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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
161/171

【day3】-[6]-(2)

「――となると、やはり今できることは、証言を集めることと、監視(モニター)……だけか」

 気を取り直してタオが云うと、シダーも「そうッスねぇ」と肯んじた。

 ――グロスの丘に居たのは自分も同じだから、「良く思い出して教えろ」と云われたので反射的に記憶を掘り起こしていたリオンだったが、そこでふと、不思議そうに小首を傾げて、小さく挙手した。

「ねえ、タオ。ちょっといい? あ、いや、いいデスか」

 タオと他の者も思わず苦笑した。タオが代表して、

「もういいよ、そんな無理に丁寧な言葉を使おうとしなくても。普通に喋んなさい。何だね」

 そう云って、リオンに「どうぞ」と云うふうに手を差し出す。

「――サウバー山系の向こうがきな臭いから、そっちに近いグロスの丘は後回し、って云ったよな」

「ああ」

「その、ウェシュタイン?ってのは元々サウザー領だった所なんだろうから、まあ、取りあえず良いけど、トートン村?のCFC駐屯兵が入ってくるかもってのは、尾根越えて攻撃とか脱走とか、そういう予想?」

「……? まあ、そうだな」

 何でそんなことを君が今訊く、と不思議そうに目を細めつつも、タオが肯んじる。

「じゃあ、その防衛ラインとか、難民のキャンプ候補地のリミットとか、そっちの想定はしてんの?」

「――リオン君、君がそういう、〈軍〉の作戦面で煩う必要は無いんだぞ?」

 と、サンハルがタオと同じような顔をして云った。リオンは

「あ、うん。いや、〝センソー〟の作戦とかって、そういう意味じゃなくて」

 タオとサンハルに向かって軽く手を振ってみせる。

「ちょっと、素朴な疑問というか、嫌な予感っていうか……そんなの思いついたんだよ。サウザーの人達は、〝筋〟と〝異形〟を()()()()()()から、きっと不安はあるけど、何とか落ち着いてるよね。でも、CFCの兵隊(やつら)は、知ってんのかな」

「――」

 サンハルやタオ、ルナールとフーコー、三つ子達も顔を見合わせる。

「ウェシュタインの人も未だ知らないんなら、それも含めてさ……。サウバーの尾根越えて(こっち)に入って来た時、グロスの〝筋〟に気付いて、最悪、そんときにまた〝バケモン〟出てきたりなんかしたら、()()()パニック起きて、すっげーメンドクサイことになんない?」

 ――「嫌な予感」とも云ったが、声色は、「素朴な疑問」という言葉の通り、随分あっさりとしていた。

 タオは大げさに顔をしかめ、腕を組んで椅子の背もたれに身を預けると、天井に向かって、

「うわぁ~…」

 と溜息をついた。そして

「あり得そうで()()()

 と呟く。

「――整理しながら考えた訳じゃないから、脈絡は無いんだけど……、色々と、想像が浮かんでさ」

 リオンが軽く頭を掻いて云う。タオが目線だけ彼に向け、

()()、それも良い。自分で()()()()()()()()()云う分には、俺達にとっても『想像の想像』にしかならんからな。整理はこっちでしてやるよ」

 ――昨夜のことを連想させるように薄く笑みを浮かべながら云い、リオンに「どうぞ」と手を差し出した。

 リオンが「うん…」と頷いて続ける。タオだけでなく、シダーやサンハル達もリオンに注目した。

「グロスに出た〝筋〟、そこから出てきた火の玉と百鬼夜行が、CFCの基地襲撃したってんだから――あれ、これ、云っても良かったんだっけ」

 リオンが焦った顔をして咄嗟に口を覆う。

()()()構わんよ。――シダー君やオリヴィアさん達にはまだ云ってなかったが、グロス草原の〝筋〟から出た〝異形〟は、どうもCFCの基地まで向かったらしくてね――」

