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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
157/172

【day3】-[5]-(1)



 それを合図に、やれやれ…とディナムが椅子をゆっくり引き、車椅子に立てかけてあった杖を取ると、ゆるゆる立ち上がった。隣の位置に居たアサギが、「大丈夫かな…」と少々心配そうな目で、しかしそんな顔で直接まじまじと見るのも失礼かもしれないから、脇目にちらちらとディナムの挙動を確認する。

 ――先に想像したとおり、移動に必ず車椅子が必要な程弱っている訳ではないらしい。「すたすた」と云えるほど颯爽とした歩き方ではないが、特によろけることもなく、杖を使いつつも真っ直ぐに真後ろの扉に近寄っていった――その様子も目で追いかけつつ、改めて「随分背がお高い」と驚きもしたアサギだった――。

 三つ子達も立ち上がり、残っている者へ揃ってペコリとお辞儀をした後、ディナムの後を追うように部屋を出て行く――メンバーの中で「若手」のほうになる〈軍人〉でもある彼らは、一応、「警護」の役目も負っている。前の休憩時にも、チョウはそれで窓の外を監視するように凝視し、ケンとギンは喫茶スペースとなっているロビィに〈感〉の結界を張ることで周囲の様子を見ていた。よって、自分達の休憩のためというより、VIPであるディナムが出て行ったから、彼を追いかける形になったのだ――。

 ルナールはマッカンの元に近づき、

「〝内線〟を使わせて頂けます?」

 と告げる。マッカンは立ち上がって、どうぞ、とルナールに譲り、己は円卓の中心にある機器に近寄った――其処には「録音」や「録画」に関わる機械が有る、休憩中にそちらも休ませるのか、それとも調整するのか――。

 サンハルは立ち上がって、タオとブランシュの両方を交互に見つつ、

「俺は一度、テリーインの所に行ってきますね。会議の邪魔はされなかったのだから、喫緊の事態は起きてないのでしょうが、状況を聞いてきます」

 そう云った。タオにも顔を向けはしたが、年長のブランシュと対してもいるため、敬語になっている。「うん」とタオとブランシュの二人とも頷き、続けてフーコーが、

「じゃ、タオさん、私は情報部に行ってきます」

 そう告げる。サンハルとフーコーは連れ立って部屋を出て行った。

 タオは身を捻ってブランシュと顔を合わせ、こそこそと言葉を交わす。「で、ブランシュさんは、城下のアレをどの時点で見たんです?」などとタオが訊いている。――ブランシュは先の休憩で既に外に出たから今はもう留まることにしたのか、それとも、()()()()話がしたくてたまらないタオから引き留められた格好になったのか、よく分からない。

 ルナールが〝内線通話〟を終え、

「メランジュさんに伝言は終えました。私もお手伝いに向かうことにします、タオ師」

「ああ、そうか。――まあ、雑用も良いけど、君もお茶を一杯飲むくらいの休息は取り給えよ?」

 タオがルナールに苦笑しながら云う。ルナールもふと口角を上げてみせて、

「マッカンさん、有難う」

 と彼に云い、部屋を出て行った。マッカンは「いえいえ」とペコリ、頭を下げて、席に戻るとそちらに有る機器の調整を始めた――。

 アサギとリオンも一応腰を上げたが、所在なさげだ。リオンがアサギの二の腕を(つつ)き、

「あんたが訊いてみてくれよ。――タオだけなら良いけど、元帥の爺さんと喋ってるもん、俺、本当は丁寧に喋るの苦手だから…」

 アサギは苦笑を見せる。……自分は自分で、会話に割り込むのが苦手な性格をしているのだが――「わかりました」とリオンに頷いて、

「タオ先生、すみません」

 と奥に居るタオに声を掛ける。体はブランシュの方に向いたまま、タオが顔だけアサギの方へ向ける。

「あの、僕らは、どうしましょう? この後の会議にも、居た方が良いのでしょうか?」

 アサギが問うと、「ああ…」と息を吐き、タオは

「いや、君達に居て貰わなきゃいけない案件は、さっきのでもう終わった。――しまったな、ルナールを先に行かせてしまった。君らの昼食もこっちに用意するかもしれない」

 そう云って小首を傾げた。――そのことを訊ねた訳でもなかったのだが、アサギとリオンも「あ、そうかも」と顔を見合わせる。

「取りあえず、もう君らはフリーだ。自室に戻って休むなり、自主訓練をするなり、どうとでもしてくれて構わんよ、直ぐルナールを追いかけて、君らの分のサンドイッチは分けて貰うと良い。でも、君らもスプープ総本部の人員ではある。義務じゃないが、見学してたければ、それも構わんよ」

