【a5d:svn】(3) -[5]-(3)
「強いて云うと――、俺達が『現実であり得ん』と思うくらいの混合生物、かな……。ただ、その『混合』に規則性が無ぇっぽい」
「――。逆に、現実で『あり得る』キメラと云うのが、私にはちょっとピンと来ないのですが……?」
「時々、今まで全然見たことが無ぇ、二つの生き物の特徴が両方出ちょる生き物とかが見付かるじゃろ。そういうのは『新種』じゃったり『交雑』じゃったりするわな。逆に、同じ生き物じゃに親と子で全然違う見た目のも居ったりするろう、おたまと蛙とか、芋虫と蝶とか。そういうのとは全ッ然違うっちゅう意味じゃ――『そげんことか』と後で納得も出来んくらい、誰かが悪ふざけしたんかと思うような『混合』」
「……。例えば」
「頭が鶏で足が蛙、とか。蛇の頭が人の顔になっちょん、とか。――寸法も常識外れのまちまちで、人の背丈ほどもある『むかで』みたいなんとか、筋骨隆々な成人男性の形しちょんのに背丈は二尺くらいしか無ぇ、そのうえ顔は蜂で犬の尾が生えちょる、とか……」
「――成る程、悪ふざけのようですね……」
イーヴィが溜息をつく。
「頭・胴体・手足とパーツを分け、くじ引きでランダムに選んで継ぎ接ぎしていったような……」
「おう、そげぇよ、良い例えじゃな」
感嘆の口調で剛義は云ったが、イーヴィは褒められた気にもならない。一瞬だけ愛想として苦笑を浮かべた。
「虫や人まで『くじ』に入れているようでは、実際、『同じ形』の個体など無さそうですね――。となると……我々人類が、本当に今まで見たことがないような『化け物』というのではなく、現実に見たことがある生き物が、あり得ない組み合わせで継ぎ接ぎになっている『異様』『キメラ』……と、取りあえずは考えて良いでしょうか」
「まあ、そういうことになるかのー……――あ」
相槌を打った剛義が、パキン、と指を鳴らした。
「済まん、一個忘れちょった。俺も話聞いて想像しただけで気色悪かったけん、思い出しとなかったんかしれん――一つだけ、『混合生物』とは云いがたい、かつ、今まで『生き物の形』としては見たこと無ぇのがあるらしい。そいつだけは、共通の形で複数個体見られちょる」
そう云うと、剛義はしゃがみこんだ。気色悪い、などと云った直後であるから、イーヴィが「どうしました、体の具合でも」と慌てた声を出す。
「違う違う。ちょいと砂で形作っちゃるわ。オリバー君、それで照らしちょくれ」
オリバーが手にした懐中電灯を指してから、「君らも見よ」とスォ=ハム達を手招きした。
促されるまま、皆、前屈みになって剛義の手元を見下ろす。
剛義は子供の砂遊びのように両手で砂をかき集め、小山を作った。丁度、支給装備のヘルメットに砂を詰めてひっくり返したくらいの大きさだ――イー・ル兵は共通でそう思った。
小山の表面に指で波線を描くと、次には摘まむような仕草で砂を寄せ、オリーブの実よりも一回り大きいくらいの玉を二つ、小山の「麓」に添える。
「……これは、立体作られんけん、描くだけな」
最後に剛義はそう呟いて、山の頂上に「∞」のようなマークを、爪を使った細い線で描いた。
「これは……?」
イーヴィが代表して訊く。
「そこまでグロテスクには思いませんが。そのくらいの『亀』なら良く居そうです」
「……簡単に作ったけの。説明聞いたら、これが一番気色悪いで」
イーヴィの顔をちらっと見上げ、剛義は大げさに眉を寄せ、「うえっ」と云うように舌を出してみせた。
「――高ぇとこを飛んで行ったけん良く見えんかっただけで、もうちょっと小さいのもあったかしれんから、寸法の平均はまだ分かっちょらんらしいが、『ディテールが見えて一番小さい分』が、こんくらいの大きさやったらしい」
「……どう気持ち悪いんです?」
