【a5d:svn】(1) -[4]-(2)
云われた通り、スォ=ハムが砦の西側で突っ立って待っていると――太狼が、随分と大荷物を抱えて歩いて来たので、目をぱちくりとさせた。
左肩に担いでいるのは、今云った「テント」だろう。二メートルぐらいのポールに布を括り付けたものを丸めているようだ。
右肩に掛けているのは大きなリュックである。それに、手にも何かぶら下げてきた。
――工具だけを取り出すのも面倒だったので、太狼は、武器以外の装備を纏めたリュックをそのまま持って来たのだった。
左肩のポールをざくっと勢いよく砂に突き立てて、右肩の荷物も無造作に下ろすと、まず太狼は、若者にストローハットを被せてやった――これからテントで影を作るにしても、イガグリ頭をむき出しにして炎天下に居るのは、折角回復させた体力を削いでしまう。
スォ=ハムは瞬きをして、「す、すんません」と声を出した。
太狼は特に何も返さず、続けて広い麻布を取り付けた四本のポールを一本ずつ、砂にざくざくと突き刺していく。砦の「庇」は、有ってなきがごとし、申し訳程度のものだったので、布をもう一枚、四本のポールへ被せて屋根を作る。四面の内一面は、砦の壁に沿わせるよう、位置を調整した。
その作業中、スォ=ハムに「手伝え」等とは一度も云わず、無言だった。
「これで取りあえず砂は避けられるやろ」
独り言のような口調で太狼は云うと、リュックと一緒に砂に置いた荷物のうちの一つ、箱状の物を取り、覆いの中に作業台代わりの木箱と一緒に置いた。
「電池式なんか知らんがコードレスの半田ごて持っとったふうやけど、それ使うのは動力が勿体ないからな。コレ使え。コード有るのも持っとったろ」
……指で示されたのは、差し込み口の付いた、直接使えるバッテリーだ。
うっ……とスォ=ハムは鼻の頭に皺を寄せた。
「あと、これは水と飯のチューブ。――君は若いから、回復早かったみたいだけども、調子に乗って根詰めると、また死にかけるぞ。喉渇いた、腹減った、と思わなくても、時々口付けろ」
そう云って、巾着袋を木箱の横に置いた。
「う、ウッス……! 有難うございますっ」
スォ=ハムは随分感激した様子で、折角被せて貰ったハットを一度脱ぎ、腰から曲げて頭を下げた。
太狼にはそれが随分大げさに見えたので、苦笑して小首を傾げる。
「俺は発電機見てくるわい。何処だ?」
「あ、はい。北側にモーター納めた小屋があるッス。倉庫と並んでるンスけど、小さい方なんで。すぐ判ります」
「分かった。じゃ、そっち、やっとけ」
リュックを肩に掛けながら太狼はそう云い、スォ=ハムに背中を向けて軽く手を振った。
その背中を見送り、姿が見えなくなったところで、スォ=ハムはハットを深く被り、腕を目に当てて「うぅっ…」と数秒嗚咽を漏らした。
スォ=ハムが云っていた通り砦の北側に回ると、それほど離れていない位置に、大小二棟の頑丈そうな建物があった。
太狼はまず、少し離れた位置で、「母屋」と云える砦との距離・位置の関連を眺める。
それから、今は余り関係が無い、倉庫の方へ近寄った。こちらは、母屋の砦と違い、大きなシャッターが開口部を覆っていたようだ。中身を空にされてしまったので、完全に閉めておく必要も無くなったということか、それとも、シャッター自体が壊れてこれ以上下がらないのか、フローラの背丈より低い位置で開いたままだ。
五枚あるうち一枚の「裾」が、てこの原理を使ったふうに波打ち歪んでいる。バール等で裾から持ち上げ、途中の差し込み錠を強引にねじ切ったのだろう。で、其処から侵入して、残りのシャッターは内側から開けた、か? ……押し込み強盗のようなやり方だ。
この様子を見て、太狼は「ふぅん…?」と鼻を鳴らした。
腰を曲げて、一応隙間から内部も覗いてみる。
ああ、そうか、と一つ納得したことがあった。最初に倉庫を外から見たとき、「この中身を全部盗っていったというなら、十トントラックでも持って来てたのか?」と思うくらいの規模だったので腑に落ちなかったのだが、ここは車庫でもあったのだ――そういえば、オリバー少尉が、「元々あった軍用車の燃料も抜き取られた」と話していたか。
自分が運転してきたような四駆が一台と、もう少し頑丈な装甲車が一台、放置されていた。シャッターが開いていたので、タイヤが、砂に薄く埋もれかけている。
車の横や奥に、木箱や麻袋がいくつか転がっているのも見えたが――あれも全部用無しかもしれない。
