↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
180/302

【day3】-[10]-(5)

「――いや、()()()()()『手を貸してくれ』とは率直に云えないってのが、まさに『子供』……少なくとも『大人の態度』じゃねーなぁ、と思ったんで」

 まず「失礼」と手を翳した後でシダーが云うと、タオも目をぱちくりとさせてから「ふっ」と笑った。

「ああ、それはそうだな」

「――『ミンジュリーがこれこれこういう非常事態にあるから、皇帝陛下を救出したいので()()してください』と率直に頼みさえすれば、あんな()()()()()()()()()()なんかしなくても、タオさんは『(よし)』って即答してたんじゃないスか?」

「さあ、流石に即答はしてなかったかもしれんがな。()()()要請してくれてりゃ()()()()()()のはそうかもしれん」

「『協力してくれ』じゃなくて、『邪魔するな』って云い方で、()()()()()サウザーに傍観させないってのが、ねえ。腹かっさばく覚悟はあっても、頭下げられないプライドを捨てる勇気はないんか、っていうか……見栄っ張りというのか、ツンデレというのか」

「まあ、策略家と云えば策略家でもあるさ」

「その策を巡らす理由(ねっこ)が、『素直に頭を下げられない』ってんだったら、やっぱり子供ッスよ。仰る通りの『純粋』ですね」

「それも恐らくツェッロ君からしたら、殉死やテロと()()()()なのさ。俺に頭を下げさえすれば、必ず皇帝が助かるというなら喜んでやるが、そうでないなら、頭下げるだけ損、ってこったろう」

「成る程」

 肩を竦めて云ったタオに、くく、と笑って頷いてから、シダーは少々表情を引き締めた。

「……しかし、タオさん。今となっちゃ、俺としても、ミンジュリー皇家が()()()()()()()は、結構重要になってるんで、それは覚えといて下さいよ。サウザーから派遣する隊の目的として、それを上位に置いてた方が良いと思う」

「……。それは俺が、『潜入』がバレる恐れがあるなら『脱出』が叶わなくても良い、って云い方したのに引っかかってるってことか?」

「そうです。それもタオさん流の方便だったってんならいいんですがね、……本気で云ったでしょ?」

「……まあな」

 シダーが顰めた声で云うと、タオは微苦笑を浮かべて頷いた。

 ――恐らく「潜入が発覚する恐れがあるなら、〝テロ行為〟の邪魔もしなくていい」というのも、タオは本気で云った筈だ。

「ミンジュリーの〝政治〟が腐ってるってのがそうだとしても、王朝(くに)が〈魔術士〉を主体として生まれたことにも違いないんですから、サウザー領(おれら)とそう変わりませんよ」

「だから?」

 タオが意外そうに目を細めて、シダーに首を傾げる。シダーはタオの表情を見て、軽く手と首を振る。

「いや、俺も『同胞(なかま)意識』って感傷で云ってんじゃないんで。誤解なさらず」

「ああ、そうなのか。まさか君がそんなこと云うなんて、とビックリした」

「タオさんに『ミンジュリーの民衆を護る義理なんざ無い』ってのも、俺は()()()()()()、全く以てその通り」

「ふん……」

「連中のセンソー相手であるルォーバンは、〈魔術〉に対する無理解がイー・ルに勝るとも劣らないって感じですからねぇ。そのせいで、兵役に魔術士って人材が特に必要とされてないだろうし……その上、〝素人(パンピー)〟のハーティが長らく国家権力握ってたせいで、皇帝陛下すら蔑ろにされるほど、ミンジュリーで〈魔術士〉の価値や地位が()()()()()しちまってんのは間違い無いんでしょうけど。でも、()()()()って訳でもないでしょう。サイレント・()()()()()()として、ジッと息を潜めてる〝魔法使い〟は居ると思うンスよねえ。――カロライン嬢は想像してなかったのか、してても云わなかっただけか知らないけど、そういう人らは彼女たち(イリグマギ)()()()()()、皇帝陛下の身を案じてると思いますよ」

「ベイブ・ハーティが宰相に就く前から、ミンジュリーの〈魔術士〉は減ってきてはいたがね……。かと云ってハーティ政権が生まれて二十年の間に、()()()絶滅するほど、稀少でも無かったろうからな。――彼が全員処刑したってんでもない限りは」

「――それを考えると、ミンジュリーには皇家のみならず、『人材』が潜在してると思うンスよ。イリグマギが()()()()()()()()()()()、民衆を皆殺しにしてでも皇帝を救出する、って決心してんなら、俺は俺で『バカか』って云いますね」

 タオが「ふっ」と鼻を鳴らした。そしてシダーを細めた目でねめつけ、

「シダー君、君、もしかして――、俺が指示したことと全く逆を主張してるのか?」

()()はしませんよ。タオさんの決断に文句がある訳でも無いし。俺はあくまでただの一個人。民間人の魔術研究者でしかない」

 軽く肩を竦めて、シダーが飄々と嘯く。再びタオが微苦笑を浮かべた。

「――()()の貴方が何らかの決断を下して出た結果に、俺が文句を云う筋合いでもないし()()()()()()()()()()()

「……君もそれは解ってるね」

「俺は何を()()する気も無いです。領主として『潜入の発覚』ひいては『介入の誤解』を最も避けたいのなら、俺が口を挟む余地など無い。が、ミンジュリーの皇家が『死亡』という形で失われること、内戦・テロ行為・空襲等々の戦闘でミンジュリー国民が無差別に大量死することは、()()()()()()()()大きな損失となる()()()()()()、ってのを、俺の()()として云っておきます」

