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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】Epilog:六日後のBR19
299/302

【a5d:a6d】-[4]-(1)



 となると、「やるべきこと」が様々出てくる。

「オリバー君、ヤム君とベリー君と共に装備の準備を始めてくれ。ただし、銃器の弾薬は抜いて、〝ベルト〟は無しだ。済まないが、シドの分も揃えておいてくれるか、彼には私と共に、会見の映像をある程度見ておいて貰うから、その間に――」

 畏まりました、と敬礼を見せてオリバー、ヤム、ベリーの三名が去る。

 カユーが不思議そうに、

「私も、会見を? 『今』ですか」

「ああ。君はサヴァナの隊長殿と連携するのだから、今のうちに『情勢』の把握もしておいたほうが良いだろう。時間は余り無いが、ヤム君達の準備が終わるまで、ジン殿が向こうに話を通してくれるまで、くらいは――ジン殿、カユーにも後で『文字起こし』した分を渡して貰えますか」

「畏まりました。では、映写機の使い方をお伝えしますね」

 イーヴィとシドの両名に、ボタンやレバー、ダイヤルを指しながらジンがすらすらと用途を告げる。

「ご質問は――ございませんか。では、私は、筆頭(たけよし)に経緯を報告して、サヴァナ(あちら)の警備隊長に話を通してきます。――サヴァナに向かうための〝(あし)〟やルートは、こちらで都合して構いませんか?」

「ええ、お願いします」

「では」

 互いに敬礼を見せ合い、ジンは集会所を足早に出て行った。


 この二人だけになれば、席の序列は考えなくても良い。

 映写機の操作をしやすい場所に移動し、記者会見の映像を再生させる。

 余り時間は無いので、「字幕」を出しながら何を云っているのかは聞き取れる程度の「早回し」にした。

 〝官房長官〟が司会者役になり、主に〝左大臣〟と〝後宮侍従長〟が説明と質問への回答を担う。――どれも壮年~老年くらいの男性だが、飢えた鯉に餌を撒いたようにぱくぱく動く口に、滑稽な高音が重なる。

 ――カユーが、オリバーに準備を任せたことを気の毒がっているのか、たまに集会所の出口を気にするので、イーヴィは

「実のところ、君に話したいこともあったのでね」

 画面に顔を向けたまま云った。    

 カユーはイーヴィの横顔を戸惑いの表情で見つめた後、彼と同じように壁へ視線を戻した。イーヴィの「話」に集中すべく、耳はそちらを意識し、目は字幕をぼんやりと追う。

「カユー。サヴァナには、軍で階級が上の私が、君に命令する形で『隊を派遣』することになるわけだが――チォ君との再会も果たした後に、君の『信仰』が、サヴァナを『宜』と思うなら、そのまま滞在しても構わない」

「――はっ?」

「それを云っておきたかったんだ。ヤム君とベリー君にも、確認しといてくれ。そのままソゥパ君と共に滞在し続けても構わないし、サヴァナからも離れ、全く知らない土地へ旅立つのも自由だ――それは、昨夜云った通りのままだ、と。――つまり、君を隊長にした小隊に、帰還の義務と期限は設けない、ということだ」

「イヴ様、何を仰るのです――いや、ヤム君達は、貴方から既に『亡命』を許されているのですから、念押しとして伝言いたしますけども……私は、捜索・救出の作戦に一区切りがつけば、必ず戻って参ります」

「……。実際に〝川〟を渡った後、その意思が覆っても、構わない、と云ってるんだよ」

 イーヴィには「その意思が覆る」未来が見えているかのように、淡々とした声で云うので、カユーは微かに苛立ちを感じ、眉を寄せた。

「君に『亡命』の意思は無いと云ったが、(イー・ル)に居るよりも、君が〝神〟に正直に、魂を解放できると思うならば」

「イヴ様っ」

 カユーが声を出し、映写機に手を伸ばして映像を止めた。――取り敢えず、「皇太后が死んだことは事実」「前線に出ている国王が城に戻る」「国王には〝停戦〟の考えがある」それが確認出来たのだから充分だ、「文字起こし」した書類を確認すれば良い――〈同盟国〉(エグメリーク)の事情より、〝導師長〟の真意を知る方が()()()()大事だ。

