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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
172/177

【day3】-[8]-(5)

「――マルス。至急、本国(シンキ)に連絡を取り、ソーディス家よりミンジュリー皇家の救出隊を出す許可を、国王(フォルタス)に求めるよう、(ライジン)に申せ。隠密行動と云える故、少数精鋭で、編成はライジンに任せれば良い」

「ちょ、ちょっと待て、祖父上(じじうえ)殿、何を云い出す」

 サンハルが慌てた顔をし、焦った声を出して、祖父(ディナム)に手のひらを突き出す――息を飲んで成り行きを見ていたアサギとリオンは、そんなサンハルを初めて見たので、全く場にそぐわないことは判っているが、俯いて少し笑ってしまった――。

「もうシンキ王家の一員とも云いがたい俺が、そんなこといきなり云っても、ライジン(おやじ)とて陛下(おじうえ)とて、聞いてくれるわけが無かろう」

「ならば儂が直に云うか。それでは()()()()()強引な命令を下すことになるので、其方から云わせようかと思うたのだが。――其方がギーチ殿を迎えに行く時では間に合わぬ、事情はその時話すから、今は祖父(じじい)の我が儘を聞いてやってくれと、泣きついて欲しいのだがな、孫よ」

「……公私混同も良いとこですよ、師匠」

 呆れた苦笑を浮かべて、タオが割り込む。

「そんな判断と命令を下すようでは、領主代理を任せるのも不安だ。昨日の今日で、解任命令を出しましょうか?」

 卓の上で手を組み、真っ直ぐに師匠(ディナム)を見つめて、タオが微笑を浮かべながら云う。

 ディナムが目を細め、やはり真っ直ぐに弟子(タオ)に向かう。

()()()()の権限は乱用せぬよう、サウザー魔術士隊長のマルス・サンハルには隊を出すよう云わなんだのだ」

「成る程。それで、直系の王家軍でも無く、王分家ソーディスから、ですか。……それにしたって、結局、先王陛下が現国王たる息子に権力を行使させるのでは、公私混同ですよ。――師匠はその判断を、()()()()、『友人』の救出という目的のために下したのですしね?」

「……タオよ」

 ディナムが軽く眉を寄せ、渋い声を出す。タオは意に介さず、視線をカロラインに向けた。

「俺が自分の決断とその結果(なりゆき)に、『悔恨』や『呪詛』をしないのは確かだが、『反省』はするんだ。君の云うとおり、もう少し()()()()()()良かったな」

「――?」

 タオは、カロラインに向かって()()()()()笑った。カロラインはその意味が分からず、え?と首を傾げた。

 彼女から「どういう意味だ」という質問が来る前に、タオはマッカンに顔を向けて、有無を云わせない張りのある声で命じる。

「マッカン君、情報部(イムファル)に繋げて、ミンジュリー王朝の、今一番近くに居る諜報員を都に潜入させるよう云ってくれ」

「――は、はっ?」

「いや、俺が直接云おう。情報部(イムファル)に繋げてくれ」

 マッカンが目を白黒させたのに気を遣わず、タオはきっぱりと云った。――マッカンは、今タオに「何故」など問うても答えてはくれないだろうと察し、「畏まりました」と答えた。

 少しして、マッカンが「繋ぎました」と少々戸惑いの響きがある声で云って、タオは、円卓の中央にある「別の機械」を自分の手元に引っ張った。

 それは透明の板だ。「球」は浮かんでいるが、「板」は台木で支える形である。

 板の中にイムファルの顔が浮かんでいる。

「イムファル。詳細は後にするが、諜報隊を一つ、至急、ミンジュリー王朝――出来たら王都に侵入させたい。今、近辺に誰か居るか」

「――。生憎、〝ミンジュリーの近辺〟と云える程の場所には居りません。先日の『大海』における展開からその後を探るため、グランゼアに待機させている隊ならございますが……?」

 イムファルも一瞬絶句したが、「詳細は後にする」という前置きは「今、質問は受け付けない」という意味でもあるので、ただ領主の質問に答えた。

「いや、件の『展開』に関わることじゃないんだ。物理的に(マジで)近い、あるいは、最もミンジュリーに入りやすい隊」

「は、はあ……、少々お待ちを。――サヴァナにご協力を仰ぐこともしないのでしたら…、サウザー所属だと、やはりグランゼアに待機させている隊が、海路にて最もミンジュリーに入りやすいかと思われます。(おか)ですと――ミンジュリーでなくルォーバンですが……連邦の国境となります〝デリーラ運河〟近辺にて任務に就いていた隊が、一昨日付で一旦帰還を始めております。予定としては、本日、〝ヤンシュ国〟に入る筈です」

