【すし詰めの第四重要通信室:三人の天才と三人の紙一重、一人の王】-(1)
タオとシダー、マッカンが情報部室に向かうと、案内板に「入室禁止」が出ていた。
タオがベルを短く鳴らすと、マッシオの声で早口に、
「タオ様ですか」
とスピーカーから聞こえた。
「そうだ、シダー君とマッカン君もいる。――他には誰も居ないよ」
そう応えると、「開けます」と宣言する声が聞こえ、ドアが「カチリ」と音を立てる。
三人ともが素早く室内に入ると、また直ぐに背後で鍵の掛かる音がする。
マッシオはタオに敬礼を見せることが出来ず、耳元を押さえ、口元に小さなマイクを持っていき、
「部長、タオ様達がいらっしゃいました」
とやはり慌てた早口で云った。
イムファルから素早く指示が入ったらしく、マッシオは耳に当てたイヤホンとマイクを置き、そこで初めて――慌てて――敬礼を見せ、
「第四レッドブースに部長が居られます。そちらにお願いします」
と、視線を三人全員に巡らせつつ告げた。
分かった、とそれだけをマッシオに云って、タオが先頭になってそちらに向かう――シダーとマッカンはこの部屋の造りを知らないから、それが当然だ――。
第四重要通信室のドアを軽くノックして、応答は待たないままタオが入る。続けて、シダーとマッカンも当然入室した。
〝ブース〟という呼び名の通り、本来なら大の男四人が入って使う事など想定されていない。一応、今イムファルが座っている椅子と入れ替わったり左右の立ち位置を替わったりくらいなら出来そうなスペースはあるが、もう一人成人男性が入って来たら、ドアを開けたままにしなくては無理になるだろう。
第零番重要通信室であれば、〝ルーム〟と表現されるだけの広さがあるのでまだ良かったが、生憎、第四レッドブースをカロラインに繋げるにあたり、イムファルもこんなことを想定していたわけでは無い。
そんな様子を、相手の道化師達も見ている。〈モニタ〉に浮かんだ見るからにピエロが、
「あっつっくるしい! オッサン四人引っ付いて、見てるだけで加齢臭くせぇ!」
呆れた叫び声を上げた。失敬なことだ。
ツェッロの斜め後ろに控えたレオナルドは、黙ったまま表情を変えない。ボスの戯言にウケてやる様子も無かった。――ただし、冴えながらにギラギラ飢えている、そんな眼光をサウザーの通信室に送っている。
もう一つのモニタで、カロラインがコロコロと笑う。
「まあ、総統ったら。わたくしには目の保養ですわ。本来の好みは若くて可愛い男の子ですけど、お付き合いするんなら、皆様みたいな酸いも甘いもご存知の渋い方々のほうが、女冥利に尽きますもの。――紅一点のわたくしは、皆様の目の保養になってますかしら?」
タオは完全に無視し、イムファルは無視するように「努め」た。マッカンは微かに眉を寄せ、シダーは口角を歪め――
「そう云うんなら、もうちょっとカメラ下げてくれ、カロライン。俺は、あんたの体はかなりタイプなんだが、顔がケバくて全然なんだ、見てるのがきつい」
指まで差しながらそんなことを云った。
そんな同級生に、今度は分かり易く顔をしかめてマッカンが、
「ジェイ、その発言は完全にセクハラだ。ユピタ=バルムだったら、被害届出されて逮捕されても文句云えんぞ」
「マジか、こえぇな」
シダーは肩を竦め、傍らでタオは一度俯いて小さく笑みを浮かべた。
当のカロラインは気を悪くすることもなく、相変わらずコロコロと笑い、
「あらまぁ、マッカン博士。わたくしは全く気にしてませんから、どうぞ、シダー博士に恩赦をお与え下さいましな。――先ほどマダム・オリヴィアに窘められたばかりで下品な着こなしは出来ませんから、このくらいで如何かしら?」
ブラウスのボタンを一つだけ外して、その隙から所謂「谷間」を見せつけるように、〝カメラ〟前に身を乗り出してきた。
今度は、思わず顔を赤らめたイムファルが、
「君の方まで! 止めなさい、カロライン君」
流石に慌てた声を出してモニタに手を翳す。それから、背後で「ひゅー」と口笛を鳴らしたシダーを振り返り、睨みつけた。マッカンもシダーの頭に手を乗せて押さえつけるように力を込めつつ、「全く、君と云う奴は」と呆れた声を出す。
「なかなか面白い光景を見せて貰った。学生時代はそんな調子でお道化たトリオだったのですかな、〝さんばがらす〟というより〝さんばか〟でいらっしゃったか」
またしても、人格が少々変わったらしい。先ほどのは、やんちゃな若者の悪態だったが、今度は慇懃な嫌味口調だ。
タオがコントロールパネルの何も無いところに腕をついて身を乗り出し、
「いや、失礼したね。お時間の無い総統閣下に、無駄なコントを見せてしまった」
薄笑いを浮かべつつ、そんなことを云った。
ツェッロは一度ピクリと、塗りたくられた瞼を細めて、口調を変えずに――しかし若干人格は替わって――云う。
