34 魂の共生契約
六月八日、その日はついにやって来た。
聖都は提灯と飾り付けで彩られ、祝祭の音楽が最高潮に達していた。
王室は巨費を投じて結婚式を整え、その盛大さで本質の荒唐さを覆い隠そうとしていた。
市民たちは道の両側に押し合い、堂々たる王太子の迎えの儀仗を眺めながらあれこれと噂し、顔には好奇と物見高さが浮かんでいた。
そしてちょうどこの日、さらに天地を揺るがす知らせが、召喚秘境と召喚士協会本部の連名で発表され、特殊な魔法伝訊陣を通じて瞬時に世界の主要勢力へ伝えられた。
――公告はこう宣言した。
召喚秘境の姫アリシアと召喚士協会の少主リオは、八月八日、聖都の星輝聖壇で、協会の至高の聖物「太古契約石」の前にて、正式に平等な「魂の共生契約」を結ぶ!
この契約は、二大勢力の不朽の盟約の証である。われらは共に歩み、召喚獣の福祉向上に努め、召喚士と召喚獣の対等な互助によって、新たな秩序の礎を築くことをここに宣言する――と。
知らせが伝わるや否や、世界は震撼した。
その重厚さと巨大な意義は、王太子の茶番めいた結婚式を一瞬で霞ませ、色褪せたものにしてしまった。
人々の関心は一瞬でそちらへ向かい、聖国の至るところで喜びの涙を流す召喚獣の姿が見られた。
誰もが、協会と秘境の許嫁、そして前代未聞の「魂の共生契約」について熱く語り合った。
聞くところによれば、レオンは自らの盛大な結婚式の最中、何度も上の空になり、視線はしきりに大使館の方へ向かい、顔色も蒼白で、とても花婿とは思えない有り様だったという。
夜が更け、華灯が灯り、王宮の祝宴の余韻がまだ消えないうちに、密報はすでに大使館へ届いていた。
東宮で新婚生活を始めるはずのあの寝室では、激しい争いが爆発したのだ。。
噂によれば、新たな王太子妃リディアは泣き叫びやまず、部屋に並んでいた貴重な調度品を片端から壊し、その喚き声は就寝中の国王陛下と王妃を飛び起きさせるほどだったという。まさに醜態そのものだ、と。
彼女はレオンに向かって凄まじい声で泣き叫んだらしい。
「これは私の望んだ結婚式じゃない!皆が私を嘲笑ってる!あなたは笑顔一つない!まるで死に向かう人みたいに押し殺してる!こんなの、違うはずよ!!」
私は大使館の柔らかなベッドに身を沈め、ミアが活き活きと、少し悪戯っぽく――王宮での大騒動を語るのをただ聞いていた。
ふふ……
口元には冷たく、同情とは無縁の笑みが浮かぶ。
リディア……新婚の夜の味はどう?
あなたが自ら掴み取り、必死に追い求めた“栄光”に噛みつかれる、その味は……どうだった?
あなたのいう“自由”とは、権力争いに飲まれ、自分の意志に反する駒として扱われ、この世界で最も贅沢で、最も冷たい金の鳥籠に閉じ込められ、感情すら思うように扱えない玩具になることだったのかしら?
私は目を閉じ、静かに休みながら、指先でベッドの縁を軽く叩いた。
次に会う機会がもしあるのなら――
そのとき、どうすればより優雅に、彼女の生々しい傷口へ、もうひとつまみ塩を擦り込めるか。私はすでに考え始めている。
彼女に悟らせてあげるつもりだ。
彼女が責任を放り捨て、全てを裏切って手にした「自由」とやらは、最初から鏡の中の花、水面の月――掴めば砕け散る、儚い泡にすぎなかったのだと。
翌朝、夜が明けきる前に、怒り心頭の母妃が私の部屋へ押し入り、機関銃のようにまくし立ててきた。
「アリシア! あの忌々しいやつめ!レオンが……なんと昨夜、私たちの大使館の結界の外で、幽霊みたいに一晩中張り込んでいたらしいのよ!」
彼は後悔しているの?
それとも嫉妬?
それとも、ただの負けず嫌い?
今や聖都中に知れ渡っているらしく、さまざまな噂が飛び交っている。
「王太子は常識外れで、新婚の夜に正妃を放り出し、元婚約者の門前で夜通し張り込みしていた。これは皇室のスキャンダルだ」と言う者もいれば、
「リディアは結局男を惑わすだけで、場違いで心を繋ぎ止められない」と言う者も。
さらに悪意ある推測まで飛び出し、
「アリシアは計算高く、二股をかけるつもりで、わざと彼らの結婚式と同じ日に婚約を発表し、王太子を後悔させリディアを苦しめようとしたのだ」
とまで言われている……。
レオン一人のせいで、私たち召喚秘境がようやく協会と築き上げた同盟の評判までも、色恋沙汰という不名誉な影に覆われてしまった。
あの……馬鹿……!
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