↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/302

【情報部室】



 途中まではご老体に速度を合わせて並んで歩いたが、〈軍〉司令部と情報部室への分かれ道でブランシュと別れてから、サンハルは大股に情報部室へ向かった。

 情報部室は他の部署と違い、扉の上部に細かい「案内」の出る板が有り、〝ドアベル〟や〝インターフォン〟のような機器もついている。

 今の案内板には、「入室禁止」の文字が、赤の背景に白抜き文字で出ていた。これは即ち、()()()()()()()()()、今、この扉を開けて入ってはいけない、という意味だ。だったら施錠すれば良いじゃないか、という理屈も抜きにである、(キー)を持っている者が開けて入っても駄目、という意味だから。

 「情報部員以外立ち入り禁止」だったら部員以外――サンハルやタオも含め――は許可無しに立ち入れない、「関係者以外立ち入り禁止」だったら「城の職員以外」という意味だから、例えば城の見学や議会の傍聴に来た「一般人」は当然、入れない。

 ……となると、この「案内板」一つ取ってみても、現状、シダーの立場はかなりあやふやなのが分かる。法整備を急ぐか、彼に特別な「通行証(パス)」でも発行するかしないと――サンハルもそんなことを思いついた。

 最も「厳重」と云える「入室禁止」が出ているということは、もしかすると今、イムファルはロザリウムと「対面中」なのだろうか。そんなことも考えながら、サンハルが一応、扉の隣りにあるベルを鳴らす。

 数秒待って応答が無いので、再び鳴らすと、「機械」から、

「何方ですか、今は完全に入室禁止です」

 と、恐らくマッシオ技師の――囁くような、しかし苦々しい様子はハッキリ分かる声が聞こえた。

 やっぱりイムファルが、既にどれかの「通信ブース」にでも入って、「重要なやりとり」をしているのだろう……。

「マルス・サンハルだ。済まんな、イムファルが塞がってるのは分かってる。マッシオ君だね? 君でも大丈夫だ――此処で全部伝達するのはなんだから、取りあえず中に入れてくれないか」

「はふっ、あっ、失礼しました」

 囁くように細いのは相変わらずだが、苦々しかった声色が慌てたものに変わる。扉から小さく「かち」と音が聞こえたので、サンハルは自分からそれを開けて、情報部室に入った。

 一旦、部屋の内部を隠すように衝立(パーティション)がある、それを避けると、部屋の真ん中でマッシオが敬礼をしているのが見えた。形式としてサンハルも敬礼を返して、足早に彼に近づいた。

 防音は効いているから普通に喋っても良いのだが、()()()()は、サンハルとて小声になる。少し背の低い彼の耳元に近づくよう、軽く背中を曲げる。

「――イムファルは〈重要通信室(レッド・ブース)〉か? 〝右脳〟(ロザリウム)が応答したのか」

「は、はい。先ほど、それを報告する意味で、一度だけ()()()に、部長から声が掛かりました」

「そうか」

 今居るこの空間は、情報部室の「司令室(マスタールーム)」と云える。他部署ならば、机に椅子、戸棚(キャビネット)が整然と並んで()()()()()()()だが、此処は壁も床も「機械」や「投影機(モニタ)」だらけだ。

 先日タオが使った〝風信室〟や通常の〝無線室〟〝通信室〟等は、情報部室の隣りに別途部屋があり、その中でまたブースになっているが、今イムファルがやっているような「重大」な通信のためのブースは、一旦情報部室に入った後、この司令室からもう一度扉を隔てて奥まった場所にある。

 マッシオが壁の一部にチラリと目を向けたので、サンハルも釣られた。「四番」の〈重要通信室〉が使用中であることを示すランプが灯っていた。

「……その後は、全くこちらに指令や報告がありません…。()()()を付けられる状態では無いのかと」

「然もありなん、だな――君と交替出来る『話』でもないからな」

 それを聞いてマッシオは、「交替出来る話だとしても無理、嫌だ」というふうに、狼狽えた顔をしてぶるぶると首を振る。〝イリグマギ〟と会話など、お天気の話だろうが出来ない、と云いたそうな態度に、サンハルが一度微苦笑を漏らしてから云った。

