表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
171/177

【day3】-[8]-(4)

「これは――六年くらい前の映像ですので少々古いのですが……現状(いま)との違いは〝空襲痕〟の有無程度ですから、お気になさらないで。わたくしが見て頂きたいものは別」

「……」

 サウザー直轄地、城下町は基本的に中央広場(メイン・サーカス)を中心として放射状に大通りを敷く都市整備をしているが、それに対してミンジュリーは〝条里制〟と云っても良いだろう。外郭の中に、規則正しく升目を描いて道路が敷かれている。外郭の描く四角の対角線が交わる位置に条里の例外と云える――これはサウザーの中央広場と同様の――「広場」があり、其処は主にミンジュリーの大きな「祭祀」が行われる場所だ。「国葬」が本当に行われるなら、そこが()()になるのかもしれない……。

 六年も前のものとなれば、確かに、「現状」を把握するのに適切とは云えないが、あっさり「空襲痕の有無程度は気にするな」と云えるカロラインに、アサギは小さく肩を震わせた。

 ――画像の上部に、もう一つ「例外」となる大きな四角がある。「宮殿」の敷地を囲む外郭だ。町の中の施設・住宅は豆粒のように見えている空撮映像の中で、きっちり「邸宅」だと判る建物が、塀の内側には()()()()ある。さぞや丁寧に手を入れているのだろう、美しい「庭」すらも見えた。

 ディナムが訝しげに眉を寄せ、カラスも「んん?」と目を細めた。――()()()()()()が、宮殿の郭の内側にある。

「カロライン君、あれは、何だ」

 カラスが問うと、カロラインが吐き捨てるような口調で答える。

「〝星の塔〟です」

「何だと?」

 その声はディナムが上げた。誰にでも判るほどはっきりと険しく顔をしかめている。

 空撮映像では、宮殿敷地のほぼ中央に「灰色の四角」が見えている。ディナムとカラスにとって「その位置にある筈のもの」が「見慣れないもの」だったから、気になったのだ。

「……もう少し、()()()()お見せしますわね…」

 カロラインが画像を変えた。近づいて、と云っても、宮殿の塀を越えて「侵入」した映像ではない。高度を変えて宮殿だけを「アップ」にした状態から、「灰色の四角」が「立体的な建造物」だと判る程度に角度を付けた()だ。

 やはり――ディナムは顔をしかめたまま、軽く下唇を噛み、カラスは口元を抑えて眉を寄せた。

「何だ、これは……。これが、〝星の塔〟だと?」

 信じられない、と独り言のようにカラスが呟く。

 カラスやディナムが知っている〝星の塔〟とは、こんな〝コンクリートの壁〟に囲まれたものではない――。テラスかバルコニーを三層構造にして簡素な屋根を付けただけ、という雰囲気で、外気にさらされるオープンな……〝塔〟とは名ばかり、「櫓」と云った方が良さそうな建造物だった筈だ。

 なのに、今画像で見せられている()()の方が余程に〝塔〟の名に相応しく()()()()()()()いた。過去にあった「櫓」にすっぽりコンクリートの箱を被せたような……どうも階数――高さまで増したようだ。窓こそ付いているようだが、〝磨りガラス〟なのか、中は全く窺い知れない――いや、恐らく第一層と第二層には、ちゃんと「窓」と云える大きさの開口すら無さそうだ、「明かり取り」「換気」、最低限それが出来れば構わない、というくらいの小さな――。

 幾ら「塔」という名詞こそ相応しくなったとしても――これは、ミンジュリー王朝、王族にとって最も()()()()()()()()()の名を冠してはいけない「構造物」である。

「――ベイブ・ハーティがミンジュリー王朝の宰相に就いて二十年にはなりますかしら? 〝世界大戦〟を始めた一人が彼奴ですものね。カラス様、ディナム様、ハーティはね、その二十年の間に、道化師(われら)でも()()程の、見事な××××になりましたのよ。執務所である〝朝廷(コート)〟こそ、その役割を保っておりますけれど、本来なら皇帝ご家族が住まう筈の後宮は()()となってしまっております。宰相と、その()()()である大臣・官僚数名の……」

