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砦や基地が飲み込まれ、破壊されていく都度、「観客」は胸を痛ませ、顔を顰めていたが――、そのうち、悲哀の表情に疑問が混じるようになっていた。最初に、訝しげな顔をしたのはイーヴィだったが、他の者も、何かしらの違和感を感じ始めている。
〝竜巻〟がC3を通過し、しばらくして、渦を巻いた砂だけが遠ざかっていった。ただ、カメラがついて行けなくなっただけで、〝竜巻〟そのものが消えることはしばらく無いだろう……その勢いを保っていたことは、全員分かっていた。
映像は完全に停止し、ジンが
「以上です。――何かご質問はありますか。あるいは、もう一度確認したい箇所は」
冷静に問うと、イーヴィがまず
「もう一度、最大倍速の早回しで構いませんので、〝竜巻〟発生の瞬間から出して貰えますか」
そう云った。ジンが「畏まりました」と答え、云われたとおり、めまぐるしい速さの映像を見せる。
それを見て、イーヴィは目を細め、思案げに口元を擦った。
「宜しいですか?」
「……。一先ずは。――今の考えが、まとまったら、もう少し情報を得るために、お願いするかもしれません」
少しの間を置いて答え、イーヴィは隊員の方へ、「君達は」と問うた。
隊員達が視線を交錯させ、今すぐに意思表示する者――それは殆どが上司である――が居なかったので、ウィトが、
「じゃ、あの、〝竜巻〟発生の、えー…十秒くらい前から、二分後くらいまでを、等速で見せて貰っていいですか?」
とジンに云った。ジンがその通りにすると、映像を見たウィトは「あ、やっぱり…」と呟きながら、小首を傾げた。
「何か?」
ジンが訊くと、
「あのー、〈ミサイル〉飛んでくるまでと、〝竜巻〟生まれた後で、無人観測機の映像、違いますよね。〝竜巻〟の後、急にものすごく乱れる。これ、どうしてですか? 砂のせいで故障とか…、原因は判ってるんでしょうか?」
ウィトが素朴な声で質問した。
ウィト自身は、技師として技術的な意味合いで質問したのだろうが――それが故の素朴な声を聞いて、自分自身のモヤモヤとした疑問、違和感、不審……そういったものが明瞭になった隊員が、何人か居た。イーヴィがピクリと目を細め、ライズは眉を寄せて腕を組み、オリバーは、思案げな顔になってこめかみの辺りを押さえていた。
「はっきりとした理由の一つは、我々の操作によるものです。〈ミサイル〉の動向を監視するために飛ばしていた間は、何より位置・速度、外見等、『着弾予測』に必要なデータを収集するようにしていましたが、〝竜巻〟発生後は、気温や風速、〈放射線量〉等、可能な限りの周辺データを取るべく、映像記録に必要な『リソース』をそちらに回したんです。要は『解像度を下げた』ってことです」
「ああ、成る程……」
「勿論、砂の影響はゼロではありません、『それまで』よりも、明らかな〈電波〉障害が生じてますから。ただ、観測機自体は一度も〝竜巻〟に巻き込まれてませんし、帰ってきてからの点検で、大きな故障は確認出来ていません。――その上で、ウィト殿が抱かれた疑問は、我々にもあります」
「えっ?」
「操作によって落としたリソース分、砂による電波障害を考慮したとしても、我々の想定以上に、映像が乱れているんです。よって、ウィト殿のご質問には、『原因が、判っているものと不明なものがある』とお答えしなくてはなりません。不明であるものは、現在も調査中です」
「そうですか……」
ため息交じりにウィトは頷き、「自分からはもういいです」と云うように視線をジンと隊長へ向けた。それを受けて、イーヴィが「誰か他に無いか」と視線を巡らす。
今度はライズが挙手した。
「もう一度、ウィトと同じ場所――時間は、前後十秒ずつで良いので、スローでお願い出来ますか。その映写機で可能な限り遅く」
ジンが云われた通りにすると、ライズは小首を傾げた後、続けて云う。
「……。もう一度、今度は五〇〇ミリ秒ずらして始めて貰えますか」
ライズは、その依頼を、二〇〇ミリ秒、一〇〇ミリ秒と変えて、続けた。ジンは、「その依頼が何故のものなのか」解っているらしく、訝しげな様子も不審げな様子も見せず、淡々と応じた。
