表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
203/276

【盾と矛】-(4)

「少なくとも、三流のガキやイカレ野郎に機会と資金(チャンス)を譲るのは、真っ平だね。そんなことはそういう連中に()()()()()、ってのを『正しい』とは、俺は全く思わんな」

「ッ……」

「……責任の『取り方』は、俺も知らん。考えたことも無い。後々、死刑(首括れ)ってことになるなら、別にそれでも良いよ。それまでに俺は『満たされた』んだから、『人として』の責任をそうやって取れってんなら、それは第三者に任すさ」

 ポケットに手は突っ込んだまま、そこでシダーが軽く肩を竦める。

「ただし、それが俺の好奇心を刺激するものであるなら、だ。俺の好奇心や探究心を満たしそうにない下らない研究なら、どんな資金(エサ)が目の前にあっても願い下げだな。そんなものは、三流に任して何とも思わん。――どうしても俺がやれ、やらなきゃ命取るぞ、と脅かされることでもありゃ、責任以前にその時に首括って、自分のプライド守るさ。そうでなけりゃ、乗っかるフリして別の研究に資金流用したりすっかもな。そんで、『公権力(スポンサー)』の方から責任取れ、って云われんだろ」

 ククッ、とシダーが喉を鳴らす。マッカンは、何とも云えない。

 笑いを漏らしたシダーが、眼光を冷たいものに戻して、忠告のようにマッカンに云う。

()()()()()()()()()()、どんなに『他人・世間の役に立』とうが、『将来のための問題解決』だろうが、俺の好奇心を刺激しなければ、オファーには乗らん。そんな研究(こと)は、()()()()()()――まだ『研究者』としてのプライドも持ってるのなら」

 マッカンは一度唇を噛み、やはり厳しい眼光をシダーに向けた。

 その視線を、つい、と外し、シダーが呟く。

「――タオさんは、俺のこういう危険な(ヤバイ)性質をよく知ってるから、『とっ捕まえてて良かった』つってんだ。実際、そうだっただろう。――『とっ捕まる』前に、イリグマギから声掛けられて、〝筋〟の情報(エサ)突きつけられてたら、今頃、俺はまた行方不明の上、イリグマギの一員だ」

「……。つくづく、そうはならずに良かった」

 ふうっと息を吐き、マッカンがしみじみとした声でそう云った。

「――俺も、自分の故郷(サウザー)に愛着はある。『責任』だの何だのと荷を負うのは嫌だが、領主(タオさん)を窮地に追いやるような真似はしたくない――別に忠誠ってほど大げさなもんでもないけど、実際、今はボスにもなっちまったしな――。その上で、『研究者』として、俺は俺が真実だと思う結果を、真剣に突きつけるだけだ。それがタオさんを窮地に追いやることになるなら、その時の俺の『責任』の――『取り方』はどうとでも通達してくれ。俺は判らん。但し、『公権力(タオさん)の責任』の範囲にまで、俺を引きずり出されても困る」

「――」

研究者の俺(エゴイスト)を『パブリック』のフィールドに連れて来た『責任』は、公権力(おまえら)が取れよ。()()()()()()、今のうちにスプープから追い出せ、って。俺はそう云ったんだ」

 今度はシダーが、じっとマッカンの目を見て云う。その視線を受け、マッカンの目線は、若干下方向へ角度を付ける。

「今、ここで君を追い出すことも、誰のためにもならないし、無責任だ。……君は、個人でイリグマギに接触する恐れがあるじゃないか、それはサウザーにとって、危険因子だ」

 するとシダーが、チッ、と舌を打った。

「つくづく、俺の気にくわない『役人』の理屈が頭巡るようになったもんだな、ツゥリー。――『研究者』としてのケンカなら買ってやるつもりはあったが、それじゃもう駄目だ、完全に立ち位置が違う」

「――ジェイ」

「おまえの『立場』は尊重するよ。だが、純粋な俺のフィールドに入ってくるな。さっきみたいに、()()()な領域に、その()()()で文句付けるようなら、俺は今度こそ手ェ出すぞ」