「イムファルが空いたら、〈軍〉の司令室に来るよう伝えてくれないか」

「畏まりました」

 キッパリとした口調で云われ、マッシオも表情を引き締めて応じる。

「それと、エグメリークの会見の〝録画〟なんだが……、持ち運び出来る〈装置〉(デヴァイス)に、予備や複写は無いか?」

「……概要を纏めるのに、情報部(こちら)から外務部へ伺いましたので、外務(あちら)へ行った者は持参してしまっていると思うのですが…」

 マッシオが小首を傾げ、「少々お待ちを」と云い一つの「機械」に近づくと、それが乗ったデスクの引き出しを探った。

 やはり困ったように首を傾けてから、別の机に近づいて〈板〉を手に取り、サンハルのもとへ戻る。

「済みません、やはり、複写は、外務部に向かった部員が皆、持って行ったようです。()()はまだ作成出来ておりませんで――これは、私の分ですが」

 マッシオが恐縮そうに云って、〈板〉をサンハルに差し出した。――そう云われると、サンハルの方が少し申し訳無い気分になる。

「いや、俺が必要で云ったんじゃないんだ。マッシオ君、これは君が持ってなきゃいけない複写(もの)なのかな。これを予備(サブ)として、君のは改めて複製というのは?」

「は、あの、それはどういう意味で……」

「この後、恐らくアサギ君――フリュスからのお客人は知ってるね?――が続けて、此処を訪ねて来ると思うんだ。彼も会議に出席していたから、会見を見られなかったんだよ。サウザー(こっち)で纏めた概要を確認するだけでは、地元(フリュス)の方々と齟齬が生じるかもしれないだろう? 俺達よりは、アサギ君の方が急を要するんだ。……ちなみに、これは彼からの要望じゃなくて、タオからの『命令』と云っても良いんでね、それで、イムファルが塞がってるのも分かってるが、俺が云いに来た、って訳だ」

 そう云ってサンハルが、軽く肩を竦めた。マッシオは戸惑いの表情を浮かべつつも「左様ですか」と応じ、

「ならばやはり、これをお持ち頂くのが良いでしょう。どちらにせよ、私が今これを見られる状態にありませんので、予備(あまり)のようなものですし――」

 こくん、と頷いてから、「アサギ君には、こちらをお渡ししておきます」と確認する口調で云った。

「うむ、それじゃ、頼むよ」

 サンハルも頷きを見せて、直ぐに扉を振り返った。――そんな彼に、マッシオが再び敬礼を見せる。タオほど表に出しはしないが、サンハルも「そこまで若い子に『挨拶』として敬礼を徹底しているつもりも、俺達には無いんだがなあ」と心の中で苦笑を浮かべた。

 だが、タオと違ってサンハルは「軍人」である。非番(オフ)であるならまだしも、職務中である彼に対して、タオのように「そんな堅っ苦しくしなくても良い」などと、自分が云っていたら示しが付かない立場の自覚もあるので、サンハルも()()()()()敬礼を返し、情報部室を出、〈軍〉の司令室に直行した。


 その後、数分して、サンハルの予告通り、フリュスのお客人(アサギ)が情報部を訪れた。

 アサギも、「入室禁止」の案内板にたじろぎ、そっと「ベル」のボタンを押す。

 室内に居たマッシオは、アサギだろうと予測しつつも一応「何方ですか」と沈めた声で応じる。

「あ、あの、アサギ・フリュスです」

 狼狽えた声でアサギが答えると、「少々お待ち下さいね」と落ち着いた声が返ってきた。

 マッシオはもう、〈板〉を手にして扉を開け、

「済みません、今は入室禁止にしてますので」

 とまず断り、道を塞ぐように、アサギの目の前に立った。

「サンハル閣下から伺っております、こちらをお持ち下さい」

 マッシオがそう云って、手にした〈板〉を差し出す。アサギが「有難うございます」と云いながら、丁寧に両手で受け取った。

「――見てしまったら、返却に来た方が良いですか? あるいは、『消去』した方が?」

「会見の映像は既に『公表』と云って良いほど、大っぴらに出されましたからね。『閲覧制限』の意味でしたら、返却や消去の必要はありません、追加の複製も今やってますんで。――ただ、〈板〉自体が物資として貴重と云えばそうですから、必要が無くなったら総務部(メランジュ)にでもお返し下さい。情報部(ここ)までお持ち頂かなくても結構ですよ」

「分かりました、有難うございました」

 ペコッと頭を下げて、アサギは直ぐに踵を返した。走りこそしないが足早に部屋へ戻る――マッシオの物腰と声色は落ち着いたものだったが、ナーバスになっている雰囲気はアサギにも伝わっていた。恐らく、イムファルがもう、「さっきの女性」と会談中なのだろう……。

 一度アサギがちらっと振り返ると、マッシオは自分がある程度離れる様子さえ見届けず、即座にドアを閉めていた――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。