 それを聞いて、リオンが

「あ、だったら俺、そっちが良いな」

 と即決した。アサギも、「そうですね…」と頷く。

「ならば、一先ず、今は一服してきなさい。――君らが一番の若手だ、年長者(としより)ばかりに囲まれて疲れたろ?」

 おどけた声で云ったタオに、肯定も否定もせず、アサギとリオンは苦笑いだけを見せて、彼を始めまだ残っている者達へ軽く会釈し、会議室を出て行った。

 オリヴィアとバーナードは、外に一服というつもりが今は無いらしく、椅子に腰を据えたままだ。

 ――ほぼ向かいと云って良い位置で、メモ帳を見下ろし再びペンを取っていたシダーに、バーナードが

「シダー君、ちょっと良いかね、何やら集中しているところ済まんが」

「は。何でしょう。別に良いッスよ」

 シダーが顔を上げ、小首を傾げる。今度はオリヴィアが少し身を乗り出し、

「先ほど仰ってた『計算』ってどういうものなんです? ちょっとお聞かせ頂けませんかしら?」

「それとも、今の休憩時間にちょいと講義するってのは無理なんかな、むつかしいんですかねぇ」

 バーナードも後に続けた。シダーは苦笑を見せる。

「ええ……そうですね。お二人とも、ただ計算式だけを知りたいわけでもないんでしょう? 理論も含めた説明をお求めなんでは」

「はあ、さいで」

「では、〝一服〟するくらいの時間じゃ無理です。〝学校〟で正式な講義を持つなら、最低一時限は欲しいッスね――より突っ込めば、これだけで一科目の単位にも出来ますよ」

「おやまあ、そんなに」

 オリヴィアが目を見開き、バーナードと顔を見合わせ大げさに「そりゃあ仕方ないねえ」と溜息をついた。

 シダーが軽く「すいませんね」と返すと、気を取り直して、というふうにバーナードはまだ続けた。

「じゃあ、()()は、どういうモノです?」

 二度目に()()た後、そのまま卓の上に置いていた「懐中時計のようなもの」をバーナードが指さす。

()()でケン君達や儂の〈力〉を計ったんですかな? ――ああ、そちらは『理論』の説明は結構ですよ」

 シダーは〈計器〉を手に取り、一度小首を傾げた。

「……『バーナードさん達の力を計った』と表現する(云う)と、語弊があるというか、ちょっと違うんですが……。『〈力〉(エネルギー)を計って〈力〉(パワー)を算出』するためのもの、と云うか…、まあ、コレで計ってると云ってもいいんですかね」

「ふぅむ、ちょっと見せてもらっても良いかな」

 バーナードが「興味津々」という顔で訊ねる。

 シダーは「どうぞ」と云いながら鎖を摘まみ、ぶら下げる形で掲げた。やはり「懐中時計」のように、針や目盛、文字が見える。

 それは〝一般人〟には読めない文字だ。魔術士になら読める文字を書いているようだが、距離があるので何と書いているのかバーナードにも読めない。針だけをよく見たら「時計」のように一定の動き方はしていない。どちらかと云えば「方位磁針(コンパス)」のように、何本もの針が常に頼りなく振れていた。目盛も、この世界の何処にある何の単位をどんな数値にして示すものなのか、これは魔術士にも全く解らない間隔で刻まれていた。

