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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】Epilog:六日後のBR19
294/302

【a5d:a6d】-[2]-(1)



 砦や基地が飲み込まれ、破壊されていく都度、「観客」は胸を痛ませ、顔を顰めていたが――、そのうち、悲哀の表情に疑問が混じるようになっていた。最初に、訝しげな顔をしたのはイーヴィだったが、他の者も、何かしらの違和感を感じ始めている。

 〝竜巻〟がC3を通過し、しばらくして、渦を巻いた砂だけが遠ざかっていった。ただ、カメラがついて行けなくなっただけで、〝竜巻〟そのものが消えることはしばらく無いだろう……その勢いを保っていたことは、全員分かっていた。

 映像は完全に停止し、ジンが

「以上です。――何かご質問はありますか。あるいは、もう一度確認したい箇所は」

 冷静に問うと、イーヴィがまず

「もう一度、最大倍速の早回しで構いませんので、〝竜巻〟発生の瞬間から出して貰えますか」

 そう云った。ジンが「畏まりました」と答え、云われたとおり、めまぐるしい速さの映像を見せる。

 それを見て、イーヴィは目を細め、思案げに口元を擦った。

「宜しいですか?」

「……。一先ずは。――今の考えが、まとまったら、もう少し情報を得るために、お願いするかもしれません」

 少しの間を置いて答え、イーヴィは隊員の方へ、「君達は」と問うた。

 隊員達が視線を交錯させ、今すぐに意思表示する者――それは殆どが上司である――が居なかったので、ウィトが、

「じゃ、あの、〝竜巻〟発生の、えー…十秒くらい前から、二分後くらいまでを、等速で見せて貰っていいですか?」

 とジンに云った。ジンがその通りにすると、映像を見たウィトは「あ、やっぱり…」と呟きながら、小首を傾げた。

「何か?」

 ジンが訊くと、

「あのー、〈ミサイル〉飛んでくるまでと、〝竜巻〟生まれた後で、無人観測機の映像、違いますよね。〝竜巻〟の後、急にものすごく乱れる。これ、どうしてですか? 砂のせいで故障(トラブル)とか…、原因は判ってるんでしょうか?」

 ウィトが素朴な声で質問した。

 ウィト自身は、技師として技術的な意味合いで質問したのだろうが――それが故の素朴な声を聞いて、自分自身のモヤモヤとした疑問、違和感、不審……そういったものが明瞭になった隊員が、何人か居た。イーヴィがピクリと目を細め、ライズは眉を寄せて腕を組み、オリバーは、思案げな顔になってこめかみの辺りを押さえていた。

「はっきりとした理由の一つは、我々の操作によるものです。〈ミサイル〉の動向を監視するために飛ばしていた間は、何より位置・速度、外見等、『着弾予測』に必要なデータを収集するようにしていましたが、〝竜巻〟発生後は、気温や風速、〈放射線量〉等、可能な限りの周辺データを取るべく、映像記録に必要な『リソース』をそちらに回したんです。要は『解像度を下げた』ってことです」

「ああ、成る程……」

「勿論、砂の影響はゼロではありません、『それまで』よりも、明らかな〈電波〉障害が生じてますから。ただ、観測機自体は一度も〝竜巻〟に巻き込まれてませんし、帰ってきてからの点検で、大きな故障は確認出来ていません。――()()()()、ウィト殿が抱かれた疑問は、我々にもあります」

「えっ?」

「操作によって落としたリソース分、砂による電波障害を考慮したとしても、我々の想定以上に、映像が乱れているんです。よって、ウィト殿のご質問には、『原因が、判っているものと不明なものがある』とお答えしなくてはなりません。不明であるものは、現在も調査中です」

「そうですか……」

 ため息交じりにウィトは頷き、「自分からはもういいです」と云うように視線をジンと隊長へ向けた。それを受けて、イーヴィが「誰か他に無いか」と視線を巡らす。

 今度はライズが挙手した。

「もう一度、ウィトと同じ場所――時間は、前後十秒ずつで良いので、スローでお願い出来ますか。その映写機で可能な限り遅く」

 ジンが云われた通りにすると、ライズは小首を傾げた後、続けて云う。

「……。もう一度、今度は五〇〇ミリ秒ずらして始めて貰えますか」

 ライズは、その依頼を、二〇〇ミリ秒、一〇〇ミリ秒と変えて、続けた。ジンは、「その依頼が何故のものなのか」解っているらしく、訝しげな様子も不審げな様子も見せず、淡々と応じた。

