【day3】-[10]-(2)
「どういうことよ。私が想像してるリスクは、的外れなの?」
「そうは云わないけどな、俺もそのリスクを想像はしてるよ。だから、サウザーからの隊をイリグマギの隊に合流させるのは、賭けと云えば賭けでもあるんだ」
「……でも、勝ち目があると思ってベットしてるんでしょう?」
「そうだ。――アエラ、俺はな、少なくともロザリウム君には『勝った』と思ってるよ。君は、ロザリウム君が嫌いだから彼女に焦点が合っちまって、それで目が眩んでんじゃないか?」
「……えぇ?」
たじろぐ表情を見せた後、フーコーが首を傾げた。
タオが目線をフーコーから何も無いところ――先ほど、カロラインの顔が見えていた「球」の浮かんでいた辺りへ飛ばして、頬杖をついたまま云った。
「俺はもう、ロザリウム君の向こうに居るツェッロ君と、腹の探り合いと云うか、手の読み合いというか……してたんだよな。ツェッロ君は一体、何処から何処までを語るようロザリウム君に託してたんだろうか、託された内容をロザリウム君がどういうふうに俺に語ると予想してたんだろうか、そして俺の決断がどうなるのか――彼は、どこまで読んでたろうか。俺は何となく、ツェッロ君も、俺が『合流』の決断を下すのを、読んでた――望んでたんじゃないかって気がするんだよ」
「――はぁ? タオさん、それじゃあ、向こうの思うつぼ、ってことじゃないの。それで何で『ベット』する気になるのよ!」
フーコーが呆れたような声を出す。タオが不思議そうに目をぱちくりとさせてから、ニッと口を歪めた。
「アエラ、それが、『目が眩んでる』って云うんだ。自分が警戒心を持ってる相手の『思うつぼ』になるのを、おまえは、『負け』だと感じてるんだろ。俺が云ったのは、違う。これはな、ツェッロ君の読みと俺の読みが、ピッタリ嵌まってこそ『勝ち』。今云ってる『勝ち負け』は、あくまで『賭け』が当たりかハズレか、だからな。将棋のように、相手の読みを越えることが『勝ち』にはならんのだよ」
「……何云ってんのか解んないわ」
ふて腐れてフーコーが口を尖らすと、タオは相変わらず、意地の悪い笑みを見せる。
「ツェッロ君は、将棋やらの対戦相手ではない、って意味だ。俺はカジノの客、ツェッロ君はディーラー。俺達は、決して前もって打ち合わせたりはせずに、カジノのオーナーから大金巻き上げようとしている、と考えてみろよ。俺達二人は、互いに賭けてんだ」
「――」
「ルーレットの球が何処に落ちるか、次のカードが何なのか、ディーラーは、ヒントを与えてくれている。それをちゃんと読んでベットすれば、俺の勝ちだ。そこで裏を掻いては『負け』だろ?」
フーコーが首を捻り、「うーん…」と小さく唸る。
「ディーラーだって、オーナーにはバレないように、客に読ませなきゃ、最終的に負ける」
「まあ……、その例えは、解らなくはないけど……。そもそも、『カジノのオーナーから大金を巻き上げる』って何のために? 何故、ディーラーと手を組んでまで?」
「ほら、其処。君も、ロザリウム君と同じくらい色んなコトをごっちゃにして、道筋が解らなくなってるぞ」
頬杖ついたのと逆の手指をフーコーに突きつけ、タオが云う。――「あの女と同じ」という台詞にむかっとしたが、フーコーは憤りというより狼狽の表情で「えっ」と声を出す。
「『カジノのオーナーから大金を巻き上げる』のが何のために、じゃないだろう、『大金を巻き上げる』ために、だ」
「……え、え?」
「『カジノのオーナー』は〝ミンジュリー王朝の現政権〟、『大金を巻き上げる』は〝皇帝を脱出させる〟、だ。それが『何のため』はもうロザリウム君に云ってる、君まで訊くんじゃないよ」
「――」
「ツェッロ君と俺は、対戦相手じゃなく、『共犯』になるべく読み合いをしてたんだよ。俺がもしツェッロ君の読みの上を行ってしまってたら、それも『負け』だ。ロザリウム君に云った『そこまでの想像をしなかったんなら邪魔するなとか云うな』ってのは、皮肉じゃなく、俺の恨み辛みも込めた本音なのさ。もしかしてツェッロ君の読みのほうが上を行っていたら、『合流』そのものは問題にならず、皇帝脱出の目的も果たせて、しかしサウザーは窮地に陥るっていうリスクはあるんだが――ロザリウム君の言葉に嘘が無いのなら、俺はツェッロ君の狙いにピッタリと『嵌まる』ところまで読めてるだろうと、そこに賭けたんだ」
そこでフーコーが目を細め、眉間にも皺を寄せた。
「……向こうの読みの方が上を行ってた場合、ですって? それでも『賭け』たの? それは、『嵌まる』ってより、ツェッロから『ハメられる』ってことになるじゃないの、タオさん。それも、『あの女が嘘をついていないなら』だなんて、いつから貴方、そんな信頼をイリグマギに寄せるようになったのよ」
「何、拗ねた口聞いてんだ。気を悪くすることは解ってて敢えて云うが、おまえ、そういうとこ、ロザリウム君と似てるぞ」
タオが呆れたような声を出し、フーコーは思い切り顔をしかめ、「冗談じゃないわよ」と吐き捨てた。
