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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(2)
237/277

【a5d:svn】(2) -[4]-(4)

「――仲睦まじく歩いてる親子を見て、母親の不貞が判っちまう。貧乏長屋に母親と暮らしてる父無し子のタネが、偶々、車の修理に雇われて行った、お大尽の旦那だと判っちまう――そこの奥様が、幸せそうに笑って『ご苦労様』なんて云ってくれると、もう、胸が張り裂けそうでね……。一番きつかったのは、儂の〝同級生〟だった女性(むすめ)が乱暴された末に孕んじまって、子を産んだ後に首括った時ですよ――儂には、その赤子のタネが、彼女の教区の『導師』だったことが、判っちまったんです。そりゃ別に、イー・ルの『神』は『聖職者』に、『純潔』『独身』は要求してませんがね? ()()()()()バックレたことが、儂には許せなんだ――それが、後ろに手が回った最初ですかね、動機(理由)こそ黙秘貫きましたが、そん時ァ敢えてイカレの振りして、当人をぶん殴った上で、そいつが担当してた祭壇を、あの発電機も目じゃねえくらいボコボコにしてやりましたよ」

 発電機を納めた小屋の方にちらっと目を向け、自嘲めいた声でクォンが云った。

 剛義はそこで「あ~」と、今度は()()したような息を吐いた。

「それでかえ」

 と合点した言葉を出すと、

「――コンさん、あんた、太狼と俺とで、その『色』か『気配』か、様子が()()()()()()けん、何か、不思議そうな顔しちょったんじゃな」

 成る程、と剛義は大きく頷く。クォンが、恐る恐る、というふうに口を開く。

「いえね、そうは云っても――若ぇ頃(むかし)と比べて『鈍感』なのはそうですから、タケさんとタローさんの、血縁が、疑わしかった訳じゃあねぇんですよ。『それ』が見えた訳じゃぁなくてですね――、()()()()()()()()()()()()()()ものを、見たというか、感じたというか、そんなだったもんで、――そういや、本物の〈魔術士〉に面と向かったのは儂も初めてでしたから、それで、何と云うか、そっち業界のお人は、そういうもんなのかと……」

 言い訳がましく口ごもりながらクォンが云うと、剛義は、隣に同じような格好でしゃがんでいる彼の背中を軽く叩いて、「そげぇ狼狽えんでも良いっちゃ」と苦笑しながら頷きを返した。

「ちなみに、『見えた』んは、俺(か?)、太狼(か?)

 剛義が尋ねると、クォンが小声で、「タロー君ですが…」と答えた。

 その答えに、「やっぱりなー」と溜息をついた後で、剛義は

「……あの野郎(あんやたぁ)…。一人前になったごたったけど、まだ修行が足りんのー」

 と大げさに嘆く声で独りごちた。今度はクォンが訝しげに目を細める。

「コンさん、あんたが、太狼の『何』を『見た』んかは、敢えて聞かんじょく(でおく)わ、俺達も『秘密』にしちょることかんしれんけん、お互いのために、ハッキリさせん方が良かろうで」

「……そういう、もんなんですかい?」

「壁に耳があったらエラいことなんにい(なるのに)、あんたも敵方の俺にぶっちゃけてくれたんじゃけん、俺も何を見たんか聞いて、説明しちゃってん良いんじゃけど、あんたの想像の斜め上、許容範囲超えるかもしれんじゃろ。――またいずれ、敵方に別るるもん同士じゃけど、今は俺もあんたに親近感湧いちょるけんな、変に見る目が変わったら寂しいけん」

「――。タケさん。あんた、儂が『何』見たか、想像が付いとるようなこと、云うとりますね」

 クォンが、微かに苦笑しながら云うと、剛義は、とぼけるように小首を傾げた。

「……儂は『見える』だけで、『魔法(そっち)』の業界のことは全然知らんのですから、適当なことを云うておいて構わんでしょうに…。『嘘は云いたくない』っていう、あんたさんの(じつ)は伝わってきてますから、儂も、見る目が変わるってことは無いと思うんですがね。――見る目が変わるとしたら、あんたさんがイヴ隊長に害を為そうとするとき、ただその時だけでしょう。それ以外、儂の感情が大きく揺らぐような、生きてる実感なぞ、ありゃしないんですから」

