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21 え? あの「もやし」……さん?!

リオの口元に、笑っているようで笑っていない微かな弧が浮かんだ。

まるで答えのヒントを示すように。


「幼い頃、聖国の雪山で道に迷って、凍え死にそうになってたガキがいたろ?

……誰に大使館で拾われたんだっけ?」


思わず、瞳がキュッと縮んだ。


「それから――誰だったか」

彼はゆったりと続けた。その声は、一語一語が私の記憶の鎖を小さな槌で叩くようだった。


「年上だからって理由で、俺を大使館の回廊の隅に追い詰めて、耳をねじって、無理やり『お姉さん』って呼ばせたよな?それに、細い腕と脚を笑って、“伸びきってないもやし”だなんて言ってたっけ?」


「アリシア」

彼はわずかに身を乗り出し、深淵のような瞳で私を捉えた。

そこには隠しきれない戯れと……ごく淡い、同情のような色が浮かんでいた。


「俺のことを忘れるなんて、よくもまぁ言えるな?」


――ドカ――ンッ!!


頭の中が真っ白になった。

ま、まさか……!?

頬が一気に熱くなって心臓が跳ね上がる。


う、嘘でしょ……!?

あの子が、あの「もやし」だったの!?

封印されていた記憶は、決壊した洪水のように一気に押し寄せてきた。


八、九歳の頃、レオンが私を聖国で一番賑やかな建国記念祭に誘ってくれたのに、当日になって火族のお姫様に絡まれて、あっさり約束をすっぽかした。

私は怒り心頭で、一人で聖国の雪峰へ観光に出かけた。


その時、凍死寸前の痩せて小さくて、何を聞いても答えず、赤い目で泣いている人間の男の子に出会ったのだ。

その子はとても整った顔立ちで、可愛くて、どこか可哀そうなその雰囲気に、私は思わず心がほどけてしまい、大使館に連れて帰った……。


あの半年間、レオンを悔しがらせたくて、わざと人前でその少年に優しい笑みを向け、親しげに話しかけていた。

でも誰もいないところでは、無理やり「お姉さん」と呼ばせて、耳をねじって、“ひょろひょろの『もやし』みたい”だって笑っていた……。

太らせようと毎日ご飯を山ほど食べさせていたら、結果、私の顔を見るたび逃げるようになっちゃった。


その後レオンと仲直りして、「あの子どうしてるかな」と思って探した時には、もう大使館を出て行方不明になっていた。

時が経つにつれ、そんな些細な出来事も、あの無口で細っこい少年のことも、すっかり忘れていた。


――誰が想像できただろう!?

当時私にいじめられてた、あのひょろひょろの「もやし」が、

まさか、今や人を圧倒する気迫をまとい、召喚士協会の少主リオになってるなんて!?


この美しい顔に、当時の面影がほんの少し残ってるくらいで、あの弱々しくて哀れだった姿のかけらもないじゃない!

母妃がさっき彼の前で私のことを「物静かで端正、温かくて礼儀正しい」お手本みたいに褒めちぎっていたことを思い出した瞬間、耐えがたいほどの気まずさが押し寄せた。

うわぁぁぁ……気まずい、恥ずかしすぎる! この硬い玉の床に、つま先で完璧な召喚秘境を彫って、そのまま消えたい!(穴があったら入りたい!!)

社会的に死んだ……!

これ、超特大級の社会的死亡現場じゃない!?

ここに長居してたら本気で魂が崩壊する!

撤退、撤退!!


考えるより先に、私は反射的に遁術を展開し、この気まずさMAXの空間から逃げ出そうとした。

――が、身体が動いた瞬間、首元の衣の襟を、整った指先が軽く引っかけた。

力は強くない。けれど、その一瞬に「逃がさない」と言外に告げる圧があった。


リオがゆっくりと顔を近づける。

吐息が、耳のすぐそばを掠め、熱くて、息が詰まりそうになる。


「――お姉さん」

低く甘い声が、まるで蜂蜜みたいにとろけて、同時に底の見えない罠のように危険だった。

「俺が、“行っていい”って、言ったか?」

***

夕暮れ時、空いっぱいの霞が雲海を淡いオレンジ色に染めていた。


リオは流線型の、全身が未知の晶石でできた協会の飛行船を操り、柔らかな星の光を纏うそれで、私を大使館まで送ってくれた。

内部は広く、厚い絨毯が敷かれ、空気には澄んだ香り、雪のあとに漂う冷たい松の匂いがして、まるで彼の高貴で神秘的な気配そのもののようだった。


私は柔らかなシートに座っていたけれど、心地よさとは真逆で、まるで針の上に座っているような気分だった。指先は落ち着かず、服の端を無意識にいじっていた。

目の前の協会の少主――私は彼をまるで読み取れない。

けれど、彼は……私を見抜いていた。かつて彼をいじめていた、「恐ろしいお姉さん」の正体を。


これからどうするつもり?

復讐? 嘲り?

それとも、この見合いの場を利用して、さらなる駆け引きを仕掛けるつもり……?


母妃のあの「優しくて礼儀正しい」という褒め言葉が頭をよぎり、全身が再び熱くなる。

彼の目には、私は表面だけ取り繕った、黒歴史満載の哀れな女にしか見えないのかもしれない。


窓の外に、大使館の見慣れた結界の光が近づいてくるのが見えた瞬間、私は限界だった。

一秒でも早くこの息苦しい空間から逃げ出して、自分の部屋に引きこもりたかった。


……けれど。

飛行船がゆっくりと降下し、あと少しで停止する――そのとき。


リオの腕が、ふいに伸びた。

自然な動作のようでいて、確かな意志を宿して。

その手が、私の腰をそっと抱き寄せ、次の瞬間、私は彼の胸の中にいた。


「わっ……!?」


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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