最終的にライズの疑問は映像を見ただけでは晴れなかったらしく、相変わらず眉を寄せている。
ジンが「何かご質問は」と促すと、ライズは険しい表情のまま、緩く首を振った。
「……自分に疑問はありますが、ジン殿に質問は、出来ません…。ちゃんと言語化出来ないというか…、こう云っては失礼かもしれませんが、答えが返ってくるとは思えない質問しか出来ない、気がします」
険しい中に、僅かばかり恐縮そうな様子も見える、複雑な表情でライズは云った。それから、お次をどうぞ、と云うふうに視線を全体に巡らす。
では、とオリバーが挙手してから、画面に向けて手を伸ばす。
「ジン殿、あの辺りに〝竜巻〟が辿り着いた場面を映して下さい」
オリバーはマップ画面を指さした。画面中央、対角線の交点から少し右上にずれた辺りだ。
ジンが先ずその地点を停止状態で画面に出す――思わずヤムとベリーが声を出してしまった場面……砂漠の中で隊列が「砂嵐」に煽られる直前だ。
オリバーは再生を促す前に、
「この映像は、拡大することは出来ますか」
と尋ねた。ジンは少しばかり申し訳なさそうな顔をしてから、「すみません」と答えた。
「出来ないことはないですが、今ここにお持ちしたメモリィですと、ただ『引き伸ばす』だけなので、細部を確認されたいのでしたら、無意味になります」
「そうですか…、でしたら、その後の五分ほどを、スローで三回ほど見せて下さい」
畏まりました、とジンが応じる。オリバーも、首を傾げて「んー…」と喉で唸った。ジンから「ご質問は」と問われ、彼もライズと同様の答えを返した。
「何を質問したらいいのか、が分からない感じがします。今は結構です――」
やはりライズと同様に、オリバーも全体へ視線を巡らせると、挙手等の意思表示が無かったので、イーヴィが
「――もう一度、『C3』を見せて下さい」
既に、そのラベルはジンに伝えているので、端的に云った。
ジンが応じる。イーヴィは他の隊員と違い、「スローで」「そこからスローで巻き戻して」「そこから二分ぶん、もう一度」等、細かい見方をしてから、「ありがとうございました」と区切りをつけた。
イーヴィが改めて全体を見回し、君は、というふうにカユーへ顔を向けた。カユーも、現段階で質問や確認したい映像は無いらしく、「大丈夫です」と小声で云った。
イーヴィが一つ息を吐いてから、卓の上で手を組み、
「ジン殿。――昨夜のうちにタケヨシ殿にも尋ねたことなので、重ねての質問は大変失礼なのですが、お許し下さい。――この〝竜巻〟は、本当に、貴方方が生じさせたものでは、無いのですね?」
真摯な声で、そう云った。
EV隊隊員達も、リオンが抱き、リオンからタオ達に告げられた「違和感」を、恐らく感じたのだ。
〝竜巻〟の規模、威力に対して、人的被害が少なすぎる――
そして、EV隊は、サヴァナが「敵を殺す」ことを目的としないのを、よく知っている。
これまでやってきた「戦争」において、サヴァナは〈ミサイル〉や〈爆弾〉のような「大雑把な武器」を殆ど使ってこず、密集した隊を煙幕や誘導で適度にばらけさせてから、「一人ずつ、的確に急所を外して戦闘不能」にする、というやり方を通していた。「急所を狙う」ことがあるなら、それは「長」に限ってのことだ。どんなに兵が傷を負っても引こうとしない「隊」を相手にした場合に、それを率いる「長」を狙う傾向があった。つまり、「敵を殺す」ことが、「隊」を後退させるための手段として選択されていた――イー・ル側の「戦死者」の死因を見ると、「戦闘による即死」は士官が圧倒的に多い。それ以外の兵は、「出血多量」「負傷状態からの感染症」等、「後日、治療の甲斐無く」になってくるのである。
そんな「サヴァナ」だと知っているからこそ、この「〈核ミサイル〉を消失させながらも、兵士を巻き込もうとしない〝竜巻〟」に対し、これは、サヴァナの〈魔術士〉に拠るものではないのか、と――改めて感じてしまったのだ。
