【a5d:a6d】-[3]-(2)
「砦を死守するつもりで居るなら、サヴァナの御方が接近しただけで攻撃することもあるでしょうし、我々のように体力を失った状態であれば自決する可能性も否めません。それが『救助』だと判明したとしても、だからこそ、絶望に襲われて自決――そんな可能性も」
オリバーが一瞬、辛そうに眉を寄せたが、直ぐに気を取り直して続けた。
「それを避けるため、実働隊にイー・ル兵が居ることは、――『悪くない』というより『望ましい』ことだと思われました。対象が頑なに閉じ籠もっている場合でも、イー・ル兵であれば、『暗号』で〝呼び鈴〟越しにコミュニケーションが取れますので、対象を『油断』――と云っては聞こえが悪いですが、態度を軟化させて交渉することは出来るでしょう。少なくとも、『交戦』の可能性だけはかなり減らせるのではないかと」
「成る程」
再びジンが頷く。イーヴィも、「うむ…」と小さく唸った。
「それは、確かに――無用な犠牲を避けるために、必要なこと、とまで云って良いかもしれない…」
「はい。――ですが、単にヤムとベリーが〝川〟を渡り、そちらの警備隊や諜報隊に編入するだけでは、それも『作戦の遂行』に差し障りがあると思われました。――ヤムとベリー、ソゥパも望むとすれば彼を含む三名は、あちら側の――警備隊長殿で宜しいのでしょうか、その配下に入る実働隊員ということになります」
ジンに確認するような視線を向けながらオリバーが云うと、ジンは「そうなるでしょうね」と頷いた。
「ヤム達三名は、サヴァナの命令体系や暗号、通信規則等も知らない『新参兵』であるにも関わらず、作戦の軸、重要なファクターとして振る舞わなくてはなりません。それは、指揮系統の混乱や停滞、隊内での軋轢や衝突の原因となる恐れもあるのではないでしょうか」
今度は、イーヴィとジンの両方へ視線を向けて述べる。二人は顔を見合わせ、ジンが、
「まあ……、そうですね、サヴァナの隊に馴染んで貰うための訓練をやってる暇も、当然のことながら、ありませんし」
軽く肩を竦めてそう云った。
オリバーがコクッと頷いてから、改めてイーヴィに凜とした視線を向け、
「それで、EV隊の副隊長として、イヴ様に上申差し上げたいのですが、――ヤム、ベリー、本人が希望するならばソゥパ、この三名を率いる『小隊長』を、私、オリバー・ガ・トゥフに任じて頂き、正式にサヴァナへ『派遣』する形で〝川〟を渡らせて貰えませんでしょうか」
そう云うと、もう一度敬礼をした。
イーヴィがピクリと目を細める。
「私も、若輩者ではありますが、『士官』ではあります。サヴァナの隊長殿と、対等――とは云い過ぎでしょうけども、『幹部』としてのやりとりは、可能だと思うのです。サヴァナ側とのコミュニケーション、連携は私が担い、イー・ル兵を私が隊長として管理し率いるということにすれば、作戦が『滞る』ことを避けられるのではないか――と」
「――」
「それに、〝少尉〟である私は『キィ』を所持しておりますので、〝呼び鈴〟越しの交渉や説得が通じない場合に、――これも聞こえの悪い言葉ではありますが――『突入』することも出来ます。これは、ヤム君達だけでは実現しない『作戦』と云えますかと」
如何でしょうか、とオリバーがイーヴィに問う。イーヴィは俯き加減になり、左手で掴むように額を覆った。オリバーの目に、表情は険しく映った。
ジンも口元に拳を当て、「む…」と思案げに唸る。
ヤムとベリーは顔を見合わせ、オリバーも、微かに困惑の表情を浮かべた。自分では、上申の内容に自信があった、現在のEV隊における己の役割として、最適解だと思っていたのだが……、イーヴィの反応は芳しくない。
「――イヴ様、何か、問題がありますでしょうか」
オリバーが伺うと、イーヴィが額から手を離して上目遣いに彼を見る。――イーヴィの表情は、険しいというより、「悩ましい」というふうだった。
「いや、君の『案』に、問題は無い……、『名案』とすら、感じる」
「では――」
「ただ、――これは…、第三者から見たら、私の個人的見解、欲求、と云うことになってしまうんだろうか――オリバー君、現段階で君がBR19を離れると、この砦内での連携に支障があるんじゃないかと……私は、それを危惧してしまう。故に、君にはBR19に留まって欲しい」
「……? どういう意味でしょうか。EV隊長としてはイヴ様が居られます、サヴァナの筆頭殿もこちらに居られることを考えれば、BR19における指揮系統に問題は無いと思いますが…」
