19 召喚士協会本部からの助け――我が子息を一人“貸そう”
レオンはまるで私の存在など初めからなかったかのように、相変わらず毎日リディアを連れては、さまざまな宴会に顔を出し、遊び歩きながら楽しげに笑っていた。
「なあ、聞いたか? あの和議の姫、まだ大使館で待ってるらしいぜ?」
「誰を待つって? 王室が『いらない』って言った女を、誰がわざわざ欲しがるかよ! 冗談だろ!」
「チッ……ほんと、可哀想だな。あれほど輝いてたのに、今じゃ見る影もねぇ……」
そんな嘲笑の声は、毒針のように街の隅々まで浸透していった。
母妃は怒りに任せて大使館の中でティーカップを投げつけ、虚空に向かって遠い秘境にいる父王を罵った。
「娘のために権益ひとつ守れぬとは、無能もいいところだ」と。
その頃、秘境の父王もまた、同じように対応に追われていた。
だが、私が契約を断ち切ってから三十六日目。非常に珍しく貴重な秘法を受け取った。
それは、遠く無限海の彼方――聖国王室すらも礼を尽くす、超然たる召喚士協会本部からのものだった。
協会の総会長は父王に告げた――
「昔の縁に免じて、我が子息を一人“貸そう”。聖都へ赴かせ、姫君と“見合い”をさせよう。たとえ形ばかりでも、姫の顔を立て、嘲笑の的にさせぬように」と。
昔の縁?
何の縁だ?白羊一族の中に、協会本部の人間と面識のある者など一人もいないはずなのに。
「もしかすると……聖国王室の横暴への反発、かしら?」
母妃は少し嬉しそうに言った。
そして私は、戦場でいつも届いていた、あの迅速で確かな補給の箱々を思い出した。 一体、誰が?
いずれにせよ、協会本部からのこの不可解な“見合い”の申し出は、結果的に私を救うことになったのだ。
やがて現れた青年は、リオと名乗った。協会総会長の唯一の嫡子にして、次期後継者の筆頭と目される存在だった。
噂では、彼は天賦の才に恵まれ、太古より続く強大な召喚士の血脈を受け継いでいるという。
実力は計り知れず、若くしてすでに協会の核心決定に関わっているらしい。
だがその強大すぎる血脈の力ゆえに、時折その反動が現れ、状態が不安定になることもあるという。
かつては協会内部の守旧派から「危険因子」と烙印を押され、密かに排斥されていた過去もある。
母妃はその知らせを聞くや否や、顔を喜びで輝かせ、リオを天にも地にもないほど褒めちぎった。
「アリシア!知らないでしょう?
母妃が聞いた話よ、リオという子はまさに万里に一人の逸材!気品は優雅そのもの、学識は海のように広く深く、魔法の腕前はまさに底が知れないの!でもね、一番素晴らしいのは、」
彼女は声をひそめ、目をきらきらさせながら続けた。
「あの子の生まれつきの美貌ときたら、絶世の美男子!
聞いた話じゃ、秘境で美貌に名高い九尾狐族の若様でさえ、彼を見て自らを恥じ入り、数日も泣き暮らしたそうよ!協会本部の守旧派が彼を排斥?あいつらはただの節穴連中よ!」
実のところ、そんなことは私にはどうでもよかった。
レオンとのあの徹底した欺瞞と裏切りを経て、私は男女の情愛というものに、すでに心を殺されていたのだ。
その「情愛」という言葉は、私にとっては甘い衣をまとった毒。
その先にあるのは、終わりなき痛みと束縛、そして絶望だけ。
このまったく知らない協会の少主リオに対して、私が抱く期待はただひとつ――
彼の背に宿る、あの尊き立場。召喚士協会、未来の舵を取る者としての名だけだった。
もし協会と許嫁の縁を結べれば、たとえ形式だけの同盟であっても、協会という、聖国の王権とさえ渡り合えるほどの巨大な勢力と影響力を借りられる。
そして何より重要なのは、召喚士協会がこれまで一貫して掲げてきた理念が、まさに召喚士と召喚獣の「平等契約」だということだ。
彼らと良好な関係を築けられれば、私たち召喚獣の一族が地位の向上を目指し、奴隷の鎖を断ち切るその夢は、もはや遥か遠い幻想ではなくなるかもしれない。
そう思えば、胸の奥を刺すように走る契約の反動の痛みでさえ、ほんの少し和らいだ気がした。
これはもはや恋だの縁談だのではない。私ひとりの命運どころか、召喚獣たちの未来そのものを左右する、冷酷な取引だ。
これしかない。
少なくとも、あのときの私は、そう信じていた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
評価を頂けるととても嬉しいです!




