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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
182/302

【day3】-[10]-(7)

 〈情報部〉という……タオ曰く「ダーク」「ダーティ」な世界にもある部署に長く居るとは云え、本来は「堅く」て「保守的」なイムファルに、イリグマギのような組織が「個人的」な取引を持ちかけたって先ず無駄であることくらい、〝三羽烏〟を知っているのなら解るだろうに。

 タオは薄笑いを浮かべて、独り言のような口調で

「つくづく、君を先に確保出来てて良かったよ。万が一、君が自由の身である間に、ツェッロ君から声を掛けられてたらどうなってたか」

 シダーが擦っている口元を苦笑の形に変えた。

「無論、君だったらどうだか解らんが、イムファルはそれを拒んだ。すると、向こうは()()に『サウザー』へ、()()の貸与を打診してきた、って訳だ」

「――かと云って、リンデンも、そこでそそくさと上司(タオさん)に判断を委ねるような役人(ガバナー)じゃないでしょう。彼の所で突っぱねたっていい筈だ」

「だね」

 あっさりタオが肯んじる。

 ――それでいて、テロ等の()()()()()()()()た訳でも無い…というのなら?

 イムファルが()()()()を選ぶのは躊躇うくらいの「メリット」を、ツェッロがほのめかした……ということか。

「そりゃまあ、イムファルからすりゃ、俺が〝合流〟の決定を下したこと自体に、まだ疑問を持ってるかもしれない。だから、向こうから『合流にあたっての条件』を提示されたって、領主(おれ)に『そもそも合流って何なんだ』と先に訊きたい気分も無くは無かろう。そのせいで、『突っぱねるのも悩ましかった』だけ、という可能性もあるが」

「ふむ。……リンデンなら、そっちもあり得ますな。メリットにせよリスクにせよ、俺らにはハッタリ程度でしかないことを匂わせてても、それがあいつには判らないんだし……。リンデンにしてみたら『断固拒絶』が難しい感じなのかも」

 シダーも一度、こくんと頷いて、再び頬を擦る。そんな彼にタオが改めて云った。

「よって、ツェッロ君が何をほのめかしているのか探るためだけでも、俺は、話を聞くくらいなら良いか、と思った。が、シダー君、君がもう今のうちから、メンドクサッと思うんなら、別に拒絶しても良いよ。そういう意味で『どうする?』」

 シダーは腕組みをして、何か考える顔だ。

 隣りに立っていたオリヴィアは渋い顔をして、

「私は止しといた方が良いと思いますがねぇ……。ビアンコ皇帝が大した魔術士なのは(わか)ってますし、ディナムさんのお友達でもあるもの、そりゃあ救出の手助けはしたいもんですけど、それは、諜報と〈軍〉から人員出すんでしょう? それだけで充分じゃありませんかねぇ」

 口調も苦々しく、領主(タオ)へ云った。タオは肩を竦める。

「今シダーさんが決めかねるってんなら、通信(はなし)に彼も連れて行くつもりなんじゃござんせんか? ――タオさん、シダーさんはあくまで民間人ですよ、どんな形であれ、イリグマギと『関わらせる』のはどうかと思いますがねぇ」

「民間人かどうかってより、シダー君の場合、弱いところを擽られるとイリグマギに加入し(はいっ)ちまいかねない、ていう危うさがあるんですがね。〝道化師〟の()()だけは、サウザーで随一ですから」

「んまっ、そんなことを仰って! あたしゃそんな、疑うようなことを云った訳じゃありませんよ!」

 完全に倅を叱り飛ばす口調でオリヴィアが云い、まがりなりにも領主の二の腕をパチンと叩く。

 シダーが腕組みを解き、苦笑しながらオリヴィアへ手の平を翳した。

「いや、マム・オリヴィア。それは俺自身も自覚あるんで、タオさんを怒っちゃいけませんよ。ホントのことなんスから。――だからこそ、()()()()()()此処に居て正解なんです」