「いや――単なる『指揮系統』というのじゃない。昨日、君自身も云ったが、オリバー君、君は既に、我が隊とサヴァナとの『窓口』として、此処で――現在のBR19で、かなり重要な役割を持っている……と思うんだ。自分ではそこまで強く意識していないのかもしれないが」
「――」
実際、自分自身は、「EV隊の副隊長」としての役割を自分なりの責任感で果たしているだけだ。「サヴァナとの」というなら、「昨日、最初に接触した」事実だけを以て、ある意味「成り行き」によって生まれた責任に従っているだけだと思う。それは当然のことであるから、「意識」していない。
イーヴィは、
「自分では、『成り行き』によって生まれた『当然の役割』だと思っているために、『他の者にも出来る』と考えているのなら、それはもう、間違いだよ」
微笑を見せてオリバーに云った。オリバーがたじろいで、「えっ…」と瞬きをする。
「タケヨシ殿と私が居ることで、指揮権、決定権がBR19側にあるのは、サヴァナとEV隊の連携に有利ではあると思う。だが、『君が居な』くなると――各員間の情報の伝達、『コミュニケーション』の点で、『スムーズ』とは云いがたくなるんじゃないかと感じられるのだ」
「……。そう……でしょうか? 確かに、ライズはまだ少し蟠りを残してはいるでしょうが、スォ=ハム君やクォンさん等は、イヴ様も仰っていたように、タケヨシ殿やタロー殿にずいぶん打ち解けています。リーチ殿やリッカ殿も、エ=ドン先生と『専門知識』を共有出来る分、私よりもまだ深いところで対話出来るでしょうし――」
オリバーの理屈に、イーヴィは表情を微苦笑に変えて緩く首を振った。
「そういう意味の『コミュニケーション』じゃないよ。もう少しシビアな話、まだ戦争中で、ここが『砦』、我々は『軍隊』であることを踏まえた上でだ」
「……」
「実際、クォンさんやスォ=ハム君は、サヴァナの御方との間で『潤滑油』の役割を果たしてくれているように、私も思う。だが、『窓口』というのは、違うよ。――君もさっき口にしたろう、『上申』――『意見する』という意味も含んだ対話になると、君が居なかったら、多分、……円滑とは行かなくなる」
今度はオリバーが、イーヴィの言葉を噛みしめるように口元に拳をあて、俯き加減になる。
「サヴァナとEV隊、実働員と我々幹部、今のBR19には、それらを掛け合わせた『四種類』の人員が居るんだよ――その中でも、『立場』の違いでそれぞれの『振る舞い』に違いが出る。そんな中で、最も円滑なコミュニケーションを遂げられるのは、君だ」
「そうでしょうか……」
「そうだ。それぞれの態度を思い出して考えてごらん。スォ=ハム君などは、タロー殿やタケヨシ殿と既に馴染んでいるが故に、彼らが『幹部』でありながら、気さくに言葉も交わせるだろう。私の方がむしろ、『導師長』『隊長』であるが故に、彼からしたら『気さく』とは行かない。クォンさんもそうだ、さっきのような、明白に『実務』上の支障を考えたケースなら兎も角、彼が私にもの申すことなど、あると思うかね」
「そ……それは、はい、確かに……」
「勿論、ライズ君は『私に』ならば、己の誠に従って意見することは出来る、が、彼は、『サヴァナの御方』との間に、まだ――昨日よりは好転しているようだが――蟠りを残したままだ。今後のライズ君の『態度』によっては――昨夜のことを思い出すと、サヴァナの御方と直接、じゃなく、スォ=ハム君と再び『一触即発』の雰囲気になることも、もしかしたら、ある」
「……」
「――そして、『立場』が違うせいで、ともすると私自身がリーダーシップを取れなくなる、『隊長』としての振る舞いを忘れる可能性も、無くはない」
「そんな――ライズは実際そうですが、イヴ様が隊長であることを忘れることなんて……」
オリバーが不満そうに云い、端でヤム、ベリー、カユーも眉を寄せたり唇をとがらせたりしている。
イーヴィが「ふ」と苦笑した。
「――こう云うとなんだが……。現在の砦が抱えている最重要課題は『修復』だ。そんな中、サヴァナ側の『長』、タケヨシ殿は、技師でもある分、実働員側の『リーダー』としての資質もあるだろう? 私にはそれが無い。実際の作業がピンと来ないまま、どこまで修理が進んだのか終わったのか報告を受けるのが関の山だ」
「それはそうですけど、イヴ様は、それで良いんですよ」
今は隊長と副隊長の時間だからジッとしていたが、ベリーが思わず割り込み、ふむっ、と鼻を鳴らした。
[本日は20:00も投稿します]




