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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(3)
258/277

【a5d:svn】(3) -[4]-(3)

 ――前方を凝視して固まっていたクォンが、「堪えきれない」というふうに、

「そっ……そんな――」

 と震える声を出した。

 明らかに狼狽した表情で、イーヴィに詰め寄る。

「イヴ様……イヴ様には、()()()()()()()()()()のですか!? オリバー君も……、『あそこに何か()()』と!?」

 その剣幕に、オリバーはたじろぎ、イーヴィは「むっ……」と目を細めた。

 クォンは、ライズとスォ=ハムにも「君らもか?」と顔を向ける。彼らはただ、答えにくそうに、戸惑いの表情を浮かべているだけだったので、今度は剛義に詰め寄った。

 剛義の二の腕を掴んで、クォンがまくしたてる。

「タケさん、そうなんですか? これも儂の目が特別だ(おかしい)からなんでやんすか!? ()()()()()()()のは――儂だけなんですか……ッ!?」

 クォンの取り乱した声は、嗚咽に近くなっている――剛義は彼の両肩をグッと掴み返して、首を振った。

「コンさん、違う。俺も多分、殆ど()()()()()()ように見えちょるで。今、一番()()な目ぇしちょるのは、あんたじゃ」

「――」

「……蝦さん達は、自分の目が信じられんで、『そげな筈はねぇ』と思いながら――()()見よるんじゃ」

 そう云って、イーヴィやオリバーを振り返る。今度はイーヴィもたじろぎの表情を見せた。

「あんたは、むしろ――彼処に、何かが『無さすぎる』ように見えちょんのよな、コンさん。――ただでさえ何も無ぇ『宙』が、あの黒い筋の分、『もっと()ぇなった』ように……」

「た、タケさん……」

「強いて『ある』っちゅう言葉使うなら、『ドーナツの穴はあるのか無いのか』と同じじゃ、空中に『切れ目』が()()。違うかえ?」

 クォンは、何度もコクコクと頷いて、却ってイーヴィ達の方を「恐れる」ような目で見た。

 クォン以外の皆は、それぞれ困惑した様子を表情や態度に見せている。

 ライズは露骨に、顔を顰めていた。オリバーとスォ=ハムは首を捻っている――己の中で、今の状況をどう処理すべきか解らず、混乱していた――。

 ――イーヴィは、剛義の指摘通り、自分の感覚()をそのままに信じられなかったことが後ろめたかった。そして……クォンの「目」のことを――彼の想像通り――既に情報としては知っていたので、彼の今の()()()()()()()()()()()()()()ことで申し訳無くなり、自分の未熟さに唇を噛み、眉を寄せた――一度は、己自身も、思考(あたま)より先に「体」で、焦燥か恐怖に近いものを感じていたというのに……それを、「否定(あたま)」で押さえ込んだのだ。

「コンさん、深呼吸をしよ。俺もするけん」

 剛義は彼の肩を掴んだまま、促すように、スーハーと息をした。クォンが倣って三度ばかり深呼吸をする。

 クォンの表情が少し緩んだところで手を離し、剛義がイーヴィ達に向き直った。

「――蝦さん、改めて答えるで。ありゃあ、俺ンとこの『凧』やらが()()()()()()訳じゃねぇ。『切れ目』『筋』や。――『地上を覆ったドームに星が張り付いちょるのが空』っち云うような世界観持っちょる土地、宗教、民族の()じゃったら、『(ドーム)が破けた』とでもすんなり入ってくるかしれんが、生憎、イー・ル(あんたかた)の〝神さん〟も、そげんこと云うちょらんものな。俺達もそげな世界観は持っちょらん」

