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荷台から出しておいた荷物を全て砦の中に入れ、剛義が「これは電池使う懐中電灯」「こっちは油使う行灯」「こっちはアルコールランプ」という説明をすると、まずイーヴィは「重ね重ね有難うございます」と謝意を告げ、それから、隊長として具体的な段取りを口にした。
――一先ず、ウィト君とスォ=ハム君、それぞれに懐中電灯を渡しておきましょう。
――〝礼拝集会所〟と医務室に、ランタンが二つずつはあった方が良いですね。
――先にそちらを準備しておいてから、ヤム君とベリー君、チォ君とソゥパ君の部屋へ、取りあえず懐中電灯を一つずつ渡しておきましょうか。
それで、承ったクォンと剛義、指示を出したイーヴィも一緒になって、電池を入れたり、新品のランタンへオイルやアルコールをセットしたり、といった作業を行う。
布の扉を抜けて、指示された人員・箇所へ配置をしたのはクォンだった。
クォンが下がったところで、剛義がイーヴィへ、
「俺達が持ってきた発電機を砦に繋げらるるなら、太狼が戻ってから下ろさせようと思うちょったんじゃが……。接続が出来ればそれはそれじゃけど、出来んかったらどげぇしたもんじゃろか? 元々は野営用の投光器に使う発電機なんよ。――薪やら炭やらもあるんじゃが」
「――」
「提供を受けるんが申し訳ねぇとか後ろめたいとか、そういう意味で考え込みなんなえ。必要無けりゃ只『要らん』っち云や良い。要るんじゃったら『要る』っち云うて。――俺が訊きよるんは、陽が暮れたあと野外を明るくするんは、あんたの『方針』に合うかどうかじゃ」
自分の申し出にイーヴィが微かに困惑の顔を見せたので、剛義は先回ってキッパリと云った。
イーヴィは、少しの間思案げに口を噤み、冷静な声で答えた。
「……そのお申し出を受けるかどうか決めるのは、ライズ君が戻ってからにします。彼が『無線傍受の心配は無い』と云っていた、その理由――彼がそう思った根拠を詳しく聞いてから」
「ふむ、そうか」
イーヴィの答えを聞いて、剛義も厳かに「承知」と頷いた。
――そこでまた、イーヴィは何か考える顔をした後、剛義へ
「タケヨシ殿、正直なところ――貴公は、どの程度……私に協力して下さるおつもりでいらっしゃいます」
潜めつつも凛とした声でそう訊いた。
「今のところ、物資の提供と……、ライズとリモの救助に、形としてはオリバー君の補助でタロー殿とハナ殿を貸して下さってますが、それはまだSOSへの応答の範囲ですよね」
「――」
剛義は一瞬目を細めた後、
「あんたが必要とする助けなら、俺に出来ることを何でもするつもりでおる。けど、『やりとねぇ』ことはやらん」
飄々と答えた。するとイーヴィも、少々訝しげに目を細めた。
剛義は軽く肩を竦め、
「極端な仮定じゃが、例えばあんたが、イー・ルに攻め込んで武力で革命起こすつもりになっても、それに協力は出来ん。そもそも俺にはイー・ルを落とすつもりが無ぇんじゃけん、そげんことしとねぇ。第一、そげんことしよる『暇』が俺達には無ぇけの」
とイーヴィに返した。――おどけた声色・態度であったから、イーヴィは軽く苦笑を浮かべた。
それにしても――。最初に彼と二人だけで会話した時も、「他にやらなければならぬことがある」と云っていた……「そんな時間は無い」とはどういう意味だろうか。現在のサヴァナに、「イー・ルとの戦争」以外、以上の問題が、あるのだろうか――そんな疑問がイーヴィの脳裏を掠めたが、一先ず今は質問を堪える。
「まぁ、それと……、俺個人があんたを買っちょるけん、あんたの助けにはなりてぇけど、直接イー・ルのために動くつもりは無ぇ。あんた個人の行動が結果的にあんたの祖国のためになる時は、まぁ、しょうがねぇと俺は割り切りも出来るが、俺んとこの皆が皆、納得出来るかどうか、それも怪しいけん、イー・ルに利する可能性が大きい手助けは、ちょっと難しいわな。じゃったら、あんたの方がこっちに寝返って欲しいわ」
「……ごもっともな話です」
剛義も多少困惑気味に云って来たので、イーヴィは「それは当然のことだろう」と神妙に頷いた。
「何故そげんことを?」
「――。先程、エ=ドンにも、私が貴方から聞いたことを、伝えました」