「ああ……そげぇな」

「――『絶対云えない秘密』ってんなら、別に良いですよ。儂はつくづく、そちらさんの業界を知らんのですから……。ただ、そりゃ儂も『見』ちまった時は吃驚しやしたが、あんな頼もしいご子息だのに、『修行が足りん』と嘆くのは気の毒じゃねえかと、それが不思議でね」

 クォンがそう云うと、剛義は肩を竦めてから、しみじみとした声で答えた。

「――あんた、蝦さんのお父上が、『こっち』に引き戻してくれた、っち云いよったろ」

「? へい……それが」

 頷きつつも、何の関係が、とクォンが不思議そうな顔をした。

「話聞いただけじゃけど、立派な導師やったと判る。異端っちゅうことになるんじゃろうが、イー・ルで、そげん人に出会えたんは、あんた、相当運が良かったで」

「ええ……その通りで」

「あんたさんみたいな『目』は、〈魔術士〉だけが持っちょるもんじゃねえし、〈魔術士〉になりてぇ人間だってん、死ぬまでその『目』を持たれんこともある、じゃあけん、あんたに()()する者も居るじゃろう――あんたの『目』は〈魔術士〉からしたら、『素質』とか『才能』っち云えるもんなんじゃ。それを鞭打って抹殺するような(イー・ル)、相当はがいたらしい(むかつく)わ、〈魔術士〉志願の若者からしたら」

「――」

「それでもやっぱり、あんたは、イー・ルに生まれてしもうたんじゃけん、本当じゃったら、そげな『目』は持たん方が良かった。さぞかし辛ぇ半生じゃったごたるけど、蝦さんの父上に会うてなかった(ちょらだった)ら『半生』っち云う間もなく、もしや命も無かったかしれんのじゃろ」

「へぇ、仰る通りです――この年になるまで生き長らえたのは、フリアイ様に出会えたおかげ……それは正に、()()()()()()

 ――見えない何かに頭を垂れる如く、クォンが俯いた。剛義は、そこで薄く笑みを浮かべた――「神のご加護」などとは云わないところが、クォンの「イー・ル人としては特異」な部分を表している――。

 しかし、それがどうした、と云うふうに、クォンが剛義に相変わらず不思議そうな顔を向ける。

「……イー・ル(あんたとこ)が一番極端じゃァあるが、『あんたみたいな人』は世界中に居る(おん)のよ。見る者が見りゃ『才能』っち云われるような『特別』なもん持って生まれながら、それが報われん、否定・排除される(とこ)沢山(ようけ)ある。そして残念ながら、あんたみたいな御仁が産まれてくるとき、場所は選ばれん」

「――」

じゃあけん(だから)俺達(こっち)は、そういうお人らが『知らんでも良いもん』は、()()()ようにしちょるんよ」

「え?」

 クォンがぱちぱちと瞬きをして首を傾げた。

「蝦さんのお父上が、あんたさんを『()()()に引き戻した』っちゅうのは、中々的を射た云い方じゃ。あんたはイー・ル(そっち)の理屈だけで生きちかな(生きていかねば)ならんのじゃけんな。――コンさん、蝦さんの父上が教えてくれた『見えると云っちゃいかんもの』っちゅうのはな、要は『見らんで(なくて)良いもの』なんじゃ。それは、俺達にとっては、『見せんで良いもの』なんよ」

「……は…」

じゃあに(だのに)、太狼ン奴……――イー・ルが、全然『俺達(こっち)』のこと(わか)らんと思うて、油断しちょったんじゃろう。見える見えんは場所()を問わん、イー・ルにだってん、あんたんごつ見える者(みゆるし)が居ってん可笑しねえっちゅうのを忘れて、気ィ抜いちょったんじゃわ。じゃあけ『修行が足りん』っち云うんよ」

「――」

「見せたらいけんっちゅう程のことじゃねぇけん、『秘密』っち云うと大げさじゃァあるんじゃけど、わざわざ見せるもんでもねぇ。それはサヴァナ(ギルド)の内でもそうなんじゃ、俺達の一族の『ソレ』は、〈魔術〉が当たり前の場所の人(ンし)から見ても、ちょっと()()でな――じゃあけ、実際、あんたがそうじゃったみたいに、イー・ルんごつ『そげんもんが見えたら大変』な国の人にこそ『見せん』ように気ィ張っちょかないけんに、彼奴は(あんやた)ー」