 イーヴィは、おや、と目を見開いた後、カユーに顔を向けた。――彼の表情は、真剣だ。ただ「苛立ち」に身を委ねた訳ではないことが伝わる。イーヴィも、エグメリークとカユーを秤に掛けるなら、カユーの方が重いと分かっているので、映写機に手を伸ばしはせず、卓の上で手を組んで、彼と目を合わせた。

「イヴ様、イヴ様は、本国(イー・ル)()()()つもりがないのでしょう。この戦を終え、再びイー・ルを〝神の座〟に相応しい国へ還すことを、望んでおいででしょう。ならば、私はその時、イヴ様の傍らに居りたいのです。以前のように、貴方の部下として、貴方の補佐を務めたいのです。どんなに時間が掛かっても、私とて、()()()()()()〝神〟に正直であり、魂を自由で居させたいのです」

 旧友(チォ)は、「土地」「国家」の意味でイー・ルに背を向けた。己の心に〝神〟〝経典(神の声)〟があり、それに正直でさえあれば、何処に居ようが其処が祖国だ。それは正しい――責める気は無い。

 しかし、カユーにとっては、「あの土地」に「民」が暮らし「〝神〟がおわす」、それが「祖国」だ。中央政庁にあってイーヴィの部下であったカユーにとっては、それが「〝神〟に正直」で居る()()()だった。尊敬する導師長(イーヴィ)の傍らで、「国を治める」それが己の役割だと――。

 それをイーヴィから「否定」されてしまったようで、カユーは苛立ちと悲哀を感じてしまった――彼の声には、嘆きと焦りが混じっていた。

 イーヴィがそんなカユーへ微笑を見せ、緩く首を振った。

「シド、私の言葉を誤解しているようだね。――いや、私の云い方が悪かったのか……」

「え?」

「私は、君に気を遣ったというか……そういう『感傷的』な意味だけで、君に『サヴァナに居ても良い』と云った訳じゃないんだよ」

 イーヴィの表情が苦笑に変わり、カユーの表情は困惑に変わった。

「……では、どういう意味でしょうか?」

「私の方に、君に『サヴァナに居てほしい』理由があるんだ」

「――え?」

 カユーが、意外なことを云われて目を見開く。

「シド。『我々と同様に本国から見放された兵』を、サヴァナの側から『救出』したとして、それで終わりではないだろう」

「――」

「負傷・衰弱した兵ならば、一旦サヴァナの側へ『収容』して貰うことになる。比較的健康な者なら、此処(BR19)へ連れて来る手もあるが、――君のように、この状況をすんなり受け入れられる者ばかりとは限らないから、監視を付ける必要が出てくる。が、そんなことに人員を割くことも今は出来ない、結局、サヴァナ(〝川〟向こう)で『軟禁』なりして貰わなくてはならない……、どちらにせよ、兵にとって『不本意な救出』になるのだ。そんな救出の『その後』を『しばらく預かってて下さい』でサヴァナに任せておくことは出来ぬだろう?」

「え、ええ……」

「それに……、――シド、君、私が起きてくるまでの間に、ライズ君やジン殿とも言葉を交わしていたようだが、布陣の南端で移動している〝隊列〟(キャラバン)のことは聞いたかね?」

 イーヴィが一度言葉を探すように小首を傾げてから、カユーに尋ねた。いきなり突拍子も無い話になったので、カユーは「は?」と声を出し、きょとんとしている。

「ああ、それは聞いてないのか――」

 それでイーヴィは、カユーが籠もっていたトーチカの情報とほぼ同時にジンへ報告された、西進している集団のことを話した。

 カユーの表情が、再び困惑に変わる。

「それがもし、我々の推測通り、〝デカサ・ボゥ地区〟等からの亡命者(一般市民)だとしたら、『悪しからず』とタケヨシ殿には云ってある。実際、サヴァナ(あちら)では丁重に扱って下さるだろう。――だが、あちらには、〝導師〟がお一人しか居ないんだ」