 本人までそんなことを云うので、オリヴィアがプッと口を尖らせた。そんなオリヴィアにシダーは苦笑の表情のままで、

「マム・オリヴィアもご覧になってたでしょう。俺、平零商会(タイラーさん)のことは気に食わないんス。……自分自身、〝道化師〟と同じ価値観や思考回路持ってる自覚はありますけどね、イリグマギがピンリーの『お得意様』でもある以上、連中の『仲間』になったりはしませんよ。そこはご心配なく」

 そう云うと、オリヴィアは尖らせていた口をへの字にしてから、ふむぅっと鼻から息を吐いた。彼の言葉の内容そのものには安堵するが、私はそんなことを心配して云ったんじゃない、という不満があるのだろう。それ以上、反論はしてこなかったが、表情はふて腐れていた。

 タオとシダーが顔を見合わせて苦笑を交わし、タオが

「で?」

 と首を傾げる。シダーがこくりと頷きを見せ、

「俺も、話を聞くだけ聞いてみるか、とは、思いました。――それに、タオさん。それをまずネタにしてツェッロが〝符丁〟を決めるのにゴネてるんなら、話が平行線になってるってことでしょ? 急いで何らかのリアクションはしなきゃ、『じゃあ合流は無しで』って持ち込まれる可能性も出てきますよ。もしか、タオさんやアエラも読んでなかったそっちが、たった今のツェッロの狙いなんだとしたら。それこそ、リンデンは『合流』の動機がちゃんと分かってないし、それに先立つ『国葬(Xデー)』ってタイムリミットを知らない訳だから――『決裂』や『先延ばし』は出来ないんだってことも知らない」

「うむ、それは正に、な」

 二人とも表情を引き締める。それから、隣で「はぁ、やれやれ」と溜息をついたオリヴィアに顔を向けた。

 オリヴィアが肩を竦め、

「そんじゃあ、あたくしはその間に、シダーさんからの〝宿題〟をやっておきましょうかね?」

 と、壁を指しながら云った。

 タオが再び微苦笑を見せ、首を振る。

「いえ、貴方を此処で独りぼっちにするのもどうよ、って話ですよ、オリヴィアさん。こうなったら〝三羽烏〟のもう一羽、マッカン君にも声を掛けます。それこそ、シダー君のような問題児を御する〝カタブツ〟が居てくれなきゃ困る。――その自覚もあるだろうね、シダー君?」

 意地悪く笑ってタオが云う。声で答えず、シダーは肩を竦めた。

「結果的に無駄足を踏ませてしまいましたが、執務室に一緒に行きましょう、オリヴィアさん。紙で東アルクスの地図を用意させますから、其処で〝宿題〟をやってください」

 タオがオリヴィアにそう云うと、彼女は大げさに驚いた顔をして、

「あれまぁ、これまた長生きはしてみるもんね。まさか領主様のお部屋で、仕事をさせて頂けるなんて。良い冥土の土産だわ」

 おどけてのことか本気か判らないが、腕を広げてそんなことを云った。

 タオは、ふ、と笑みを見せ、それでは行きましょう、とオリヴィアの、杖を持ったのと逆の手を取りエスコートする形で、会議室を出た。シダーは二人より少し遅れて――壁に投影させていた地図と灯りを消して――出て行く。

 廊下を歩きながら、オリヴィアがしみじみと、

「それにしてもねえ、タオさんの言葉じゃないけど、なかなかスプープの本題に入れませんわねえ。ほんと、一筋縄で行きませんこと」

 両脇で自分の歩幅に合わせてくれている、殿方二人を見上げながら云った。「仰る通りですねえ」と、タオとシダーが、大げさに嘆いた声で返す。


 ――大の男二人からすると、オリヴィアの歩調は「よちよち歩き」と云っても良い。色々と考え事をする余裕がある。

 あと一つ角を曲がったら執務室の扉が見えるところで、タオがふと、立ち止まった。

 当然、シダーとオリヴィアも立ち止まる。

「どうしたんスか、タオさん」

 ん、と喉で唸ってから、

「まあいいか、と思ってたんだが、一応……」

 と独り言を呟いてから、タオはオリヴィアに向かって顰めた声を出した。

「オリヴィアさん、一応今のところ、さっきの話は黙っててくれますか」

 と云った。

「さっきの話……というと、イリグマギからの〝打診〟でござんすか?」

「はい。――どういう展開になるかは、情報部に行ってみてからじゃなきゃ分かりませんが……。今のところは、俺と〝三羽烏〟当人だけで止めておく方が良いと思う。領主代理の皆には、俺が時機を見て云いますんで、オリヴィアさんからは」