剛義の質問に、直接答えず、イーヴィはそう云った。
「……ああ、いえ、『魔法』についてお聞きした、あの話じゃありません。最初に聞いた……『五日前に起きたこと』、です」
「――ふん……」
「エ=ドンは私と同い年で――部下ではありますが、信頼できる友でもあります。彼に先にその話をした上で、他の隊員にも、それを明らかにしておくべきか、相談をしたのですが――」
「それで?」
「……。実のところ、私の隊に属している隊員は――貴方もご想像の通り、国家中枢から見た時、私ほどではないにせよ『扱いにくい』と思われている民……でもあります」
「――さっきちらっと、クォンさんからも聞いたよ」
剛義が溜息混じりに相槌を打った。イーヴィも「左様ですか……」と吐息混じりに返して続ける。
「私自身は祖国を守るために、『背を見せている』ことを一旦止め、『振り返る』ことを決意した訳ですが――最早、今の段階で完全に『背を向けて』イー・ルから逃げ出したい者が居ても、それは詮無きことと、考えております。それを、私が止めることは出来ないと」
「……」
「ただ、その中には、私を理由に脱走・亡命を躊躇う者も居ると思うのです。私が砦に留まるのならば、身命を賭しても己も残る、と……私に殉ずるような心持ちで居るような者が。――しかし、それは、私の本意ではありません」
剛義はその言葉を聞いて、イーヴィから顔を隠すように俯いた。そして微笑を浮かべる――クォンが云っていた通りである、それを、イーヴィも感じ取っている……知っているのだ。
そして、それは、彼らの上に立つ者として本意ではないと。〝長〟ならではの葛藤である、そして、その葛藤を抱くイーヴィは、やはり「器」を持っているということだ。
笑みを消して剛義が顔を上げ、「それで」と先を促すと、イーヴィは微かに眉を寄せた。
「それだけなら良いのですが、……『最早生国には何の未練もない』という感情が、『憤懣』や『憎悪』に向かってしまうのを、私は恐れています。貴方が先程仰ったように、その感情が、大導師長や都に対する、暗殺や破壊工作へ突き動かすことになっては、それも私の本意ではありません。それが『革命』――当人にとって『正義』の表現だとしても」
「……。あんたの部下なら、その心配は無ぇと思うがな。〝導師〟としても、ちゃんと導いちょると思うけど」
「――私自身、正しく導くよう努めては来ましたが、どう導かれたのかは、最早当人に委ねられますので。今のイー・ルが『神の言葉を正しく聞けているか』、私自身、怪しいと思っているからこそ、私が導いてきた彼らの中に、『イー・ルの方が間違っている』と自信を持ってしまう者が居ても可笑しくなく――それが私の本意ではないことを、『隊長のため』と決意して行う者も、居て可笑しくはない」
そこでイーヴィも、自嘲めいた苦笑を見せたが、直ぐにその表情は消える。
「砦は死に体に装って本部の真意を量る――という方針は、私が既に決定していることです。その決定にただ逆らう隊員は、『命令違反』と判断すれば良い。とはいえ、その決断に至った判断材料に、貴方から聞いた情報と『七日前の命令』の照合――『点と点の繋がり』があることにも違いありません、私の今後の方針を隊員に納得して貰うにあたり、話した方が良いのか悪いのか、それが悩ましく……。――もしかすると、その話が祖国に対する完全な失望、ひいては破壊衝動の引き金にならないとも限りませんから」
「成る程。で、気心が知れちょる軍医さんにだけは、今のうち耳に入れて、相談したっちゅう訳か」
「はい。――それで彼も、隊員に秘しておくことが、少なくとも『メリット』になることはなかろう、と……。憤懣や憎悪の引き金になるリスクはあるとしても、そっちは既に『予想』が出来ていることなのだから、最初から明らかにした上で、個々の受け止め方と行動を観察することにした方が、情報量の違いから来る齟齬、すれ違いによるトラブルは防げるのではないかと、申しておりまして」
「じゃあ、それで良いんじゃねぇん? 俺にも『どうしょうか』っちゅう相談して決むんのは、筋が違うで。そこは一線守っちょかないけんよ」
剛義が軽く肩を竦める。イーヴィは「いえ、そうじゃなく」と軽く首を振った。
「私がお尋ねしたいのは、その後のことなのです」
「ふん?」
イーヴィは険しい顔をして声を潜めた。




