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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(4)
272/277

【a5d:svn】(4) -[2]-(3)

サヴァナ(われわれ)が、イー・ル軍の人員・兵員の動きを観察するにあたっては、基本、十~二十名程度の(かたまり)でマークしておりますから……。それ以下の小隊や一人一人となりますと、より細やか(デリケート)なトレース方法を選ばなければなりません」

「それは……やっていないのですか」

「筆頭より要請を受け、私がこちらに出発する際、今後のトレースはそちらをメインにするよう、警備隊長と話しました。〝川沿い〟で調査が始まっていると思います」

 ジンの冷静な声に、イーヴィはピクッと目を細める。――気が利く、とイーヴィも一瞬思ったが、優秀()()()気もする。何故、要請が来た段階で直ぐに、そんな考えが回るのだ。

 イーヴィがそれを尋ねると、ジンは表情も変えずに答えた。

「貴方方が本当に、後退命令も出されずに放置されたのならば――そんなことをされるくらいに、本営や国家にとって『疎ましい』人員が前線に追いやられているということならば、貴方方以外にも取り残されたイー・ル兵は居るのではないかと……想像してのことです」

「――」

「この砦は、最前線と云っても北端です。――もっと戦闘が激しかった中央寄りに、貴方方のような隊、あるいは隊員が、取り残されている可能性は、全く無いのですか?」

 ジンがそう云うと、イーヴィは唇を噛んだ後で、

無い(ゼロ)、とは云えません」

 と震える声で答えた。

「貴方が、西側にもSOS発信を行ったのは、()()だったと思います。が――、本国から見放されていると同時に、サヴァナ(我々)のことは『悪魔(てき)』だと見なしているが故に、()()()()()をしている兵員が居られたとしても、それは『仕方のないこと』だとも思います」

 冷静なジンの言葉に、イーヴィが膝の上で無念そうに拳を作る。

「我々が〈同盟〉と同等に見なしているのは、あくまで貴方とその隊ですから、孤立した方々を()()()()救助しようとは思いません。彼らにとって、我々(サヴァナ)から救助されるということは、屈辱的なことでもありましょうから」

「それは――その通りです……」

「ですが、……私個人の、感情的な物言いになりますが、『己の思い通りにならない邪魔な民・人員を、戦争の最前線に送り、生死を戦闘の成り行きに任せる』という体制(イー・ル)のやり口が()()()()()()のも、事実なのです」

 声色は冷静なままなのだが、ジンも眉間に皺を寄せて、イーヴィの目をジッと見た。

「――たった今最前線に、大導師長から見捨てられた瀕死の兵員が居たとして……、この瞬間にも、自決の覚悟を決めてしまった方など居られようものなら、無念と云うより他無い。そうでなくても、知らぬ振りで見殺しにすることが、現実的に『戦争の相手(てきがた)』の上層部、権力者を()()()()ことになるのであれば、臍をかむ思いがします」

「ジン殿――」

 それは実際、「個人的な感情」の吐露だ。〝ハナ〟と同様の「冷静沈着」という印象を抱いていたから――実際、声色はずっと冷静を保っているのだが――、こんな「考え方」を内に持っているとは思っていなかったので、イーヴィは嘆息した。

「ならば、生存者を救助す(たすけ)ることこそ、()にとって大層()()()()()()ことです。大導師長への『嫌がらせ』とでも云えましょうか。()()()――サヴァナ(こちら)でも民の個々が持つ遺恨はそれぞれですが――警備隊長共々、役職に就く者としては、戦時の『索敵』を越えた『生存者の捜索』をメインとする方向にシフトしたんです」

 イーヴィが歯を食いしばり、頭を下げるように項垂れた。

 一体、イーヴィの胸にどんな感情が過ったかは判らない――ジンが、敢えてのことか口元を皮肉な形に歪ませた。

「第一――、サヴァナが防衛に徹していたのは、あくまでもサヴァナ(我々)の『方針』であって、『戦争のルール』だった訳ではありません。我々は、『後手』だと()()()()()()のじゃないんですよ」

「……は?」

 イーヴィが顔を上げて、何の話だ、と目を細めた。

「宣戦布告をしてきた側が、〈核弾頭〉を発射し、それが失敗したと思ったら、そのまま何の動きも無し――『長考』でもしてるんですか。サヴァナ(我々)がそちらの次の出方を、馬鹿正直に『待っている』と思ってるようなら、イー・ルの上層部は、相当暢気ですよ」

「……」

「ここまで数年間、川を渡らせもしなかったサヴァナに、前線の後退が『バレていない』とでも? それも暢気な慢心というものです。――我々は、()()()()()()()()()()()()、〈核攻撃〉が失敗に終わったことで既に手が尽きたなら、『停戦』を申し出てくれても良い。まだ戦争を続けるつもりなら、一刻も早く、再編と再配置をするべきです。それをしていないんですから……()()()()()()()我々が、川を渡って進軍したとして、何か可笑しな所はありますか」

 皮肉な笑みと声色を作り、ジンが云う。

「そこで空の砦と瀕死のイー・ル兵を発見したとして、サヴァナ(我々)は、『止めを刺す』ような性質をしていません。空の砦を破壊するような()()()()真似もしないです、占拠して(つばつけて)文句云われる筋合いは無い。人員については、『生存者の救助』が屈辱だと云うのなら、『捕虜の連行』とでも思って貰って構わない。――どこか、()()()なところはありますか」