「……」

 俯き加減になって、はーっと剛義が息を吐き、

「――荒唐無稽に聞こえるのは、俺だって解っちょる。俺だって、性根じゃ『信じられん』のじゃ」

 そう云うと、キッと顔を上げ、次には再び真剣な表情になる。

「それでん、今、俺達がこうやって顔を見合わせて喋りよる世界は、『夢』でもねぇ。『現実』じゃ」

 剛義の言葉に、イーヴィも息を飲んだ後で、

「その――通りです」

 コクッと頷いた。

()()()()()じゃろうが、今から俺は、()()()()()()()()()()()()()()()のこと喋る」

「それは、この七日――、いえ、()()()のこと、という意味ですね?」

 イーヴィが確認する口調で云うと、剛義が「そうじゃ」とはっきり頷いた。

「俺が出鱈目を云いよると思うても別に構わんが、それは『あんた達が知らん間』のことなんじゃけん、()()()()()全部聞いちょくれ」

「――分かりました」

 それは、イーヴィ自身も知りたいことだ、どんなに「信じられない」「理解出来ない」ことであろうと。



蝦さん(あんた)には先に云うちょったことじゃけど、もっぺん(もう一回)浚うわな」

 そう云って、剛義はイーヴィ以外の四人に視線を巡らせた。彼らは戸惑っていたが、イーヴィは頷く。

 剛義が西の「筋」をちらっと見てから南に向き、ざっと薙ぐように腕を振る。最終的に東南の方角を指した。

「五日前の午前中じゃ、イー・ル陣地(あんたがた)の真ん中辺で〈核弾頭〉の準備がされよるのを、俺達は察知した。前線(まえ)の方の兵隊が後退も始めちょったけん、俺達も『こりゃ()()じゃ』っちゅうて、兵隊も一般人も出来るだけ離るるごつ後退した(へどった)んじゃけど――」

 今度は西の〝筋〟の方へ腕を上げる。東に向いた左腕は、空を撫でるように弧を描いた。

「それでしばらくして……正午(ひる)は過ぎちょったな、〈ミサイル〉飛んぢ来て――、〝川〟に差し掛かったくらいの時に、〈ミサイル〉を()()ごつ(ように)、突然、空と地上を繋ぐ大きな(おっけな)〝竜巻〟が出たんよ」

「――」

 そこでライズが――憤慨したのか苛ついたのか、何にせよ動揺したのがイーヴィには分かった。一歩踏み出したのか、踏み出した足を堪えたのか、ざくっ、と砂を強く踏む音が聞こえた――が、剛義に食ってかかるのは我慢出来たようなので、イーヴィも、彼を窘めはしない。

「その後――〝竜巻〟は、東の方向に……俺達が観察した限りじゃ、まるで〈ミサイル〉の()()()()()()ごつ(ように)、移動して行ったんじゃ」

「……。発射地点は、陣地の真ん中くらい、と仰ってましたね」

 東の方を左腕で指しながら剛義が云う。イーヴィが、確認口調で尋ねた。

 剛義が「うん」と首肯したので、イーヴィも、合点した、というふうに息を吐きながら「そうですか――」と頷いた。

 オリバーやライズも、隊長(イーヴィ)が何に納得したのか、何となく分かった。陣地の真ん中から西に向けて〈ミサイル〉が――本当に――発射され、その軌道を〝竜巻〟が――本当に――なぞったのだとしたら、()()()直撃している可能性は高い。

 イーヴィからそれ以上の質問は来なかったので――あっても良いと思っていたのだけれども――、剛義は、本当は彼らも聞きたいだろう「現実的なこと」を、先に云っておくことにした。

「〈核弾頭〉載っけたミサイルが〝竜巻〟に吸い込まれたんじゃけん、()悲劇が起きて可笑しねかったんやけど、()()()『不発』じゃったんよ。その瞬間に爆発が起きた訳でもねぇし……、『不発』っちゅうか、ミサイル自体が『無く(のう)なった』ごつ、〝竜巻〟だけ残って()()()()()()()()。一応、俺達はその後、〝放射線量〟やらを測定したんじゃが、普段と何の変わりも無かった」

 そこでまた、イーヴィの斜め後ろで、今度は「ふぅー…」と、鼻から息を吐く音が聞こえた。

 ――本当は剛義に食ってかかりたい気がしているのだろう、かつ、それを必死に我慢しているのだろうこともイーヴィは分かっている……剛義の「言葉」を信じられるかどうかは彼次第だが、ライズのためにも、イーヴィが隊長として代わりに質問をする。

