20 ほんとに、俺のこと覚えてないの?
見合いの日は、聖都でもっとも魔力が濃く、もっとも名高い「星落ノ地」で行われることになった。
雲の上に浮かぶその場所からは、聖都の街並みが一望でき、夜空の星は手が届きそうなほど近い。
古くから恋人たちの縁結びの地として知られ、見合いの定番の場所でもあった。
リオは約束の時間ぴったりに現れた。
彼が身にまとうのは、協会の正統な血筋のみが許される玄色の法服。金の紋様が縁取りされ、裾には秘銀の糸で古の星図が織り込まれている。
一歩進むごとに光が揺らめき、まるで夜空そのものをまとっているかのようだった。
その姿は尊く、神秘的で――見る者が思わず息を呑むほどだ。
彼は気配を完璧に抑えていたものの、時折こぼれるわずかな威圧が、周囲の濃い魔力に波紋を走らせる。
それはまるで、魔法そのものが彼にひれ伏しているかのようだった。
その容貌――母妃の言葉に偽りはなかった。
現実離れした美しさ、整った顔立ちは彫刻のように精緻で、どこか触れることを許さぬ鋭さをまとっている。
特にあの瞳。静かに光を湛えながらも、人の心を透かして覗くような深みがあった。
母妃は終始笑顔を絶やさず、やや誇張気味なほど熱心に、リオを連れて星落ノ地の景観を案内した。
その間彼女も忘れずにいくつか極めて厄介な、召喚本源や契約法則の変遷といった専門的な問いを投げかけ――一見雑談のように見えて、実は考察だった。
リオは落ち着き払って対応し、流れるように答えた。
その見解の鋭さと独特な視点に、母妃の瞳にも思わず真の賞賛がよぎった。
彼の所作は優雅で、言葉遣いも的確。顔には終始、まるで温かな玉のような柔らかな微笑みが浮かんでいた。
すべてが完璧で、まさに非の打ちどころがなかった。
けれど、まさにこの行きすぎた完璧さが、私の警戒心を呼び起こした。
かつて排斥され、魔力が不安定だったという人間が、本当にここまで完璧で隙がないものだろうか?
彼はまるで、外に見せるためだけに描かれた精緻な絵のようだった。
私は理由も分からないまま、胸の奥で衝動がむくむくと湧き上がるのを感じた。
この完璧すぎる仮面を剥がして、その内側にどんな魂が潜んでいるのか――見てみたくなったのだ。
昼食は観星台の露天に設けられた玉台で行われ、眼下には雲海がうねり流れていた。
母妃はしきりに目で合図を送り、私に積極的になるよう促してくる。私は仕方なく、気まずさを抱えながらも礼を失わない笑みを保った。
酒が三巡したころ、母妃が突然「あら!」と声を上げ、わざとらしく額を叩いた。
「もう、私ったら!伝訊晶石を大使館に置いてきちゃったみたいなの!しかも、すぐ連絡しなきゃいけない用事があってね!あなたたち二人でゆっくりしてて。すぐ戻るから!」
そう言うが早いか、私たちの反応も待たずに侍女を連れて足早に立ち去った。その下手な言い訳には思わず呆れた。
飛行船が光の尾を引いて天へと消えた瞬間、観星台の空気ががらりと変わる。
どうこの気まずい見合いを続けようか考えていた私は、対面の視線が変わったことに気づいた。
顔を上げると、ちょうどリオの瞳に射抜かれた。
彼の顔に浮かんでいた、温かく玉のように滑らかで隙のない完璧な笑みは、潮が引くようにすっと消え去り、代わりに現れたのは、深く静まり返った、どこか戯れと鋭さを含んだ視線だった。
眉間に宿っていた優しさは跡形もなく消え、残ったのは翠の氷泉のような冷たさだけ。
彼の全身にまとわれていた気配も、静かに、しかし確実に変わっていった。
彼から放たれたのは、どこか疎遠で圧倒的な気配。
その瞬間、私たちの間には、形はなくとも確かに存在する深い溝が刻まれた。
胸の奥がかすかに沈む。
やはり、彼は演じていたのだ。
これが、彼の本当の姿……?
彼は軽く椅子の背にもたれかかった。
それだけの何気ない仕草なのに、空気ごと掌の中に収めるような圧迫感があった。
彼は指先で白玉の卓面を軽く叩き、視線を私に固定した。
そこには隠しきれない探るような色と……なぜか、私の胸に奇妙な懐かしさを呼び起こす何かがあった。
「ねえ、君――」
彼が口を開いた。その声はさっきより少し低く、どこか奇妙な磁力を帯びていた。
「ほんとに、俺のこと……なんにも覚えてないの?」
えっ――!?
思わず息が止まった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
評価を頂けるととても嬉しいです!




