【a5d:svn】(4) -[5]-(4)
「一番探査車」の中で、剛義が
「無線を切るっちゅうのは、どういうこっちゃ?」
と首を捻った。
イーヴィとジンも思案げな顔をする。少しして「ああ……」と何か思い当たった声を出したのは、ジンだった。
「さっきのように、こちらから通信が来るのを避けたかったのでは?」
「ん?」
「先程、イーヴィ殿が仰ってましたが――太狼君をイーヴィ殿と『見間違える』分には構わないのならば……翻って、無線から貴方の声が聞こえては矛盾になってしまいます。まして、全く知らない第三者の声が聞こえても問題でしょう」
ジンがイーヴィに顔を向けて、確認する口調で云うと、イーヴィは「ああ、成る程……」と合点した。
「やはり、要救護者は居たようですから、医務室を開けておくよう云ってきます。――ウドゥはまだ起きてるだろうか……」
独りごちながら、一旦探査車を離れるべく扉に向かう。
「仁君、此処は頼んだで」
剛義はそう声を掛けると、イーヴィの後を追った。
「リーチと六花が居る。軍医さんに無理させんでも良いで」
二人して砦の方へ歩きながら、剛義がそう云うと、イーヴィは微かに眉を寄せて難色を示した。
「……収容してきた者の意識がはっきりしていた場合、リーチ殿からの治療を拒否する可能性があります」
「あ~……」
剛義も「それはそうか」と渋面を作りながら頷く。
「先程聞けなかったので、救助したのがどういう立場の者かも未だ判りません。現在の事情を、受け入れは出来ずとも冷静に聞き入れることは出来る者なのかどうか、判断がついてからでないと――。サヴァナの助力以前に、EV隊から救助されることすら受け入れがたい立場の者とも限りませんので……」
「成る程――。じゃあ、ちょっとサヴァナの連中は、隠れちょく方が良いかもしれんな……。――皮肉な話じゃな、救助されちくる人が、意識無ぇくらいに弱っちょく方が却って良いっちゅうことか」
やれやれ、と云うふうに剛義が首を振り、溜息をついた。イーヴィも一つ息を吐いて、
「お恥ずかしいことです」
と呟いた。
BR19砦の位置発信もかなり弱く、いつまで経ってもレーダーにマークがはっきり見えてこない。たまに瞬間的に明滅はするのだが、直ぐにロストしてしまう……。だのに太狼は、何の目印もない只の砂の大地を全く迷いなく車を進めていくので、ライズはかなりの不安に駆られていた。
心拍数が上がってきて、運動もしていないのに息切れしそうになってきた頃、小さな灯りが遠くに見えた――真正面である、もしかすると太狼は随分前からそれが見えていて、目がけて走っていたのかもしれない――。
近づいて行くと、イーヴィがランタンを高く掲げているのが判った。医務室搬送口の前だ。
太狼は、後部側をそちらに向ける形で車を止めた。
エンジンを止める前に、イーヴィが素早く運転席に回ってきて、窓から、
「タロー殿、降りるのは少し待って下さい。声を出さず」
小さな声で太狼に云って来た。――周辺に剛義や六花達、サヴァナの者の姿が見当たらないところからして、先程ライズからも云われたのと同様、今「一悶着」が起きては困るということだろう。
太狼が黙ったまま頷くと、イーヴィは助手席側に回って、ライズに「ご苦労」と云いながらドアを開けた。
ライズが降りてくると、イーヴィに敬礼を見せた後、先ず
「シド・カユー様でした」
と早口に告げた。それを聞いて、イーヴィは驚きと焦り、そして若干の安堵を感じた――彼ならば、「この状況」を理解はしてくれるかもしれない、そんな期待が過ったためだ。
ライズと共に、車両の後部へ向かいながら尋ねる。
「衰弱しているのか」
「到着時に言葉を交わしましたが、自分が中に入った時には、倒れていました」
後部ハッチを開け、イーヴィが身を屈めて乗り込む。
カユーの顔を見ると、苦悶の表情では無い。イーヴィも彼の首筋にそっと触れて心拍を確認した。
「ライズ君、ストレッチャーを出してくれ」
ライズが医務室に入ると、扉の直ぐ近くにストレッチャーがあり、小さなランタンの灯りの下、緊張が垣間見える表情でエ=ドンが待機していた。
