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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(3)
252/277

【a5d:svn】(3) -[2]-(4)

「それが、君を縛る呪いだ、ライズ君。――ライズ君、君の()()の主人公は間違いなく君だ。君は、その『筋書き』が()()()()()()()()()()()()()()ことに混乱して、憤っている――君の人生の主人公たる君を差し置いて、脇役達が傍若無人に『君の物語』を書き換えようとしていることが気に入らないのだ」

「……でもそれは、隊長も同じじゃないですか……、どうして、イヴ様のような偉大な導師の生き様が、グ・ルグのような狼藉者や、〝悪魔(サヴァナ)〟から愚弄されなくてはならないのです……!」

 泣き出しそうな顔をイーヴィに見せ、悔しそうな声をライズが出す。イーヴィは再び、首を振った。

「個々の人生、人それぞれの物語の主人公は、間違い無く当人だが、そこに登場する脇役も、それぞれの物語の主人公だ。――君は、〝神〟の目から見たとき、我々は全て同じちっぽけな塵芥であることを……導師(わたし)から説かれて頭では解っているつもりかもしれないが、魂に染みこませていないから、そんなふうに()()()()()()のだよ。君は、『同じ塵芥』とは云っても、己を『砂金の一粒』とでも思っている……その重みが、君を縛る」

「――」

「〝神〟が放棄なさったと? 違う、君が放棄された気になっているだけだ。〝神〟が我らを棄てることなどしない――同時にわざわざ掬い上げもしない。例えこの広大な砂漠全てが金の粒だったとしても、〝神〟が手を差し込むことなどありはしないのだ」

「……ッ」

「まして、我らは黄金では無い――私も君も、グ・ルグもタケヨシ殿も、〝神〟がご覧になれば、()()塵芥だ」

 イーヴィが静かに宣うと、――隊員の誰しもが、それを否定するような態度を見せた。首を大きく振ったり、気を悪くしたように顔を顰めたり……。

 明白に言葉(こえ)で反論したのは、やはりクォンだった。

「E=V・フリアイ()()、他がどんなにちっぽけな塵だろうが、貴方様だけは、違います。断じて違います、どうか、そんなに御自分を貶めるような云い方をなさらんでください」

 頭を下げながら、真摯にクォンが云う。イーヴィは微苦笑を見せ、

「だから、クォンさん。『猊下』は云っちゃだめだ」

 気さくに肩を竦めながら、まずそれを云った。

 そして、隊員達を見回す。――クォンに同調するように、頷いている者も居た。

 イーヴィが大きく息を吐く。

「私は、己を貶めているつもりは無いのだが――では強いて、私が君達とは少し違うだろう点を挙げるなら……、私は、同じ塵芥だとしても、自らを鳥の羽毛の如く()()しようとしているから、〝神〟の御許に『ほんの少し近い』のだよ。貶めているというより、()()()()()()のだ」

「……」

「――筋書きというのは、『世界』に存在するのだ。全ての塵芥がそれぞれに流離(さすら)って、『世界』に『筋書き(ものがたり)』が()()()()()

 今のイーヴィは完全に、「隊長」でなく「導師長」として語っている。

「ライズ君、今、とても苦しんでいる君と私とに違いがあるならば、其処だ。私は、『世界』の中で、『筋書き』に強いて逆らうことなく羽毛のように舞おうとしている――君は、同じ一粒の砂だとしても『金』の価値や重みを己に、()()()()()()()()()持たせようとしているせいで、流離うことが出来ず、苦しんでいるんだ」

「う……っ、うぅ…」

 ライズは項垂れ、食いしばった歯の間から嗚咽を漏らす。――とうとう、鼻筋を伝い、雫がテーブルへ落ちた。

 ――オリバーが、真摯ながら柔らかな声で旧友へ語りかけた。

「ライズ。――今、君は、サヴァナ(タケヨシどの)を信じられないのじゃなく、信じていたものに裏切られた衝撃と絶望に襲われているんだ」

「……」

「それも、君は少し()()()をしていて――自分を裏切ったのが、隊長(イヴさま)だと思ってる……イヴ様が、『敵』(タケヨシどの)を『信頼』する態度を見せているから」

