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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【五日後のサヴァナ】(1)
222/278

【a5d:svn】(1) -[7]-(2)

 「川」の方が近距離だったとは云え……、最も近いN33基地であったら、往復出来ている時間ではなかろうか。勿論、「通常であれば」だから、運転する人間が衰弱し(よわっ)ているのを考慮すると、時間が掛かって当然ではあるのだが――。

「クォンさん、ウィト君、スォ=ハム君、T1番車の位置確認を、最優先で頼む」

「畏まりました」「了解」「はいっ」

 三人がそれぞれ敬礼を見せて承り、クォンはスォ=ハムに手を借りながら立ち上がった。

「俺も、何か手伝えることがあったら、やりましょうか?」

 太狼がイーヴィに訊ねると、「お願いします」と即座に返答した。

 それで取りあえず、太狼は――背丈が違いすぎて肩を貸すことは出来ないので――

「まだ足がふらつくようにあったら、掴まれ」

 とウィトに肘を曲げて腕を差し出した。ウィトは微かに狼狽の表情を見せたが、「恐れ入ります」と頷いて、肘を掴む。

 太狼を含めた四人が、再び布の扉の向こうに消えた。

 イーヴィは腕を組み、険しい顔をして呟く。

「N33に無事辿り着けていて、そのまま休息を受け入れられた……というのなら、まだ良いんだが…」

「それならそれで、あんたがさっき云うた計画、方針は反故になるで?」

 剛義が肩を竦めて口を挟む。

「砦が『死』んでねえことが、バレちょる」

「その時はその時です、が――もしや〝少将〟が何らかの手を事前に回しているようなら、ただ単に休息しているだけでなく、ともすると拘束された可能性もある。そうなると、この砦と我が隊を確実に潰しにかかるかもしれません。貴方方が此処に居ては危険です、T1の位置が判明次第、コトによっては、直ぐに逃げて下さい」

「……大佐にとって最悪のケースがどちらになるのか判りませんが、私が考える最悪は、そのお二人が砂漠に迷い、立ち往生している、というケースです」

 そこでフローラが冷静に口を挟む。今残っている人間の視線が、彼女に集中した瞬間に、フローラはツカツカと、部屋の隅に積まれた物資の箱に近づいた。

「無闇に飛び出しては、文字通りミイラ取りがミイラになってしまいますから、レーダーが回復するまでに、――少尉、救出のための物資を準備しておきましょう」

 まずオリバーを振り返って云うと、フローラは筆頭(ボス)へ「構いませんね?」と窺うように視線を向けた。

 剛義は薄く笑み、

そげえじゃ(そのとおり)

 と頷いた。

 フローラはまず水のタンクを二つ別にし、箱の中から「これは要る、要らない」とテキパキ分類して、持参する必要の無い物は他の箱の上に乗せていく。中身を残した方の箱をタンクの横に置いて、それらを指さしつつ、

「今のうちに給油もしておきましょう。予備燃料タンクと担架、追加の栄養剤等も取ってきますから、少尉、貴方はこれを先ほどの、貴軍の軍用車に乗せておいて下さい。流石に、我々(サヴァナ)の運搬車を、これ以上敵陣深くへ乗り入れる訳にはいきませんので」

 口を挟む余地も無く、すらすらとフローラは云った。

 オリバーは「か、畏まりました」と思わず敬礼を見せて応じ、慌てて箱を抱え外へ飛び出していく。

 フローラも、筆頭と隊長へ軽く頭を下げ、外へ出て行った。

 イーヴィが独り言つように

「……頼もしいご婦人です」

 と口にする。剛義が、ふっと笑み、

サヴァナ(うち)は、男共(おとこし)が凧か風船のごと勝手じゃけんかしらん(だからなのか)女衆(おなごし)は、その端でしっかり紐持っちょく冷静な()多い(おいい)ごたる。有り難ぇことじゃ」