「悩ませるねえ」

 くくっと喉を鳴らしてから、タオが大げさに嘆くような声で云う。シダーは、「フッてきたのはタオさんの方ッスよ」と呆れたような声を出した。

 タオが思案げに顎を擦り、黙って何か考える顔をした数秒後に、再び苦笑を漏らし、

「マジで、なかなか〝筋〟に取り組めないなあ。この世にやるべきことが多すぎる」

 やれやれ…と息を吐く。

 シダーも再び肩を竦めてみせた――が、少し何か考える顔をして、

平零商会(ピンリー)って道化師の一派からスカウト来るくらいの問題児として、()()、云って良いッスか。勿論、俺にはそれを採用して欲しい野心など無いんで、即却下して、何なら『人格的に不適』つって俺をスプープから弾いちゃってもいいし。――もしかして()()()()()()()()()()()()()()、ってんで一応」

「――何だね」

 妙な前置きをする。タオが訝しげに目を細めた。

 シダーが「まず一つ目」と云って人差し指をピッと立てた。

「これは、ほんの少しだけ、スプープの研究員として責任者のタオさんに『恨み言』ッス。――それこそ向こうから〝交換条件〟みたいな展開に持ってかれちゃヤバイってのは、俺も判ってはいたんですがねえ」

「だから、何だよ?」

「……端的に。オーチャードやイリグマギの本拠地、平零の本社周辺に、〝筋〟は出たのか出なかったのか、そのくらいは訊いてくれても良かったんじゃないッスか?」

 それは大げさなポーズなのか、それとも本音なのか、シダーは言葉通り、恨みがましい顔をしてタオに云った。タオは目をしばたたかせ、「ああ…」と溜息混じりに苦笑する。

「気付いてなかったンスか? それともやっぱり、連中が『そういう情報が欲しければ麾下に入れろ』と云ってくる展開になるのを避けた?」

「『思い出さなかった』と()()()()()()。そういう展開(はなし)になってたら面倒ってのは本音だ。かと云って、あの時『訊くのを()()してた』つもりも無いよ、ただ()()()()。忘れてたのは何でだ、って自問してみりゃ、謎が〝一種類〟つっても〝数〟に腹一杯ってのも本音だから、これ以上()()()()()()()のは『食傷』だ。君にも『今んとこはサウザーとサヴァナとフリュスに集中しろ』と云った、俺もそのつもりで居たから他国(ひとんち)の状況は俺の眼中になかった、そういうことかもしれん」

「……」

 薄笑いを浮かべたタオの答えが、果たして真意かどうかは分からないが――、それが本当だろうが嘘だろうが、結局今の段階で〝道化師達〟から情報を得られていないのが現実であるので、問い詰めても仕方ない。それこそ何の足しにもならない恨み言、愚痴で終わってしまう。

「ミンジュリーには、サウザーからも隊を潜入させるんだ。もしや彼の地(ミンジュリー)にも()()()ようなら、まさか彼らがそれを報告しない筈はないよ、そこまでポヤッとしてる隊員達じゃない。そうなれば、『どうも〝この世〟の敵対関係とは関係無く出てるらしい』という判断にはなるし、出てなければ、まだ〝この世のしがらみ〟と〝筋〟の関係性を潰せないって判断になる。取りあえず、その点でも『合流』の決断が()()()()アタリだった、とでも考えてくれないかな」

 相変わらず薄笑いと、とぼけた声でタオは云い、肩を竦めてみせた。

 ――シダーは「…そっすか」と息を吐くと、直ぐに何の感情も伝わらない無表情になり、指を足して「二」を表すと

「じゃ、二つ目」

 やけに淡々とした声色で云った。

「何だね」

「タオさん。――俺としては、カラス翁が云ってた、『オーチャードが第三者としてシレッと参戦し、さっさとCCFCを制圧する』ってのは、客観的に見て()()()()と思いましたよ」

「……」

 タオは目を細めた上に、小さく眉も寄せた――成る程、()()()らしい判断……いや、「言動」だ。サウザーの者なら、それを「良くない」と判断するのが「普通」であり、「悪くない」とは()()()()のが一般的(マジョリティ)だ。それを領主に「云う」から「問題児」と称される。

 だが、タオ本人が彼を問題児と()()()()()()訳ではない。何故ならカラスがそれを云ったとき、「その手もありっちゃありだ」と()()()()()()()()()()()。ただ、やるんなら黙ってやれ、と思ったのも本心だった。聞いてしまえば、無視が出来ない。

「でも、もしや本当にその後、サウザーがオーチャードと『協力』する体制になったら、CFCから妙な疑心と批判を向けられかねませんよね。そっちの『もし』を一応考えとくなら、あの場はスルーしとくのが正解だったんでしょう」

「そうだよ。――それで、君は何が云いたい?」

「でも、ルォーバンとミンジュリーの戦争(ドンパチ)に、サウザーは()()()()()()ですよ。――俺としては、()()()()()()()()()()()()()()()()()ことで、そっちのセンソーをとっとと終わらしてもらうって手も、あるんじゃないかと思う」

「……」

「アエラが云ってた――オーチャードやピンリーだと救出に本腰にならない、〝テロ行為〟に躊躇しない、ってのが、絶対に皇帝を救出したいイリグマギからしたらネックになる、故にサウザーに声を掛けてきた、って読みが当たってるようなら、オーチャードやピンリーには、()()()()()()介入してもらえばいいんじゃないッスか? それだったら、ミンジュリーでの救出作戦の妨げにはならない」

 シダーの――本人が云うとおり客観的で淡々とした――声に、タオは細めていた目を大きく開き、一瞬ぽかんと口を開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。