↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】Epilog:六日後のBR19
295/302

【a5d:a6d】-[2]-(2)

「――実際、サヴァナの(われらが)筆頭や先代は、〈魔術士〉としてかなりの実力者です。〈同盟〉のサウザー領には、〝世界中〟で考えても希有な存在が居られ、領主も、〝世界中〟の〈魔術士〉から一目置かれています。彼らと違い、かなりの若手でありながら高みにある〈魔術士〉がフリュス村にも居ります。そうした〈同盟〉にある『我々』ですが、それでも『こんな〝竜巻〟を発生させる魔法』は誰も知らないのです。――()()、我々は、世界中(ガイア)の魔術士を()()()()()()()()()()()()()ありません。我が〈同盟〉に於ける偉大な〈魔術士〉ですら足下にも及ばない、思いもよらない〈魔術(まほう)〉を手にした存在が、『居ない』とは限らない――『居ない』と云ってしまっては、傲慢すぎます」

 ジンのあっさりとした冷静な声を聞き、――昨日、イーヴィが痛感し、恐れ入ったサヴァナの精神、そこから来る己の羨みや妬み、同時に感動を、()()()()()カユーも遅れて感じ入り、軽く下唇を噛みながら腹を両手で押さえた。

「その上で、先ほどのイーヴィ殿のお言葉に、少し訂正をさせて頂きたいのですが、我々〈魔術士〉は、相手が〈()()()()()()()()()〝同胞〟という意識は持ちません。ある程度の共通哲学・理念を持ってはいますが、それぞれに出自(ルーツ)があり、人生に基づいた人格がありますから、〈魔術士〉である『敵』、決して『友』にはなれない〈魔術士〉も居ます。ですから、今はサヴァナ(われわれ)を敵視はしていないイーヴィ殿が、『その他』の〈魔術士〉に疑いの目を向けたり、()()()()()()()()敵視したりしても、それは当然のことです。――〈魔術〉とは技術、〈魔術士〉とは技術者、くらいの意味で捉えて頂き、〝同胞〟という言葉を使って違和感の無い〝国民〟や〝民族〟〝人種〟のような見方は、しないで下さい」

 ジンの声色に皮肉めいたものはない。誤解を避けるための「訂正」を淡々としただけだ。しかし、聞いたイーヴィとカユーには、改めて生国(イー・ル)の「情けなさ」を思い起こさせる。

 ()()()()、イー・ルは、同じ〝信仰〟を持つというだけで、リモのような〝名も無き漂泊民族〟を〝同胞〟扱いし、圧政に置いた。その理屈と態度が通じるならば、〝()()()()同胞〟と見なすべき〝サヴァナに属する信徒〟を、〝背信者(あくま)〟と呼んで憎悪した――。

 ジンは、サヴァナは、「傲慢」とは何かを解っている。だから、それを自戒している。己の生国(イー・ル)は、「傲慢」を理解していないが故に、己が「そう」だと思わない、()()()、傲慢なのだ――。

 カユーの想いに気がついたのか、隣のイーヴィが、彼の心臓の裏を暖めるように背中へ掌を当てた。その感触に、カユーは思わず涙ぐみそうになってしまう。

 それを堪えるために、

「……。ジン殿。『フェア』と云うのが違うのなら、貴方の精神は『謙虚』と云うのです」

 感情の奔流を言葉にして、独り言のように吐き出した。

 ジンは目を細め、小首を傾げる。質問でもなかったから、何と返したら良いのか分からない。


 不自然な沈黙が数秒あった――カユー導師(先生)の真意を推し量ることは出来ないが、何だか「感傷的」な空気が漂っている気がする。しかし、()の時間が、そういう雰囲気に流されるのは、「イヴ様の」意図から外れるのではないか。

 明白にそんな意識があった訳ではないけれども、どうせ自分にも質問したいことがあったので、

「あのぉ」

 ある意味「空気を読まずに」割り込む格好で、スォ=ハムが小さく挙手した。

 カユーへの返答に困り、若干戸惑いを覚えていたジンは、それを有り難く感じながら、声色は冷静に、「何でしょう」と応じた。

「タケさんがゆうべ、〝黒い筋〟の方は、『〈魔術士(まほうつかい)〉にも全く何にも分からない』ってきっぱり云ってたッスけど……。〝竜巻〟の方は、実際、『もしかしたら〈魔術(まほう)〉』の可能性があるんスか?」