 イムファルが手元の書類を繰りながら云うと、タオは目を細めて顎を擦った。

「ん~……。帰還中のをとんぼ返りさせるのは、ちょいと酷だな…。別にルォーバンの方は今、直接関係ないんだしなぁ、グランゼアか~……、まあ、諜報隊だけ入れるのも危ないっちゃあ危ないし――良いだろう、イムファル」

 独りごちた後、タオが改めてイムファルに命じる。

「グランゼアの諜報隊に、魔術士隊から数名と特殊部隊から数名を合流させて、ミンジュリーに入って貰う。直接〈軍〉からも隊員付けるんだから、デリケートで危険性もある任務だとは判るな。くれぐれも、()()()()()真似はしないように。で、今ちょっと外電で会議に参入して(わりこんで)きたロザリウム君と話してるんだがな」

「〝ろざりうむくん〟……? ――は!? それは、まさか、イリグマギの〝右脳〟ですか!?」

 タオが余りにもあっさりと云うので、その「言葉」が、一瞬何のことか判らず、イムファルはきょとんとした。そして、素っ頓狂な驚きの声を上げる。

「そう。この後、ロザリウム君から君に、直接繋がせる。其処で、君とロザリウム君の間で、直接〝符丁〟(あいことば)を決めてくれ。領主(おれ)にもそれは告げなくて良い、ミンジュリーに入れる隊にだけ伝える。良いね、ロザリウム君、君も、その暗号を、ツェッロ君達に伝えるんだ」

「ちょっ、ちょっと、お待ちになって、タオ様?」

 今度はカロラインが――本気で――焦った声を出す。イムファルにもそれが聞こえた。……ということは、今タオが云ったことは、完全に彼の判断から出たことであり、カロライン・ロザリウムにも()()()()()()()()()()()のだとイムファルは察して、故に、一層混乱した。

「そ、それは……、イリグマギ(われら)に……総統の計画に、協力して下さるということですの?」

「協力と云うと恩着せがましくなる。そうは云わない。俺とて、自分の部下を殊更『馬鹿げた乱痴気騒ぎ』に巻き込ませたくもないからな」

「――」

「ただ、師匠の云う通り、皇家の方々は一旦都から『脱出』する必要はあると、俺も思う。だから、ロザリウム君。先の要求に、俺は答えることにした。君達の()()()()()()。――ただし、君は、それを俺に要求するために、()()()()()()()()()()。話さなけりゃ、サウザー(おれ)が敢えてミンジュリーに介入する道理なんか無かったんだから、イリグマギ(きみら)が好きなように展開出来たろうにな――ロザリウム君、邪魔をするなってのは、それはツェッロ君からの伝言なのか? もし君の独断だとしたら、後でツェッロ君から叱られるかもしれんぞ、それを『後悔』しても遅いぞ?」

 タオが意地悪くにやっと笑う。カロラインは「うっ」と息を飲んだ後、首を振った。

「い、いいえ……それは、総統から云われてのことなのですが…」

「ふん。では、サウザー(おれ)イリグマギ(きみら)の思惑と全く違う行動を執ったとしても、ツェッロ君からも君からも恨まれる筋合いは無いな」

 もう一度、口角を軽く歪めた後で、カロラインの顔を真っ直ぐ見つめ、タオが淡々とした声色で云う。

「ミンジュリー王朝が、()()()()()()()()()()に陥っているのなら、皇家の方々は一旦都から脱出するべきだろう。それを、民衆から『逃走』と取られない『強奪』『誘拐』の形で君らが行うというなら、君らの意識では『救出』だというのも、つくづく理解が出来る」

「そ……それをご理解戴けた上で、邪魔はしないと仰って下さいますなら、そんな怖い顔なさらずとも宜しいのではなくて?」

「――その話を()()()()()()()以上、サウザー(おれたち)としても()()()()()()()()()()()()()()。こうなった以上、君らの方も、サウザー(おれ)を巻き込んだ『覚悟』をしろよ? ……ってそれが顔に出てんだよ」