「……」

「チォ君、リモ君、ソゥパ君については、その御方が対応してくれると、迎えに来てくれたナースの〝サリーさん〟が約束してくれた。――しかし、『キャラバン』の方は……、サヴァナ(あちら)が『対処してくれる』だろうからこそ、問題の種になる可能性もある」

 イーヴィの目つきが、険しくなる。

「二十人前後の『一般市民』が、都近辺から〝川〟近くまで隊列を組んで来るなど、――いくら脱走兵の先導があったとしても、可能だと思うか、シド」

 カユーも眉を寄せ、悩ましげに首を捻った。

「人数そのものじゃなく、『割合』で考えたら、『可能性はゼロ』とは云えませんけども……」

「まあ、そうだな。千人中二十人が命からがら、というのなら、分からんこともない。が、二十人が出発時からそのまま、とは、到底あり得ない。百人中二十人でも、『まさか』と思うところだ。――()()()()()()()()()()()()()()()

「――」

「そんな西進が可能なくらいに、布陣が混乱、あるいは弱体化している――のならば、今後、『亡命』どころじゃない、『難民』が生じることだって考えられる」

 イーヴィが「ふぅ…」と息を吐き、腕を組んだ。

「一般市民だとしても、サヴァナから見れば敵国民だ。イー・ル民からすれば、敵地。両者共に『一時的な避難』と思っているとしても、それぞれの『文化基盤(スタイル)』を持った『生活』が混じり合う――イー・ル民の『文化基盤』は〝神〟に作られたものであるから、〝導師〟の存在が不可欠となる訳だが……、〝()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()慈悲深い導師(おかた)一人に、対応して貰うことなど、不可能だろう」

「それは……はい…」

 そんな慈悲深い方だからこそ、()()の〝信徒〟に()()()()()()、接しようとするはず――()()、「不可能」なのだ。

「ともすると、そのせいで、〝サリーさん〟のような〝同胞〟と『信仰を持たない人』『他信仰を持つ人』との間に亀裂を生み、サヴァナ内の混乱・衝突を招く原因にもなりかねない――それは巡り巡って、結局は『イー・ルの()()』だ。私は、それを()()()()()()

「……はい…」

 カユーが神妙な顔をして頷き、イーヴィは、凜とした視線を彼に向けた。

「――だから、君に、『帰還の期限は設けない』と私は云うのだ、シド」

「……」

「その『二十人』だけなら、まだ何とかなるかもしれないが、私は、それで終わらない可能性の方を重視する。本来ならイー・ル民の方がサヴァナに『馴染む』努力をするべきだが、残念ながら、イー・ル()の『我の強さ(プライド)』はそれをさせない。ましてや、『脱走兵』『不本意な救出をされた兵』など混じっていては、尚のことだ。――だから、この場合、サヴァナの民とイー・ル民との間には、()()()()()()()()()おいた方が良いと思う。『コロニー』を作り、イー・ル民はイー・ル民としてのコミュニティを維持する。それも、あくまで『非常時の緊急措置』という前提のもと、謙虚な意識を持って、だ。イー・ル民の中に、『平原(サヴァナ)への植民』などという傲慢な意識が決して生まれないようにしながら」

 カユーの表情も困惑が消え、引き締まった。

「つまり、――『隊』のスムーズな連携のため『イー・ル側の士官』が居た方が良いように、イー・ルの『民』を束ねるためには『イー・ル側の導師』が必要だと……」

「そうだ。本来なら、私がその役を担いたいくらいだが、私はこの砦(BR19)から離れられない。――君ならば、教導省(中央政庁)()()()()()()()()()()()()、『治める』術も知っている。これは、君だからこそ頼める――オリバー君では無理だ」

 イーヴィの言葉に、カユーはこっくりと大きく頷き、泣きそうな笑顔を浮かべて、思わず〝導師長〟の両手を取った。

「ならば、そう仰ってくれれば……イヴ様! 『隊長』の任よりも余程、私にとって光栄、〝魂〟を自由にする役目にございます――」

 イーヴィの手を握りしめ、頭を垂れて額に押しつける。


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