 ポケットから出した手で拳を作り、それをマッカンに見せつけながらシダーは吐き捨て、くるっと踵を返し、玄関の方角へ足を踏み出す。

 今度こそ、マッカンが慟哭に近い声色で、

「違うんだ!」

 と床に向かって声を出す。

 シダーの足がぴたりと止まり、振り返った。

「何が」

「私が私の立場でもの申すことが、君の神経を逆撫ですることも、判ってる。私だって、過去はそうだった。――だからこそ、私の()()()()()()()()が、もどかしくて仕方ないんだ」

「……」

「――『研究者』として、君の背中がもう見えていないことを、私は思い知ってる」

 シダーが見せつけた拳はとっくに解かれているが、マッカンの拳は、彼の腰の辺りで硬いまま、小さく震えている。

「スプープが、サウザーのみならず、もしや全世界(ガイア)のために有るのかもしれないことを考えれば、君の『邪魔』をすることは、絶対に『世界』のためにはならない――だから、『公人』としてだって、君の考えを否定してはいけない筈なんだ。君を()()()()『覚悟』、『責任』を持っていなくてはならないのは、私の方だ。それが判っているのに――君の持つ危うい性質が、()()()()安全を脅かすリスクを、どうしても、考えずにおれない。しかし、私の立場ならそれが当然なのも事実だ――」

 マッカンの言葉が独り言のような口調だったこともあり、シダーは何も返答せず、ただ軽く肩を竦めた。

「私は、そういう立ち位置(せかい)で生きることを自分で選んだ。これまでの職務に不満がある訳でも無い、ウィリアムさんやタオさんに文句がある訳でも無い――なのに、まだ――もう君の背中が見えていないことが……、判っている筈なのに、()()()()()()()()、……そんな自分が、もどかしい」

「……」

「もしかすると、リンドの背中すら見えていないのかもしれないと思うと――私は、一体、何処に立って、何のためにスプープに居るのか」

 それを聞いたシダーは、はあっと一つ息を吐き、

「背中合わせでさえなけりゃ、別に良いんじゃねえか?」

 随分そっけない声でそう云った。

 俯き加減になっていたマッカンが顔を上げ、意味が伝わりづらいので訝しげに目を細める。

「俺の背中が見えない、って、そんなこと云われても、おまえの主観でしかないから俺には判らん。ただ、それが『遠い』って意味なんなら、別にそれで良いだろ。――同じ方向は向いてる、ってことだから」

「――」

「直ぐ近くに居ながら、背中合わせに逆方向見てケンカする程、不毛なもんはないからな。俺が一番嫌いな『役人(ガバナー)』は、『研究者(おれ)』が見てる方向、全然見ねえまま的外れな難癖付ける奴だ。だったら、俺を雇うな、っていう」

 シダーが、肩を回しながら首を左右に傾け、その肩をストンと落とし、先を続ける。

「俺と同じ方向を見てて背中が見えない――『知的好奇心』っていう研究者の矜持(エゴ)が残った上で、俺が前に行きすぎてるだけ、同時におまえは公人やってるってんなら、まだ良いさ。少なくとも、スプープでは、()()()()()()()つっても、それは、()()()()を見るように――同じ目的(一点)を見つめてるから、って意味になるだろ」

 そう云って、シダーは、マッカンとの間の床を指さす。

「リンデンとおまえなら、他の()()よりはまだ『矜持』と『思考』を共有出来る。居ないよりはマシだ、俺は、『リーガル』なことが全く判らん。かと云って、官製組織に居ながらイリーガルに突っ走るほど、もう若くもない。そういう意味で、おまえとリンデンがスプープに居ないのは多分、()()

