第34話 王都で、勇者は一人で立つ
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第34話 王都で、勇者は一人で立つ
王都からの第一報は、謁見から二日後、伝令の手によって届いた。ギルドマスターの部屋に呼ばれた俺たちは、公式記録の写しを前に並んで座った。
「討伐の功労者として、ヒカリ殿が国王陛下に謁見。勲章の授与と、次なる討伐への支援を約束された、とある」
ギルドマスターが淡々と読み上げていく。俺はその文面を、少し離れた場所から目で追っていた。
「ヒカリさん、ちゃんと堂々としてたんですね」
クレアが安堵したように言う。
「当たり前だろ、あいつは」
ガルドが胸を張って答えた。
記録の最後の一段落に、俺は思わず目を止めた。
「――功労者はヒカリ一人にあらず。魔法使い、戦士、聖職者に加え、支援を担う『イチ』なる者の観察と判断が、討伐の要であったと勇者本人より証言あり」
「イチさん、名前出てますよ」
フィーネが淡々とその一文を指差す。
「なんでそんなこと」
「王が直接尋ねたそうです。当たり前のことを言っただけだ、とヒカリさんは答えたと、記録係の追記にあります」
名前が公の記録に残る。これまでずっと避けてきたことが、俺の知らないところで、あいつの一言によって現実になっていた。不思議と、嫌な気分ではなかった。むしろ、何か重たいものが少しだけ軽くなったような感覚があった。
王都からの記録に加え、数日遅れてヒカリ自身からの手紙も届いた。几帳面とは言えない字で、便箋にびっしりと書き込まれている。
「謁見が終わったあと、変な男に声をかけられました。イチさんに以前挨拶したという人でした」
手紙の一節に、俺は目を止めた。
「イチさんは正当な評価を受けるべきだ、みたいなことを言われて、余計なお世話だと言い返してやりました。イチさんに近づくなら、まず私を通してください、と言ったら黙って帰っていきました。少し胸がすっとしました」
その文面を読みながら、俺は何とも言えない感情に包まれた。あいつが俺の知らない場所で、俺のために戦っていたことに対する感謝と、それを一人で背負わせてしまったことに対する申し訳なさが、同時に胸を締めつけた。
「あの男、王都にも現れたのか」
「みたいですね」
フィーネが手紙の写しに目を通しながら、表情を険しくした。
「イチさんだけでなく、ヒカリさんにも接触してきた、ということです。この街だけの相手ではないのかもしれません」
「厄介だな」
ガルドが低く唸った。
「弟の墓参りの話はしばらく後にした方がよさそうだ。まずは、その男の動きを見極める方が先だろう」
「すみません、俺のことで」
「謝るな。お前のせいじゃない」
ガルドの言葉に、俺は少し救われた気がした。
手紙の最後の一文に、俺はもう一度目を通した。
「王都は綺麗な場所でしたが、やっぱり早くあの街に帰りたいです。空いた一席、そろそろ本物にしたいので」
その一文を読んで、俺は思わず笑った。半年前なら、こんな言葉に何を感じればいいのか、うまく分からなかっただろう。今は、素直に嬉しいと思える自分がいた。
「イチさん、なに笑ってるんですか」
クレアが不思議そうに覗き込んでくる。
「別に。ヒカリが、早く帰りたいって書いてただけだ」
「良かったですね」
クレアの言葉に、俺は小さく頷いた。
窓の外、王都へ続く街道の方角を見やる。手紙の中の彼女は、遠い場所でも変わらず、自分の言葉で立っていた。名前を公の場に出すことも、余計な手出しを拒むことも、全部、彼女自身の判断でやってのけていた。
空いた一席が本物になる日は、もうそう遠くないはずだった。だが同時に、王都にまで及んだあの男の影のことを思うと、素直に喜んでばかりもいられない気がした。何かが少しずつ、俺たちの日常の輪郭に近づいてきている。その気配だけは、確かなものとして胸に残っていた。
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