「……」

「今のところミンジュリー王朝とは全く関係が無い、その上、五大国の一つであるCFCと戦中のサウザーが、表立って介入することは出来ん、ややこしいにも程がある。それを考えると、『道化師(ジョーカー)』が()()()()役になってくれるってんだから、俺は()()すらしたい。――だが、イリグマギ(きみたち)は、目的のために手段を選ばない道化師(ピエロ)でもある。皇帝一家を『救出』するにあたって君曰くの『馬鹿めら』が障害となったとき、君達自身に()()()()つもりは無いとしても、安易に()()()()()で排除するならば、()()()()()()()()()()()

 大した抑揚は無くタオが云うと、カロラインが軽く口を尖らせたが、()()()()()()

「大っぴらに『強奪』『誘拐』の形を取って〝屁でも無い〟からこそ、君らは、『手段』を()()()()()()()()()()。皇帝一家の救出が『目的』であるなら、その『手段』は、()()()()()()()()()()()()()。なのに、手っ取り早く()()を選ぶようなら、俺は、『()()()()()()()()()()。――君、まさか、()()邪魔をするなと云ったんじゃないだろうな? だったら()()()()()()()()()()

 タオが冷たい薄笑いを浮かべた。カロラインは口をへの字にしたが、やはり否定も反論もせずに居る。

「君は、語らなければ俺が邪魔するだろうと云ったが、逆だ。……俺が()()出るだろうことも予測して、敢えて語り、『その手段を選ばせたくなければ、〈同盟〉または〝麾下〟に入れろ』と要求するつもりがあったのなら、残念だが、君らの思い通りにはいかんよ? ()はそこまで慈悲深(やさし)くないからな」

「――えっ?」

 そこでロザリウムは、不思議そうな顔をして首を傾げた。それを見て、タオの薄笑いが「おや?」と訝しげなものに変わり、それから直ぐに苦笑に変わった。

「ああ、ロザリウム君……、少なくとも君は、()()()()()考えていなかったのか? もしかしてツェッロ君も考えてなかったのだとすれば、()()()()()()()()()ってことだね、勝った」

 おどけてタオがガッツポーズなど見せた。――カロラインはリアクションが出来ない。

 タオは、再び真意の見えにくい薄笑いを浮かべる。

「まあ、ツェッロ君にはそのつもりがあったとしても、俺の答えは変わらんがね。それは、ミンジュリーの民衆を人質にしてるのと変わらん発想だからな、そんなもの、俺には通じない。何で俺が、()()()()()()()民衆を護るために君らと手を組まなきゃいかんのだ」

 ――あっさりとしたタオの言葉を聞いて、リオンがビクッと肩を強ばらせた。

 ()()()()、そうなのか?

 「怖い〈マスター〉も居る」というより、「〈マスター〉は怖い」ものなのかもしれない。

 タオに対しての敬意は、今も消えてはいない、しかし「畏怖」も一層強くなった。()()()()、「人質という概念は通じない」のか。

 昨日想像してしまった「人質諸共、〈敵〉を倒すことに躊躇しない」ということは、タオに限って、無いと思う。それは、ギンの云っていた「崇高な理念」と相反する気がするから。しかし、タオは、「人質を理由に〈敵〉の要求を呑む」ことは無いのかもしれない――「〈敵〉の要求を呑まなかったが故に、人質に何かあったとしても()()()()()()()」のかもしれない――。

 〈敵〉がそのつもりでとった人質を、助けることが出来るのか、見殺しにしてしまうのか、それは、タオにとって「自分のやるべきことをやった結果(なりゆき)」であり――、どちらにせよ、彼は()()()()()()()()()のだ。

 星を懐に入れるほどの意志――、それは「表裏一体」なのだと、リオンはつくづく実感し、震えた肩を思わず掴む。

「どうしました?」

 リオンの、表情も強ばっているのに気付き、隣でアサギが心配そうな声を出した。リオンは、

「何でもない」

 ときっぱり答えた、それ以上は何も訊かないでくれ、というふうに。

 アサギはただ、「そうですか」とだけ返した。何を考えていたのかは分からないが、リオンが、何事か「決心した」ような真摯な目をしていたので、「心配」をするようなことではないのだと感じた。

 ――表裏一体の「意志」を目の当たりにして、畏怖は強くなった。だが、やはり、それで自分の「意志」が萎えようとはしていないことも、リオンは実感していた。


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