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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(4)
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【a5d:svn】(4) -[4]-(1)



 救護車が見えなくなるまで見守っていたイー・ル兵と違い、リーチと六花は、スピードが安定するところまで見届けたら直ぐに、顔を見合わせて言葉を交わしていた。

 フローラが、そんな二人の下に駆け寄る。

「……じゃ、六花()さん、俺はちょっと、軍医さんと話してきますね」

 とリーチが義理の叔母に告げて、フローラとすれ違いながら医務室へ戻った。

 六花がリーチにひらひらと手を振った後で、フローラに

「どうしたの?」

 と訊く。――さっきも、何か問いたげだったし。

 フローラは小首を傾げて、

「……義一(先代)様が、『お身内』を寄越した方が良いと考えたのは理解出来るのですけど、それだったらリーチさんだけでも良かったのでは? イーヴィ殿は、ナースか医者(ドクター)と仰ったのですから、二人ともがいらっしゃらずとも……」

「でも、フローラちゃん、女の子あんた一人で此処に置いちょくのも()()やろ」

 実際、「医者()ナース」の筈が「医者()ナース」になっているだけで戸惑ったのでは、無い。フローラは()()()を疑問に思ったのだ。最初に姿を見せた時は、百代とサリーも含めて、「女子」の方が多かったから――義一には「イー・ル兵が男性ばかりだから、同性(とのがた)の方が良かろう」と云った筈だったのに。

「それは、義一様が仰ったんですか? 六花様にわざわざ命じられたのです?」

義一(おじい)が最初に声を掛けたのはリーチ君よ。私には、『おまえはどうする』って訊いてきたけん、あんたが女ン子一人で居るっち云うんなら、行こう、と思うたん。――キルシュちゃんも居ったのは知らんかったけど、もう一人女の子が居るんなら、()()()()()()わ、もう少しバランスが良くなる。あんた一人より、私は小母ちゃんやけど二人、それよりは三人で偏りが減る」

 フローラがピクリと目を狭めた。

「……何故、それをそんなに気になさいます。私は『紅一点』であることを考慮(気に)してません。それに、イー・ルの方々も、全く疚しいところの無い紳士ですよ?」

 今度は六花の方が、呆れたふうに溜息をつき、微かに眉を顰めながら腕を組んだ。

()()()()、そりゃあちょっと、無頓着すぎる。()()()っち云うもんで?」

「え?」

 フローラには珍しく少々たじろいで、鎖骨の辺りに手を当てた。

「こっちの隊員さんが『紳士』っち云うんなら、()()()()よ」

「……は…?」

「あんたがいくら気にせんと云うても、隊員さん達の方が『雑魚寝』を、自分にもあんたにも許さんやろ、あんた一人のために『寝室』を一つ空けると思うで? ご不浄(バスルーム)を使う時も、あんたと鉢合わせにならんように気を遣うわぁ」

「――」

「そういう状況で全然気を遣わん男は、ただ『デリカシーが無い』だけじゃけん、さておいて――『紳士に()()()()()だけの人』は、()()()気を遣うけん、『不満(ストレス)』に自覚がある。『完成しとる()()の紳士』やったら、意識せずに自然と気遣いが出来るけん、それを負担(ストレス)にはせん。――『紳士()()()()()()()()男性(おとこし)』が、一番デリケートなんよ、花ちゃん?」

 六花は小首を傾げて苦笑した。

()()()()『そうすべき』と思うから、『本物』と比べると不満(ストレス)がほんの少しずつでも溜まるのよ。で、ストレスの方に自覚が無い。するといつか、心身の不調か他人への攻撃っち云う形で『爆ぜる』の。――『本物』と『努力』の違いは、簡単には分からんもんよ?」

「――」

 むぅ……と思案げに眉を寄せたフローラに、六花は一つ溜息をついた。

殿方(おとこし)のメンタルに限った話じゃないんよ? 露骨じゃけど実際の話、……花ちゃん、あんた、生理(月のもの)の時はどうするつもりじゃった。一体いつまで此処に居ることになるんか分からんのに。――いくらあんた自身が常日頃『そん時』と普段とに変化無いと思ってても、絶対少しはパフォーマンス落ちるで、何せ、『時間の使い方』が変わるんやけん。()()()()()()()()()、『紅一点』を気にせん、とは云われんよ?」