 はあ、と息をつき、頼りない光量の中、狼狽しているマッカンの顔をシダーが見つめた。

「『これ』だって、おまえが居なけりゃ、こんな直ぐ出てこなかった」

 そう云うと、シダーは胸ポケットに収めていた通行証をちらっと見せた。

「――今、俺自身が云っただろう。俺は、タオさんを窮地に立たすつもりは無い。自分の『知的好奇心』を満たす研究であるなら、雇い主の意向に反しもしないし、他の誰かにやらすなら俺がやる。実際、リンデンはそれをエサに俺をとっ捕まえたんだからな」

「……」

「それが『信用出来ない』ってんなら、俺も多少、グサッと来るぞ。ツゥリー、おまえ、俺が『何かあったら全責任は私が取ります』なんて()()叩いてた方が、安心出来たってのか? 俺は、研究者としての『矜持(プライド)』に従って()()()()()()、こちとら、『非常識で過激』な論文を数多発表していても、『虚偽』だけは宣った事がない」

「いや――それは……そうだが」

「いい加減、吹っ切れよ、ツゥリー。おまえはおまえで、責任感が()()()()から、優先順位付けるのに躊躇ってるだけじゃないのか」

 僅かに険しくなった声で云われ、マッカンが「どういう意味だ……」と掠れた声を出す。

「さっきタオさんが云ってただろうが。おまえが背負ってるもんは、もう重量オーバーなんだよ。ユピタ=バルム大使に領主職、――それに、タオさんは云わなかったが、おまえは()()()()()()()()()だろ」

「――」

「この上、俺のお守りまで『やってる場合か』。それはリンデンに任しとけ。もしや、イリグマギのことでリンデンと俺に『汚れ仕事』やらすことにまで気の毒がってるってんなら、余計な世話だ。いい加減、吹っ切って順位付けやれ、全部同じ重さで背負うな。……おまえは、いざとなったら『研究者』『公人』の立場も全部捨てて、『一個人』として()()()()()()()たって、それも当然だと思うぞ――俺は、それを持ってないからこそ、思う」

 今度はしみじみとした声でシダーが云った。マッカンが、奥歯を噛みしめ、最後にギュッと強く拳を握り直す。

 マッカンは、キッと真っ直ぐにシダーの目を見た。

「君の制御は、リンドに――あるいはタオさんに任せておけ、と。それは、私の『責任(にもつ)』ではない、と、君は云うんだな。――では、ジェイ。改めて確認するが、私の公人としての目的、責任は、『民と領土の平穏』を司ることだ」

「俺に確認することか。そうなんだろ?」

「そうだ。故に――万が一、君の危険な部分が、(サウザー)に向かってくるようなら、私は、その前に立ち塞がる。私の役目は、そういうことだ」

 マッカンは、きっぱりした声で云い、掌も一杯に開いて、両腕を肩の高さで広げた――道を塞ぐような格好である。その後ろには、己の守るものがあると示すように。

 シダーが、一瞬きょとんとして、マッカンにはもう見えないほど微かに、口角を上げる。

「その時には、君の背中が見えていなくても、全く当然のことだろう」

「その通りだ。そんとき、真っ正面向いてケンカしようぜ」

 今度は、マッカンにも聞こえる程度、不敵に、ククッと喉を鳴らしたシダーだった。

 マッカンが上げていた両腕を下ろしたとき、シダーは再び、ポケットに手を入れた。――そこでまた手を出して、「握手」するのも間が抜けていたので、

「……そういや、タオさんから定時出勤の命令もされてねえし、又明日、とは云い難いな。何かありゃ出てくる。じゃあな」

 そう云って、シダーが踵を返す。マッカンも頷き、

「こちらから呼出があれば、可能な限り速やかに出て来てくれ」

 そう云って、これ以上シダーを見送ることは無く、領主室へ戻るべく振り返った――己が向かう(見る)方向が定まってさえいれば、互い相手の背中が見えないことに、何の不安も無い――。


[day3]

-over-

/2019.5.1


(予告:次epより舞台を替えてまだ続きますが、あと5章分で一旦完全に止まります。8月中旬頃になると思います)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