「いえいえ。タオ領主さんに加え、お三方とも勢揃いでお目にかかれたのは、貴重な経験でござんす。――イムファル先生には、『三羽のうち一羽で良い』と申し上げやしたんでね。正直、マッカン先生は、居らんくてもえぇかぁ思うておりやしたよ」
それを聞いて、マッカンがピクッと眉を寄せた。体の横で、ギュッと拳を握る。タオがチラリと彼を見たが、何も云わない。
「どういう意味だね」
マッカンが低い声で言葉にも出した。モニタの向こうのツェッロは肩を竦め、
「だってねぇ。タオ領主サマ本人は、たった一人の頂点でござんすから、あっしらみたいな外道と悪巧みしたって、別にどうとでもなりまさぁな。今時の『国主』にしちゃあ、ヨゴレも厭わん見上げた御方でござんすよ。そいでイムファル博士は、そんなタオさんラブで情報部長もやってなさる、やっぱり『ヨゴレ』っちゃあ『ヨゴレ』でやんしょ。シダーっちは最早、ヨイショも要らん問題児、イリグマギに居たって可笑しかねぇ」
「……」
「マッカン博士、あんたは、領主代理とは云え、ユピタ=バルムの大使も兼任するんだろう? あたしはね、流石に『俺達に巻き込む者』を増やしたくはないんだよ。ユピタ=バルムを巻き込むつもりはないんだ」
腹の上で手を組み、ツェッロは最終的に随分真摯な声でそう云った。笑みの形に顔を描いているので分かりにくいが、本来の唇は引き締まり、眼光も鋭い。
「……。それでも私も領主代行だ。仮に私の判断が大統領への『裏切り』に繋がることがあっても、『領主』の代理として真っ当なら、厭うことなど無い」
眉を寄せてマッカンが返す。
ふぅん、とツェッロが目を細め、――今度はシダーが眉を寄せながらマッカンの頭に手を乗せた。
「バカ、冷静になれ、ツゥリー」
「私は冷静だ」
「どこが。今の台詞、ツェッロに乗せられて出て来てんじゃねえか」
「――」
「『だったら』って流れにされるとこだったぞ、良いのか」
う、とマッカンが口を噤み、シダーの手を払って顔を背けた。
タオが改めてツェッロに向かう。
「……巻き込む者を増やすつもりはない――と君は云うが、その『巻き込む者』から『無差別テロ被害』を除くってんなら、俺は君らを『放置』しない、とロザリウム君に告げたんだよ? それは伝わってるんだろうな」
「当然? その確認は無駄な時間だね、ムカツク。僕ちんは今、『そんなこと』云ってんじゃないってことも伝わってないかね、ボケ親爺」
タオは薄笑いを浮かべ、ツェッロは殊更苦々しく吐き捨てる。その応酬に、イムファルとマッカンは何だか「ヒヤヒヤ」するが、シダーは何だか笑えてきていた。
「成る程、其処が確認出来たならば、こっちもそろそろ胸襟を開こうか。ツェッロ君、君ともあろうものが、何だって『三羽烏』の力を必要とする」
「持ち上げるもんだね、オッサン。俺ともあろうものが? 俺みたいな****の××××が、こんなデリケートでナイーブな目的を、完全達成出来ると本気で思うてくれてるのか?」
「デリケートでナイーブ。そう思っているのは君らだけかもしれんじゃないか。君らの邪魔をするかもしれないサウザーを巻き込まずとも、あの無骨になっちまった『星の塔』へドカンと一発、大砲でもぶち込んじまえば、あっさり遂行出来るかもしれんだろ。それとも、ミンジュリーは、君らみたいな****の××××を毅然と追い払えるほど、『まだ』『腐ってない』ってことなのかね」
何となく挑発するような――せせら笑うような雰囲気も醸し出しながらタオが云うと、ツェッロが塗りたくられた顔を軽くしかめた。
「それならそれで、ロザリウム君――イリグマギが云ってることは、主観に過ぎて当てにならん。俺が耳を貸す必要も全く無い訳だから、ここで会話は終了だ」
――今一番話が見えていないのはイムファルである。タオとツェッロが何の話をしているのか全く解らない。なのに椅子に座っている――「中心」に居るので、居心地が悪い。
それを察したシダーがイムファルの肩に手を置き、
「リンデン、タオさんと位置代わんな。――もしかして、顔に動揺が出ちまったら、連中に飲まれる」
耳元に小さな声で告げた。
それはその通りだと思い、チラッと領主を振り返ると、タオも軽くイムファルの肩を叩いた。立ち上がった彼と入れ替わりにタオが椅子に座る。
これでやっと、「トップ」が椅子に座り、周りに「部下」が「控えている」格好になれた。
立ち上がったイムファルに、マッカンが耳打ちする。
「集音レベルは今どのくらいにしてるんだ? この位だったら、向こうには聞こえないか?」
こそこそした声に、イムファルは
「大丈夫だと思うが、念のため背中を向けた方が良かろう」
と答えた。
ならば、とマッカンがシダーに、「君はそっちを見てろ」と云うふうにタオとモニタの方へ指を振り、イムファルの背中に手を当ててコントロールパネルに背を向けた。そうして、イムファルにまだ見えていない「状況」を説明した――。