「――」

「では、陛下とそのご家族は何処にお住まいか? ――()()()()、聖帝一家にとって何より大事な、〝星の塔〟ですわ」

 カロラインが厳しい声で吐き捨てる。ディナムは卓の上でギュッと拳を握った。

「陛下が――ひいてはミンジュリー王朝が、〝星の塔〟を何より()()()しなければならぬことを、『形式として』良く知っていたハーティは、〝塔〟を()()()()()()()()、その中に、守護する役目の陛下を押し入れたのです。有りさえすれば良いのだろうと、そこは()()()()()()にね? そりゃあ当初は、そんな暴挙に反対する民衆や官僚、陛下の側近とて居りましたけどね。ハーティの恐怖政治は、二十年かけて民衆を臆病者にし、自らを××××にしたのですわ。××××が治めて二十年ですもの、その間に『王朝が一番美しかった時』を知っているお年寄りは自然と亡くなりますし、()()()()()()()老若男女問わず居りますでしょう。世の中を良く知らなかった子供は大人になり、××××の()()()を植えられた上で己の不満を持て余し、陛下に矛先を向ける愚か者にもなりますでしょう。――そして陛下は、()()()()()()()の時だけ引きずり出され、この〝塔〟に、もう何年も『幽閉』されてますの。隠居なんて、とんでもない!」

 球の中には見えないが、カロラインは手元に机がある場所に居るらしい。それを「ばんっ」と、叩いたらしい音が聞こえた。

 カラスが、髭に覆われた顎の形をなぞりながら、独り言のように

「――二十年か。この齢になると、あっという間だのぉ……。『あいつ、元気にしてるかな』と前回思ったのはいつだったのか……」

 そんなことを云った。ディナムは拳を作ったまま目を閉じて黙っている。カロラインが、「カラス様っ!」と苛ついた声を出した。

 そんな彼女へ、「カロライン・ロザリウム君」とカラスが随分冷静な声を掛ける。

「そこまでミンジュリーの民衆が腐っていると云うのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 その意味が、タオやディナム達には、全く解らない。――云われたカロラインの方も、直ぐには判らなかったらしく、

「な、何と仰います?」

 と声を裏返した。

「果たして、その『国葬』の日を、ミンジュリーはまともに迎えられるものだろうかなぁ……。カロライン君、『国葬』の前に、()()()()()()()()()()()()()()()、儂は()()()()()()()()が?」

 カラスは、微笑を浮かべて、淡々とそんなことを云った。――アサギとリオンは二人とも声にこそ出さないが同時に、

『この老人がやっぱり、一番、()()

 と思った。


 カラスの言葉を聞いてカロラインは一瞬絶句した。そして――「もしかしたらそれもあるかもしれない」と、彼女は思ったのか、()()()()()()()()()。タイラーも「ああ…」と小さく、()()()()()()()溜息を漏らす。

 やはり、サウザーの者には、その意味が判らない――「皇帝一家を除く国民が全滅」などという()()()()なカタストロフを()()出来るような「感覚」を、サウザーの者は持ち合わせていない。よって、会議室に居る殆どの者が、不快そうな顔をしていた。

 タオですら、訝しげに目を細め、眉を寄せた、が――。

 カラスやカロラインが持っている感覚――「想像」を()()()()()()()()()を、多分、己が、()()持っていないだけなのだ――そう思い、タオは顔の筋肉を解すように頬を擦った後、表情を平静に戻し、黙って「成り行き」に集中し直す。

 カロラインは、それでも首を振り、カラスに向かって反論した。

「それも()()()()()()()でしょうが、()()()()()()()()()()が、我々にとって悲劇なんじゃありませんか、カラス様。聖帝ご一家を残してミンジュリーが滅亡、その未来が『確定』しているのなら、イリグマギ(われわれ)にとっても()()()()()()()()ありませんもの、高みの見物を決め込みますわ。でも、それを()()して何もせずに居り、やはり陛下の御身に何かあったりしたら――我らはタオ様ほど『出来た』者じゃありませんもの――悔恨も呪詛も、きっと、そちらを厭いませんわ」

