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THE LAST MAGICIAN the past  作者: 橘隆之
【day3】会議の日
154/174

【day3】-[4]-(1)


 途中と云いつつ、「終わりかけ」ではあったのか、二分もすればシダーはペンを置いて顔を上げた。

「結果は?」

 タオが訊ねると、シダーはメモ帳を右手に眺めて、左手で頭を掻きながら、

「……完璧(パーフェクト)理想的(ベスト)と云えるほどじゃないですけどね……、リューが()()()()()()成長をしてるとかじゃない限り、問題の無い編成(メンバー)じゃないッスかね」

 そう云った。――それを聞いて、チョウが思わず俯き、口元を覆って小さな溜息をついていた。

「サンハルさんが云ったとおり、俺が思ってたよりもかなりアサギ君に〈力〉があったので、リューが加わったら『どうかな』と、不安が無くは無いって感じなんですが……。これも仰ってた通り、『性格』が原因ですかね、持て余してる……というのとは違うな、押さえつけてるというか、生かし切れてない感がありますね。良く云えば、『()()能力は高い』。でもまだ、『宝の持ち腐れ』で『恐るるに足らず』」

 あっさりと随分なことを云う。サウザーに於ける「師匠達」、タオやサンハル、フーコーにルナールは、視線を交錯し合い苦笑を交わした。――当の本人(アサギ)は、恥ずかしげに俯いてしまう。

 それを見たシダーが、彼に指を突きつけ、

「そういうとこ」

 またしてもあっさりと、それだけを云った。

 アサギがびくっと目を見開いて、今度は狼狽の表情を浮かべたが、シダーは直ぐにタオに向き直る。アサギの隣でリオンが軽く彼の肩を叩いた。

「〝そういうとこ〟って、鋭いとこ突くな、あの人。――何俯くことあるんだよ、()()()()()って喜べよ、アサギ。そうじゃなきゃ、『何をぅ』って思うとこだろ」

 呆れた苦笑混じりにリオンが云うと、アサギもぎこちない苦笑を返した。

「――で……、俺の持ってるリューのデータが古すぎて、現在(いま)とよっぽど開きがあるってんなら、アサギ君に()()()が加わると、ちょっと……マズいんですが…」

 俯き加減になっていたアサギが、シダーの独り言めいた声で、顔を上げる。今度は、「彼女」でもなく、「あいつ」とは……。

 そういえば、昨夜タオが、流優は「研究者」としての一面を持っている、と云っていた。全く知らなかったけれども、流優(ねえさま)は実は、シダーと親交があるのだろうか?

 シダーが、「どんな感じですか、最近のリューは」とタオが座っている方向へ目をやる。タオに限らず、最近の流優を知っている人なら誰でも良い、というふうに、ざっと視線を巡らせた。

 ルナールとフーコー、サンハルとタオの四者が互いに視線を交錯させた後、やはりタオが口を開いた。

「君が持ってる〝データ〟っていうのは、いつ頃の彼女のことだい」

「……え…と…。この――十年、以内、ですかね」

 少々云いよどんだ上に曖昧な云い方をしたシダーに、タオ達はぴくっと目を細める。

 タオが意地悪く片方の口角を上げた後、

「〝ツッコミ〟はしないでおこう。――無論、この十年で流優が衰えているということは無いが、君の云う『化け物じみた』成長をしている印象も無いよ」

 そう云って、ルナールを振り返った。彼女は小さく頷き、シダーに顔を向けてタオの後に続く。

「流優さんは私と年齢がそう違わない割りに〈マスター〉の号を得たのが相当早くてらっしゃいますが……。〈力〉だけなら、私にはそれほど彼女から引き離されている感覚はありません。お若い頃はいざしらず、〈マスター〉になってからの成長()という観点だと、流優さんはそれが緩やかな方なんじゃないでしょうか――参考までに、私とも『握手』をしておかれますか?」