 砂を掘りながら、嘆かわしい、というふうに剛義が吐き捨てる。

 クォンは再び訝しげに、今度は多少の「怯え」も過らせながら、目を細めた。

「……タケさん。それじゃあ――『気を抜いて』たら、タローさんと親子だってことに全く疑いの余地無いモノが、あんたさんにも見える、って聞こえますぜ?」

「――」

 クォンが怖ず怖ずとした声で云い、剛義は一瞬口を噤んでから、薄く笑った。

「そうよ」

「……」

「実際、あんたが見たもんを聞いちょらんけん、『多分』じゃけど。仮にあんたが、その『目』を、魔術士と同じような訓練で上乗せして鍛えたら、太狼と俺だけじゃなく、俺の血縁が一目瞭然(すぐ判る)かもしれん」

 クォンは一度ぷるっと肩を震わせてから、縦とも横ともつかず曖昧に首を振った。

「――それは〈魔術(まほう)〉とは関係無くてな。さっき蝦さんに、この砦に着いてから魔法は使うちょらん、っち云うたんじゃが、それは真じゃ、()()()見せんごと(見せないように)しよる訳じゃねえ。純粋に、太狼の『心構え』の修行が足りんのよ。――蝦さんのお父上のおかげと、何とかかんとか長生きしたことで『鈍く(にぶ)なる』ことが、()()()()()()()()()()のに、そいなあんたに、『見せ』ちしもうたんじゃもん。親父の俺が謝っちょくわ、済まんかったなぁ」

 そう云うと、剛義はペコッと頭を下げた。クォンは慌てて、

「いえ、そんな――……」

 今度はハッキリ首を横に振りはしたものの、何と返して良いものか解らず、口を噤んで砂を掘った。

 二人共に、「こんなものだろうか」と思ったところで、剛義の側から、

「大体、こんくらいで良いんじゃねえかでぇ(ないかなあ)。カバーも余裕持って取らるるし、俺とこの発電機置くスペースもこんだけ有れば良いと思うで」

 そう云った。差し込み口があるという箇所のカバーが、繋がっている扉なのか完全に外れる蓋なのか剛義はまだ知らないが、どちらにせよ余裕を持って開けられる深さは作った。周囲に発電機を水平に置ける程度の面積も確保している。

 クォンも「そうですな」と頷いて、二人共々、「よっこらせ」と立ち上がる。

「折角、今掘ったにぃ(のに)、また砂が吹いてきたら元も子もねぇな。……あのテントを、こっちさい()さんな(さないか)

 太狼が風防用に設えたままの覆いを「丁度良い」と云うふうに指さして、剛義が云う。

「カムフラージュしちょったごたるし、そげんことしたら如何にも、此処に何かあるごたって(ようで)悪かろうか」

 するとクォンは軽く首を振り、

「いえ、お借りして良いのなら、そうさせて貰えると有り難いです」

 そう云うと、同意と謝辞を兼ねたように軽く頭を下げた。

「この砦は、陣地の西の端ですから。今更、西側(そちらさん)から異変察知されるのを警戒しても、しょうがないでしょう」

 それを聞いて剛義も「それもそうか」と笑い、では取りに行こうと、クォンは足下に一旦道具箱を置いた。

 既にテントの形になっているので、四つ角を二人で支えて南西から北西の角に移動させる。

 スォ=ハムが作業に使っていた時と違い、今は砦の「根元」の位置で風を避けたいのだから、クォンと剛義はグイグイと力を込めて角の支柱を砂に差し、側面の布も何センチか埋めて固定した。

「実際、発電機置くことになったら、もうちょっと丁寧にやり直そう。熱が籠もらんように加減せないけんもんな」

「左様ですな」

 道具箱を取りながらクォンが真面目に頷く。

 再び、クォンは庇を見上げ、時々足下にも目をやりながら、何も無くなった南西の角の方へ歩き出した。


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