さて、と小さい方の小屋に向かう。こちらは一枚のシャッターで、錠に対し外から鍵を必要とする形だった。これも、強引に持ち上げてこじ開けたようである、裾に歪みがあった。
但し、開け放たれたままにはなっていない。歪みが生じているので隙間が出来てはいるものの、ちゃんとシャッターを下ろして閉めてはいる。――壊されたと云っても、それで砂にまで晒しては完全に再起不能になるかもしれない、と判断してのことか。それは正解だ。
こっちは、内部をちゃんと確認しなくてはいけないので、シャッターを開けて中に入る――端で強引にねじ切られた錠の差し込みがブレーキになり、少々難儀した。
ぱっと見、無線機と同様、「原始的」なやり方だ。扉をこじ開けた得物をそのまま使ったのかもしれない、鈍器でただブン殴った、という雰囲気。
しかし、念入りというか執拗というか……。
これを実行した人間の思考を想像してみるに、「本来有るべき外見・輪郭を完全に無くして別のオブジェを作る」という目的を、その時点で持っていたのではなかろうか。
時折しゃがみ込んだり、壁際で入り組んだ機械の裏を覗き込んだりしながら、太狼は再び、「ふむ…」と息を吐く。
シャッターを閉めていたとは云え、密閉していた訳では無い、数日の間に多少は新たな砂が入りもしたろうから薄くなっているけども、小屋の隅の床に四角形の跡があった。恐らく其処に、小型発電機が置かれていたか――。
それと反対側の隅に、もう一つ、うっすらと「四角」が見えた。近寄ってしゃがみ込み、砂を掌で拭ってみると、この四角は消えない……そもそも床に「四角い筋」、溝があるのだ。
溝が「輪郭」だとすれば「面」になる四角は床と全く同じ色なので、もう少し日にちが経っていたら溝にも砂が埋まってしまい、気付かなかっただろう。
爪を差し込んでみると、底に付く感触は無かった。結構深そうな切れ込みである。そこでまた「ふむ」と太狼は鼻を鳴らす。
これは、「扉」か「蓋」なのではないかと直感し、もう少し丁寧に砂を拭い、溝に今埋まっている砂も息で吹き飛ばして、もう一度爪を差し込んで持ち上げようとしたが、無理だった。
面は完全に平らで、小指一本引っかけられる凹凸も無い。開けようと思ったら、吸着型のハンドルでも要る――
「まあ、それはそうだわな」
太狼が独りごちる。この小屋に存在する地下空間への穴が、万人に開かれている訳は無い。……ともすると、これは一方通行で、「完全に出口」と想定しているのかもしれないし。
侵入者・盗人も、此処をこじ開けて破壊工作をするほど執拗ではなかったようだ。
――逆に云えば半端だ――太狼が片方だけ口角を上げた。
こめかみの辺りを掻きながら外に出、まず空を見上げ、今度は小屋の壁に沿ってグルッと一周回った。
次には、足下を見ながら母屋の砦に近づき、同じように壁に手を当てて、東方向へ、「ふむふむ」と小さく頷きながら歩き、角は曲がらず北面の壁を戻ってくる。それから、再び足下を見、小屋の方に目をやり、次に北東の方角を眺めた。
車を運転してやってくるときは、広大な砂の上に小さな四角い箱が乗っかっているだけのように見えていたが、この「箱」は思ったよりもずっと大きく、しっかりした造りなのかもしれない。表に見えている箱が小さいだけで――。
かなり深くまで杭を入れて基礎を造っているようだ。恐らく、ある程度の地下室か通路も造っている――発電小屋の「四角」を「一方通行の出口」かもしれないとも思ったのは、母屋である砦からの脱出口の可能性を考えたからだった――。
最終的に立ち止まった所で思案げな顔をしつつ、太狼はもう一度天を仰いだ。
剛義が云っていたように、「少将」とやらの目的は、あくまで強奪だったのかもしれない……そんなことを思う。「暗殺」が目的と思ったら、半端過ぎる。
もしかすると〝竜巻〟で、自分の砦の物資が駄目になってしまった、ともすると壊滅した、か――見てきた限り、刃物や銃器を使った形跡が無い。無線にしろシャッターにしろ発電機にしろ、鈍器で撲ったような跡しか見当たらないではないか――刃物で配線を切断する、サイレンサーを付けた銃で錠を撃ち抜く等した方が、静かにコトを成せる筈なのに……。
使い物になる得物が鈍器しか無かった、と思えば、この状況は納得出来る。
でも、それだけなら、ここまで俺は「少将」を蔑んでないな――太狼が口元だけで冷たい笑みを浮かべた。
暗殺と思ったら半端だ、しかし、盗みと思ったらやり過ぎなのだ。