「剛義殿、()()()()、お訊ねします。その回答によって、今()()貴方に寄せている信頼が揺らぐことは無いので、偽りは仰らないで下さい」

「ふん。……その前置きで、大体何訊きてぇんか、俺にも判るで」

 剛義が振り返り、「にっ」と口角を上げた。イーヴィが彼にも苦笑を見せて問う。

「その〝竜巻〟は、貴方方(サヴァナ)が生じさせたものでは、ないのでしょうね?」

「ない」

 剛義はキッパリと答えた。

「〈ミサイル〉に対処するために、実力ある〈魔術士〉(まほうつかい)が何人か構えちょったのはそうじゃけど、〝竜巻〟起こす『魔法』やら、誰一人使うちょらん。ついでに、『機械』も使うてねぇ。――()()()()()()()()()()誓うてん良い」

「――分かりました」

 剛義に頷きを見せて、イーヴィはライズをちらりと振り返った――ライズは顔を顰め、両手を拳にしている。彼が今何を考えているのか知らないが、イーヴィはこれ以上、彼に何か云うつもりは無い。剛義の話の続きを聞いた上で「どうするか」、ライズ自身に委ねるつもりであった。

「東に行った〝竜巻〟を、俺達もしばらく監視しよったんじゃけど……、()()舞い上がるのは見えたが、()()()()何があったんか、俺達も詳しくは分からん」

「それはそうでしょう」

 イーヴィの中では、「C3にはかなり被害が出た」だろうことが、より真実味を帯びたというだけで充分だ。

 剛義は西の〝筋〟に向き直った。

「で、()()な――。遠近感がまるで無ぇけん、距離が分からんじゃろ。俺達もハッキリとは分かっちょらんのじゃけど、五日間、平原の方から観察した限りじゃ、大体〝川〟の上くらいに見ゆん(える)のよ」

「〝川〟の上……?」

 ん?とイーヴィが目を細める。

「……〝竜巻〟が東に去った後、気付いたら()()があったんじゃ」

「――」

 剛義は振り返り、イーヴィに向き合った。

サヴァナ(おれたち)の『目的』は、()()じゃ。今まで平原の側からしか観察出来んかったけど、あんたが(ここ)を拠点と思うて良いっち云うてくれたおかげで、川渡った先で――一点(ここ)からだけじゃが、観察出来るようになった。俺があんたの申し出を『好都合』っちゅうたのは、そういうこっちゃ」

「……」

「実際、砂漠(こっち)側から見たら、今度は西()()()()()えちょる。ちゅうことは、少なくとも『星』くらい高ぇとこに()()訳じゃねえ、っち分かった。夜が明け(あこなっ)たら、()()()()()()角度(見え方)で計算して、()()()()()()()()()()『高さ』がどんくらいか、もっと厳密に『数字』に出来るじゃろう。――それだけでん、一歩前に進んだごたる」

 独りごちた剛義に、イーヴィが問う。

「タケヨシ殿……あれは、何なんです」

「解らん」

 再び、剛義はキッパリと返す。皮肉めいた表情から続いて答えた先程と違い、今度は真摯で厳しい表情だ。

「解らんのよ、〈魔術士(おれたち)〉にも。解らんけん、解ろうどして(るために)観察しよる」

「――」

 剛義が腕を組み、顔を俯かせて「はあっ」と息を吐いた。

()()()()()()の理屈から見て、『あり得ん』のは一目瞭然じゃわな。――でも、〈魔術士〉(まほうつかい)の理屈から見てん、あれが何なんか、知らん、解らんのよ」

 溜息混じりの言葉に、クォンが思わず「ひゅっ」と息を吸った。

 剛義は顔を上げ、真っ直ぐにイーヴィの目を見つめる。

イー・ル(あんたかた)の大導師長は、『サヴァナの悪魔の仕業じゃろう、何とかせぇ』っち俺達に云いっ放して終わるかんしれんが、俺達も知らん、解らん、どげぇしようもねぇ。――蝦さん、むしろ俺達はな、『あれが何なんか、イー・ル(わんがた)の〝神〟さんが知っちょんのじゃったら、是非とも教えちくりぃ』っち、大導師長に土下座してん良いくらいなんじゃ」

 剛義の表情と声は真剣そのものだ。

 イーヴィは息を飲み、他の四人も驚いた表情で剛義を見た後、互いの顔を見合わせた。

 大導師長に土下座しても良いくらい――?


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