 と云って、口の前に人差し指を立てる。オリヴィアが、おどけているようにも見えるほど大げさに頷いて、

「ええ、分かりました、領主様。心して黙っとります」

 口の前に、両手指で×印を作る。しかし、動作が大げさだからと云って、声色までおどけてはいなかった。真摯に「誓う」声であった。

「お願いします」

 タオもコクッと頷きを見せ、止まっていた足を動かす。

 ――執務室に着き、タオが扉を開けて一歩中に入ると、彼の後ろにシダーとオリヴィアも一緒であることへ、ソファに腰掛けていたバーナードがまず眼をぱちくりとさせ、

「おや、どうなすった」

 と云った。バーナードの向かいにはマッカンが座っており、小さく首を傾げていた。メインの執務机は――他の領主代理からすればそれが当然だったのか――ディナムが使っている。彼も訝しげに目を細めている。

 ルナールとフーコーは、姿が見えない。今此処に居る彼らと違い、城内で既に別の職務も持っている二人である、そういえばフーコーはまず外務部室に行くと云っていたか。

「ちょっとイレギュラーなことが起きまして」

 タオはそれだけバーナードに返し、

「領主業務に励んで下さってるところすいませんが、オリヴィアさんにも此処で作業して貰うことにしましたので」

 そう宣言して、オリヴィアを招き入れる。オリヴィアは、「まあまあ、すいませんねぇ」とぺこぺこ頭を下げながら執務室に入り、

「領主様方のお邪魔は致しませんからね、あたしは居ないもんと思ってくださいまし」

 気心が知れているから、「その位置」が良いと思ったのか、自然と、バーナードの隣りに腰掛けた。

「……師匠、お手数ですが、ちょっと其処の内線で総務に、東アルクスの地図を持ってくるよう云ってくれませんか。あぁ、原本は駄目です、メモとか書き物をしても良い(やつ)

 扉の前から動かず、タオが正面のディナムに云う。

「……構わんが、何だってまた」

 机の上の内線機を手に取りつつ、ディナムも訊ねた。

「バーナードさんに云った通りです、イレギュラーな事情。……マッカン君、ちょっと」

 師匠に肩を竦めてみせてから、バーナードの向かいに座っている彼を手招きする。

 は?と再び首を傾げつつも、マッカンが立ち上がって本来の領主に近づく。部屋を出るつもりはマッカンに無く、タオの脇にただ立ったのだが、タオは彼の手首を軽く掴んで引っ張り、部屋を出るように促した。

「それじゃ、引き続き宜しく」

 それだけを捨て台詞に、タオが扉を閉めた。――背後で、バーナードがオリヴィアに、

「何であんたが此処に?」

 と訊き、オリヴィアが、

「シダーさんが、ちょいと会議室を空けることになっただけですよ。あたくしが一人になるのはナンだってんで、お二人が気を遣ってくだすったの」

 ……と、本当のことながらに肝心なところはぼかして答えてくれたのが聞こえて、タオは苦笑混じりに胸をなで下ろした。

 さて、当然のことながら、今度はマッカンが説明を求める顔をしている。タオに、

「何があったのです」

 と云った後、「何故、彼も一緒?」と云うふうに、シダーへ視線を向けた。

 マッカンはオリヴィアより足腰が達者である。歩きを急かして心苦しくもない。タオは「歩きながら説明するよ」と、彼の背中に手をやって促した。

 そうして、タオとシダーが両脇からコソコソと小声で、マッカンに語る。そのうち、マッカンも目的地が情報部室であることを理解した。そして、情報部室の前に着いたときには、マッカンは、かなりのしかめっ面を作っていた――。


【day3】会議の日

-over-

/2016.5.17


(次の2epが若干短くなってますので、明日は10:00|20:00の2回投稿にします)

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