 そんなことを云った後、冷静な声で

「……その、N33っちゅう砦だか基地だかに詰めちょる隊は、ある程度信用出来るけん、支援要請に出さしたんな」

 イーヴィに問うと、彼は億劫そうに、曖昧な首の振り方をした。

「貴公より『五日前』に外で起きたことを聞くまで、私も()()()()本営から疎まれているとも思っていませんでしたので……。〝少将〟の暴挙についても、その当時は、何か、追い詰められた事情があったのだろうと考えておりました。彼の『性格』が直情的・刹那的なのは知っておりましたから、彼個人の中でだけ整合性のある行動だったのだろうと。故に、他の砦なり斥候なりが、我が隊の非常事態を察知してさえくれれば、救援が期待出来ますし、告発はその後可能だと考えていたのですけども」

「実際は、『七日前』の段階から、〝ぐるみ〟であんた達を見捨てちょるのと同じやけんな――〝少将〟の暴挙の方が余程『一先ず脇に置』かれて、二人が拘束されててもおかしくない……っち考えたんやな、あんた」

「N33にて、暗殺のための小隊が編成され武装を整えてこちらに向かっている――ということも、考えられなくはありません。時間を考えると、そろそろ東の方に姿が見えても良いくらいかもしれない。その時は、貴方方は只、逃げて下さい」

 イーヴィが真摯な声で云うと、彼とは正反対に飄々とした声で剛義は「い~やぁ~?」と云った。

「俺は、それは無ぇと思うがなぁ」

「何故です」

 イーヴィが、若干、責めるような口調も混じって剛義に訊く。

 剛義は軽く肩を竦めながら答えた。

「さっき云うたじゃねえな。五日前、ミサイルが発射されるときに、あんた達以外のイー・ル軍は後退し(さがっ)たんじゃ。俺達がその後、イー・ル(そっち)の様子見よった間、今日まで、大きな動きは無ぇのよ。もう一回、前に出て配置し直した様子も無ぇんじゃわ」

「――」

「そのN33っちゅうのがどんくらい東なんか知らんが、あんた達の最後尾ラインから此処までで考えて、真ん中よりは『前』なんやったら、――もしかしたら、砦は(から)かんしれん」

 そこでイーヴィが、眉を寄せながら目を細めた。

「もしそうやったら、な? 俺はむしろ、――『リモ』『ライズ』っちゅうお二人が訳の分からん状況に狼狽えてしもうて、闇雲に別の砦にまで行きよらしめえか(行ってやしないか)、そっちが心配じゃなぁ。花ちゃんが云いよったみたいに、そげんことしよん間に燃料切れて、立ち往生したんかんしれん」

「あ、ああ……。成る程、それも可能性として、……否めません」

 イーヴィも、一瞬狼狽の表情を見せ、頷いた。

どっちしてん(どちらにせよ)、あんたが俺達に逃げぇっちゅうような心配は、無ぇ気がするわぁ、俺は。――第一、そんときは、俺達の方が逃げんで応戦してん良いじゃろ」

「そんな――タケヨシ殿、私も、貴公を、今は休戦状態なだけで『敵方』であると、一線を引いてはいますが、こんな内輪揉めに近いことで貴方方を巻き込むつもりも、私には無いんですよ」

 ギュッと眉を寄せ、イーヴィが剛義を睨みながら云う。すると剛義は

「ふん? じゃあ、俺達がとっとと逃げた後? あんたが此処で犬死にしたり、処刑されたっちゅう話が入っち来たら? ――云うたよな? 俺は、あんたのクニをすり潰しにかかるで?」

 ねめつけるような目で見返し、粘っこい声で云い返した。イーヴィが「……うっ」とたじろいで息を飲む。

「何遍も云わせなんなっちゃ(云わせないでくれよ)。俺は、イー・ルを落とすつもりは無ぇんじゃ。あんたと別れた後あんたが生き延びて()()()()()()、っちゅう確信が持たれんのじゃけん、今みたいに中途半端なところで逃げちしもうたら、後々、俺は不本意なことをせなならん(せねばならぬ)

