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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(2)
242/279

【a5d:svn】(2) -[6]-(1)



 荷台から出しておいた荷物を全て砦の中に入れ、剛義が「これは電池使う懐中電灯」「こっちは(オイル)使う行灯」「こっちはアルコールランプ」という説明をすると、まずイーヴィは「重ね重ね有難うございます」と謝意を告げ、それから、隊長として具体的な段取りを口にした。

 ――一先ず、ウィト君とスォ=ハム君、それぞれに懐中電灯を渡しておきましょう。

 ――〝礼拝集会所〟と医務室に、ランタンが二つずつはあった方が良いですね。

 ――先にそちらを準備しておいてから、ヤム君とベリー君、チォ君とソゥパ君の部屋へ、取りあえず懐中電灯を一つずつ渡しておきましょうか。

 それで、承ったクォンと剛義、指示を出したイーヴィも一緒になって、電池を入れたり、新品のランタンへオイルやアルコールをセットしたり、といった作業を行う。

 布の扉を抜けて、指示された人員・箇所へ配置をしたのはクォンだった。

 クォンが下がったところで、剛義がイーヴィへ、

「俺達が持ってきた発電機を砦に繋げらるるなら、太狼が戻ってから下ろさせよ(しょ)うと思うちょったんじゃが……。接続が出来ればそれはそれじゃけど、出来んかったらどげぇしたもんじゃろか? 元々は野営用の投光器に使う発電機なんよ。――薪やら炭やらもあるんじゃが」

「――」

「提供を受けるんが申し訳ねぇとか後ろめたいとか、そういう意味で考え込みなんなえ(むんじゃないよ)。必要無けりゃ只『要らん』っち云や(いえば)良い。要るんじゃったら『要る』っち云うて。――俺が訊きよるんは、陽が暮れたあと野外を明るくするんは、あんたの『方針』に合うかどうかじゃ」

 自分の申し出にイーヴィが微かに困惑の顔を見せたので、剛義は先回ってキッパリと云った。

 イーヴィは、少しの間思案げに口を噤み、冷静な声で答えた。

「……そのお申し出を受けるかどうか決めるのは、ライズ君が戻ってからにします。彼が『無線傍受の心配は無い』と云っていた、その理由――彼がそう思った根拠を詳しく聞いてから」

「ふむ、そうか」

 イーヴィの答えを聞いて、剛義も厳かに「承知」と頷いた。

 ――そこでまた、イーヴィは何か考える顔をした後、剛義へ

「タケヨシ殿、正直なところ――貴公は、どの程度……()()協力して下さるおつもりでいらっしゃいます」

 潜めつつも凛とした声でそう訊いた。

「今のところ、物資の提供と……、ライズとリモの救助に、形としてはオリバー君の補助でタロー殿とハナ殿を貸して下さってますが、それはまだ()()()()()()()の範囲ですよね」

「――」

 剛義は一瞬目を細めた後、

()()()()必要とする助けなら、()に出来ることを何でもするつもりでおる。けど、『やり(たく)ねぇ』ことはやらん」

 飄々と答えた。するとイーヴィも、少々訝しげに目を細めた。

 剛義は軽く肩を竦め、

「極端な仮定じゃが、例えばあんたが、イー・ル(みやこ)に攻め込んで武力で革命起こすつもりになっても、それに協力は出来ん。そもそも俺にはイー・ルを落とすつもりが無ぇんじゃけん、そげんことしとねぇ。第一、そげんことしよる『暇』が俺達には無ぇけの」

 とイーヴィに返した。――おどけた声色・態度であったから、イーヴィは軽く苦笑を浮かべた。

 それにしても――。最初に彼と二人だけで会話した時も、「他にやらなければならぬことがある」と云っていた……「そんな時間(ひま)は無い」とはどういう意味だろうか。現在のサヴァナに、「イー・ルとの戦争」以外、以上の問題が、あるのだろうか――そんな疑問がイーヴィの脳裏を掠めたが、一先ず今は質問を堪える。

「まぁ、それと……、俺個人があんたを買っちょるけん、()()()の助けにはなりてぇけど、直接イー・ルのために動くつもりは無ぇ。あんた個人の行動が()()()()あんたの祖国(イー・ル)のためになる時は、まぁ、しょうがねぇと俺は割り切りも出()るが、俺んとこ(サヴァナ・ギルド)の皆が皆、納得出来るかどうか、それも怪しいけん、()()()()()()()()可能性が大きい手助けは、ちょっと難しいわな。じゃったら、あんたの方がこっちに寝返って欲しいわ」