 ――バーナードが目をぱちくりとさせ、

「いや、手に取らしちゃもらえんかね」

 と問う。

「それはご勘弁ください。――携帯用の簡易版ではありますが、バーナードさんみたいな方に渡して、分解したい気分になられちゃ堪りません」

 飄々とシダーが云うと、バーナードが大げさにふて腐れて、

「酷いな。他人様のものを勝手に分解(こわ)したりするような職人じゃないよ、儂は」

 そう云う。シダーは苦笑を返した。

「断りを入れられても、駄目ッスよ」

「……ふむ、そりゃあつまり、代替(かえ)が無い、って意味(こと)だな。儂も興味が出てきたぞい」

 聞き耳は立てていたらしく、ブランシュが割り込んできた――そちらの会話は区切りが付いたのか、タオもシダーに顔を向けている。

 ブランシュの言葉を聞いて、バーナードもふて腐れていた顔を止めて訊く。

「君が()()()のかい?」

「〝製作〟という意味なら、技師に手伝ってもらってますが。設計と最終調整は自分で」

「へえ~。技師ってサウザーの? 何方でござんしょ、あたしら、もしかして知ってるかしらん」

 オリヴィアがシダーからバーナードに視線を移してそう云うと、

「西アルクスの、パイン・スティング技師です」

「あぁ~あ、知ってる知ってる。〝メル〟ちゃんね」

 シダーの答えを聞いて、オリヴィアが満面の笑みを見せ、軽く卓を叩いた。……〝めるちゃん〟というのは全く何のことか分からなかったので、今度はシダーが首を傾げた。

「オリヴィアさん、そんなニックネームを云うたってシダー君にはさっぱりじゃろ。――パイン君って、名前が()()()()()()のに、本人の性格は全然違うでしょう。物静かで穏やかで柔和で上品で……。それで『刺す』(スティング)どころか『溶けてる』つって、〝メルティング・パイン〟なんて呼ばれてんですよ」

「あら、あたくしは、〝(マル)〟が訛って〝メル〟だって。息子(せがれ)からそう聞いて覚えたのよ。太ってないのに何で?って聞いたら、『角が無い』って意味だって」

 バーナードの説明にオリヴィアが割り込む。シダーは軽く笑う。

「どちらが先か知りませんが、何にせよ日常(プライベート)の性格が由来なんスね。俺も今度から〝メル〟って呼んでやろうかな――仕事に関しちゃ、()()()()なんですがね」

「ああ、お客さん(クライアント)の評判じゃあ、そうらしいですな。相当の頑固者で喧嘩腰になるのもしょっちゅうだとか? 儂らは異業種間の職人付き合いでしか、彼を知らんですものなあ」

 バーナードが苦笑を見せる。

 そこでタオも、首を傾げながらシダーに問う。

「〝メルティング・パイン〟君なら、俺も知ってる――世話になったことはないが――。そうか、確か彼も、君と同じく研究職出身の技師だったよな。……君が使う〝道具〟の製作には、うってつけということか」

「そうッス。中アルクスにならゴロゴロしてそうですが、西アルクスにもああいう人が居てくれて、ラッキーでしたよ」

 シダーは――現時点で――領の西端であるサウザー直轄地、城下町の出身である。

 一度注文を出せば出来上がりを待つだけで良い簡単な〝道具〟なら兎も角、完全にオリジナルのものを白紙状態から「開発」するとなると、技師との打ち合わせは念入りにしなくてはならないが、サウザー領に於いて最も、職人・技師の人数や業種が充実している中アルクスは、お世辞にも行き来()()()()とは云えない。自分の()()()に近い〝西〟に自分の求める職人が居たのは、シダーにとって大層有り難い話だった。

 タオは何故かまた、不思議そうに首を傾げる。

「シダー君、()()は、〈魔法装置(デヴァイス)〉ってことになるのか? だったら、〈魔術士〉の協力が要るだろう。パイン君も〈魔術士〉じゃないんだよな?」

 〝魔術士ではない者〟にも使える〈魔法装置〉は、〈精霊〉の助力が与えられるよう、〈魔術士〉が「処置」や「調整」をする必要があるはずだ――だから「〈魔術士〉でもある技師・職人」が集まったサヴァナ・ギルドの開発する〈装置〉は、〝サヴァナの〟というだけで信頼性が高い――。

 シダーはニッと皮肉な笑みを浮かべ、

「民間ギルドや派遣所の魔術士を雇えるような資産(ゼニ)を、俺は持ってなかろう――とでもお考えで?」

「酷いな、そんな嫌味を云われたと思われたんじゃ、俺だって傷つく。――第一、わざわざ〝雇う〟ことはしなくても、君なら〈魔術士〉のツテくらいあるだろう。そういう方面かね?」

 大げさに嘆く顔を作ってから、改めてタオが訊く。シダーも、今度は素直な苦笑を見せて首を振った。

「いえ、別に雇った訳でも無いし、ツテを辿った訳でもないですよ――ちなみに、パインさんへの支払いで〝何とかぼちぼち〟なんで、民間魔術士を雇う費用が捻出出来ない(あしが出ない)のも、実は事実(マジ)なんス――。何でそんなこと訊くんスか、タオさん」

 彼の答えを聞いて、タオが今度は目を細める。


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