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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(4)
281/288

【a5d:svn】(4) -[5]-(1)



 R2車に二人で駆け寄ると、太狼が当たり前のように運転席に回るので、ライズは多少戸惑いの表情を浮かべた。

「運転は自分が――」

「いや、君が助手席(ナビ)に回った方が良い」

 ライズの言葉を遮って云い、太狼は問答する間を作らず運転席に乗り込む。仕方なしにライズは助手席に乗り込んだ。

「それ、ちょお貸して」

 ジンからイーヴィへ貸され、ライズに渡された「無線機」に太狼が手を伸ばす。ライズが渡すと、指先で幾つかボタンやダイヤルの類いを弄り、

「持っちょって」

 とライズに返してから、車のエンジンを起動した。

「取りあえずの方角は?」

 ハンドルを握って太狼が尋ねると、ライズが「南です」と答える。

「じゃ、行くで」

 宣言し、太狼はアクセルを踏んだ。

 しばらくしてから、太狼の方がライズへ云った。

「云うてん、君はまだ体力と気力が万全じゃなかろう。運転で要らん神経使わんで良いよ。俺は多分、君よりか夜目が利くしな」

「――」

「それに、俺は、車載(そっち)の無線とかレーダーの使い方をまだ、よう知らんし」

 助手席側に集まっている機器をチラッと一瞥して太狼が云うと、

「ああ……それもそうか……」

 とライズが呟く。そうだ、目的地近くの軍用車から発せられているという電波(SOS)も、追う必要があったのだった――。それを思い出し、慌ててライズはそのための設定をする。

「イビさんからは『詳細を省』かれたけん、君が状況を教えて」

 ヘッドライトが砂だけを照らしている前を見たまま、太狼が聞いてきた。それでライズが

「〝川〟の向こうで、サヴァナ(そちら)の諜報隊が、近くのトーチカに生体反応があるのを察知したらしくて……」

 と説明した。

 ふむふむ、と己の説明を聞く太狼の横顔を見て、――そういえば、太狼とまともに対峙する(口をきく)のは、これが初めてかもしれない、とライズは思いつく。

 スォ=ハムやウィトは彼に既に「兄貴分」のような信頼、憧憬を持ちかけているなどとイーヴィが云っていたが……ライズは未だ、それが良く分からない。

 剛義に垣間見えるカリスマ性のようなものは感じないし、フローラのように「冷徹」「厳格」な面も見えない。さっき会ったばかりのジンの方が、余程に威厳を感じた――サヴァナ筆頭(タケヨシ)の子息、後継者という割りに、「上に立つ者」だけが持つ特異性が見受けられず、「結構働き者の実働員(したっぱ)」のような印象しか無い……工兵・技師であるスォ=ハムやウィトには、それこそが「憧憬」を抱く理由として何より、ということなのだろうか……?

 今こうして己が状況を説明している間の表情にも、それほどの変化は無かった。冷静と云ったら聞こえが良い、まるで「愚鈍」に思える程、感慨の揺れ動きが見受けられないのだ。先程、ジンという彼の上司は、太狼を「〝ハナ〟(あの女)よりは情が先に来る」と評価していた筈だが……。

 ――自分がサヴァナに対して、完全な信頼を寄せている訳では無いことを、彼も分かっているだろうに、本来なら敵である筈の己を太狼はどう思っているのか、全く伝わって来ない。そんなものだから、ライズは、却って剛義やフローラよりも、警戒心を未だ残していた。

 ライズが手にしていた、サヴァナ側の無線機から、ノイズ混じりのジンの声が聞こえてきた。

「こちら、ジン。少し進路がずれています、気持ち東に向かって下さい、十一時の方向」

 どちらが運転しているのか分からないからだろう、言葉が丁寧だ。それが少し琴線に触れたのか、ジンにとって部下である太狼が、口元を綻ばせた――その表情を見て、ライズは少し驚く。愚鈍というより、肝が据わっている……ということだろうか。今、自分達はある種の「危険」に向かっている、緊張を強いられた状況にある筈だが、その笑みは、決して引き攣ったりしておらず、随分朗らかだった。

「了っ解!」

 運転席の太狼が、無線機と離れているので、少し大きな声を出した。

 次に無線機から聞こえてきたのは、イーヴィの声だった。

「ライズ君、対象車両の電波は感知出来たかね?」

 ライズは正面の機器を確認してから、手にした無線機の表面を見て少し狼狽えた顔をした。すると、太狼が、

「どっか押さえたり口近づけたりせんでも、普通に喋れば良いで」

 横目にライズの顔を見、あっさり云った。

 大声を出しただけで太狼の声は通じたらしいから、特に操作は不要なのは判ったが――今まで使ったことがある「無線機」(トランシーバー)と違い、マイクらしき網目等が無いものだから、大声を出さない場合、何処に向かって喋れば良いのか直ぐに判らなかった。

