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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(3)
262/277

【a5d:svn】(3) -[5]-(4)

「――そげんことが簡単に想像出来るけん、事態(はなし)をややこしく(しゅ)せんために、化け物が出たら砂漠(ひがし)には入れんごつするつもりでおっちょんのじゃ、俺達ゃ。イー・ル(あんたの国)()()ちゃるつもりの『義務感』じゃねぇよ――出会うた今、俺が蝦さん(あんた)個人を買うちょるのは確かじゃが、『イー・ル』に()()()()()()()()気色はさらさら無ぇ」

 剛義の淡々とした声に、イーヴィは一瞬息を飲んだ後で、微苦笑を浮かべ「それで良い」というふうに小さく頷いた。そして、ざっと隊員達へ視線を巡らせる――スォ=ハムとクォンは戸惑いの表情を浮かべ、オリバーは神妙な顔付きをしており、ライズは唇を引き結んでいた。

 ――剛義を……、彼が筆頭を務めているサヴァナを、ある程度信用しているのは事実である。しかし、まだサヴァナは「敵方」なのだ。今の剛義の言葉には、イーヴィ自身も含めて隊員達が彼らを「味方」だと()()てしまいそうになるのを押し留める効果が、確実にあった――。

「――少なくとも、サヴァナ(おれとこ)、フリュス、サウザーのような〈魔術〉が当たり前の土地じゃったら、〈魔術士〉じゃねえ民衆も『自分には感じられない(わからん)けど〝ある〟』っちゅう『世界』のことを、ぼんやりとでも()()ちょる。今まで見たことねぇ生き物――『化け物』見ても、そりゃまあ、怖ぇのは当たり前じゃけど、『見たことがねぇだけで、今までも()()()んかもしれん』と思うことが、()()()()()()()()んじゃ。じゃけん、サヴァナ(おれかた)に限らずフリュスとサウザーも――それ以外の〈魔術〉(まほう)が当たり前の土地も多分――、あの〝筋〟をどげぇかすんのは〈魔術士〉(おれたち)じゃと思うちょる。出来たら、その『国』のなかで()()をしちしまいてぇ、っち」

「……」

イー・ル(あんたがた)とかルォーバンは特別、CFCも〈魔術士〉(ひと)は雇うちょるごたるけど権力者(トップ)は『理解してない』っちゅう意味で――『自分が生きちょる〝この世〟以外に〝世界〟は()()』っち思うちょる『国』には、民衆を落ち着かせちょくことすら出来ん。その割に、多分、『〈魔術士〉(わあどう)のせいじゃろうが、どげぇかせえ(どうにかしろ)』っちゅうことだけは喚くじゃろう――俺達にも訳が分からんのじゃけん、どげぇもならんのじゃが、そげんこと云われんでん(なくても)『どげぇかしよう』とは思いよるのの邪魔にしかならん。結果、〝この世〟が()()になる」

 今度は、馬鹿にしたような鼻息でなく、剛義が「はあ…」と息を吐いた。

「じゃあけ〈魔術士〉(おれたち)の『土地(くに)』の中だけで何とかしてぇんじゃ。……っち云うてん、『化け物(あいて)』は()()()()(だぞ)、〝この世〟だけで考えてん、鳥が国境越えるんを止められる人間やら居るか? 地を這う動物でん、『人』が引いた線やら、知ったこっちゃねぇわ」

「……仰る通りです」

「要は、な――」

 ちらっと西の〝筋〟を見た後で、剛義は

「ぶっちゃけ、俺達は、()()()()()()()()()()()のよ」

 そう云って、イーヴィの目を真っ直ぐに見――次には、隊員達に視線を巡らせた。特にライズに対しては、イーヴィと同様、しっかりと目を見た。ライズが眉を寄せ、グッと唇を引き結ぶ。

「じゃけん、蝦さん、あんたの隊とだけでも『休戦』に至れたのは、俺達にとって願ったり叶ったりじゃったんよ。――本音云やあ、ダラダラ戦争しよらんと、早うイー・ル(そっち)から『停戦』の申し出があらえぇねのう(あればいいのになあ)と思いよる」

 やれやれ、と大げさに息を吐きながら剛義が云った。イーヴィが軽く目を細める。

「――タケヨシ殿、貴方は……私が此処で犬死にするようなことがあれば、イー・ル()をすり潰す、とまで仰いましたよ。今まで、出来るけどやらなかっただけだ、と……。ならば、早々に貴方方(サヴァナ)が『戦争に勝』つことだって出来たでしょうに」