「……ごもっともな話です」

 剛義も多少困惑気味に云って来たので、イーヴィは「それは当然のことだろう」と神妙に頷いた。

何故(なし)そげんことを?」

「――。先程、エ=ドンにも、私が貴方から聞いたことを、伝えました」

 剛義の質問に、直接答えず、イーヴィはそう云った。

「……ああ、いえ、『魔法』についてお聞きした、あの話じゃありません。最初に聞いた……『五日前に起きたこと』、です」

「――ふん……」

「エ=ドンは私と同い年で――部下ではありますが、信頼できる友でもあります。彼に先にその話をした上で、他の隊員にも、それを明らかにしておくべきか、相談をしたのですが――」

「それで?」

「……。実のところ、私の隊に属している隊員は――貴方もご想像の通り、国家中枢から見た時、私ほどではないにせよ『扱いにくい』と思われている民……でもあります」

「――さっきちらっと、クォン(コン)さんからも聞いたよ」

 剛義が溜息混じりに相槌を打った。イーヴィも「左様ですか……」と吐息混じりに返して続ける。

「私自身は祖国を()()ために、『背を見せている』ことを一旦止め、『振り返る』ことを決意した訳ですが――最早、今の段階で完全に『背を向けて』イー・ルから逃げ出したい者が居ても、それは詮無きことと、考えております。それを、()()止めることは出来ないと」

「……」

「ただ、その中には、()()()()()脱走・亡命を躊躇う者も居ると思うのです。私が(ここ)に留まるのならば、身命を賭しても己も残る、と……()()()()()ような心持ちで居るような者が。――しかし、それは、私の本意ではありません」

 剛義はその言葉を聞いて、イーヴィから顔を隠すように俯いた。そして微笑を浮かべる――クォンが云っていた通りである、それを、イーヴィも感じ取っている……知っているのだ。

 そして、それは、彼らの上に立つ者として()()()()()()と。〝長〟ならではの葛藤である、そして、その葛藤を抱くイーヴィは、やはり「器」を持っているということだ。

 笑みを消して剛義が顔を上げ、「それで」と先を促すと、イーヴィは微かに眉を寄せた。

()()()()()()()()のですが、……『最早生国(イー・ル)には何の未練もない』という感情が、『憤懣』や『憎悪』に向かってしまうのを、私は恐れています。貴方が先程仰ったように、その感情が、大導師長や都に対する、暗殺や破壊工作へ突き動かすことになっては、それも私の本意ではありません。それが『革命』――当人にとって『正義』の表現だとしても」

「……。あんたの部下なら、その心配は無ぇと思うがな。〝導師〟としても、ちゃんと導いちょると思うけど」

「――私自身、正しく導くよう努めては来ましたが、どう導かれた(うけとめた)のかは、最早当人に委ねられますので。今のイー・ルが『神の言葉を正しく聞けているか』、私自身、怪しいと思っているからこそ、私が導いてきた彼らの中に、『イー・ル(くに)の方が間違っている』と()()()()()()()()()者が居ても可笑しくなく――それが私の本意ではないことを、『隊長(わたし)のため』と決意して行う者も、居て可笑しくはない」

 そこでイーヴィも、自嘲めいた苦笑を見せたが、直ぐにその表情は消える。

「砦は死に体に装って本部の真意を量る――という方針は、私が既に決定していることです。その決定に()()()()()隊員は、『命令違反』と判断すれば良い。とはいえ、その決断に至った判断材料に、貴方から聞いた情報(はなし)と『七日前の命令』の照合――『点と点の繋がり』があることにも違いありません、私の今後の方針を隊員に納得して貰うにあたり、話した方が良いのか悪いのか、それが悩ましく……。――もしかすると、その話が祖国(イー・ル)に対する完全な失望、ひいては破壊衝動の引き金にならないとも限りませんから」

「成る程。で、気心が知れちょる軍医(エ=ドン)さんにだけは、今のうち耳に入れて、相談したっちゅう訳か」

「はい。――それで彼も、隊員に()()()()()ことが、少なくとも『メリット』になることはなかろう、と……。憤懣や憎悪の引き金になるリスクはあるとしても、そっちは既に『予想』が出来ていることなのだから、最初から明らかにした上で、個々の受け止め方と行動を観察することにした方が、情報量の違いから来る齟齬、()()()()によるトラブルは防げるのではないかと、申しておりまして」

「じゃあ、それで良いんじゃねぇん? 俺にも『どうしょうか』っちゅう相談して決むん(める)のは、筋が違うで。そこは一線守っちょかないけんよ」

 剛義が軽く肩を竦める。イーヴィは「いえ、そうじゃなく」と軽く首を振った。

「私がお尋ねしたいのは、その後のことなのです」

「ふん?」

 イーヴィは険しい顔をして声を潜めた。


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