 そこで、剛義は「はあ」と息を吐いた。

「本音云うたら俺も、他にやらなならんことがあるけん、一個、国潰すやら面倒臭い(よだきい)。ここで逃()る方が、後々、俺にとってもややこしいことになんのじゃ」

 独り言の口調でそう云うと、剛義は随分と真剣な表情になって、外の方角へ目を向けた。

 イーヴィが訝しげに目を細めたが、「他にすべきこと」を、今説明するのもややこしいので、剛義は、ただ先を続けた。

「俺は、多分、それは無ぇと思うんじゃけど、万が一あんたの読み通りになったら、そん時は、蝦さん、あんたの方が腹括りよ。開き直って、『捕虜』になんなぁ(なりなさい)

「……」

「俺達がこの砦『取った』っちゅうことにすら(すれば)、俺達が交戦する理由もあるじゃねえな。そげなことになったんも、自分達がミサイルぶっ放した後、此処を(ほた)っちょった、司令部の配備の拙さじゃ。あんた達ゃ、まともに交戦出来る体力なんかありゃせんのじゃけん、黙って『捕虜』か『人質』のフリしよか(していれば)良い。――向こうも、あんた達を見捨つる企みが()()()()になってくれたっちゅうち、俺達に感謝すらぁ(するだろう)

 再び、剛義が飄々とした声で云うと、イーヴィは「否」というのじゃなく「やれやれ」と云うふうに緩く首を振った。

 ――と、そこに、布の扉の向こうから太狼とスォ=ハムが姿を現した。太狼は肩に脚立を掛けている。

 入ってくるといきなり太狼が、

「隊長さん、あんたの兵服を貸してくれんですかね、上だけでいい」

 とイーヴィの胸辺りを指さしながら云ってきた。

 イーヴィが思わず「はっ?」と声を裏返し、首を傾げる。傍についていたスォ=ハムが慌てて、隊長へ補足した。

「あっ、あの、屋根に上がりたいンスよ。そんで、タロさんがこのままの格好だと、不審じゃないッスか。只でさえ死に体装いたいから、ホントは、砦の屋根に上って何か作業するのも、遠眼鏡で見られることあっちゃヤバイし、ましてそれが『部外者』ぽかったらマズいッスよね」

「俺は、中身(した)もこんなで、明らかにイー・ル兵とは違いますけん、半纏脱いだだけじゃ、ごまかせんのですわ」

 太狼が、半纏の襟を軽く開いて、鎖帷子を見せる。

「タロさんと同じくらいの背丈の人、隊長しか居ないんで……」

「ああ、それで――」

「予備があるんだったらそっちでも良いけど、清潔なのがあるんなら、本人が着替えた方が良いですよ」

 太狼が小首を傾げながら云うと、イーヴィが苦笑して、

「いえ、そんなものも今はありません。どうぞ、君が不快でないなら」

 そう云い、上衣の襟に手を伸ばした。同時に太狼は、一旦スォ=ハムへ脚立を預け、

「お父、こっちを持っちょいてくれ」

 半纏を脱ぎ、剛義の胸元に向かってバサッと乱暴に投げる。剛義が掬うような形で受け取りつつ大げさに顔を顰め、

「行儀の悪い。恥ずかしい倅じゃ」

 と苦々しく吐いた。

 イーヴィから上衣を受け取ると、太狼はそれを羽織り、前立てがヒラヒラしないならそれで良いというふうに、幾つか飛ばしてボタンを留めた。

 スォ=ハムから脚立を受け取り、二人で出て行こうとすると、何か思いついた顔をして剛義が「ちょお待て」と太狼を止めた。

「変装っちゅうんじゃったら、頭の手拭いも取らんか。そげなもん、イー・ル(ンし)は巻いちょらんぞ」

「ああ、そうか…」

 太狼は結び目は解かぬまま、帽子を脱ぐように手拭いを取り、それも剛義に渡した。

 その姿を見て、スォ=ハムが目をぱちくりとさせる。


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