「何で俺達がそげんことせなならんのよしなきゃならないんだよ『宣戦布告』(やりてえで始めたん)はそっちじゃに」

 剛義が再び大げさに目を見開き、呆れた声を出した。イーヴィも、驚いたように瞬きをした後、一瞬だけだが「ぽかん」と口を開けた。

「――『戦争に勝』ったら、『治め』なならんようになるじゃねえな。俺達は別にイー・ルっちゅう国が欲しい訳でも無ぇんじゃ、何故(なし)そげなことせなならんのか、よだきい」

「……」

「第一、イー・ルの大導師長、中央政庁が、『負けを認める』ことやらあんのかえ」

「――。ある、と云えないのが、お恥ずかしいです」

「あんたが恥じ入ることでもねぇわ。――じゃけんちゅうち(かといって)、俺達が負けちゃる(てやる)のも癪に障るし、そもそも何の問題解決にもならん。中央政庁から支配され(治められ)ちょる状態で、あの〝筋〟と化け物の研究やら対処やら出来ん、〈魔術士〉(まほうつかい)は身動き出来んなるもん。ともすると皆殺しになるやん、それも御免蒙る」

「……」

「当然、()()()()()()()()っちょるのに、国丸ごとすり潰すっちゅう真似も出来んよ。そげんことする理由も意味も無ぇ。あんたがまだ見捨てちょらん母国(くに)なんじゃし」

 剛義が肩を竦めて云う。イーヴィは、何だか胸の内がくすぐったくなった気がして、妙な形に口元を歪めた。

「――EV隊(あんたたち)が、この砦に潜伏して、『内戦』を引き起こすくらいの軍事クーデターを企んじょるっちゅうんじゃったら、蝦さん、あんたに『協力』は出来ん――約束したんじゃけん、砦の修理と()()()()索敵データ提供、()()()命繋ぐ食料と水の補給はしちゃる、花ちゃんが預けた鍵も返さんで良い、けど、そこまでじゃ。俺達が〝筋〟の研究すんのを邪魔だけはせんでくれえ」

「――」

 イーヴィが一瞬ピクリと目を細める。()()()()、隊長はそんなことを考えてはいない、と、眉を寄せた。

 が、剛義自身、イーヴィがそんなことを企むような「人間」ではないことを解っている。本当に疑われている訳では無いのを、剛義の飄々とした声と顔から悟り、イーヴィも表情を平静に戻した。

「が、そういう乱暴な手段は使わず、根回しなり情報戦なりの搦め手で『停戦』『休戦』『終戦』に持って行けるかもしれん策やツテ、()()()()()()()()()あるんじゃったら、俺達はあんたに()()()の協力をするで、蝦さん」

「……タケヨシ殿――」

「今やりよる戦争に『勝敗』付けるようなやり方じゃ、話が前に進まん。拗れて面倒になるだけじゃ。俺達(サヴァナ)は最初っから、イー・ル(そっち)が『戦争止める』っち云うたら、直ぐさま止めるつもりなんじゃけん、イー・ル(そっち)から、自分方の政策として()()()()で停戦申し出てくれるんが、一番良いんじゃ」

 それは、解っている――。しかし、今の自分には何も出来ない。イーヴィは困惑の表情を浮かべて、俯き加減になりながら額に手を当てた。

「――『政策』から最も遠く追いやられた結果、『最前線』に居る私です。最早、『軍部』、『作戦』からも取り残されてしまったことが、今日解ったのですから――、私に『そのつもり』があっても、一体何が出来るのか、……途方に暮れてしまいそうです」

「……。あー、俺の云い方が、『交換条件』みたいに聞こえて悪かったんか? 済まん済まん、そういうつもりじゃねえよ?」

 剛義が苦笑して――ほんの僅か呆れたような口調も交えて――手を振りながら云った。イーヴィは「え」と顔を上げる。

「あんた、俺があんたに『協力』するっち云いよんねえ(っているのに)、自分は俺達に『何も返されん(できん)』ことを、恐縮している(きのどきがっちょる)やろ」

「……それは…」

 何か云いかけたイーヴィの声を遮るように、顔の前で手を振ると、

「そげんことは良いんじゃ」

 剛義はきっぱりと云った。

俺達(サヴァナ)には『戦争以外にやることが出来た』っちゅうことさえ知って貰われたら、それだけで、随分有り難ぇのよ。蝦さん(あんた)サヴァナ(おれたち)を頭ごなしに『悪魔』っち云う人じゃねえのは直ぐ解ったし、あの〝筋〟のことも、全く理解は出来んじゃろうが、『現実』のこととは受け止めちくれて、俺達が持っちょる危機感もある程度は共有しちくれた。重ね重ね、『イー・ル人』のあんたが、そうしちくれたんは、サヴァナにとって一歩前進なんじゃ。……俺の知っちょるイー・ル人は、自分に受け入れがたい現象を――それが不快感や不幸をもたらすものなら尚のこと――全部『サヴァナの悪魔』のせいにしてぎゃんぎゃん喚くだけじゃけ、邪魔にしかならん」