「オリバー……」

「違うだろう、()()()()()()()()()()んだ。私たちを裏切ったのは、母国(イー・ル)だ」

 淡々と語ったオリバーの言葉は、ライズのみならず、他隊員にも各々の感慨をもたらした。それは、ある意味「思い知らせる」「引導を渡す」言葉であったから。

 既にそれを理解し受け入れていたイーヴィと、元々(イー・ル)への忠義や信頼など大して持っていなかったクォンを除き、ある者はライズのように歯を食いしばって項垂れ、ある者は顔を覆い、ある者は脱力して椅子の背もたれに身を預けながら天を仰いでいた。




 ――警備・諜報の本部とも中継している、先代と当代が直接会話しているところに口を挟む者は居なかったが、時々微かに、「おぉ」「うむ…」と小さな声が混じってきた。

 剛義が伝えるべきを伝え終えると、今度は

「――そぉらまた、面白ぇことになっちょんのぉ!」

 と、義一の弾んだ声が返って来た。「面白い」とは流石に不謹慎な表現じゃなかろうか、とフローラは思ったが、「興味深い」という意味で受け取るなら、まあ…と口を噤む。

「そういうことじゃけん、敵味方の立場に固執しちょらん、向こうさんから絡まれてん流しちょききる(ておける)ような、愚直で肝の据わった若ぇのが居らんか、親方衆に聞いちょいてくれぇの(といてくれよ)、お父」

「若手じゃねえといけんのか。そげなことじゃったら、ベテラン連中の方が行きたがるで」

「血の気が多すぎるのは困るけどの、軍人が集まった所に入っち行くんじゃけ、丈夫で体力のある若ぇ()の方が良い。もしや小突き合いくらいはあった時、やり合いきらんと(やりあえないと)。あー、腕が良いのは当たり前でな」

「ふむ」

「――つくづく、『相手がイー・ル』なんを気にせん肝持っちょる()を選んでくれぇよぅ。向こうの隊長さんが一番気にしちょんのが其処じゃけんな。自分が恨まれるのを嫌がっちょるんじゃねえんじゃ、俺がこげん要請飲んだことでサヴァナ(こっち)がギクシャクするんじゃねえかと、それを恐縮し(きのどきがっ)ちょる」

「ふん、その隊長っちゅうのも、出来た()じゃのぉ。イー・ルん上役とは思えん」

「先代様、剛義殿、失礼します、警備隊長のツルギです」

 義一が感心した声を出したところへ、壮年の男性の声が割り込んだ。

「お話は伺いました。今、諜報隊長と話したのですが、いっそ、諜報隊車の『一番』を持って行くのが宜しいでしょうか。『砦』は修理だけで、通信機器を改造することは出来ないのですよね?」

「おぉ、そうじゃのう。その方が手っ取り早ぇ」

「承知しました。――で……今のところ、その『脱走希望者』というのは……人数や氏名は、筆頭も未だ把握していないのですか」

「うん、それはまだじゃ、今頃、隊長さんが隊員達に意思を問いよるんじゃなかろうか。もしかしたら、全然居らん、っちゅうこともあるかしらんが」

「では、警備隊内で受け入れ準備だけはしておきます。――フローラ」

「はい」

 直属の上司から名前を呼ばれ、それが見える訳でも無いが、フローラは敬礼をして返事をした。

「物資の方に、喫緊で不足は無いか。特に、医療・保健の点で。――『一番』を出すから、諜報隊を先行して向かわせることが出来る、何か必要なものがあるなら持参するが」

「必ず持って来て欲しいという程、急を要する訳ではありませんが……車椅子があと二台有ると良いです。――現状、不足している物はありませんが、湿布や軟膏等、外傷に備えた薬と、栄養補給の点滴は備蓄がある状態にしておいた方が良いと思います。砂漠に軍人が集まっている訳ですから」