 最終的にライズの疑問は映像を見ただけでは晴れなかったらしく、相変わらず眉を寄せている。

 ジンが「何かご質問は」と促すと、ライズは険しい表情のまま、緩く首を振った。

「……自分に疑問はありますが、ジン殿に質問は、出来ません…。ちゃんと言語化出来ないというか…、こう云っては失礼かもしれませんが、()()()()()()()()()()()()()()()()しか出来ない、気がします」

 険しい中に、僅かばかり恐縮そうな様子も見える、複雑な表情でライズは云った。それから、お次をどうぞ、と云うふうに視線を全体に巡らす。

 では、とオリバーが挙手してから、画面に向けて手を伸ばす。

「ジン殿、あの辺りに〝竜巻〟が辿り着いた場面を映して下さい」

 オリバーはマップ画面を指さした。画面中央、対角線の交点から少し右上(南東側)にずれた辺りだ。

 ジンが先ずその地点を停止状態で画面に出す――思わずヤムとベリーが声を出してしまった場面……砂漠の中で隊列が「砂嵐」に煽られる直前だ。

 オリバーは再生を促す前に、

「この映像は、拡大することは出来ますか」

 と尋ねた。ジンは少しばかり申し訳なさそうな顔をしてから、「すみません」と答えた。

「出来ないことはないですが、今ここにお持ちしたメモリィですと、ただ『引き伸ばす』だけなので、細部を確認されたいのでしたら、無意味になります」

「そうですか…、でしたら、その後の五分ほどを、スローで三回ほど見せて下さい」

 畏まりました、とジンが応じる。オリバーも、首を傾げて「んー…」と喉で唸った。ジンから「ご質問は」と問われ、彼もライズと同様の答えを返した。

「何を質問したらいいのか、が分からない感じがします。今は結構です――」

 やはりライズと同様に、オリバーも全体へ視線を巡らせると、挙手等の意思表示が無かったので、イーヴィが

「――もう一度、『C3』を見せて下さい」

 既に、()()()()()はジンに伝えているので、端的に云った。

 ジンが応じる。イーヴィは他の隊員と違い、「スローで」「そこからスローで巻き戻して」「そこから二分ぶん、もう一度」等、細かい見方をしてから、「ありがとうございました」と区切りをつけた。

 イーヴィが改めて全体を見回し、君は、というふうにカユーへ顔を向けた。カユーも、現段階で質問や確認したい映像は無いらしく、「大丈夫です」と小声で云った。

 イーヴィが一つ息を吐いてから、卓の上で手を組み、

「ジン殿。――昨夜のうちにタケヨシ殿にも尋ねたことなので、重ねての質問は大変失礼なのですが、お許し下さい。――この〝竜巻〟は、本当に、貴方方が生じさせたものでは、無いのですね?」

 真摯な声で、そう云った。

 EV隊隊員達も、リオンが抱き、リオンからタオ達に告げられた「違和感」を、恐らく感じたのだ。

 〝竜巻〟の規模、威力に対して、()()()()()()()()()()――


 そして、EV隊は、サヴァナが「敵を殺す」ことを()()としないのを、よく(わか)っている。

 これまでやってきた「戦争」において、サヴァナは〈ミサイル〉や〈爆弾〉のような「大雑把な武器」を殆ど使ってこず、密集した隊を煙幕や誘導で適度にばらけさせてから、「一人ずつ、的確に急所を()()()戦闘不能」にする、というやり方を通していた。「急所を狙う」ことがあるなら、それは「長」に限ってのことだ。どんなに兵が傷を負っても引こうとしない「隊」を相手にした場合に、それを率いる「(あたま)」を狙う傾向があった。つまり、「敵を殺す」ことが、「隊」を後退さ(ひか)せるための()()として選択されていた――イー・ル側の「戦死者」の死因を見ると、「戦闘による即死」は士官が圧倒的に多い。それ以外の兵は、「出血多量」「負傷状態からの感染症」等、「後日、治療の甲斐無く」になってくるのである。

 そんな「サヴァナ」だと知っているからこそ、この「〈核ミサイル〉を消失させながらも、兵士(ひと)を巻き込もうとしない〝竜巻〟」に対し、これは、サヴァナの〈魔術士〉(まほうつかい)に拠るものではないのか、と――改めて感じてしまったのだ。

 イーヴィの場合、マップ画面だけは既に一度見ている。昨夜は静止画だったのでそれほど違和感を感じなかったが、動画で見てみると、〝竜巻〟のルートに「極端」な部分が見受けられた――「クランク」と云えそうなくらいのカーブ、明らかに不自然な「後退」(Uターンやバック)――、()()()()()()が感じられて仕方なくなった。ただでさえ、剛義達は当初「ミサイルの軌道をなぞるように」とも云っていたから尚更である、〈ミサイル〉の方が余程、――人類の「計算」という介入はあるだろうが、「自然」の「物理」に沿った動きを取った筈だ。