 ルナールがシダーに向けて手を差し出す。シダーは、胸の前で手の平を見せ、

「いえ、それなら結構です、大公。ありがとうございます」

 丁重に云った。

 タオに向き直り、

「となると、アサギ君がフリュスへの往復で、よっぽどドラマチックな『開花』『覚醒』でもしない限り、ッスね。今の計算結果――リューが入った後の予測では、実際、〈水〉が一番強くなるんで、チョウ君の『ベストパフォーマンス』は期待出来ないんですが、幸い、〈土〉のバーナードさんが居るし…。こちらは、自分達の編成が『世界』を構築していることをちゃんと認識した上で、四者が互いに()()()えば、()()()()()()()ことが可能でしょう。サヴァナ側の編成に〈土〉を入れたケースよりは、確実に『良い』です」

「ふむ…」

 タオが軽く髭を扱き、何か考える顔をする。

 ――チョウが()()()()()()()()()()()()()()()()()()、代わりに云ってやろうとお節介を思いついたギンが――自分自身の好奇心や疑問も当然あり――、軽く手を挙げた。

「シダー教授(せんせい)、僕からも質問良いですか」

 ケンとチョウを挟んでシダーが居る、ギンは腰から体を傾けて、彼に顔を向けた。

「何だね?」

「ちなみに、チョウと僕が入れ替わって――このケースだとリオン君は待機してもらうことにもなりますが――〈火〉の術士は入れないっていう、サヴァナ側と同様の、『原則から外れた状態』『〝世界〟を巡らせない編成』だったら、どうなるんですか?」

 自嘲という「主観」から質問してきたケンと違い、ギンは客観的に、あるいは純粋に「別の選択肢について」を訊いてきただけだと伝わったので、シダーがまず「ああ…」と息を漏らした。

 ギンの「隣り」と云えるディナムも、

「それは儂も興味があるな」

 と云って、こくりと頷いた。タオ達も、説明を求める顔をしてシダーに注目する。

 シダーは小首を傾げてから続けた。

「うーん……パワーバランスの観点からだと、どっちが『良い』と、断言は出来ないですね。――〝三つ子(かれら)〟のユニークな能力を優先させるのが『何より第一』っていうんなら、ギン君に入って貰って〈火〉の術士は入れないって編成(こと)にすると、正直、チョウ君の場合よりも『良い結果』と云える」

「ほう」

「僕の方が、『ベストパフォーマンス』を出せる、ということですか?」

 ディナムが低い声を出し、ギンがシダーの方へ腰を捻らせたまま確認する。シダーはギンの顔を見て、「そうだ」と頷いた。だが、すぐに悩ましげに首を捻り、今度はタオとディナムの両方に視線を振りながら云う。

「ただ、俺とて、『原則』を尊重はしてますよ。サヴァナ側のケン君と、『似てるんだけど逆』っつうか…、()()()()()()()()三つ子(かれら)の能力を最優先させなきゃいけない『任務』や『目的』なのか?って、そこは疑問。そういう疑問が湧く()()、チョウ君の〈力〉の低下はそんなに激しくないだろうっていう予測です、〈魔力〉の低下を補える、そもそもの体力や筋力がケン君と比べて相当あるようだし。それに、イー・ルとの戦闘なら〈魔術士〉の『ガチ』は考えなくても良いだろうけど、フリュスの方は、()()()()()()()()ってるんですしね、〝万が一〟ってことがある。原則に従うほうが『適確』じゃないかと、俺も思います」

「ふむ……」

 偶然なのか、長い間の師弟関係で「似た」のか、タオとディナムがほぼ同時に、顎髭を扱きながら鼻息を漏らした。

 成る程、とギンも頷き、ちらりとチョウの顔を見る。――チョウは既に「達観した」かのように、背筋を伸ばして無表情に前を向いていた、思わずギンは、再び俯いて苦笑する。その後、もう少し念入りに質問した。

「そういうことだと、〈風〉は僕で〈火〉はチョウと同程度の魔術士隊員でも構わない、とも云えますが、では、チョウを入れる編成の根拠、決定打は、リオン君の意志だけ、ということになりますか?」

