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【地図と歴史】-(4)

共同体(コミュニティ)というより、あくまで組織――、そっちが先、ってのも、そういうことなんだな」

「ええ。代を重ねているという推測が正しければ、血縁家族っていう『最小単位』のコミュニティが出来てはいるでしょうが、少なくとも僕がスヴァイツ機関を国家等に準ずる共同体(コミュニティ)と思えないのは、成り立ち故です。コミュニティが役割を持つようになったんじゃなく、まず最初に役割があって、『民』ではない『人』がただ『集まった』だけですから」

「ふぅむ……」

 納得、というふうに頷いた後で、リオンはまた腕を組み、「でもさぁ」と首を捻った。

「仮に本当に、イー・ルの連中なんかが宇宙開発とか企んだときに、スヴァイツが邪魔してるってんなら、そんなこと出来る根拠って何なの? 完全中立で全人類の叡智を守る、っつう理念が出発点だとしても、そんなことをコソコソと、その上問答無用でやっちまうんじゃ、見方によっちゃあ、正義の味方ぶったテロ組織みたいなもんだぜ。俺だってそう思う」

 口を尖らせつつ云ったリオンに、アサギが一度微笑を見せた。敵であるイー・ルの不利益を例にしているのだが、リオンは、それで「ざまあみろ」という感情にはならないのだ。

「……先ほど、もしイー・ルがスヴァイツの現存に気付いたら、また侵攻するだろうと云いましたが、そうならない方が良いと僕が思うのは、『スヴァイツが集積した叡智の消失』を脅威と感じるが故です。が――万が一、そうなってしまった場合も、『義』はスヴァイツの側にあります。武力侵攻するイー・ルは、不利であり不正です。如何に、自分ちの技術開発を問答無用に妨害された、その報復という理由や大義名分はあっても」

「何で?」

「そこが、イー・ルを始め、早い段階でGAIAからの脱退を決めてしまった大国の、傲りであり、短慮なんです」

 アサギがまた、キッパリとした口調で云った。少々たじろいで、リオンが「えぇ?」と声を裏返す。

 アサギは微苦笑を見せて、小首を傾げた。

「僕がそんな、キッパリ云えることじゃないですが。――僕はそういう風に、フリュスの長老(お年寄り)や母、兄から教えられたんです。そして、僕もそう思っている」

「?」

「『星の法律』は、()()()()()()()()()んですよ。イー・ルやCFC等にとっては――組織が幽霊みたいなんですから、()()()みたいなものでしょうが、それでもまだ、『星法』は有効な(生きている)んです。だから、僕みたいに『無くなった訳じゃない』と思っている者、自治体の長や幹部、特に『法務』に就く者は『星法』の勉強をしておかなくてはいけないので、スヴァイツ機関は『有る』ものとして認識している――と、そういう必然なんですよ」

「え、えぇえ?」

 一層頓狂な声を出して、リオンはベッドに両手をつき、目を見開いた。

「そ、そんなのがあるなんて、全然知らねえよ、俺。それに、何でそんなことになってんだよ、今、()()()()()がGAIAの終わり、とも云ったじゃないか」

「……国家の法律を、一般市民全員が熟知している必要が無いように、最早『幽霊』のような組織で過去に作られた『星の法律』を、その存在(ありなし)に限った場合でも、個人レベルで知る必要はない――と、サヴァナの幹部の方は思ってらっしゃるんじゃないでしょうか、それでGAIAやスヴァイツのことも教えてらっしゃらないんでしょう」

 アサギが苦笑のまま、小首を傾げた。それから、表情を引き締めて続ける。

「そう――『議会の終焉』がGAIAの消滅という歴史上の認識は、その通りです。ただ、『議会』は『立法』機関です。議会が最後の解散を行った後は、()()()()()()()()()()()()()()()()です」

「――」

「それを考慮しなかったのが、大国の傲りであり、短慮……もっと云えば『愚か』でした。――GAIA加盟国が守るべき『法律』ですから、脱退した後に制定された法律を、非加盟国が守る必要はありません。よって、イー・ルが脱退した後に出来た星法なら、イー・ルには何の関係も無いんですが……」

 まあ、そりゃそうだろう、とリオンも頷く。非加盟国にまで強権を発動する議会立法だったら、却って大国や強国に有利だ。その法律にかこつけて、非加盟の小国や地域を強引に支配することが可能になってしまう。

「但し、()()()()制定された法律であれば、守る義務が生じるんです。()()()()()()()()()()()。そして、制空権、宇宙開発の制限は、GAIA発足時、最初の最初に制定された内容です。つまり、()()その条文は、イー・ルにとっても有効なんです」

「……」

 ぽかん、とリオンは口を開けた。

「――その当時に『核開発』を制限する議決がされていれば、現状のようにはなっていなかったのかもしれませんが……それは、云っても詮無きこと、ですね」

「まあ…な」

 小さく頷いた後、其処でリオンにも「腑に落ちた」感覚があり、確認するようにアサギに云った。

「そんじゃあ、ガキが『空と宇宙に興味を持ちすぎる』のを、サヴァナ(おれんち)の親方達が止めようとするのも、ソレがあるからなのか…」

「ああ――そうかもしれません。星法について啓蒙しようと思ったら、GAIAとスヴァイツのことも教えなくちゃいけませんから、『学習内容』がかなり増えます。サヴァナの人達は、()()()()()、勉強しなくちゃいけないことが他に沢山あるでしょう?」

