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救護車が見えなくなるまで見守っていたイー・ル兵と違い、リーチと六花は、スピードが安定するところまで見届けたら直ぐに、顔を見合わせて言葉を交わしていた。
フローラが、そんな二人の下に駆け寄る。
「……じゃ、六花姉さん、俺はちょっと、軍医さんと話してきますね」
とリーチが義理の叔母に告げて、フローラとすれ違いながら医務室へ戻った。
六花がリーチにひらひらと手を振った後で、フローラに
「どうしたの?」
と訊く。――さっきも、何か問いたげだったし。
フローラは小首を傾げて、
「……義一様が、『お身内』を寄越した方が良いと考えたのは理解出来るのですけど、それだったらリーチさんだけでも良かったのでは? イーヴィ殿は、ナースか医者と仰ったのですから、二人ともがいらっしゃらずとも……」
「でも、フローラちゃん、女の子あんた一人で此処に置いちょくのもなんやろ」
実際、「医者かナース」の筈が「医者とナース」になっているだけで戸惑ったのでは、無い。フローラはそっちを疑問に思ったのだ。最初に姿を見せた時は、百代とサリーも含めて、「女子」の方が多かったから――義一には「イー・ル兵が男性ばかりだから、同性の方が良かろう」と云った筈だったのに。
「それは、義一様が仰ったんですか? 六花様にわざわざ命じられたのです?」
「義一が最初に声を掛けたのはリーチ君よ。私には、『おまえはどうする』って訊いてきたけん、あんたが女ン子一人で居るっち云うんなら、行こう、と思うたん。――キルシュちゃんも居ったのは知らんかったけど、もう一人女の子が居るんなら、丁度良かったわ、もう少しバランスが良くなる。あんた一人より、私は小母ちゃんやけど二人、それよりは三人で偏りが減る」
フローラがピクリと目を狭めた。
「……何故、それをそんなに気になさいます。私は『紅一点』であることを考慮してません。それに、イー・ルの方々も、全く疚しいところの無い紳士ですよ?」
今度は六花の方が、呆れたふうに溜息をつき、微かに眉を顰めながら腕を組んだ。
「花ちゃん、そりゃあちょっと、無頓着すぎる。無神経っち云うもんで?」
「え?」
フローラには珍しく少々たじろいで、鎖骨の辺りに手を当てた。
「こっちの隊員さんが『紳士』っち云うんなら、尚のことよ」
「……は…?」
「あんたがいくら気にせんと云うても、隊員さん達の方が『雑魚寝』を、自分にもあんたにも許さんやろ、あんた一人のために『寝室』を一つ空けると思うで? ご不浄を使う時も、あんたと鉢合わせにならんように気を遣うわぁ」
「――」
「そういう状況で全然気を遣わん男は、ただ『デリカシーが無い』だけじゃけん、さておいて――『紳士に思われたいだけの人』は、渋々で気を遣うけん、『不満』に自覚がある。『完成しとる本物の紳士』やったら、意識せずに自然と気遣いが出来るけん、それを負担にはせん。――『紳士であろうと努める男性』が、一番デリケートなんよ、花ちゃん?」
六花は小首を傾げて苦笑した。
「意識して『そうすべき』と思うから、『本物』と比べると不満がほんの少しずつでも溜まるのよ。で、ストレスの方に自覚が無い。するといつか、心身の不調か他人への攻撃っち云う形で『爆ぜる』の。――『本物』と『努力』の違いは、簡単には分からんもんよ?」
「――」
むぅ……と思案げに眉を寄せたフローラに、六花は一つ溜息をついた。
「殿方のメンタルに限った話じゃないんよ? 露骨じゃけど実際の話、……花ちゃん、あんた、生理の時はどうするつもりじゃった。一体いつまで此処に居ることになるんか分からんのに。――いくらあんた自身が常日頃『そん時』と普段とに変化無いと思ってても、絶対少しはパフォーマンス落ちるで、何せ、『時間の使い方』が変わるんやけん。その時だけは絶対に、『紅一点』を気にせん、とは云われんよ?」
同性の先達からの厳しい指摘に、フローラが「うっ」と息を飲む。