「――」

 それを聞いて、ジンは暗がりの中、誰にも気づかれない微笑を浮かべる。剛義も感じたように、ジンも、「この若者は、やんちゃそうに見えて、思慮深く鋭い」と感心した。

「となると、〝筋〟と〝竜巻〟には、『関係が無い』可能性だって、出てきちゃいますよね。それって、ぶっちゃけ『ややこしすぎ』ません?」

 今度はジンも明白に微笑を浮かべて、一度頷いた。

「そうですね。『全く関係ない二つの謎が同時に表出した』と云える訳ですから」

 先ずはそう返すと、スォ=ハムは一層、「めんどくさい」と云いたそうな拗ねた顔をした。

「とは云え、『謎』の方は、『それを解明したい側』の手間を考えて生じている訳ではありませんしね。あらゆる可能性・仮定を考えて調査する方針で居ないと、取りこぼしが生じる可能性もあります――どんなに無駄・不要に思えるデータでも、それがどんな手がかりになるかも分かりませんから、収集『しまくって』いる最中です」

「……。だったら、『どっちも〈魔術(まほう)〉じゃない』って前置きで、一つのもんとして調査する方が、楽じゃないっすか?」

 スォ=ハムが小首を傾げて素朴な声で云うと、ジンは苦笑を浮かべた。また、イーヴィとカユーは顔を見合わせ、「スォ=ハム君には、もう少し〝第二章の三節〟を分かりやすく解説すべきだね」と囁きあった。

 ジンがそんな導師の様子をチラリと見てから、スォ=ハムに云う。

「イー・ルの場合だと、どういう考え方になるのか分かりませんが、〈魔術士(われわれ)〉は、その『前置き(仮定)』だと()()んですよ、スォ=ハムさん」

 スォ=ハムは、きょとんとして、「怖ぇんすか?」と繰り返した。

 ジンは全体に視線を巡らせてから、エ=ドンに尋ねた。

「――エ=ドン先生、今は『謎』だとしても、『いつかは、この〝竜巻〟の発生原因と構造を〝科学〟で解明できる』『〝科学〟で解明出来たなら、〝再現〟出来る、〝説明〟出来る』と、考えられますか」

 エ=ドンは、ジンの質問に「うっ」と息を飲み、思わず、微かに震える手で、口を覆った。

「少なくとも、私が生きている間に、『説明』出来る程の『解明』が進むとは……とても思えません――が……、かと云って〝科学〟をベースにして『医者』となった私は――」

 口を覆っていた手が拳になって卓に置かれる。その拳を、カッと見開いた目で見つめながら、声を絞り出す。

 そんなエ=ドンを見て、ジンがこくりと頷く。

「解明『出来ない』と断言するのは、貴方の『矜持』が許しませんよね。――そして、『解明出来ない、()()()()()』と考えてしまうと――」

「ええ、ええ……。そう、それは『恐怖』です」

 ジンに全てを云わせず、エ=ドンもこくこくと頷く。

「我々サヴァナの者にとって、エ=ドン先生がその身を捧げた〝科学〟と〈魔術〉は、同等であり()()なのです。――実のところ我々も、この〝竜巻〟が、〈魔術士〉による未知の〈魔術〉である可能性は、かなり低いと考えています。最初のエ=ドン先生のご質問とも関わってくるのですが、我々〈魔術士〉の視点……特にサヴァナの者からすると、『この現象』を、つむじ()、砂()等、はっきりとした〝()()()()で呼んで良いのだろうか、という疑問が生じているのですよ」

 今は静止画が投影されている壁を手で指しながら、ジンが云った。

「だったら、本来、『大雨』を――せめて厚い雲と湿気を――伴う筈の〝竜巻〟という言葉で示す方が、『曖昧』になってくれるので『使いやすい』。話し合って正式に決定した訳ではなく、暗黙の了解、という感じで、皆が選択した――そういう経緯があったかと」

「……成る程」

「エ=ドン先生の〝科学〟、〈魔術士〉の〈魔術〉、そのどちらでも()()()()()()()()()『現象』だと結論付いてしまったら――、()()()()のでしょう」

 ジンの声が、少しばかり冷たく冴えたものになる。――多分、ジンは()()()()()尋ねている。

 〝貴方方(イー・ル)には、とても便利な言葉があるでしょう〟

 エ=ドンは無言だ。そして、導師であるイーヴィとカユーも、「絶対に口にしない」と意思表示するように唇を噛み、胸の内で、慟哭する――〝その言葉〟は、()()()段階(ところ)()()()()使ってはいけないのだ、()()()!――。