「……君曰く××××が治める国の皇帝として形ばかり君臨していた、リオ・カルムも、最早腐っていないとも限らぬぞ?」

「何ですって、カラス様!」

「あのような、風も通らぬ壁だ。()()()()()になっていても不思議には思わぬ」

「本気で仰っているのですか! 何て酷い……!」

 彼から見れば〝小便臭い小娘〟とも云えるだろうカロラインが、臆さず老人に怒鳴りつける。

 そこでタオが、スッ、と球に向かって手の平を掲げた。

「そこまで。道化師(ピエロ)同士で互いを引っかき回すのは、余所でやってくれないか、此処はサウザー(おれんち)の会議室だ」

 白けた声でタオが云う。カラスは口元に拳を当てて薄笑いを浮かべ、「いや、失礼」と返す。カロラインはぐっと息を飲み、バツが悪そうな顔をした――が、何も云わない。

 タオが何か云いかける前に、ディナムが拳を握り締めたまま、ふと、何処に視線を向けるともなく、独り言のように呟く。

「……ナハト君が云うように、国民が腐っているなら皇帝(リオ)とて腐っていないとは限らん」

 ディナムまでそんなことを云うので、カロラインがまた目を見開き口を開きかけた。が、それを遮断するように鋭い声で、シンキ先王は続ける。

「だが、それが『助けなくても良い』理由にもならぬ、ナハト」

「……」

「――リオが腐っていようがいまいが、一度『皇帝(おう)』と呼ばれた者が、()()()()()()()()()で絶命することなどあってはならぬ。腐敗しているなら、断罪されて処刑台に乗るべきだ。していないなら、せめても己が意志で――それが次の『皇帝』でも『民主制』でも構わぬ、()()()()()()へ道を拓き譲った後、天か民衆に寿(いのち)を任すべきだ」

 重々しい声でディナムは云い、カロラインは何も云えずに口を噤む。カラス翁は、相変わらず薄い笑みを浮かべて、ディナムの言葉に反応をしない。

「――イリグマギが今持っている『情報』が嘘八百でもなく、どさくさ紛れにリオが()()()()()()()()()()()事態に陥らぬとも限らないほど、ミンジュリーの民が無秩序に身を任せていると云うのなら……、『救出』というより、皇帝(リオ)は一度ミンジュリーから『脱出』せねばならぬ。そうでなくば皇帝(おう)として、処刑台に乗ることも道を拓くことも出来ぬ。脱出(それ)をリオが考えず、うやむやのうちに命を落とすことを()()と思うのならば、それはそれで、リオ・カルムが()()()()()()()した証だ」

「ディ……ディナム様」

 カロラインが思わず、焦った声を出すが、それも意に介さずディナムは続けた。

「だがやはり、それも『放って置いて良い理由』にはならぬ。『脱出』を『逃走』と捉えられて、民より一層の非難を浴びる可能性はあるが、それは王が()()しておくべきことだ。もし、民衆が()()()()()()()程の無秩序に囚われておるのなら、やはり、そんな()()()()の渦中に身を置くべきではない。――王は、王として処刑されねばならぬ。そして()()()、ちゃんと()()()()()()()()()()()()()せねばならぬ。王は国を負って死に、民衆は国を負った王を殺す覚悟、そして新たな国を造る決心を持っておらねばならぬのだ。誰もが己の責と将来への責をうやむやにしたまま、王を死なすなど、あってはならぬ」

 訥々と、ディナムは語る。

「故に。――()()()()、リオ・カルムとその家族は、一度、『脱出』すべきだ。それが『逃走』には受け取られず、『強奪』の形をイリグマギ結社が取ってくれるというのだから、リオにとっても()()()()()であろう」

 そこでディナムが目を開き、カロラインに真っ直ぐ目を向ける。――カロラインは、何と云って良いのか解らず、狼狽の色が見える表情で黙っていた。

 ディナムは彼女から返答が無いことを気にはせず、次にカラスへ顔を向けた。

「それをリオが拒むなら、『愚か』だ。君はそう思わないか、ナハト・カラス」

 するとカラスは、薄笑いのまま()()()()()()

「その通りだな、ディナム・タイクーン」

 そう云った。

「そうか、タオ君がサウザー()()として『結実した(できあがった)』かのように思われるのは、君が師匠であったという巡り合わせもあったのかもしれぬなぁ」

 カラスが大げさに感心した口調でそんなことを云ったが、それは――ディナムもタオも――無視して、ディナムはサンハルに顔を向けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