イーヴィの場合、マップ画面だけは既に一度見ている。昨夜は静止画だったのでそれほど違和感を感じなかったが、動画で見てみると、〝竜巻〟のルートに「極端」な部分が見受けられた――「クランク」と云えそうなくらいのカーブ、明らかに不自然な「後退」――、人為的なものが感じられて仕方なくなった。ただでさえ、剛義達は当初「ミサイルの軌道をなぞるように」とも云っていたから尚更である、〈ミサイル〉の方が余程、――人類の「計算」という介入はあるだろうが、「自然」の「物理」に沿った動きを取った筈だ。
この疑問は、イーヴィだけが抱いたものではない。
昨日は漠然と〝敵〟の虚言、あるいは所業としか考えず、ただ憤慨していただけのライズは、この映像を見てしまったことで、折角緩み掛けた警戒心が、ぶり返しそうになってしまった――ただでさえ、最初のウィトの素朴な質問で、「〝竜巻〟発生の理由」というより、「この〝映像〟は本物なのか?」「虚偽とまでは云わずとも、『編集』はされているのではないか?」、そんな疑惑の萌芽が生まれていたのだから。
スォ=ハムやウィトなどは、剛義や太狼を信用しているが故に今まで疑ってはいなかったのが、初めて「不審・不安」を抱いたかもしれない。
イーヴィの質問へ、ジンは同じく真摯に、
「はい」
きっぱりと頷いた。
そうですか――と、イーヴィは息を吐きながら承った。
だが、ジンは「ただし」と続けたので、イーヴィは「え?」と、うつむき加減になっていた顔を上げた。
「昨夜、イーヴィ殿がどういう質問をして、筆頭がどう回答したのか知りませんが、私からは、より厳密に細かく、申し上げたいかと」
「……それは…、どういう意味でしょうか」
「イーヴィ殿が指した『貴方方』の範囲が問題なのです」
「――」
「『サヴァナ・ギルド』という意味で我々が、この〝竜巻〟の発生源かとお尋ねなのなら、違います。それ以外の答えはありません」
さっきと同じくらいに、ジンはきっぱり云いきった。
「しかし、〈魔術士〉の〈魔術〉に拠るものか、と問われたら、『分かりません』と答えなくてはならないのです」
「……ジン殿。貴方はつくづく、『フェア』な方ですね」
ジンの言葉に、イーヴィが嘆息混じりに呟いた。
「疑いを晴らすだけなら、その補足は要らないでしょうに……。サヴァナの仕業では無いとしても、貴方方の〈同盟〉、そうでなくても、〝同胞〟と云える〈魔術士〉を疑う余地が、私には残ってしまうのに」
「――。こう云うとなんですが、特に、イー・ルの御方に対して、『我々の仕業ではありません』としか云わないでいると、後々、『恣意的』なミスリードと取られる可能性も否めませんから。それを『厄介』と考えているだけで、別に、フェアであろうとしているのではありません」
ジンは軽く肩を竦めた。それを聞いて、イーヴィは苦笑する。
成る程。
これまで、「サヴァナ」を〝悪魔〟、〈魔術士〉も〝悪魔〟と一つの言葉で悪罵していたイー・ルである。「サヴァナではない」としか云わないでいて、将来「〈魔術士〉ではあった」と判明すると、イー・ルからしたら「やっぱり〝悪魔〟ではないか」と着地し、「嘘つき」と再び悪罵する格好の材料となってしまう――ジンやサヴァナが「フェア」で「厳密」なのじゃない。イー・ルが、「アンフェア」で「雑」なのだ。
「先ほど、ライズ殿が何度も、開始秒をずらしてご確認されたのは何故か、解ります。――我々も、同じことを何度もしましたから」
ライズが、水を向けられて「う」と息を飲む。
「……余りにも、『瞬間的』に生じているので、『自然』に出来たものとは思えなかったんですよね」
ジンの指摘に、ライズは一度ばつが悪そうに下を向いた後、開き直って尋ねることにした。
「正直……、本当に〝竜巻〟が発生したのなら、という仮定をぶり返すほど、違和感がありました。何なら、この映像は『下手な合成』『編集』なんじゃないかと思うくらい、〝竜巻〟があの大きさに育つ様子が、あれほど細かくずらしても見えなかったので」
キッと睨むような目をしてジンに云うと、解ります、とジンは頷いた。
「本当は平原で〝竜巻〟は生まれて育っていて、その部分は『カット』した編集――そう見えてもおかしくはないです。そうでなければ、〝川〟の上で、〈魔術士〉が〈魔術〉で作った」
「――」
そんなふうに見えても、全くおかしくありません、ジンはあっさりと――ライズに気を悪くした様子も全くなく、云う。