ライズは、車両にくっつけるようにストレッチャーを押し出した。
イーヴィがカユーの頭側から腋に腕を入れるようにして抱え、ライズは足を二本纏めて抱えて、ストレッチャーに移す。
そうした姿勢の変化が刺激になったのか、カユーが「う……?」と小さく呻いて、薄目を開けた。
ぼんやり視界の隅に見える「灰色」の頭髪に、
「フリアイ様……?」
と掠れた声を出す。
イーヴィが彼の顔を覗き込み、「気がついたか」と云いながら力強く頷きを見せた。
「ここはBR19だ。未だ喋らなくても良い、カユー君」
低く響くイーヴィの声が、まるで肌触り良く暖かな毛布ででもあるかのように、ぼんやりとしていたカユーは微かに口元を綻ばせながら、再びゆっくり目を閉じた。
ストレッチャーの高さを、車椅子に座っているエ=ドンに丁度良いよう合わせる。
今のところ「寝入っている」ようにしか見えないので、エ=ドンはイーヴィに小さな頷きを見せ、
「リーチ殿とリッカ殿を呼んでくれ」
と小声で云った。分かった、とイーヴィも殆ど息のような声で答え、搬送口から出て行く。
女性陣の宿舎と決定した野営車は既に砦の北西側に移動しており、医務室の近くにはコンテナだけが置かれていた。剛義やリーチ、六花はその陰に身を潜めていたので、イーヴィが小さな手招きをしながら近づく。
「収容した兵は、昔なじみで私に親しい人物でした。今は意識がありません――リーチ殿、リッカ殿、ウドゥにご助力をお願いします」
イーヴィがそう云うと、リーチと六花の二人が「承知」と頷いて、医務室に入っていった。
剛義がイーヴィに近づき、
「取りあえず、生存者を収容出来たんじゃな。――俺は、仁君に云うちくるわ」
そう云うと、手をひらひら振りながら、探査車の方へ歩いて行く。
ぺこりと頭を下げたイーヴィは、R2に乗ったままの太狼へ顔を向け、コクリと頷き、手招きをした。
車両を降り、イーヴィの下に近寄った太狼は、手にした無線機を彼に差し出した。
「どうせなんで、コレは貴方に渡しておきますよ。何かあった時、役に立つ場面もあるでしょう、後で仁隊長にも云うときます」
ああ……と息を吐き、「有難うございます」と云いながらイーヴィが受け取る。
「最後までご尽力下さったことにも、重ねて感謝します。今度こそ、どうぞゆっくりお休み下さい。――先程、タケヨシ殿がジン殿の下に向かわれたのですが、お父上にも、そうお伝え下さい。改めて『お休み』のご挨拶も、私に要りませんから……」
深々とお辞儀してイーヴィが云う、太狼は、彼の言葉尻に被さるように、
「ああ、いや、別に――ちゅうか、俺の方が、もうちょっと付き合っても良いッスかね? さっきのお人が気になるんで、ちょっと、様子見させて貰っても?」
そう云って、医務室の扉を見やった。それから、多少恐縮そうな表情になり、
「まあ……、今の段階じゃあ、六花姉やんとリーチ兄やんのように俺は役に立たれんから、特別用も無いのが医務室に入ってくんな、っちゅうんなら下がりますけど」
「いえいえ、そうは申しません。――つくづく敵方、その上、今度こそ本当にどんな凝りを持っているか分からない人物だと云うのに、気に掛けて下さっていることへ、私からも感謝致します……では、どうぞ」
イーヴィが扉の方へ手を差し出して、太狼を促した。
――医務室に入ると、エ=ドンとリーチ、六花が何事か言葉を交わしており、ライズが、ストレッチャーに寝かされたカユーの軍靴を脱がそうとしている。
医療系の三人はコクリと何か確認したふうに頷き合うと、リーチは口にペンライトを咥えて手元を照らし、カユーのベルトを外しに掛かった。六花は、戸棚に近寄って、薬剤を探し始める。エ=ドンはストレッチャーの横で車椅子に座ったまま、今のところ「待機」という風情である――エ=ドンの機動力が今はないので、彼の指示の下、リーチと六花が主な作業をする、という打ち合わせをしていたらしい。
取りあえず軍靴を脱がせたライズは、一度エ=ドンに何か問うような顔を見せ、彼から目配せと頷きを貰うと、イーヴィと太狼の下に近寄った。
イーヴィはライズに、
「状況を報告してくれるか」
と小声で云った。
ライズがコクリと頷く。




