊すための一撃は、同じ力でも質が違う」
その言葉に、ガルドの表情が大きく揺れた。
「弟を守れなかった夜のことを、思い出しているのか」
グロズの問いに、ガルドは目を見開いた。
「なぜ、それを」
「俺にも、かつて似た夜があった。それだけだ」
グロズはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。まだ戦意は失っていない。だがその赤い光には、さっきまでとは違うどこか静かな色が宿っていた。
「続きをやろう。今度は、俺も本気で応える」
その言葉と共に、空洞に再び緊張が満ちていく。だがその緊張の質は、戦いが始まったばかりの頃とは明らかに違うものになっていた。
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