第40話 崩れる前の、最後の相談
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第40話 崩れる前の、最後の相談
破砕音は、日が暮れる頃には完全に止んでいた。部隊は廃坑から少し離れた岩陰に野営地を構え、翌日の作戦会議に備えることになった。
「本体との接触は、まだなしか」
部隊長が地図を睨みながら呟く。
「ただの威嚇か、それとも別の理由があるのか。判断がつかん」
「イチさん、どう思いますか」
ヒカリが尋ねる。俺はしばらく考えてから答えた。
「威嚇にしては、音の間隔が不規則すぎる。何か作業をしてる音、って感じがした」
「作業、とは」
「分からない。ただの勘だ」
部隊長は顎に手を当てて唸った。
「明日、廃坑への突入を予定している。索敵・対幻術班は、フィーネ殿とイチ殿を中心に前方警戒。戦闘班は、ヒカリ殿とガルド殿を主力とする」
「クレアは」
ガルドが尋ねると、部隊長は頷いた。
「クレア殿は後方支援。今回は負傷者が多く出る可能性が高い。治癒班全体の指揮も頼みたい」
「分かりました」
クレアが緊張の面持ちで頷いた。
作戦の詳細を詰めたあと、五人だけで焚き火を囲む時間が持たれた。
「破砕、って力、本当に防げないのか」
ガルドが不安げに漏らす。
「文献上はそうなってます。ただ」
フィーネが計算板を取り出す。
「防御を無視する、というのはあくまで物理的・魔法的な防壁の話です。距離を取るという選択肢自体は、まだ残っています」
「距離を取りながら戦う、ってことか」
「はい。接触しないことが、唯一の防御策になります」
その説明に、ガルドが渋い顔をした。
「大剣で距離を取りながら戦うのは、性に合わねえな」
「性に合わなくても、今回はそれしかない」
俺の言葉に、ガルドはしばらく黙り込んでいたが、やがて小さく頷いた。
「分かった。お前がそう言うなら、従う」
「フィーネ、探知の届く範囲は」
「今のところ五十メートル前後です。グロズの権能の範囲がそれ以上だった場合、探知より先に効果が及ぶ可能性があります」
その言葉に、場の空気が一段と引き締まった。
「イチさんの勘は、届く範囲、あるんですか」
ヒカリが尋ねる。
「分からない。今までの相手とは、質が違いすぎる」
正直にそう答えると、ヒカリは少し不安げな顔をした。
「でも」
俺は続けた。
「型がなくても、その場で見つけろって、お前が言ってくれただろ。それを信じるしかない」
その言葉に、ヒカリの表情がわずかに和らいだ。
「そうですね。イチさんなら、たぶん」
「たぶん、じゃ心許ないな」
「たぶんで十分です。今まで、それで乗り越えてきましたから」
その軽口に、緊張の糸が少しだけ緩んだ。
「クレア、無理するなよ。後方支援は、後方支援らしく、慎重にな」
「はい。皆さんのことも、しっかり見てます」
クレアがそう言って、力強く頷いた。半年前の不安げな彼女とは、もう別人のようだった。
夜も更けた頃、俺は一人でガルドのもとを訪ねた。
「明日、本当に大丈夫か」
「大丈夫かって聞かれると、正直分からん」
ガルドは大剣の手入れをしながら、静かに答えた。
「ただ、もう逃げるつもりはない。弟の分も、これから守るもんの分も全部背負って立つ」
その言葉には、迷いのない強さがあった。
「お前が背負ってる分、俺も一緒に見てる。一人で抱え込むな」
「分かってる。今のお前に言われると、説得力があるな」
ガルドは小さく笑って、大剣を鞘に戻した。
「明日、頼りにしてるぞ、索敵担当」
「言われなくても、やる」
焚き火が小さくなっていく中、俺たちはそれぞれの持ち場に戻っていった。廃坑の奥から、また断続的に、鈍い破砕音が聞こえ始めている。崩れる前の最後の静けさの中で、五人はそれぞれの覚悟を、静かに固めていた。
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