「ま、そういうこったね」

 シダーがあっさり頷く。――先ほど、自分が行きたいと云ったのがマズかったのかと焦った分、シダーの回答に「ぎょっ」としたリオンだった。

「しかし、既に今の、この会議室で原則に従った四人が揃い、()()()()()()()()()()()()()()、わざわざギン君を入れて此処に居ない〈火〉の隊士を新たに見繕うのも妙な話だ。リオン君当人が『行きたい』と云ってるんだし、それを無下にして他の〈火〉を()()で加わらせるのは――俺の計算結果は変わんないとしても、個人のモチベーションの観点で好ましくないとも思うよ。――タオさんは時間の無駄って思うんじゃないかな」

 ギンにそう云った後、シダーがタオに顔を向けた。タオは「その通り」と頷く。

「ギン、君の方にもフリュス行きを希望する意志があるんなら、今ちょっとリオンと話してくれるか? いや、そういうのは話しても埒が明かないだろうから、公平に〝じゃんけん〟ででも決めるか」

 タオが苦笑して三つ子の末弟に首を傾げてみせる。ギンは慌てて「いえいえ」と手を振り、

「そういう訳ではありません、僕はただ興味で質問を差し上げただけです」

 そう云ってぺこりと頭を下げた。――そんな弟を、チョウが横目にチラリと見たが、特に何も云わないままだった。ギンのほうは――シダーの「個人のモチベーションの観点」という言葉が()()に嵌まり、頭を下げたときに再び笑ってしまった。ギンは、チョウの方に「出来たら行きたくない」理由があるのを知っているのだ――。

「じゃあ、フリュスの方もソレで決定、ってことで良いかな」

 タオが全体にそう云うと、皆「異議無し」という顔をしていたが、ふと、オリヴィアが何か思い出した顔をして、

「あ、ちょっとお待ちになって」

 と微かに慌てた様子で挙手した。

「どうしました?」

 タオが訊くと、オリヴィアがバーナードの顔を見ながら答えた。

「ショーちゃん、会議の時にお内儀さん(プリシラちゃん)を呼ぶって仰ってたじゃない。あの後直ぐ呼び寄せたんなら、明日明後日には城下(ここ)に着いちゃうんじゃないの?」

「んん? あぁ……そうだな…」

 バーナードが、少々バツが悪そうに口ごもりながら肯定した。

「で、いつになるかは分からないけど、ショーちゃんは()()()()()フリュスに行っちまうのかい?」

 顔の向きをバーナードからタオに戻して、オリヴィアが――少々「苦言」のような口調になって――続ける。

「タオさんは――というか、タオさんの周り、マルス坊ちゃんにアエラちゃんにラルナーラ、皆が皆『おひとり』なもんだから全然気付かなかったんでしょうけどねぇ……ショーちゃんが()()()()()()()()()外交上の目的も持ってフリュスを訪問するってんなら、こういう場合、『ファーストレディー』は同伴するものよ。それは考えてなかったでしょ」

 ――名指しされた四人は、誰も反論せず、妙に視線を交錯させ、最後には目を()()()()()た。

 ディナムが微苦笑を浮かべ、ブランシュが呆れたような声を出す。

「おいおい、オリヴィアさんよ。それでショート君を編成から外すとなったら、最初からやり直しじゃぞ」

「そうは申してませんよ、ただ、もう来ないことになったってんならそれはそれだったけど、来るんならねぇ…。折角城下まで来て、ショーちゃんは出かけちゃうってのは、プリシラちゃんからすりゃあ、だったら家に居ても良かったのに、って思いやしないかしら、とね? ()()()()()()()()()()()だし、プリシラちゃんも本当は『老後の楽しみ』で旅行したかったってんだから、連れてってあげたら良いじゃない」

「……今の情勢だと、()()()()原則は、考えずとも良いと思うがな…。奥方には残って貰ったほうが…」

 ディナムが、一度は苦笑を浮かべたものの、重々しい声で云う。

「ですからね、プリシラちゃんも、()()()のお内儀さんじゃありませんのよ、ディナムさん。ね、ショーちゃん、プリシラちゃんも〈魔術士〉でしょ? 若い頃は、〝派遣所〟に登録してたそうじゃないの」

 それを聞いて、ディナムとブランシュも「おや、そうだったのか」と軽く目を見開く。


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