「――」

()()()()()全体(くに)で『停戦』に至れたならもっと良い、っち云うことなんじゃ。それを出来る者が居るとすれば、〝筋〟の認識と危機感の共有を、既にしてくれちょるあんたじゃろう、と。――そりゃあ、中央のまつりごとから離れ()()()()あんたには()()かろうし、時間が掛かることでもあろうが、()()()()()があんたにあるなら、こっちで協力出来ることは最大限するで、っち云いよんのさ。()()()()()は無く、砦で潜伏しながら本国の様子を『静観』だけしちょいて、『ほとぼりが冷めた』頃合いに(クニ)に戻るつもりしか無ぇっちゅうても、別に()()()()()()んよ。あんたは、俺達の邪魔だけはせんじゃろ」

 小首を傾げながら剛義が云った。イーヴィは複雑な気分になる。「交換条件を提示している訳じゃない、返礼や協力など期待していない」と剛義は云っている訳だが……、自分が「役立たず」だと云われているような気にもなってくる。

 しかし、――実際、剛義達(サヴァナ)へ、()()()()()の己が()()の協力、手助けを出来ないのも紛うこと無き事実だ――。

 イーヴィが軽く頭を下げ、

「……有難うございます。そう仰って頂けると、気が楽になります」

 と――少しばかり嘘が混じった礼を云った。

「――さっきの、『とある情報筋』もそうじゃけど、まだまだ蝦さん(あんた)には聞いちょいて貰いてえこととか、頼みてぇこともあんのじゃが、一先ずは切り上げちょこう。――第一陣がそろそろ来たごたる」

 剛義がそう云って、ちらっと西の方角を見た。つられて、全員がその視線を追う。此処からだと〝筋〟とは逆、西北の方向に、小さなライトが見えた――。

 イーヴィがコクッと頷き、部下達を促すように振り返りながら両腕を砦の方へ振った。

 隊長に従い、オリバー達も砦の方向へ歩き始める――ライズの小銃は、完全に背中に回されていた。



 砦に近づくと、太狼が呆れたような声で、

「随分長話をしよったなあ。もう先遣が着くで」

 と剛義に向かって云った。

そンごたんの(そのようだな)

 肩を竦めて剛義が返す。太狼の傍にはフローラも戻って来ており、冷静に筆頭へ告げた。

「第二陣として、医療・保健関連の二班が、既に出発したそうです」

「そげぇか。()班っちゅうのはどういう意味なえ」

「ご依頼を受けた、(こちら)に待機するドクターとナースが何よりですが、チォ殿とリモ殿をサヴァナに受け入れるために、警備隊員でなく、救護車を寄越したそうです」

「ああ、成る程」

 合点した、と剛義が頷く。傍らでイーヴィも「ああ…」と感慨深げな息を吐き、

「それは、有り難いことです」

 とフローラへ謝辞を述べた。フローラは軽く会釈を返すだけだった。

「――君達も、改めてここで〝解散〟だ。食事と水分補給を済ませ、休みなさい」

 「残業」のような格好になった四人の隊員達へ、イーヴィが告げる。

「隊長は――どうなさるんですか」

 戸惑いの表情を浮かべている隊員達を代表し、オリバーが尋ねると、

「第一陣がいらしたと云うのだから、隊長として、その受け入れはしておくよ」

 イーヴィはそう答えた。

 それを聞いたオリバーは、一度キュッと唇を引き結び、

「ならば、私も副隊長として同席します。私は本日、最初から、サヴァナの方々との『窓口』になっている格好ですし」

「――。その分、君は一番(うご)いているとも云える。休んで良い」

「いえ、大丈夫です」

 きっぱりと述べ、オリバーは敬礼を見せた。イーヴィは苦笑して、

「……好きにしたまえ」

 と返した。

「〝解散〟の後は〝自由時間〟なのだから……」

「そうさせて頂きます」


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