 ――筆頭(タケヨシ)と同じ事を、諜報隊長(ジン)も云った。

 イーヴィの顔に、再び自嘲めいた苦笑が浮かぶ。

「先に申しました通り、()()()に救助を行うつもりはありません。筆頭(たけよし)の命令か貴方からの要請があるならば、平原(サヴァナ)側からの救助も開始致しますが――現状は、生存者の『捜索』だけです。その情報を、此方(わたし)に寄越すよう、通達しております」

「……そうですか――」

 イーヴィは溜息をつきながら頷き、

「お心遣いに感謝します」

 とジンに云った。

 何を感謝することがある、と云いたそうにジンは目を細めたが、イーヴィは実際、ジン、あるいは警備隊長等も含めたサヴァナの「気の回し方」に感心し、同時に感謝していた。

 「敵方からの救助」あるいは「捕虜として連行」――どちらも、イー・ル人にとって「死んだ方がマシ」と思うくらいの屈辱だ……まして、その時〝魔法〟が使われたとなれば。「それでは意味が無い」という意識が、余程、(サヴァナ)の側にある。

 生存者の情報だけが此処、BR19に寄せられたならば、()()()()救助に向かえる――(サヴァナ)の方が余程、(イー・ル兵)を「生かす」手段を考えている。

 勿論、タイムロスは生じる、たった今こうしている間にも、息絶えようとしている同胞が居ないとは限らない。頼めるものなら、今すぐにでも救助に向かって貰いたい。

 だが、自分(イーヴィ)と同じくらいに「()の有無は全て〝神〟に委ねる」という()()を持った上で、その時々の決断を下せる同胞ばかりじゃないことも確かなのだ。()()の方を〝神〟に委ねる気色――本人は「覚悟」だと思っている「諦め」に陥った同胞も、居ないとは限らない……。

 イーヴィはクッと唇を引き結び、ベンチから腰を浮かせた。

 モニタの方へ手を伸ばし、〝川〟に近い砦をいくつか指差す。

「――ジン殿、此処『BR13』、此処『BR00S』、此処『NC08』――を先ず調べて貰えませんか」

 ジンが素早くメモを取りながら尋ねる。

「残留者の心当たりがあるんですか」

「――知らない間に異動があったかもしれないので確かなことは云えませんが……、教導省で私の部下だった者や、同輩が配属されたと記憶しています。――私と同じ状況に置かれた可能性があります」

 鋭い光を目に宿らせて、イーヴィが云う。ジンが「畏まりました。最優先で」と厳かに答える。

「必要ならば、無線を中継しますが――無論、サヴァナを介しているとは判らないよう隠蔽します」

「お願いします」

 イーヴィは迷う様子も見せず、きっぱりと答えた。



 外の様子が分かるよう出入口は開けたまま、太狼達五名はトラックのコンテナ内で車座になり、水と補給食を分け合っていた。

 キルシュがオリバーやスォ=ハムに、

年齢(とし)はいくつ?」

配偶者(おくさま)や恋人は居るの?」

 等々、かなりパーソナルなプロフィールを尋ねて会話しようとするので、イー・ル側の二人は随分たじろいでいた。

 ――太狼の方も、フローラほど自覚を持ってロジカルに考えてはいないものの「仲良くなる必要は無い」と思っていたので、そうした雑談を振る気は今まで湧いてこなかった――そもそも、そんな時間(ひま)は無かったのもあるし――。ちらりとフローラと視線を合わせ、太狼が苦笑を見せた。

 「あの、その」と困っている二人に、フローラが助け船を出す。

「……キルシュ、イー・ルの方はあんまりそういう個人的なことを、特に異性とは話さないものよ。お二人が紳士だからこそ無下にも出来ないし、困ってしまうわ」

「あら、そういうものなの?」

 と、これまた気楽にオリバーとスォ=ハムに確認するので――肯定も否定も出来ない問いだし――、二人は困った顔を見合わせる。

 そんな時――オリバーとスォ=ハムにとってはタイミング良く――、太狼がピクッと顔を上げ、

「後続が着いたごたんで(ようだよ)

 そう云いながら立ち上がり、コンテナの扉から外を覗いた。近くに居たキルシュも、「そう?」と云いながら同じように立ち上がる――オリバーとスォ=ハムはホッと胸をなで下ろした――。

「何で分かったの、タロさん。まだあんなところじゃない」

 太狼はコンテナから飛び降りる。キルシュも、感心したのか呆れたのか、どっちともつかない声色で云いつつ太狼に続き、残りの三人も自然と追いかける格好になって、砂漠へ降りた。

 ――キルシュの云う通り……かなりの距離が、まだ有る。砂を走る音もエンジンの音も聞こえない。

 それでも、ライトは完全に此方を向いており、もう迷うことも無く数分の後に辿り着くだろうことは判る。

 フローラがオリバーに声を掛けた。

「オリバー殿、後続は医療班ですから、もう医務室の近くまで誘導しますね。エ=ドン殿に告げて来て下さい」

「分かりました」

 こくっと頷いたオリバーに、スォ=ハムが慌てた顔を見せる。

「あ、あの、オリバーさん、俺もついてって良いッスか?」

「――悪い筈はないよ。リモ君が気になるんだろう、行こう」

 オリバーが微笑んでスォ=ハムの背中を軽く叩き、医務室の方へ共に向かった。

「……あれ? 探査車、もう〈アンテナ〉出してる」

 向かってくるライトでは無く、そちらに目を向けて、キルシュが小首を傾げた。

「起動は後で良いって云ってたのに。隊長だけで大丈夫だったかな、ちょっと見てくる」

「――仁隊長じゃち(だって)、素人じゃねぇど」

 何だか心配そうな声色で云って足を踏み出したキルシュに、太狼が苦笑を浮かべながらそう云った。


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