「――しかし実際、俺はロザリウム君が『嘘はついてなかった』と判断してる。あの子は頭は良いが、感情的、感傷的なのはそうだし、それが故に素直な反応も見せる。慌てたり焦ったり――最後にはベソかきそうにもなってた、あのリアクションは、芝居じゃあないよ。そりゃ、〝絶対〟とは云わないけどな」
「……」
「その上で、ツェッロ君にベットした。ツェッロ君に『俺をハメる』つもりは、恐らく無い。――アエラ、俺達に邪魔されたくないなら、ミンジュリーの内状など黙ってりゃ良かったのに、ってのは、君だって判るだろう? ロザリウム君は『ちゃんと云わなきゃ邪魔するかもしれない』などと云ったが、あれは彼女が俺を見誤ってたんだ。てことは同時に、自分の総統の真意も読み誤ってた――ツェッロ君は、『語っておきさえすれば、俺は傍観しない』ことを読んでた、多分」
「……。あの女はまだしもツェッロは、って云うんなら、私も判らなくもないわ。だからって、『合流』まで望んでたかって云ったら、それは考えすぎかもしれないじゃない」
フーコーが眉を寄せて云うと、タオもそれは否定しなかった。
「俺もそう思う。だから、『賭け』なんだ」
「……あっちはあっちで動かさせといて、サウザーはサウザーで作戦を執るようにした方が良かったんじゃない?」
「それだと、今度は『衝突』が起きる可能性があるだろ。それは『潜入の発覚』もそうだが、何より、ダイレクトに隊員の身の危険に繋がる。合流したって衝突は起きるかもしれないが、いざ、それぞれが『実行』に移ったときに起きるよりは、その前に起きた方が良い、そんときは、俺達の方が引き下がればいいだけだからな。――俺が『傍観しない』とは考えてても、『合流』するとまでは考えてなかった、として。それでも、俺としては、ツェッロ君が『その手があったか』と乗って来てくれること――彼はそういう人物だって読みがハマってることに、賭けてんだよな」
「……」
「イリグマギが『結構強引な何か』をしようとしている時に、サウザーが『傍観しない』ってんなら、そこには〝テロ行為〟の妨害も含まれてると、ツェッロ君には判ってて欲しいよ」
再び、タオは目線を宙に飛ばして、独り言のように云った。フーコーが溜息をついて軽く首を振る。
「私、タオさんがそんな『希望的観測』をするような方とは思ってませんでしたわよ?」
「希望的観測? おいおい、君まで俺が『感傷的』な判断をしてると思ってるのか?」
目をぱちくりとさせてタオの方が余程呆れた声を出す。――また「ロザリウムと似てる」なんて云われそうだったので、慌ててフーコーは、
「感傷的とは云ってないわ」
と首を振った。
「楽観的なんじゃない? って云ってますの。ツェッロを、まさか、舐めてなんかいないわよね、タオさん?」
「勿論さ。だからこそ、ツェッロ君も俺を舐めてませんように、と賭けてる」
「――」
「アエラ、いつまで経っても君の視点は、『イリグマギと合流するデメリットやリスク』から離れてないな? だからそんなことを云う」
タオの目と声が少々渋くなったので、アエラはたじろいで身を引く。
「イリグマギやツェッロ君じゃなくて、『目的』をまず意識したまえ。ツェッロ君の目的もサウザーの目的も、『ミンジュリー皇家の脱出』だろ」
「は、はぁ……」
「目的を果たすためには『どうするべきか』を考えてったら、『合流』がお互いに良いと、結局、そこに行き着くんだよ。むしろツェッロ君の方が『合流』を望んでるのじゃないかという想像も、それが故だ」
「……」
「アエラ。――皇帝陛下の救出って目的を、確実……というより絶対に果たしたいのは、イリグマギの方だって分かってるか?」
タオがフーコーに指を突きつける。戸惑いつつも、「それは、まぁ……」と、フーコーは頷いた。
「でも、ディナム老師の想いとか、アイツらが〝テロ行為〟を辞さない組織であることとかを考えたら、出来たら、サウザーが果たした方が良いと……私は、思ってますけど――あっ、ちょっと待って、カロラインが云ったみたいな栄誉がどうこうとかは考えてなくってよ?――」
しかしフーコーは、戸惑った声のままながら反論して、最後に慌てて手を振った。
タオが軽く首を振る。
「生憎、俺はそんなこと考えてない。――アエラ、君の方こそ、いつから『イリグマギを信用』してんだ?」
「はっ?」
「ロザリウム君が語った『皇帝一家が脱出しなければいけない理由』を、完全に信じてるじゃないか」
「――え」
「勿論、ロザリウム君――イリグマギは、それを『行動の根拠』にしている。だからこそ、彼らの方は『絶対に』皇帝一家を救出するつもりで居るし、俺達に嘘はついてない。――だが、俺達には、彼女から聞いた話以外に、『動機』など無いだろうが」
渋い顔と声でアエラに云う。
「――俺達はまだ、『皇帝陛下がどさくさのうやむやで死ぬ』かもしれないほど、『ミンジュリーの民衆が無秩序に駆られている』ことを、確認出来てないだろ? 君、それを百パー信じてるのか」
「……っ」
「『俺はもう少し行儀悪くても良かった』って反省は、其処だ。もっと行儀悪く、自分に関係無くても『五大国』と呼ばれてるミンジュリーやルォーバンにも常から諜報隊を入れてれば、こんな泥縄式にバタバタ判断を下して、『賭け』に出ることもなかった」
タオは小さく溜息をついた。