 微笑してアサギが返すと、リオンは「そうだな」とコックリ頷いた。

 子供や若者が宇宙に興味を巡らすことを、親方達(としより)が頭ごなしに止めることに不平不満はあったとしても、その理由を聞く前段階として「歴史」や「幽霊みたいな組織」の知識が要るというのなら――それを知った今となっては、親方達の判断も、納得が出来る。

 只でさえ、サヴァナの人間は「口下手」だ。職人としての「学習」、若人だけでなく己自身の「研鑽」の時間を割いてまで、そんな「ただの知識」を教えてやる必要は無いと、そういう判断をしているのだろう――。

 改めて、アサギが表情を引き締めて先を続けた。

「で……、大国の愚かな傲り、と云う由縁も、其処です。GAIAが形骸化するほど、そこまで力を持たない国だけ残して去って行った大国は、もうちょっと『準備』してから脱退する()()()が必要でした――脱けた後に出来た法律を守る義務は無い、しかし、脱ける前に出来た・有った法律を守る義務が()退()()()()()()()という条文、そう()()出来る条文すらも無いんです。イー・ルを初めとする大国は、そうした議案を、可決否決以前に出しもしないまま、その時点の傲り、刹那の短慮にだけ従って、脱けていったのです。後々までGAIAに残った国家・自治体にとって、それはある種の『ラッキー』でもあり、『頼みの綱』でした。そして、最後の解散時の議会でも、『星法を破棄する』という議決はしないまま、GAIAは終わり、スヴァイツ機関が生まれました」

「――そーいうことか……。だから、()()()()してるイー・ルの側に確実に非があって、『スヴァイツ機関』には動く()()がある」

「ええ。只でさえ、最後の議会で制定された『スヴァイツ機関と改称して国際中立機関とする』条文も、大国が()()()()()()()()()ものです。本来ならイー・ル等、早々に脱けた国の方が、『()()()()()まだ有る』と思ってても良いくらいですしね」

「……」

「勿論、イー・ル――に限りませんけど――の側にしてみれば、今は無いGAIAの議会で成立した法を根拠に、何故、現在の自国の技術開発を邪魔されなくてはいけないのか、異を唱えることは幾らでも出来ますよ、どんな理屈でも唱えられる、()()()()()()()()()()()()()

「……そうだな。自分のシッポを飲もうとしてる蛇みたいだ。それか鶏と卵のどっちが先。俺も今、何か混乱してきてる」

 リオンが頭を抱えて髪を掻きむしるような仕草を見せる。ふ、とアサギが微笑を見せてから続けた。

「――ただ、それを訴える場所はありませんよね。多分、現在のスヴァイツ機関に『裁判所』も残っているとは思いますが、其処に訴え出ることも矛盾してしまいますし、裁判以前に、そもそも、反駁したい相手自体が、スヴァイツという妨害者です。だから、ただ『理屈を大きな声で唱える』ことしか出来ない。――となると、特にイー・ルにとってスヴァイツ機関は、それこそリオン君ち(サヴァナ)と同様、完全に壊滅させたい対象かもしれません。自分の言い分だけを残し、反論を持っているであろう者は『消してしまいたい』っていう意味で。しかしそれでも、『義』はスヴァイツの側にあります。イー・ルから見て、『星法』を無効化する方法はGAIAに最後まで加盟していた国までも徹底的に潰し、歴史から消すより他ありません――こう云うとなんですが、サヴァナ(リオン君ち)を滅ぼすよりも、途方も無いですね、だからこそ、『幽霊』というより、『無い』ものと思っていた方が、スヴァイツ機関にとっても、実はイー・ルにとっても、()()と云えそうです」

「あ~……」

 アサギは苦笑を浮かべながら云い、やれやれ、とリオンが溜息をつく。例え話が自分に分かり易すぎて、何だか切なくすらなってきた。

「……じゃあ、タオが、『スバイツ機関が動いてるのか』って、あの女に食いついたのは、そういう意味? 今の戦争で、どさくさ紛れに星法に違反してる国が無いか監視して、有ればコッソリ粛正してる…って」

 リオンが首を傾げてみせると、アサギは難色を示した。完全に首を振りはしないが、小首を傾げて軽く眉を寄せる。

「いえ、――そういう意味だったら、もうタオ先生もいちいち反応しないと思います…。その手の『動き』だったら、スヴァイツ機関にとって『役目』として当たり前(レギュラー)だし、それはタオ先生も理解してる筈なので…」

 リオンが瞬きをして、確認口調でアサギに云う。

「そうなん? ……ってか、あんたも、そういう反応見せるって事は、タオほどじゃないけど理解してる、ってことだな」

「まあ……。僕も、スヴァイツ機関の実在を知らないまま、ぼんやりと星法だけ勉強した身でしたからピンと来てなかったんですけど、さっき、機関が『有る』と確信してからは、色んな知識が()()って腑に落ちた感じは、ありましたね。――想像の範囲に過ぎないようなことも含めて、ですが」

「ふぅん……」


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