「ふむ」

「医薬品に限らず、今後サヴァナ(そちら)からも人員が入ることを考えましたら、補給のルートとシフトを、警備隊の方でも早めに設定しておいた方が良いかと」

「その通りだな」

 こっくりと大きく頷いたのが伝わる力強い返答があった。

 そこでまた、義一の声が割り込む。

「ちょっといいかえ、花ちゃん。警備と諜報以外の人員(もん)は、俺が直接云うた方が良かろうけん、聞いちょこう。医者とナースをご所望らしいが、あんたから特別ご指名はあるかい? 状況から見て、適正ある()の覚えは?」

 フローラが落ち着いた声で返す。

「特に名指しは致しません。――先方が男性しか居ませんので、同性(とのがた)の方が適しているかとは思いますが」

「……。ふぅん」

「何か?」

 義一の相槌に少々気になる間があったので、フローラは小首を傾げた。

 義一は、「いや、別に」と返してきた。

「云うてん、医者とナースは、こっちにもそげぇ数が居る訳じゃねえけん、……まあ、適正考えて、行かしてん良い者を行かすわ」

「お願いします」

 何となくはぐらかすような口調に、フローラは再度首を傾げたが、問い詰めたい程気になる訳では無い。

 義一からの声が止み、数秒空いたので、再びツルギの声が割り込む。

「では、剛義筆頭殿、先ずは第一陣で諜報を直ぐに出します」

「俺達は、此処で待っちょった方が良いか? 出来るだけ早く戻りてぇんじゃが」

 剛義が云うと、ツルギが「いえ、それには及びません」と答えた。

「――お話を聞いた限りでは、筆頭殿。その隊長閣下には、我々(サヴァナ)が何故そこまで敵方の隊に協力的になっているのかを、出来るだけ早くお伝えしておくのが宜しいのでは」

 ――つまり、サヴァナとイー・ルの「戦争」以外の要素……、〝筋〟のことを、イーヴィには早い内に語っておくべきではないかと。

 剛義は、

その通り(そげえ)じゃな」

 と真剣に頷いた。

「我々も、そちらを――()()して貰えるかどうかは判りませんが、ある程度の納得はして頂けるよう、資料をお持ちしますので。先ず筆頭殿の口から、今のうちにご説明差し上げた方が良いとは私も思います。〈マーカー〉を出していて下されば、それを追いますから、こちらを待たずにお戻り下さい」

「他の人員とブツは、俺が都合してから行かするけぇの。夜が更けて騒がしゅうしてもなんじゃけん、一回連絡するわ。手間取って夜が明けそうじゃったら、もう連絡せんまま出すけ、そのつもりで居っちょけ」

 義一がそう続け、剛義は「おぉい、分かった」と返した。

「じゃあの、俺達はこのまま、へ戻る(引き返す)で」

 剛義が宣言した後、太狼が脇から〈無線機〉に手を伸ばして少し信号を変え、

「……ジョー君、中継ご苦労さん。俺達はこのまま戻る。隊長から新しい指令が来るかんしれんけん、そのつもりで居っちょきよ」

 そう云ってハンドルを握った。

 Uターンしたところで剛義が慌てて

「あ、ちょいと待て、も一回止まれ」

 と太狼に云った。

 何事か、と太狼が呆れた顔をしながらブレーキを踏む。

 剛義は信号をまた少し変えて、

「よい、お父! いくら面白なっち来たけんっちゅうて(からって)、わぁがこっち来るやら考ゆんなや!? 大人しゅシンキの(まんご)を待っちょくんぞ」

「……。わぁの方こそ、お父をどげぇ信用しちょらんのか、分かっちょら。そっちこそ、サウザーにも良い報告が出来るごつ、仕事せぇや!?」

 いい年をした――と云うのもそぐわないくらいの老人親子が、売り言葉に買い言葉で吐き捨てるので、太狼は呆れた苦笑を浮かべながら、

「おじいー、ケンカしよん時間(ヒマ)は無ぇんじゃ、もう行くけんのー」

 無線に向かってそう云い、アクセルを踏んだ。

 段々遠ざかって雑音が増えていく中に、

「売っち来たんはそっちじゃろうがー――」

 と義一の声が混じった。


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