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震える剣と、踏み出せない僕 その6

 その日の夜、カイルは作業机の前に座っていた。目の前には、分解された古い魔導カメラ。

 リーナから預かった、あのカメラだった。

 (……思ったより、古いな……)

 慎重に外装を外し、内部構造を覗き込む。魔力導線、制御板、記録結晶。どれも今ではほとんど見ない型だった。

 (設計図……あるわけないか)

 魔導ネットで検索するが型番、製造年、メーカー名。表示されたのは古い販売情報ばかりだった。

 設計図や内部構造の資料は一つも出てこない。

 カイルは静かに息を吐いた。

 「……それなら」

 机の引き出しから紙とペンを取り出す。

 「自分で作るしかない」


 まずは、慎重に分解した部品を机の上に並べた。魔力導線、制御板、記録結晶、外装、固定具。それぞれの位置を確認しながら、一つずつ紙に書き写していく。

 どこから魔力が流れ、どこで制御され、どこで映像が記録されるのか。導線の流れを指でなぞりながら、小さく呟く。

 「ここが魔力入力……この結晶が記録媒体……」

 紙の上に、少しずつ構造が形になっていく。

 導線の位置、結晶の配置、制御板の回路。

 一つでも間違えれば、魔力は正常に流れない。カイルは慎重に部品の寸法を測り、図面に書き込んでいった。

 やがて、紙の上には、古い魔導カメラの内部構造が、少しずつ再現されていった。

 「……よし」

 カイルはペンを置く。目の前には、自分で描いた設計図。

 「これなら……直せる」

 カイルは机の上に並べた部品を、もう一度見渡した。

 古い魔導カメラの内部構造。魔力導線、制御板、記録結晶、魔導レンズ。どれも今ではほとんど見ない型だった。

 「……よし」

 小さく呟く。


 まずは一つずつ、部品の状態を確認する。導線はところどころ劣化している。制御板の魔力回路も微妙に歪んでいた。記録結晶も魔力の通りが弱い。

 だが、壊れてはいない。

 「直せる……」

 カイルは設計図に書き込みを加えた。

 不足している部品、交換が必要な導線、調整すべき回路。

 ふと顔を上げる。

 寮の作業室の窓の外には、学園の訓練場が見えた。

 夕暮れの訓練場。そこではリオンとハルトが、いつものように特訓をしていた。

 リオンが淡々と指示を出し、ハルトが必死に剣を振るう。

 「はぁっ……!」

 何度も転び、何度も立ち上がる。

 その横では、セラフが腕を組んで見ていた。

 そして、逃げようとした瞬間、ぱしん、と鞭の音が響く。

 「ぎゃあああ!」

 ハルトの悲鳴が聞こえた。

 思わずカイルは苦笑する。

 (……相変わらずだな……)

 渋々、また剣を構える。

 文句を言いながらも、確実に強くなっていると思う。

 カイルは窓の外をしばらく見つめた。

 (……ハルトくんも頑張ってるんだな)

 小さく息を吐く。そして机の上のカメラへ視線を戻した。

 (……僕も、頑張らないと)

 カイルは再び工具を手に取った。


 翌日、授業が終わるとカイルは裏路地へ向かった。

 「ハグナーさん!この規格の導線ありませんか?」

 露店の主人が顔を上げる。

 「おや坊ちゃん、また珍しいものを探してるな」

 「古い魔導カメラの修理なんです」

 「そんな骨董品、まだ使う奴いるのか」

 棚を漁る。

 「……ほらよ。解体品だが使えるだろ」

 「ありがとうございます!」

 別の店に行く。

 「グラントさん、このサイズの記録結晶ありますか?」

 老人は箱を開けた。

 「試作品ならあるがの」

 「それで大丈夫です!」

 そうしてカイルは部品を集めていった。

 夜、寮の部屋。机の上には部品と設計図。作業が始まる。導線を交換する。制御板を削り直す。魔力回路を調整する。魔力を流す。

 ――ブツッ

 「……だめか」

 また分解する。微調整。再び魔力を流す。夜は静かに更けていった。


 二日目。

 カイルの目の下には薄く隈ができていた。それでも手は止まらない。

 (父上は言ってたな……)

 ふと、昔の言葉を思い出す。

 ――そんな細工遊びに時間を使うな。

 まだ幼い頃、魔道具を分解して怒られた時のことだった。

 机の上に並べた部品を見て、父は深くため息をついた。

 ――そんなものをいじる暇があるなら、剣を振れ。

 ――魔法の鍛錬をしろ。

 ――お前はベルネス家の跡取りなんだぞ。

 低く厳しい声だった。

 ――領地は小さい。下級貴族だ。だが我が一族は、魔契戦争にも参戦し、王国のために戦った誇り高い家だ。

 ――その名に恥じない騎士になれ。

 ――そんな細工に夢中になっている暇はない。

 そんな言葉の数々を、今でも覚えている。

 カイルは少しだけ笑った。

 「……そうかもししれません」

 記録結晶を固定する。導線を繋ぐ。ぽつりと呟く。

 「でも、父上、これは確かに、国のためとか……そんな大きなことじゃないかもしれない」

 工具を握る手に、少し力が入る。

「でも、僕の好きな人が、大事な人が……笑顔になってくれるかもしれない」

 カイルはカメラを見つめた。

 「僕にとっては、意味のあることなんです」

 そして、もう一度工具を手に取った。


 三日目の夜。

 最後の調整を終える。

 カイルはゆっくり魔力を流した。カメラの内部に淡い光が灯る。静かに起動音が鳴った。

 カイルは息を止める。

 シャッターを押す。

 ――ぱしゃり

 軽い音。記録結晶が光る。カイルは画面を確認する。

 そこには――

 はっきりとした写真が映っていた。

 「……できた」

 力が抜ける。椅子にもたれかかる。三日三晩。ほとんど寝ていない。

 それでもカイルは笑った。

 「……よかった」

 机の上には、直ったカメラ。

 リーナの大切なカメラが、そこにあった。

 

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