 ジンの質問を「皮肉」とは捉えていないスォ=ハム達も、黙っている。意識はしないながら、「〝あの言葉〟を口にしてしまったら、俺たちは、大導師長やグ・ルグ(〝あいつら〟)と同じになってしまう」との抗いがあったのかもしれない。

 ――ずっと画面に目を向け、表情を変えることなく無言だったクォンは、そこで、「ああ、そうか」と思った。

 エ=ドン医師(せんせい)は……、「治す」御業を持っているだけじゃなく――()()()()、〝神〟の威光に()()()()()()生きているから、大導師長(イー・ル)にとって「穢れ」なのだ。


 ジンの声色と視線がもう少し柔らかくなり、スォ=ハムに向かう。

「つまり……、『どちらも〈魔術〉ではない』という前置き(仮定)から始めてしまうと、()()()()『何も出来な』くなるのです。〈魔術〉だけでなく〝科学〟も同様です、我々は『この現象』をどう受け止めれば良いのか、どういう態度を取れば良いのか、――今まで自分が生きてきた土台、『足場』を失ってしまうのと同じなのです」

「それが、『こえぇ』ってことなんスね――」

 スォ=ハムが「ふむ…」と頷く。

「故に、己の『足場』に縋りながら、徹底的に調査するのです。見落としは無いか、取りこぼしはないか、己は知らずとも誰かは知らないか――〝目撃談〟や〝伝承〟……昔話、神話、都市伝説、ただの噂話(ゴシップ)、そんなものでも、何らかの手がかりにならないとも限りません」

 そこでスォ=ハムは、昨夜、剛義が云っていたことを思い出す――当然、イーヴィやライズ達も思い出していた。

〝あれが何か知っているというのなら、大導師長に土下座しても良いくらいだ〟――あれは、そういう意味で、()()だったのだ。

「じゃあ……ということは…、〝黒い筋〟の方も、今はタケさんたちが断言するくらいに『解らない』ものでも、『いつかは解るかもしれない』ってことッスよね」

「その通りです。『理解』出来れば、我々は『足場』を増やすことが出来る、補強することが出来る。我々の目的は、『あれが何か解らない』を()()()()()()ことです」

 ジンは力強く云い、スォ=ハムも、それに呼応するように頷いた。

 ありがとうございました、と云うように若人は頭を下げた。スォ=ハムにはこれ以上質問が無いらしい。

 ジンがオリバーへ、

「オリバー殿の疑問は、整理出来たでしょうか? ――今の間に、疑問が『晴れた』とは思えませんが」

 と問うた。

オリバーは「いえ」と小さく手を振った。

「私が先ほど抱いた疑問は、ジン殿に質問することではないと思うので、結構です」

「というと?」

「結局、私の疑問は、ジン殿が抱えている問題と『同じ』だということです。『あれは何』『これは何故』――ジン殿をはじめとしてサヴァナの方々は既に『調査』し始めている。私が今疑問に感じたそれをジン殿に質問しても、貴方は『解らない』と答えざるを得ないだろうことが、()()()()理解出来ました」

 微苦笑を浮かべながらの答えに、ジンも「成る程」と頷く。

 ジンが改めて全体に視線を巡らせ「他に何か」と問う。

 挙手等は無いので、

「では、〝竜巻〟については、取り敢えず良いですね」

 と云いながら映写機に手を伸ばした――が、

「ジン殿」

 とカユーから声が上がったので、「何か?」と彼に顔を向ける。

 意を決した、というふうな真剣な顔をしていて、卓の陰になっているが、みぞおちの辺りに両手を乗せているのは分かった――その仕草が何を意味しているのか、知っているジンは、訝しげに目を細めた。

「ジン殿。――今のうちに、私から、云わせて下さい」

「……。何をです?」

「ジン殿、イー・ルの導師として、貴方(サヴァナ)のような方々に戦をしかけたことを、心からお詫び申し上げます」

 腹に両手を乗せたまま、そう云った。

 それを聞いたジンは、パチパチと瞬きをし、慌てたような、呆れたような、微妙な表情を浮かべた。

「……。今のうちに、って…。今、云うようなことでしょうか。立てなくなるくらいに、話の()()()()()()気がします」

 カユーは、「ふ」と微笑を浮かべて、

「それは、申し訳ありません。――()()()、今でなくては、『まこと』の言葉にならない衝動がありましたので……」

 昨日、イーヴィが剛義へ、云わずに居られなかった言葉である。カユーの目の前にはジンが居たから彼に、それを口にせずには居られなかった。それを宣わずして、「導師」を名乗ることなど出来そうになかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。