 同性の先達からの厳しい指摘に、フローラが「うっ」と息を飲む。

「もう()()()()()で、こっちこそデリカシー無ぇなりよる小母ちゃん(わたし)はまだしもよ――あんたも本当のところ、乗りかかった船から降りるんは癪に障る、意地持った子やろ。()()()()()()誰かと交替する羽目になって、顛末を見届けられんのは、嫌じゃないん?」

「それは……はい……」

「やったら、自分が(おなご)で周りは異性(おとこし)ばっかりやと、最低限の意識はしとかないけんよ、花ちゃん」

「――」

イー・ルとサヴァナ(敵味方)の別も関係無いんよ? 何なら、サヴァナの連中(おとこし)の方がデリカシーは無ぇけん、味方の中で先に衝突(ケンカ)が起きるわ。――そげんことならんように、いっそ女子(おなごし)は、私、あんた、キルシュちゃんの三人で『組』(グループ)になってな。生活に関しちゃあキッチリ線を引いて、『この線からこっちに男性(おとこし)は入って来るな』『入ってきたら酷いよ!』って状態にした方が、話が簡単(シンプル)になるじゃろ。何だかんだ、『行動』が執りやすくなると思わん?」

 六花が、己とフローラ、探査車に居るキルシュも含むように、人差し指でグルッと空中へ円を描き、次に片足で砂へ乱暴に線を引くと、それを跨ぐ仕草を見せた。そして、大げさに憤怒の相を作りながら拳を振り上げる。

 フローラは神妙な顔になり、

「……その通りだと思います」

 と、頭を垂れる。

 昼間はオリバーに、「今、男女の違いなど関係無い」と突っぱねたフローラだった。実際、あの時点では、あれが適切な判断だったと、今も自信を持っている。

 だが、現時点では、違う。()()()()()()()()()()()切迫した状況が、「長期」「無期限」になったのだから――サヴァナ、イー・ル共々、明確な目的がある以上、それとは無関係の、混乱や衝突(トラブル)が生じかねない()()()()()は取り除いた方が良い。そのためには、現状では、男女を「気にしない」ことよりも、「区別(すみわけ)を明確にする」方が、余程「合理的」だ。

 自分も未だ修行が足りないな、とフローラは、

「思慮が浅かったと、自分でも思います。申し訳ありません」

 六花に改めて頭を下げた。

 六花は苦笑して、「私に謝ることじゃねえよ」と手を振った。

「では、キャンピングカーでいらしたのは、それで――」

「そう。二人だけやったら『悠々』やけん、ちょいと男衆(おとこし)と不公平感あるけど、キルシュちゃんも居るんやったら、ほんと丁度良かったわ。もう一人居ったら、胸張って『こっち来たらぶん殴る!』っち云えるとこよ」

 フローラがほんの微か苦笑を浮かべた。野営車には簡易ベッドが四つ設えられている。

「ああ、そうよ。じゃあけん、イー・ルん()にも釘刺しとかないけん。――隊長さんは、あの人やったな」

 探査車の方へ歩いて行くイーヴィを見て、六花が慌てた声を出した。

 そうです、とフローラの答えを、聞くが早いか六花は駆け出す。

「――ちょいと済みません、イーヴイーさん」

「はい?」

 ――剛義の「(いび)」よりはマシだが、多少癖のある発音で呼び止められ振り向くと、六花が大きく手を振りながら駆け寄ってきた。

「何か」

「今のうちに云うときます。――あのね、あの車両(くるま)

 振り向いて、まだコンテナと繋いだままの野営車を指差した。

「コンテナには、医療物資と炊き出しの道具入れてるんで、彼処で切り離しときますけど――あれね、キャンピングカーなんですよ。後でまた、砦の北っかわにでも移動しましょうかね、あれを、女子組(おなごし)の宿舎ってことに決めとくんで、隊員さんたちに云っておいて貰えますか?」

「ああ……」

 それを聞いて、イーヴィは()()したふうに息を吐いた。

 六花の予想どおり、イーヴィ達も、「女性」の扱いはどうしたものかと困惑していた部分があったのだ。剛義達と違い、軽々しく「もう休んでください」と云えないので……。

 六花の側から、今のうちにそれを宣言されたことで、イーヴィは――実は傍らに居たライズも――一つ「荷を下ろした」気分になれた。

「分かりました、伝えておきます」

「探査車に何か御用なんですか? キルシュちゃんにも伝えてください、探査車(そっち)で仮眠しなくても良いよって」

「分かりました」


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