先程聞いた「人の背丈ほどもあるムカデ」に比べたら、大きさも然程怖いものじゃない。「誤って手を出してしまいそうな」大きさではあると思うが。
「……これ、本当は『脳ミソ』みたいな形しちょんのと」
剛義はそう云うと、最初に作った小山を指した。
それを聞いて皆、「えっ」と顔を顰める。ちょうどヘルメットくらいの大きさでもあるから、急に胸が悪くなった――。
「で、この玉二つは、――目玉。脳ミソに直接目玉が引っ付いちょんような形」
「……おぇ」
スォ=ハムが、わざと嘔吐く声を出した――リアクションを我慢したら、想像がリアルになって、本当に吐きそうな気がしたので――。
「……最後に描いた、そのマークは何です? 八の字のような」
イーヴィが上空で線をなぞるように指を振った。
「背中――と云って良いのでしょうか、そこは――に、そういう『模様』が?」
「違う。これは『羽』。コイツ、羽生えちょんのと。薄っぺらい虫の羽みたいな」
「――」
「大きさ以外で個体差があるとすれば、此処だけのごたる。トンボやら蜂のような細ぇ透けたやつか蝶のような色付いたやつ。ただし、カブト虫やら黄金虫のような固ぇ羽は目撃が無ぇ。それと、鳥の翼生やした奴も居らんごたる」
「――手足は、無い……んですね?」
砂を盛っても描いてもいないので、イーヴィが確認する口調で訊く。剛義は頷いた。
「今んとこ、手足生えちょる奴も目撃が無ぇ」
「……」
イー・ルの者は皆、顰めた顔を見合わせた。
「――一つ救いがあるとしたら、『色』じゃな。リアルな脳みその色じゃねえ、肉色やら内臓の薄桃色やらでもねえんと。光線の具合で多少は色味が違うらしいが、『真っ黒』が基本じゃ」
「……。しかし、『目玉』はまさに、なんでしょうね、白い球に色のついた瞳がある……――そうでなければ、『目玉』と認識しないでしょう」
「そうじゃな。……虫の複眼でもねぇし、瞼もついちょらんらしい」
剛義は「ふー…」と息を吐き、膝に手を当てながら立ち上がって、オブジェを足で崩した。
イーヴィも億劫そうな溜息をついた。
「成る程――、その――『虫』と云って良いのかどうかも解りませんが、それが一番、厄介と云えば厄介ですね。本能的に気持ち悪さを誘う見た目な上に、大きさが丁度良すぎて、頭で考えるより先に手が出てしまいそうだ」
「そうじゃなあ。本当に『虫』くらいの大きさのも居るんじゃったら、蚊を叩くごつ払っちしまいそうにあるし、知らんうちに踏んだりもしそうじゃ。――しかし、そげんこと云いだしたら、俺達は身動き出来んごとなるわの。取りあえず、『無益な殺生はしない』っちゅう、聖人の心積もりしちょかないけんわ」
はは、と笑い声を漏らして剛義が云う。
――純粋に軽口として云ったのか、それともブラックジョークのつもりだったのか、定かではないが――、戦争が終わった訳では無い以上、それはかなり辛辣な皮肉になっている。イーヴィは微かに自嘲めいた苦笑を漏らした。
砂遊びの手元を皆で覗き込んでいた訳だから、剛義が立ち上がると、丁度円陣を組んだような格好になっていた。それでも、剛義と向き合う正面にはイーヴィが居る。
「俺達も『此処からは化け物が出ていない』とは考えちょらせん、そこまで楽観的じゃァねえ。スォ=ハム君の指摘通り、〝竜巻〟が巻き上げた砂に隠れちょっただけかしれん。それに――」
そこでふと、剛義が西側に立つクォンの方へ顔を向けた。
クォンがピクッと眉を上げ、「ど、どうかしやしたか」と焦った声を出す。
――剛義自身は「〝竜巻〟を〝竜巻〟として見ていなかった」のを、思い出したのだった。もし、クォンが〝竜巻〟を目にしていたら「何」を見ただろう、と思いついて、つい、彼に目を向けてしまった。
剛義が「ああ、いや……」と言葉を濁す。