 とタオが云っている間に、彼の隣で少し慌てた顔をしたアエラ・フーコーが、卓の下に手を持って行き、リオンに向かって、ツッと〈糸〉を伸ばした。

 リオンが足の裏に「ちくっ」とした感触を覚えたのと同時に、

『〝市長の件〟は絶対秘密よ!』

 と、()()()()()()が、脳みそに直接()()()()()()()()()かのように一瞬で響く。リオンはフーコーに「コクッ」と小さい頷きを見せた後、一つ息を吐いた。

「え、ええと……。でさ、トートンの兵隊も、後衛の基地がやられたってことくらいは、当然、――少なくとも隊長クラスは聞いてるだろうし、それを()()()のが、CFC(あっち)から見て()()から来た〝ばけもん〟な訳だから、『サウザーの魔法使い』が何かやったとか思われてるだろうし、――そんで、斥候がサウバーの尾根辺りでちょろちょろしてるってんなら、高いとこに居るわけで、そっから〝筋〟も見えてんのかなとか、もしかして、侵攻のためってより、あっちはあっちで〝筋〟の様子探るために()()()()んじゃないか?とか――」

 口が滑りかけたのをごまかすように、早口でリオンが云う。

 彼が何かを「ごまかす」ためにそんな口調になったことには気付いている。が、その内容のほうに意識を取られたので決して「微笑ましい」という気分にはならず――故に苦笑を見せることもなく、シダーが、今度はリオンに向かって身を乗り出し、真剣に耳を傾ける。

「――でも、グロスの草原からサウバーの尾根は、遠いからそんなちゃんと見えないし……、そう云えば、グロスからお城に戻ってくるまでに見た――俺達からすれば()()()の、城壁前の〝筋〟も、だいぶ町に近づいてから気付いたんだし、タオ、俺らも()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃん? そ…そんなだから、そもそも、CFCの奴らとかウェシュタインの人らって、どのくらいちゃんと知ってんのかなあ、とか、そんで、あの時の俺達みたいにビビったりして、()()()()()()()()が沢山パニックになっちゃ、収拾付かなくなりそうだなあ、って……」

「リオン君、君、偉いな」

 途中アサギとチョウにも「そうだったよね」と確認するように視線を振りつつ、相変わらず慌てた口調で語ったリオンに、シダーが随分真摯な声でそう云った。リオンが目をぱちくりとさせてシダーに顔を向ける。

 シダーはリオンに向かって、指先だけで「拍手」する仕草を見せた。

 リオンは戸惑いの表情を浮かべたが、シダーは直ぐにタオに向き直り、

「得てして、『素朴な疑問』は初心に立ち返らせてくれますね、タオさん。リオン君のおかげで、『やらないよりはマシだが、目的を見いだせない監視(モニター)』以外に、スプープ(おれたち)にとって具体的な『課題』が出てきましたよ。あぁ~、俺もまだ修業が足りない、こんな基本的な設問をすっ飛ばすとは!」

 大げさに嘆く声を出したシダーに、タオが苦笑を見せた後で

「――座標(いち)の特定、か」

 そう云った。シダーがコクリと大きく頷く。

「〝三次元(このよ)〟の経緯度(XY)高度()だけでなく、〈層〉も含めて。あの筋、〝裂け目〟は一体()()()()()()()()裂けてるのか? それを漠然と『あそこらへん』と思ってるだけじゃ、監視(モニター)だってお門違いの場所を睨みつけてるだけになりかねん! ――考えてみれば、〝中心(いち)〟が特定できてないのに『半径五百メートル』もへったくれも無いッスわ、今リオン君が云った〝良く分かんなかった〟って何なんスか、タオさん、調べたんスか!? そんな大事なこと忘れないで下さいよ」

