↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベッタベタな異世界転生をしたあいつと同じパーティーにいるハズレ転生者の俺  作者: あさひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/64

第11話 気まずさの正体は、まだ名前がない

お読みいただきありがとうございます。

第11話 気まずさの正体は、まだ名前がない


 隣町からの帰路は、行きよりも会話が少なかった。


 誰かが不機嫌なわけではない。ガルドは相変わらず討伐の手応えを語り、クレアはヒカリと並んで歩いている。ただ俺とヒカリの間にだけ、薄い膜のようなものが張っていた。


「イチさん、これどうぞ」


 休憩の合間、ヒカリが水筒を差し出してきた。仕草はいつも通りだったが、目が合う時間がいつもより短い。


「ああ、悪い」


 受け取るときに指先が触れて、ヒカリがわずかに手を引いた。俺もそれに合わせて少し早く水筒を持ち直した。二人とも何事もなかったふりをするのがうまくなっていた。


 街に戻ってからも、その膜はなくならなかった。パーティーで集まる場面では普段どおりに振る舞えるのに、二人きりになると途端に言葉数が減る。あの夜、煙のせいで消えてしまった続きの言葉が、まだどこかに引っかかったままだった。


「今日の依頼、俺は先に戻るわ」


 ギルドでの解散のとき、俺はそう言って早々に列を離れた。ヒカリは何か言いたそうな顔をしたが、結局「お疲れ様です」とだけ返してきた。


 宿までの帰り道、俺は自分の歩調がやけに速いことに気づいた。急ぐ理由なんてどこにもないのに、まるで何かから逃げるような足取りだった。


 あの夜、ヒカリが何を言おうとしていたのか。考えないようにしてきたが、考えないでいられるほど器用な頭は持ち合わせていなかった。もし続きを聞いていたら、俺はどう答えていたのか。その想像すら、うまく形にならない。


 翌日、依頼のない一日になった。何をするでもなく資料室に顔を出すと、フィーネが先に来ていた。


「今日は静かですね」


「みたいだな」


「イチさんとヒカリさん、何かありましたか」


 単刀直入すぎる質問に、俺は答えに詰まった。


「別に何も」


「そうですか」


 フィーネはそれ以上追及せず、手元の本に視線を戻した。だが、しばらくしてから独り言のように付け加えた。


「二人とも、いつもより言葉数が少ない気がします。原因は分かりませんが」


 その観察の的確さに、俺は内心で舌を巻いた。この女は、感情ではなく振る舞いの差分だけで変化を正確に捉えてくる。ヒカリの好意には気づかないふりを貫いている俺だが、フィーネの観察眼だけは誤魔化しきれる気がしなかった。


「気まずいことでもあったんですか」


「気まずい、っていうか」


 言いかけて、俺は言葉を探した。ちょうどいい言い方が見つからない。


「なんて言うか、途中で切れた話の続きが、まだどこにも着地してない、みたいな感じだよ」


 自分でも要領を得ない説明だと思ったが、フィーネは静かに頷いた。


「着地しないまま置いておくのが、一番厄介です。式でも、途中で止めた計算式ほど、後から見返すのが億劫になります」


「お前、それ本当に人間関係の話として言ってるのか」


「同じ構造だと思っただけです」


 フィーネは眼鏡の位置を直しながら、こちらを見ずに言った。


「イチさんが答えを出せないなら、放っておけばいいと思います。ただ、放っておいた式は、いつか誰かが勝手に解いてしまうこともあります」


 それが忠告なのか、単なる観察の共有なのか、判断がつかなかった。だが、その一言は思っていたより深く胸に残った。誰かが勝手に解いてしまう、という言い方が、やけに具体的な響きを持って耳の奥に残った。


 窓の外では、街の喧騒がいつも通りに続いている。俺だけが、まだどこにも着地できないまま、その日を持ち越していた。


お読みいただきありがとうございます。続きも楽しんでいただければ嬉しいです。


ブックマーク・評価・感想をいただけると、今後の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。