今会話しているメインの相手、話を聞いておいて欲しい「代表」はイーヴィである。それを話してしまうと、一緒に、〝土塊〟や〝火の玉〟も「生物」のような形になったことまで云わなくてはならないし――流石に、彼にそれを聞かせるのは……少なくとも今は「蛇足」だろうと考えついた。
「――ちょいと〝筋〟に顔を向けたら、目が合うただけじゃ」
「はあ……」
さいですか、とクォンは小首を傾げつつも、納得する。
「それに――仮に、五日前の段階では本当に此処から出なかった、としても。――今から出て来んとも、云いきれんじゃろ」
剛義が沈めた声で云うと、イーヴィが一度唇を引き締めた後で、
「――その通りです」
と頷いた。他の隊員達も、ひくっと息を飲みながらも否定はしない。
フリュスとサウザーは「既に目撃している」が故の「危機感」があり、サヴァナはサヴァナで、「目撃はしていないが情報がある」が故の「危機感」があるのだ。
「もしや、此処はこれから出てくる、っちゅうことなんじゃったら、それまでに何とか、あの〝筋〟を『塞ぐ』方法を見しけてぇもんじゃし、それが出来んとしても、せめて川より西で止めちょいち、砂漠に入れんようにする方法が無ぇか探りてぇんじゃ。何とか、平原側で食い止めなならん」
そこでイーヴィは訝しげに目を細めた。
「……何故、貴方方がそれをしなくてはならないんです? と、云うか……何故、その『義務感』が、貴方方には湧いてくるのです。――今こうして、私が貴方へ協力を要請したことで休戦状態になっているのは、貴方方にとって偶然、ただの巡り合わせではないですか。五日前の段階では、完全に砂漠は『敵』の陣地・領地だったんですよ? 何故、敵の盾になるような考えが、貴方方には――」
「そげなこと関係ねぇ」
若干苛立ちも混じったようなイーヴィの声に、あっさりとした剛義の声が被った。イーヴィは鼻白む。
「蝦さん、じゃあ、逆に訊くが。――イー・ルは、今話した『気色悪い化け物』に、ちゃんと対処出来るんか?」
鋭い視線と共に真っ直ぐに云われ、イーヴィは「うっ」と息を飲んだまま何も答えられない。彼だけでなく、他の隊員達もバツが悪そうに俯き唇を噛む。
――その質問は「出来んだろうが」という反語表現だ。それに対して、「敵方」からの嘲りだと腹を立てて反論することは、ライズにも出来なかった。
「『くじ引きの継ぎ接ぎ』やら『脳ミソ虫』やらが列なして都に入ったとき、あんた達は何が出来る。――蝦さん、今、中央政庁に居るのがあんたみたいな人ばっかりなら、せめて民衆を落ち着かして避難さすることくらいはやるじゃろうが――、居るんか? そげな人が今、都に」
ふん、と鼻息を飛ばしながら剛義が云った。つくづく、誰も反論が出来ない。
「パニックで将棋倒しやら乱射事件やらが、起きたりせんと云えるんか。――それだけじゃったら、イー・ル国内だけの問題じゃ、俺達も知らんわ。でも、どうせ大導師長は、『サヴァナの悪魔の仕業じゃ、何とかせえ』っち云うて終いじゃろうがえ」
「……」
「そうなったら流石に、俺達も『カチン』と来るで? 『俺達も何なんか知らんもんをどげえも出来るか、雑音立てるな、黙っちょけ!』っち」
「……ごもっともです」
イーヴィは、溜息をつきながら頷いた――「申し訳無い」という気分も過ったため、頭を下げるのを兼ねたように深く――。
「俺達の仕業っち思うのは結局変わらずずっと同じ、俺達を全滅させりゃあ『化け物』も居らんなると単純に考えて、まだ戦争したがるだけじゃろ――それも俺達にとっちゃ邪魔じゃ。本当に俺達が居らんなったら、自分達が『化け物』の相手をせなならんっちゅうのがやっと解るじゃろうが、どうせ出来ん。今のうちから『ザマァ』っち云うちょこうか」
「……」