 自分も思いついていなかったのだから、()()()みたいなものであることは分かっている。シダーはわざと大げさに窘めるような声を出して、卓をばんばんと叩いた。

 タオが両手の平を胸の前で見せ、「まあ落ち着けよ」と苦笑する。

「中心がハッキリしてないつっても、立ち入り禁止区域は決めとかなきゃ色々と困るからだよ。()()()()()でだけでも見当付けてのことさ、それが一キロになる分には一向に構わんのだし。――調べたってのも、あの時は帰路、最後の丘を越えたときにいきなり俺達の進行方向(めのまえ)に出てきたんでな。このまま直進しても良いのかどうか、『安全性』を調べたんだ。結局、具体的な()()が分かりはしなかったが、取りあえず、自分達の進行方向に()()()()()って、そういう意味で」

 シダーが「ふっ」と鼻から息を吐き、落ち着いた声で問い返す。

「じゃ、半径五百メートルってのも、その時の経験からッスか」

「それを『そうだ』と云っちまうと、ただの瓢箪から駒だな。当てずっぽうさ、その時の経験()()()を照らし合わせるなら、もっと半径は狭めても良い」

 タオが肩を竦め、リオンとアサギ、チョウにちらりと目を向ける。――実際その通りではあるが、「より念入りに安全策をとった」訳だから、当てずっぽうなどと云わなくても良さそうなものだ。三人ともがそう思い、微かに呆れた表情を浮かべた。

 シダーが思案げに顎を擦り、不意に眉を寄せ、何かに不満を持ったように口を尖らせた。

「どうした」

 タオが訊ねると、シダーは「いやぁ……」と曖昧な溜息を漏らした後、やはり何だか不機嫌そうな顔のままで

「〝位置〟の特定、と思ったら、そもそも……、俺達、サウザー領とサヴァナ、フリュスに()()ことしか知らないンスよね。他国には出てないのか、出てるとすればソレは()()()()()、って何か……イライラしてきたというか」

 そう云うと、聞いたタオは苦笑して肩を竦めた。

「それは()()()()()()さ、シダー君、このご時世だもの。もしやCFCの方やイー・ルなんかにも出てるとしたって、調査のしようが無い。もしかしてサヴァナとフリュスとサウザーにだけ出てるってことになれば、それはそれで()()の仕業なのか?って、何だか突破口にも思われるじゃないか」

「まあ、それはそうですけどねえ……、あれがもし、CFCが仕掛けた『何か』なんだとすれば、思ったよりずっと『簡単』な問題(なぞなぞ)なのかもしれないし」

「そうでないなら、停戦、国交の回復を〝この世〟で待ってもらうより他に無い。――頼むから、シダー君、〝イライラ〟に任せて、独断で動くのはやめてくれよ」

 タオは苦笑したまま、釘を刺すようにシダーに指を向けた。

「俺達に直接関係のない国にも()()()としても、謎は〝一種類〟と考えた方が良いんだよ。いずれ、俺達の調査と研究が、他にも応用出来るのかもしれないし」

「まあ、それもそうですが」

「で、今、やっと光明として『何をすれば良いか』が具体的に出てきたんじゃないか、即ち〝座標特定〟。〝(なぞ)〟の〝数〟で云ったら、サウザーにサヴァナ、フリュスでもう()()()だ、他の国まで目移りしてる場合じゃないだろ」

「……〝筋〟自体の座標特定も重要ではありますが…」

 そこでふと、マッカンが呟く。シダーが振り返り、タオも「うん?」と彼に目を向けた。

 マッカンはつい、()()()を呟いてしまったらしく、失礼しました、と指先で口を押さえた。

 タオが、「いいよ、何だね」と問う。マッカンは、改めて小さく挙手をしてから、続けた。

「……私は領主代理でもありますので、そちらに偏重して申し上げれば――リオン君が最初に云った()()への()()としての『座標特定』が、重要課題だと考えます。〝筋〟()()の『位置の特定』が基本課題であることに私も異論はありませんが――早急に解答が出せるとは限りません」

 シダーが目を細め、タオは「ふむ」と鼻を鳴らした。


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