 この疑問は、イーヴィだけが抱いたものではない。

 昨日は漠然と〝敵〟(あくま)の虚言、あるいは所業(まほう)としか考えず、ただ憤慨していただけのライズは、この映像を見てしまったことで、折角緩み掛けた警戒心が、ぶり返しそうになってしまった――ただでさえ、最初のウィトの素朴な質問で、「〝竜巻〟発生の理由」というより、「この〝映像〟は()()なのか?」「虚偽(つくりもの)とまでは云わずとも、『編集』はされているのではないか?」、そんな疑惑の萌芽が生まれていたのだから。

 スォ=ハムやウィトなどは、剛義や太狼を信用しているが故に今まで疑ってはいなかったのが、初めて「不審・不安」を抱いたかもしれない。

 イーヴィの質問へ、ジンは同じく真摯に、

「はい」

 きっぱりと頷いた。


 そうですか――と、イーヴィは息を吐きながら承った。

 だが、ジンは「ただし」と続けたので、イーヴィは「え?」と、うつむき加減になっていた顔を上げた。

「昨夜、イーヴィ殿がどういう質問をして、筆頭(たけよし)がどう回答したのか知りませんが、私からは、より厳密に細かく、申し上げたいかと」

「……それは…、どういう意味でしょうか」

「イーヴィ殿が指した『貴方方(われわれ)』の()()が問題なのです」

「――」

「『サヴァナ・ギルド』という意味で()()が、この〝竜巻〟の発生源かとお尋ねなのなら、違います。それ以外の答えはありません」

 さっきと同じくらいに、ジンはきっぱり云いきった。

「しかし、〈魔術士〉(まほうつかい)〈魔術〉(まほう)に拠るものか、と問われたら、『()()()()()()』と答えなくてはならないのです」

「……ジン殿。貴方はつくづく、『フェア』な方ですね」

 ジンの言葉に、イーヴィが嘆息混じりに呟いた。

「疑いを晴らすだけなら、その補足は要らないでしょうに……。サヴァナの仕業では無いとしても、貴方方の〈同盟〉、そうでなくても、〝同胞〟と云える〈魔術士〉(まほうつかい)を疑う余地が、私には残ってしまうのに」

「――。こう云うとなんですが、特に、イー・ルの御方に対して、『()()の仕業ではありません』としか云わないでいると、後々、『恣意的』なミスリードと取られる可能性も否めませんから。それを『厄介』と考えているだけで、別に、フェアであろうとしているのではありません」

 ジンは軽く肩を竦めた。それを聞いて、イーヴィは苦笑する。

 成る程。

 これまで、「サヴァナ」を〝悪魔〟、〈魔術士〉も〝悪魔〟と一つの言葉で悪罵していたイー・ルである。「サヴァナではない」としか云わないでいて、将来「〈魔術士〉ではあった」と判明すると、イー・ル(こちら)からしたら「やっぱり〝悪魔〟ではないか」と着地し、「嘘つき」と再び悪罵する格好の材料となってしまう――ジンやサヴァナが「フェア」で「厳密」なのじゃない。イー・ルが、「アンフェア」で「雑」なのだ。

「先ほど、ライズ殿が何度も、開始秒をずらしてご確認されたのは何故か、解ります。――()()()()()()()()何度もしましたから」

 ライズが、水を向けられて「う」と息を飲む。

「……余りにも、『瞬間的』に生じているので、『自然』に出来たものとは思えなかったんですよね」

 ジンの指摘に、ライズは一度ばつが悪そうに下を向いた後、開き直って尋ねることにした。

「正直……、本当に〝竜巻〟が発生したのなら、という仮定をぶり返すほど、違和感がありました。何なら、この映像は『下手な合成』『編集』なんじゃないかと思うくらい、〝竜巻〟が()()()()()()()()様子が、あれほど細かくずらしても見えなかったので」

 キッと睨むような目をしてジンに云うと、解ります、とジンは頷いた。

「本当は平原で〝竜巻〟は生まれて育っていて、その部分は『カット』した編集――そう見えてもおかしくはないです。そうでなければ、〝川〟の上で、〈魔術士〉(まほうつかい)が〈魔術〉で作った」

「――」

 そんなふうに見えても、全くおかしくありません、ジンはあっさりと――ライズに気を悪くした様子も全くなく、云う。


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