「もうアガりかけで、こっちこそデリカシー無ぇなりよる小母ちゃんはまだしもよ――あんたも本当のところ、乗りかかった船から降りるんは癪に障る、意地持った子やろ。そんなことで誰かと交替する羽目になって、顛末を見届けられんのは、嫌じゃないん?」
「それは……はい……」
「やったら、自分が女で周りは異性ばっかりやと、最低限の意識はしとかないけんよ、花ちゃん」
「――」
「イー・ルとサヴァナの別も関係無いんよ? 何なら、サヴァナの連中の方がデリカシーは無ぇけん、味方の中で先に衝突が起きるわ。――そげんことならんように、いっそ女子は、私、あんた、キルシュちゃんの三人で『組』になってな。生活に関しちゃあキッチリ線を引いて、『この線からこっちに男性は入って来るな』『入ってきたら酷いよ!』って状態にした方が、話が簡単になるじゃろ。何だかんだ、『行動』が執りやすくなると思わん?」
六花が、己とフローラ、探査車に居るキルシュも含むように、人差し指でグルッと空中へ円を描き、次に片足で砂へ乱暴に線を引くと、それを跨ぐ仕草を見せた。そして、大げさに憤怒の相を作りながら拳を振り上げる。
フローラは神妙な顔になり、
「……その通りだと思います」
と、頭を垂れる。
昼間はオリバーに、「今、男女の違いなど関係無い」と突っぱねたフローラだった。実際、あの時点では、あれが適切な判断だったと、今も自信を持っている。
だが、現時点では、違う。ストレスが溜まりやすい切迫した状況が、「長期」「無期限」になったのだから――サヴァナ、イー・ル共々、明確な目的がある以上、それとは無関係の、混乱や衝突が生じかねない余計な要素は取り除いた方が良い。そのためには、現状では、男女を「気にしない」ことよりも、「区別を明確にする」方が、余程「合理的」だ。
自分も未だ修行が足りないな、とフローラは、
「思慮が浅かったと、自分でも思います。申し訳ありません」
六花に改めて頭を下げた。
六花は苦笑して、「私に謝ることじゃねえよ」と手を振った。
「では、キャンピングカーでいらしたのは、それで――」
「そう。二人だけやったら『悠々』やけん、ちょいと男衆と不公平感あるけど、キルシュちゃんも居るんやったら、ほんと丁度良かったわ。もう一人居ったら、胸張って『こっち来たらぶん殴る!』っち云えるとこよ」
フローラがほんの微か苦笑を浮かべた。野営車には簡易ベッドが四つ設えられている。
「ああ、そうよ。じゃあけん、イー・ルん人にも釘刺しとかないけん。――隊長さんは、あの人やったな」
探査車の方へ歩いて行くイーヴィを見て、六花が慌てた声を出した。
そうです、とフローラの答えを、聞くが早いか六花は駆け出す。
「――ちょいと済みません、イーヴイーさん」
「はい?」
――剛義の「蝦」よりはマシだが、多少癖のある発音で呼び止められ振り向くと、六花が大きく手を振りながら駆け寄ってきた。
「何か」
「今のうちに云うときます。――あのね、あの車両」
振り向いて、まだコンテナと繋いだままの野営車を指差した。
「コンテナには、医療物資と炊き出しの道具入れてるんで、彼処で切り離しときますけど――あれね、キャンピングカーなんですよ。後でまた、砦の北っかわにでも移動しましょうかね、あれを、女子組の宿舎ってことに決めとくんで、隊員さんたちに云っておいて貰えますか?」
「ああ……」
それを聞いて、イーヴィは安堵したふうに息を吐いた。
六花の予想どおり、イーヴィ達も、「女性」の扱いはどうしたものかと困惑していた部分があったのだ。剛義達と違い、軽々しく「もう休んでください」と云えないので……。
六花の側から、今のうちにそれを宣言されたことで、イーヴィは――実は傍らに居たライズも――一つ「荷を下ろした」気分になれた。
「分かりました、伝えておきます」
「探査車に何か御用なんですか? キルシュちゃんにも伝えてください、探査車で仮眠しなくても良いよって」
「分かりました」