 ライズは「……すいません」と太狼に小さな声を出してから、無線機の相手である隊長に向かって答えた。

「駄目です、まだ捕捉出来ません。SOSに限らず、位置表示の発信機も正常に動作していないのか、レーダーに出ません」

「……そうか。ならば、このままこちらからナビゲートする。運転しているのはタロー殿なのだな?」

「そうです」

 ライズが答えると、指示するのが再びジンに代わった。

「太狼君、トーチカまで三百メートル程になったら予告するので、徐行してくれ。君が目視で確認出来るようなら百メートル手前から一旦ライトを消せ。停めるのは五十メートル程度、最も近くて二十メートルは離せ」

「了解!」

 太狼が答えると、またしてもジンからイーヴィに代わり、

「ライズ君、車を降りたら、トーチカに向かう前に、対象車両の状態を確認したまえ。電波の不調が、故障等の機械的なものなのか、それとも意図的なものなのか。それを先ず確認するんだ。機械的な判断が君に難しいようなら、タロー殿に見て貰いなさい。意図的に電波を弱らせているのでは無いことが判ってから、トーチカ内部を確認しろ」

「――。了解しました」

 少し間が空いてライズが答え、通信はそこで一旦切れた。

 そこからしばらく、車は何事も無く砂漠を走った。その間、ライズは車載のレーダーと無線機を見つめていた。手にしているサヴァナの無線機からナビゲートの声が聞こえないので、方向は間違っていないのだろうが……、レーダーに反応が無い。ライズが段々やきもきしてきたところで、太狼が「お?」と声を出しながら、スピードを緩めた。

 ライズがピクリと顔を上げ彼の横顔を見ると、太狼はハンドルを片手で持ち、片手で前方を指差した。

「何かある。……何やろ、随分平たいなあ」

 独り言のような口調で太狼が云い、チラッとライズの顔を見た。

 ライズも彼の指差す方向に目をこらしたが、――暗闇だ。

 夜目が利くとか云っていた、一体どのくらいの距離に、何を太狼は見ているのだろう。

「後どのくらい、距離があるように見えますか」

 ライズが尋ねると、太狼が、「一キロは無い…か?」と答えた。それを聞いて、ライズは軽く呆れた。他の施設からの人工的な灯りが背後に見えているとかなら兎も角、その距離がこの星明かりだけの暗闇で見えるのか。

 と、その辺りで、レーダーにぽつりと光が灯った。

 その光の色からすると、トーチカからの位置情報信号が、やっと捉えられたようだ。

「――『平たい』と云いましたね」

「うん、天井?が低すぎて、『小屋』にも見えんわ」

「じゃあ、それです。砦と違ってトーチカは、空間が地下に埋まっているんです。――今、位置情報が捉えられました、方向は間違ってません。もうすぐジン殿から合図が来ると思います」

 その予想通り、ジンの声が無線機から聞こえてきたので、太狼はよりアクセルを緩め、ゆるゆると近づいて行く。

 先に云われていたようにライトを消すと、トーチカの影はおろか目の前の砂の地形すら見えなくなって、ライズは不本意ながらゾクッと背筋を震わせた。

 その時、無線電波も捉えられた。シャー……と平らだった音が、ジャリジャリとした耳障りな音に変わる。聞いていた通り、どうもSOSの〝モールス信号〟のようだ――が、はっきりそれと判らないくらいに、ブツブツと細切れで聞こえてくる。

 動いている実感が無い程の徐行になり、太狼が、

「四角の面が、東西南北に向いちょるな。どこら辺に停めるんが、一番安全なん?」

 とライズに尋ねた。

「もしかして『罠』かもしれんっち云うんなら、向こうに気付かれん位置に回った方が良いじゃろ?」

「あ、ああ……そうですね――。じゃ、東側に停めて下さい。そっちは、偵察用の小窓等が無いので、中からは見えません」

「了解」

 若干ハンドルを動かし、じわじわと太狼が東側に回る。

「で、どうする、ライズ君? 俺は五十メートル離れても全然構わんけど、君にはあんまり暗ぇけん、不安がありゃせんかえ。二十メートルで停めるか」

「――。出来たら、そうして下さい」

 自分の中で何となく悔しいというか恥ずかしいというか、そんな気分もあったが、自分の目が全く利かないのもそうなので、ライズは「お願いします」と頼んだ。

 オッケ、と軽い口調で応じ、太狼はトーチカの東側、南を正面に見る形で停車した。

 停めたは良いが――段取りはどうすべきか。イーヴィは、先ず放置された車両を確認してから、トーチカの内部を探れと云っていた、安全を確保してそれをするためには……。

 目をこらして顔の角度を変えれば、星空が背景になって、ライズにも何とかトーチカの影が見えるのだけども……、いざ、車を降りて「歩く」ことを考えたら、かなり心許ない。這いつくばって手探りの移動か――?


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